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番外編
クリスマスのプレゼント
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白銀の月の24日――つまり12月の今日、私の元いた場所はクリスマスイブで盛り上がっているはずだ。この世界にクリスマスの概念はないけれど、私は毎年勝手にクリスマスを祝っている。
学園では明日、競技会と後夜祭が開催される。毎年イブにあるこのイベントも、今年は休日に当たるため翌日に持ち越されたのだ。
よってクリスマスイブの今日、私は王都にある公爵邸でリュークと過ごしている。
「ブランカ、今日も綺麗だって言ったかな?」
「ツリーのこと? ありがとう、わざわざ取り寄せてくれて。家の中に飾れるなんて嬉しいわ」
リュークは私に前世の記憶があることを知っている。なのでこの前、ソワソワしている私に質問してきたのだ。私は以前ジュリアンに言ったように、「大切な人と過ごす日のことよ」と教えてあげた。家族や恋人、本やゲームの中の人でも構わない。けれどその人にとって大事な人と一緒に過ごせれば、こんなに嬉しいことはない。
そのせいか、今年はリュークの方が張り切っている。クリスマスツリーからご馳走に至るまで、どんな色でどんな形か、プレゼントは何が喜ばれるのか、など根掘り葉掘り聞いてきた。どうやら忠実に再現してくれようとしているらしい。
おかげで我が家の玄関ホールには大きなもみの木がある。あ、正確にはもみの木と似た木だけれど、発音が難しいので覚えていない。まあ、とにかくクリスマスツリーに見立てた木をリュークが手配してくれたので、屋敷の皆で飾り付けをした。
七夕やハロウィンなど、イベントごとに楽しむ私を見ているせいか、最近ではみんなも慣れたもの。用意するものはないかと聞いてくれたり、進んで手伝ってくれたりしている。
ツリーにはリボンを巻き付け、紙や布などの手作りの飾りをつけた。家や長靴、人形のクッキーなんかもぶら下げている。調子に乗った私がジンジャークッキーを焼き、シュトーレンも作ってみた。我ながら良い出来だったと思う。七面鳥はないから、炙った鶏肉を用意してもらう予定。豪華な食事を頼んだので、今日の夕食はすごく楽しみだ。
その間、リュークは書斎で持ち帰った仕事を片付けていた。彼は普段、王太子であるカイルの補佐をしている。現在は休暇中。この世界はゲームではないけれど、リュークはゲームの通りに着々と宰相への道を歩んでいるようだ。
ちなみに私とリュークは今、お互いひと段落したのでツリーを眺めてうっとりしているところ。深緑色の暖かそうな上衣に同色のジレ、黒いトラウザーズの彼は我が夫ながらとてもカッコイイ。水色の瞳が私の反応を確認するかのように、こちらに向けられている。
「違う。ツリーも綺麗だが、俺が言っているのはお前のことだ。今日はいい香りまでする」
あ、それってさっきこぼしたバニラオイルだ! クッキーを作っている時に引っ掛けてこぼしてしまったから。一応洗ったはずなのに、しみ込んでいたのかもしれない。私は腕を持ち上げて、袖の匂いを嗅いでみた。確かにすごく甘~い香りがする。
甘いと言えば、リュークは時々私に甘い言葉を囁く。まあ、今のは普通に話したから大丈夫だけど。耳元で突然囁かれたりすると、心臓が飛び出るくらい未だにドキドキしてしまう。
「着替えた方がいいかしら。もうすぐ夕食だし、きちんとした格好の方がいいかもしれないわね」
将来の宰相夫人としては失格かもしれないけれど、私は普段コルセット無しの楽な服装をしている。ただでさえ舞踏会や夜会に招待される度、正装しなければいけないのだ。正直コルセットは窮屈で好きではない。あまり食べられないし、長時間だと息苦しくなってしまう。
カルディアーノ学園に復学したばかりの私は、いつも楽な制服を着ているので余計にそう思う。リュークが何も言わないのを良い事に、普段はコルセットを付けもしない。
