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地味顔に転生しました

誕生会&お披露目会

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 天気にも恵まれ、吹く風も爽やかだ!

 今日は私の11才の誕生日。
 エルゼさんを筆頭に、侍女さん達が朝から張り切ってくれた。
 生まれ月にちなんだ白いドレス。肩紐は絹で作った色とりどりのお花、袖は短めのふわっとしたレース、スカートもふくらんでピンクの淡いグラデーションに小さなバラがちりばめられている。
 髪も複雑に編み込み、おしゃれにアップにしている。
 ピンクの薔薇にパールが付いた髪飾りをつけ、薄くだけどお化粧もした。
 姿見の前でクルッと一回転。
 うん、なかなか悪くないよね?

「そんなに地味には見えないわよね?」と、一応確認してみる。

「もちろん、お嬢様が一番可愛いですわ!」
「誰が何と言ってもお嬢様が世界一ですわ!」
「お嬢様、最強! 可愛い過ぎて持って帰りたいですわ!」

 ありがとう、みんな。
 でもそこまで求めてませんから。
「公爵令嬢を褒める」という職務に忠実なのね?   侍女さん達は。
 私は密かに彼女達を『太鼓持ちーズ』と呼んでいる。

 だけどお世辞だとわかっていても嬉しい。
 すっかり気を良くした所に弟が入ってきた。

「アリィ、準備できたかって……母様……が」

 少女マンガだったら、ここはイケメンが着飾ったヒロインを見てその美しさに「ハッ」とするところ。前世のイケてる私だったら勘違いしてたかも。でも大丈夫、地味顔の私は勘違いなんてしない。何と言っても相手は弟のレオンだし。
 そんな弟は白いトラウザーズにシャツ、濃紺のジャケットに紫の細めのリボンタイを合わせている。今日はレオンのお披露目も兼ねているから、いつもよりもオシャレ。

「レオン、今日も可愛い。大好き~」

   抱きつこうとしたら、「せっかくの装いが乱れます」とみんなから全力で止められてしまった。ちぇっ。



 会場となる庭に急いだ。
 芝の庭の中央に白いクロスがかかった大きめのテーブルとイスが置いてある。その周りには楽団用のステージや大小のテーブル、白とピンクのバルーンで作られたアーチやテントがいくつか並んでいる。
   なんだかレストランウエディングみたい。

「お母様ったら。ガーデンパーティーは簡単にするって言ってらしたのに、すごく豪華じゃない!」

 母を探してうろうろしていたら、こちらに気づいたレイモンド様がやって来た。

「アレキサンドラちゃん、お誕生日おめでとう!   花の妖精が舞い降りたかと思ったよ。あまりの愛らしさに美の女神も嫉妬してしまうね」

   今日も安定のチャラ男ぶり。
 こんなのに嫉妬だなんて、どんだけ安上がりなの?   その女神サマ。嘘を言うと罰があたりそうなのでやめて下さいね。でもムッとしてはいけない。ここは確か顔を赤くして恥ずかしがって、そんでもってうつむくところ。

「光栄です、レイモンド様」

「君って変わってるよね」

   クスリと笑われてしまった。
 あ、今の笑った顔、王子様に似ている。
 やっぱり叔父と甥なんだなぁ。

 お母様と無事合流し、レオンと一緒にお父様の所に挨拶に行く。お仕事間に合って良かった。お母様を止められるのってお父様だけだもの!
 家族からもお祝いの言葉をもらい、1つ歳を取っただけなのにすごく大人になったようなくすぐったい気分。
 銀髪にアイスブルーの瞳の兄様も赤髪に琥珀色の瞳のガイウス様もわざわざ私に近づいて「おめでとう」と言って下さった。



 そうこうしているうちに次々とお客様が到着。
 最後に王子様が到着した。
   今日も美しいリオネル様は、金の刺繍の緑の上着、白いシャツとトラウザーズに黄色のクラバットを合わせている。しばらく会わないうちに背も高くなられたような。イケメンなのでもちろん、何を着ても似合う。

   みんなで優雅にお辞儀をして王子様を迎えたら、ようやく誕生会&お披露目パーティー開始! さっきから美味しそうな香りが漂っているからずーっと気になっていたのよね~。昨日から料理長のジャンとシェフ達が張り切って仕込みをしていたから、いい匂いがしていたし。
 私が料理に気を取られている間に、誰が王子様とレオンの隣に座るかで揉めていた。いくらイケメンでも近衛騎士達は護衛のお仕事中で、座らないから。

   侯爵令嬢のアイリス様やジュリア様はもちろんのこと、伯爵令嬢のローザ様についてきちゃったお姉さんのダイアン様(婚活中。よんでない)やセクシー美女で同じく伯爵令嬢のイボンヌ様(婚活中。やっぱりよんでない)も加わり、席取り合戦!? 子どもだけのお茶会だというのに全員ハンターに見えるのは、私の気のせいだろうか?