更に厨房にも平気で入り、料理も手伝う。通常の貴族社会ではあり得ないことだ。そのため、実家から母が突然訪ねてきた時にはこってり怒られてしまった。けれど、ちょうど帰ってきたリュークが上手く取りなしてくれた。もし私だけだったら、延々とお説教が続いていたに違いない。
「うわっっ」
考え事をしていた私を見兼ねたのか、リュークが腕を引っ張って自分の方に引き寄せた。他に聞こえないように耳元でこっそり囁く。
「何を着ても綺麗だ。もちろん、何も着なくても――」
「どわっっ」
今のはいけない。
掠れた声も内容も共に反則だ。
イイ声に思わず、腰が砕けそうになってしまった。
「やっぱり着替えてくる~~!」
私は恥ずかしさのあまり、猛ダッシュでその場を逃げ出した。
残念ながら『プリマリ』にクリスマスガチャはない。だっていつもは競技会だから。競技会用アイテムの、特製弁当やときめきチョーカーが出て来るガチャならある。けれど、クリスマスにちなんだものはないのだ。
そんなわけで、今回サンタやトナカイなどのコスプレは用意していない。普通のドレスを着ることにする。でも、一応クリスマスカラーを意識して、赤系のドレスにしてみようかな? リュークもちょうど緑色だったし。
私は着替えるために呼び鈴を鳴らし、侍女を呼び出した……はずなのに。
「ええっとリューク、どうして?」
「夕食までまだ間がある。着替えなら俺でも手伝えるから、髪だけ結ってもらえばいいだろう?」
「いえ、それはさすがにちょっと。あ、でも時間があるなら湯浴みをしてからの方がいいかも」
「だったら一緒に入るか?」
「……勘弁して下さい」
怪しい動きをするリュークを、慌てて部屋から追い出した。もう一度呼び鈴を鳴らしたら、クスクス笑いながら侍女達が入ってくる。
「奥様ったら、旦那様に愛されていらっしゃいますね」
「本当に仲が良くて素敵ですわ!」
控えていたならすぐに来てほしかった。
まあ、リュークに遠慮したんだろうけれど。
仲がいいのは否定しない。
何たって彼とは、十年以上前からの付き合いだ。
「恥ずかしいところを見られたわね。できれば忘れて。それはそうと、みんな楽しんでいるのかしら?」
わざとらしく話を変えた。
バカ夫婦の様子を話題にされたらたまらない。
「ええ、もちろんです」
「ブランカ様がおっしゃったように、大切な人へのプレゼントも用意しましたし」
「……あ」
しまったぁーー!
何か忘れていると思ったら、クリスマスのプレゼントだった。男性用の香水を贈ろうと思っていたのに。しかも今年は、「プレゼントには髪飾りが欲しい」とリュークにねだってしまった。彼はきっと私のために、新しい髪飾りを既に用意してくれているはずだ。
「どうしよう、今から取りに行く時間ない……」
青ざめた私を見た侍女たちが顔を見合わせた。
「それでしたら、旦那様が一番喜ばれるものを贈って差し上げたらいかがでしょうか」
「ええ、絶対に間違いないですね」
何だろう?
リュークが最近ハマっているものって、何かあったっけ?
着替えに時間をかけたので、湯浴みをしている時間はなかった。侍女達が「プレゼントならまだ間に合います。夕食後にお伝えしますね」と言ってくれたので、安心してみんなと一緒にご馳走を楽しむことにした。
長ーいテーブルも皆で座ると賑やかだ。
『身分の区別なく付き合う』という私の考えにリュークは反対しないから、屋敷の皆が広間に集まっている。彼は昔からそうだった。この世界の貴族とはかけ離れた私の意見をバカにせず、興味を示し真剣に考えてくれる。だからうちではこうやって、イベントの際は屋敷中で楽しむことにしている。
テーブルに並ぶ鮮やかなクリスマスの料理。
良く焼けた大きな鶏が香ばしい匂いを辺りに漂わせている。サーモンのテリーヌや子牛のパイ、シチューやローストビーフは言うに及ばず、マリネやポテト、ジュレやタルトなど食べきれない程の量が並んでいる。芳醇な葡萄酒や甘い林檎酒、蜂蜜酒などももれなく準備されていた。
リュークの挨拶の後、宴が始まった。
心のこもった食事に舌鼓を打ち、素直な感想を言い合う。飾りつけが素晴らしいと誰かが言えば、テーブルの上の花が見事だと別の人が褒める。銀のカトラリーの輝きが違うと侍女が言えば、屋敷が清潔に保たれているのは皆のおかげだと、執事が感謝の言葉を述べる。大勢の大切な人達と過ごして、嫌なことは一切言わない。一年で一日くらいはこんな日があっても良いと思う。
ほろ酔い加減になったところで、誰からともなく席を立つ。陽気な歌や踊りが始まる合図だ。貴族の社交ダンスとは違い、みんなが得意なのはポルカなどの気軽な踊り。最初は上手く踊れなかった私とリュークも、村の出身である庭番や料理番に教えてもらい、今ではそれなりに踊れるようになってきた。何てったって今日は無礼講。輪に入りみんなが平等に楽しむ。冬の一日の過ごし方としては、悪くないように思う。
外は凍えるような寒さでも、家の中は温かい。
私の言う温かさとは、人々の笑顔であり心をつなぐ優しさだ。
楽しい時間は、あっという間だった。
残念だけど早々に引き上げなければならない。
だって明日は学園の競技会だから。
私に限って言えば、あまり夜更かしできないのだ。
「そうだ、プレゼント! 侍女達が言ってたプレゼントって、結局何なのかしら?」
主寝室で待っていると、リュークが来てしまった。
「あら、もう戻って来たの? みんなと一緒に楽しんでいていいのよ?」
「ああ。でも、ブランカがプレゼントを用意してくれているってエレンに言われて……」
「え……?」
エレンとは、さっきプレゼントがまだ間に合うと言っていた侍女の一人だ。でも、教えてくれるどころかリュークを先に寄こすだなんて、どういうつもり?
「伝言だ。ベッドのサイドテーブルの引き出しの中の物をつけて、横になればいいそうだ」
引き出しの中にはリボンが入っていた。
言われた通り早速髪に結んでみる。
あとは、横になる?
天井にヒントが書いてあるんだろうか。
横になっても壁や天井に文字が浮かび上がるなんてことはなかった。
「いったい何なのかしら?」
「ほう、なるほどな」
リュークはわかったみたいだ。
いったい何?
どこに正解が書いてあったの?
「一番嬉しい贈り物だ」
「え? それって一体……」
バニラの香りのプレゼント。
美味しくいただかれてしまいましたとさ。
学園では明日、競技会と後夜祭が開催される。毎年イブにあるこのイベントも、今年は休日に当たるため翌日に持ち越されたのだ。
よってクリスマスイブの今日、私は王都にある公爵邸でリュークと過ごしている。
「ブランカ、今日も綺麗だって言ったかな?」
「ツリーのこと? ありがとう、わざわざ取り寄せてくれて。家の中に飾れるなんて嬉しいわ」
リュークは私に前世の記憶があることを知っている。なのでこの前、ソワソワしている私に質問してきたのだ。私は以前ジュリアンに言ったように、「大切な人と過ごす日のことよ」と教えてあげた。家族や恋人、本やゲームの中の人でも構わない。けれどその人にとって大事な人と一緒に過ごせれば、こんなに嬉しいことはない。
そのせいか、今年はリュークの方が張り切っている。クリスマスツリーからご馳走に至るまで、どんな色でどんな形か、プレゼントは何が喜ばれるのか、など根掘り葉掘り聞いてきた。どうやら忠実に再現してくれようとしているらしい。
おかげで我が家の玄関ホールには大きなもみの木がある。あ、正確にはもみの木と似た木だけれど、発音が難しいので覚えていない。まあ、とにかくクリスマスツリーに見立てた木をリュークが手配してくれたので、屋敷の皆で飾り付けをした。
七夕やハロウィンなど、イベントごとに楽しむ私を見ているせいか、最近ではみんなも慣れたもの。用意するものはないかと聞いてくれたり、進んで手伝ってくれたりしている。
ツリーにはリボンを巻き付け、紙や布などの手作りの飾りをつけた。家や長靴、人形のクッキーなんかもぶら下げている。調子に乗った私がジンジャークッキーを焼き、シュトーレンも作ってみた。我ながら良い出来だったと思う。七面鳥はないから、炙った鶏肉を用意してもらう予定。豪華な食事を頼んだので、今日の夕食はすごく楽しみだ。