 王子は先ほどからレオンが、レオンは王子が気になるようで、二人の間にもバチバチと火花が散っている。二人ともイケメンだから大丈夫、張り合うのは止めて?


 
   結局、本日の主役である私とレオンが並んで座り、私の隣で正面にあたる席に王子様、その隣がイボンヌ様、ローザ様、アイリス様、ジュリア様、ダイアン様の順に座っていただくことで落ち着いた。丸いテーブルで本当に良かった。

「非公式のお茶会だから、遠慮なく楽しめるわよ~」って言ってたお母様の嘘つき!

   ようやく席も決まってホッと一息。
 なのにそこへレイモンド様がやって来た。

「みんな可愛いし素敵だね。リオンの近くに座らせるのはもったいないな」

   笑顔で煽るのは止めて下さい。
 子ども達を片っ端から真っ赤にさせてどうするんですか?   本気で言ってたらあなた、確実にロリコンですから。
 げんなりして目を逸らすと、庭に飾られた氷の彫刻が飛び込んで来た。天使とウサギの彫刻。天使の氷の中には花びらが、ウサギの氷の中にはニンジンが入っていてちょっと可愛い。2つとも私の好きなものだけど、すぐに溶けてしまうからもったいないな。



 前回、お城でのお茶会で私が偉そうにダメ出ししてしまったのはこの中の三人。清楚系で同い年のアイリス様。ゴージャス系で同い年のジュリア様。2つ下のローザ様は守ってあげたいアイドル系。良い機会だから謝っておこう。

「先日お城で偉そうに振舞ってご不快な思いをさせてしまったこと、本当にごめんなさい」

「私の方こそ至らなくて」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「こちらこそ、ごめんなさい」

   三人とも逆に謝ってくれた。
   私の上からの態度を許してくれるのかな?  
 ホッと息を吐いた私を、リオネル様とレオンが見ていた。

 その後は終始和やかにパーティーが進んだ。   
   BGMは楽団の生演奏。食器は来客用の特別なものだし、3段重ねのお皿にはサンドイッチやキッシュ、クロテッドクリームとコンフィチュールを添えたスコーンやケーキ、ジュレなどがのっている。
   近くのテントにはシュータワーやマカロンタワー、香草を添えた魚料理や詰め物をした肉料理、何種類ものサラダまで準備されていた。
   食事はどれも美味しかったし、レオンの評判も上々!
 みんなとの会話も弾んですごく楽しかった。



   お腹がいっぱいになって満足していた私。
 目の前に次々に差し出されたのは誕生日のプレゼント。
 急な事だしみんなイケメンに釣られて来ただけだと思っていたから、プレゼントが貰えるなんて思っていなかった。
 レースのショール、手袋、詩集、特注のぬいぐるみ、ご自分でされた刺繍入りのハンカチなど、前世では持てなかった贅沢な品ばかり!

「これみんな……私に?」

 転生前はいつもいじめられていた私。
 誕生会からも女の子達からも仲間外れにされていた。
   だからこのサプライズは本当に嬉しかった!   
 大勢で囲むテーブルがこんなに騒がしくて面白いなんて、今まで全然知らなかった!

 テーブルクロスについた染み。
   雨でないそれは、知らない内に落としてしまった自分の涙だった。

「皆様、わたくし…の…ために、今日…は…本当…に…ありが…とう…ござい…ます」

 途中で何度もしゃくり上げながら、何とか言葉を絞り出した。嬉しくてこんなに泣いたのは、本当に久しぶりだ。

 隣の幼なじみは、碧の瞳に温かい光を宿して微笑んでくれていた。反対側の弟は最初はビックリしていたけれど、ポンポンと肩を叩いてくれた。
   アイリス様やイボンヌ様は「しょうがない子ね」という顔で肩をすくめて優しく笑って下さった。ダイアン様は「気にしないで」という風にウインクされた。ジュリア様やローザ様は「よしよし」と言って下さった。
 みんなの優しさが胸に沁みて、堰を切ったように泣き出した私。しばらく泣き止むことができなかった。



 ここはきっと、私が望んでいた世界。
   優しい仲間と素敵な女友達のいる温かい場所――
 
「これからも仲良くして下さいますか?   お友達と思っても良いですか?」

「「「「当たり前じゃありませんか」」」」
 
 みんなにハモられてしまった。
 これって、女の子の友達ができたって事よね?   
 これから一緒に買い物行ったり、ガールズトークができるって期待しても良いのよね?

 幸せで、結局また泣いてしまった。
 偉そうに上から物を言い壁を作ってしまっていたのは私の方。彼女達はこんなにも優しく、自然に接してくれていたのに……



 私の顔は地味を激しく通り越して、泣き腫らしてかなりブサイクだったと思う。だけどそれでも構わない!   この世界に転生できて本当に嬉しかったから。

   11歳の誕生日は、女友達が一度にできた一番楽しく思い出に残る日となった。
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