その間、リュークは書斎で持ち帰った仕事を片付けていた。彼は普段、王太子であるカイルの補佐をしている。現在は休暇中。この世界はゲームではないけれど、リュークはゲームの通りに着々と宰相への道を歩んでいるようだ。
ちなみに私とリュークは今、お互いひと段落したのでツリーを眺めてうっとりしているところ。深緑色の暖かそうな上衣に同色のジレ、黒いトラウザーズの彼は我が夫ながらとてもカッコイイ。水色の瞳が私の反応を確認するかのように、こちらに向けられている。
「違う。ツリーも綺麗だが、俺が言っているのはお前のことだ。今日はいい香りまでする」
あ、それってさっきこぼしたバニラオイルだ! クッキーを作っている時に引っ掛けてこぼしてしまったから。一応洗ったはずなのに、しみ込んでいたのかもしれない。私は腕を持ち上げて、袖の匂いを嗅いでみた。確かにすごく甘~い香りがする。
甘いと言えば、リュークは時々私に甘い言葉を囁く。まあ、今のは普通に話したから大丈夫だけど。耳元で突然囁かれたりすると、心臓が飛び出るくらい未だにドキドキしてしまう。
「着替えた方がいいかしら。もうすぐ夕食だし、きちんとした格好の方がいいかもしれないわね」
将来の宰相夫人としては失格かもしれないけれど、私は普段コルセット無しの楽な服装をしている。ただでさえ舞踏会や夜会に招待される度、正装しなければいけないのだ。正直コルセットは窮屈で好きではない。あまり食べられないし、長時間だと息苦しくなってしまう。
カルディアーノ学園に復学したばかりの私は、いつも楽な制服を着ているので余計にそう思う。リュークが何も言わないのを良い事に、普段はコルセットを付けもしない。
更に厨房にも平気で入り、料理も手伝う。通常の貴族社会ではあり得ないことだ。そのため、実家から母が突然訪ねてきた時にはこってり怒られてしまった。けれど、ちょうど帰ってきたリュークが上手く取りなしてくれた。もし私だけだったら、延々とお説教が続いていたに違いない。
「うわっっ」
考え事をしていた私を見兼ねたのか、リュークが腕を引っ張って自分の方に引き寄せた。他に聞こえないように耳元でこっそり囁く。
「何を着ても綺麗だ。もちろん、何も着なくても――」
「どわっっ」
今のはいけない。
掠れた声も内容も共に反則だ。
イイ声に思わず、腰が砕けそうになってしまった。
「やっぱり着替えてくる~~!」
私は恥ずかしさのあまり、猛ダッシュでその場を逃げ出した。
残念ながら『プリマリ』にクリスマスガチャはない。だっていつもは競技会だから。競技会用アイテムの、特製弁当やときめきチョーカーが出て来るガチャならある。けれど、クリスマスにちなんだものはないのだ。
そんなわけで、今回サンタやトナカイなどのコスプレは用意していない。普通のドレスを着ることにする。でも、一応クリスマスカラーを意識して、赤系のドレスにしてみようかな? リュークもちょうど緑色だったし。
私は着替えるために呼び鈴を鳴らし、侍女を呼び出した……はずなのに。
「ええっとリューク、どうして?」
「夕食までまだ間がある。着替えなら俺でも手伝えるから、髪だけ結ってもらえばいいだろう?」
「いえ、それはさすがにちょっと。あ、でも時間があるなら湯浴みをしてからの方がいいかも」
「だったら一緒に入るか?」
「……勘弁して下さい」
怪しい動きをするリュークを、慌てて部屋から追い出した。もう一度呼び鈴を鳴らしたら、クスクス笑いながら侍女達が入ってくる。
「奥様ったら、旦那様に愛されていらっしゃいますね」
「本当に仲が良くて素敵ですわ!」
控えていたならすぐに来てほしかった。
まあ、リュークに遠慮したんだろうけれど。
仲がいいのは否定しない。
何たって彼とは、十年以上前からの付き合いだ。
「恥ずかしいところを見られたわね。できれば忘れて。それはそうと、みんな楽しんでいるのかしら?」
わざとらしく話を変えた。
バカ夫婦の様子を話題にされたらたまらない。
「ええ、もちろんです」
「ブランカ様がおっしゃったように、大切な人へのプレゼントも用意しましたし」
「……あ」
しまったぁーー!
何か忘れていると思ったら、クリスマスのプレゼントだった。男性用の香水を贈ろうと思っていたのに。しかも今年は、「プレゼントには髪飾りが欲しい」とリュークにねだってしまった。彼はきっと私のために、新しい髪飾りを既に用意してくれているはずだ。
「どうしよう、今から取りに行く時間ない……」
青ざめた私を見た侍女たちが顔を見合わせた。
「それでしたら、旦那様が一番喜ばれるものを贈って差し上げたらいかがでしょうか」
「ええ、絶対に間違いないですね」
何だろう?
リュークが最近ハマっているものって、何かあったっけ?
着替えに時間をかけたので、湯浴みをしている時間はなかった。侍女達が「プレゼントならまだ間に合います。夕食後にお伝えしますね」と言ってくれたので、安心してみんなと一緒にご馳走を楽しむことにした。
長ーいテーブルも皆で座ると賑やかだ。
『身分の区別なく付き合う』という私の考えにリュークは反対しないから、屋敷の皆が広間に集まっている。彼は昔からそうだった。この世界の貴族とはかけ離れた私の意見をバカにせず、興味を示し真剣に考えてくれる。だからうちではこうやって、イベントの際は屋敷中で楽しむことにしている。
テーブルに並ぶ鮮やかなクリスマスの料理。
良く焼けた大きな鶏が香ばしい匂いを辺りに漂わせている。サーモンのテリーヌや子牛のパイ、シチューやローストビーフは言うに及ばず、マリネやポテト、ジュレやタルトなど食べきれない程の量が並んでいる。芳醇な葡萄酒や甘い林檎酒、蜂蜜酒などももれなく準備されていた。
リュークの挨拶の後、宴が始まった。
心のこもった食事に舌鼓を打ち、素直な感想を言い合う。飾りつけが素晴らしいと誰かが言えば、テーブルの上の花が見事だと別の人が褒める。銀のカトラリーの輝きが違うと侍女が言えば、屋敷が清潔に保たれているのは皆のおかげだと、執事が感謝の言葉を述べる。大勢の大切な人達と過ごして、嫌なことは一切言わない。一年で一日くらいはこんな日があっても良いと思う。
ほろ酔い加減になったところで、誰からともなく席を立つ。陽気な歌や踊りが始まる合図だ。貴族の社交ダンスとは違い、みんなが得意なのはポルカなどの気軽な踊り。最初は上手く踊れなかった私とリュークも、村の出身である庭番や料理番に教えてもらい、今ではそれなりに踊れるようになってきた。何てったって今日は無礼講。輪に入りみんなが平等に楽しむ。冬の一日の過ごし方としては、悪くないように思う。
外は凍えるような寒さでも、家の中は温かい。
私の言う温かさとは、人々の笑顔であり心をつなぐ優しさだ。
楽しい時間は、あっという間だった。
残念だけど早々に引き上げなければならない。
だって明日は学園の競技会だから。
私に限って言えば、あまり夜更かしできないのだ。
「そうだ、プレゼント! 侍女達が言ってたプレゼントって、結局何なのかしら?」
主寝室で待っていると、リュークが来てしまった。
「あら、もう戻って来たの? みんなと一緒に楽しんでいていいのよ?」
「ああ。でも、ブランカがプレゼントを用意してくれているってエレンに言われて……」
「え……?」
エレンとは、さっきプレゼントがまだ間に合うと言っていた侍女の一人だ。でも、教えてくれるどころかリュークを先に寄こすだなんて、どういうつもり?
「伝言だ。ベッドのサイドテーブルの引き出しの中の物をつけて、横になればいいそうだ」
引き出しの中にはリボンが入っていた。
言われた通り早速髪に結んでみる。
あとは、横になる?
天井にヒントが書いてあるんだろうか。
横になっても壁や天井に文字が浮かび上がるなんてことはなかった。
「いったい何なのかしら?」
「ほう、なるほどな」
リュークはわかったみたいだ。
いったい何?
どこに正解が書いてあったの?
「一番嬉しい贈り物だ」
「え? それって一体……」
バニラの香りのプレゼント。
美味しくいただかれてしまいましたとさ。
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