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王都を離れて
宿の朝
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「ん……んー」
朝の光が瞼に当たる。
何だかとっても頭が痛い。
眠い目を擦りながら薄眼を開けると、何とそこには
レオンのどアップ~~!?
サラサラの金の髪が頬に触れ、濃く青い瞳が目の前にある。
「どわーーっ」
叫びながら、慌てて身体を起こした。
上から私を覗き込むように見ていたレオンがひょいっと避け、腕を組んで横に立った。彼は既に、青のトラウザーズと白いシャツにジレという気軽な服装に着替えている。
「そろそろ時間だけど。朝ごはん、下に食べに行くから着替えたら降りてきて」
レオンはそっけなくそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行った。
起こそうとしてくれたの、かな?
私はというと、昨日と同じ服。
そのまま寝てしまったせいか、シワが寄ってクシャっとしている。あ、お風呂も入ってないや。
いきなり女子力低すぎる。
ま、いっか。一緒にいたの弟だし。
男の子として同行するんだし。
あれ?
でも私、いつの間に部屋に戻ったんだろ。
考えてみる。
……んー、記憶が無いな。
まさかレオンが運んでくれた?
だから朝から機嫌が悪かったのだろうか。
重くて怒ってた?
それとも、起こさないと起きなかったから?
姉なのに迷惑かけてゴメン。お姉さんと認めてないかもしれないけれど……
昔は朝、部屋に飛び込んでハグするくらい仲が良かったのに。照れて笑う小さな義弟が可愛かった。でも、今それやったら完全にアウトだよね? 冷たく睨まれただけで終わってしまうかもしれない。まあ今回部屋に起こしに来てくれたのは、レオンの方だけど。
頭が痛いし、顔もベタベタな気がする。
もしやヨダレ?
レオン、朝から醜いもの見せちゃってゴメン。お姉さんとして、今日からちゃんと頑張るから。朝の寝顔は、どうか見なかったことに……
着替えて下の食堂に行った。
さすがは騎士の常宿だ。
朝ご飯が美味しそう!
全粒粉と思われる焼き立てのパンにはたっぷりのバターがよく合う。野菜がゴロゴロ入ったミネストローネのようなスープには、削ったばかりのチーズが入って美味しそうな湯気を立てている。オムレツはきれいに焼けて黄金色だし、付け合せのカラフルな野菜もパリっとしていて瑞々しい。
「いっただっきまーす!!」
幸い、心配していた二日酔いにはならなかったようだ。私はすぐ寝てしまったから、大して飲んでいなかったのだろう。安心して朝食を楽しむことができる。
「あれ? アリィちゃんは元気いっぱいだね。もう大丈夫なのかな? 対してレオンは、どうやら寝不足のようだけど……」
レイモンド様が涼しげにおっしゃった。
そういえばレオンは、目の下にうっすらクマができている。イケメンだから気づかなかったけど、少しだけやつれているような気もする。
レオンだけでなく、兄とガイウス様も具合が悪そうだ。レイモンド様によると、酒場のお姉さんや常連客に離してもらえなかったんだそう。ということは眠そうなレオンも、朝まで一緒に飲んでいたの? まだ未成年だし、飲み過ぎはよくないと思う。よい子は早く寝なくっちゃ。
みんな朝食にはあまり手をつけず、二日酔いにも効くという薬草茶に手を出している。王都から少し離れただけでこれって、大丈夫なのかしら? みんなカッコいいからモテるのはよくわかるけど、朝ご飯は一日の始まりだし、ちゃんと食べなきゃダメだよ。
「さて、落ち着いたところでみんないいかな。これからのことなんだけど……」
レイモンド様が口を開くと、みんなの顔つきが変わった。さすがに仕事となると、真面目になるようだ。
ちなみに身分をごまかすために、私達は全員、町の人が着るような普通の服を着ている。触れ込みはレイモンド様の趣味? で『旅一座』ということになっているから。
みんなは旅の役者。私だけが女優ではなくて、男装してみんなの世話をする従僕扱い。いえ、根に持っているわけではありません。男装でも気付かれなくて、違和感の無さに自分でもびっくりしているなんて言いません。
『男だけの旅一座』ということにした方が、旅は安全なんだとか。盗賊やゴロツキなんかに目をつけられにくいからなのだとか。女性が一人紛れ込んでいるとわかったら、盗賊だけでなくこの先の町のお姉さん方にも嫌がらせをされそうだ。だって、全員役者と言われても納得の、イケメンぞろいだから。それに私もこの姿の方が、ドレスよりも楽っちゃ楽だ。
レイモンド様は懐に入れていた地図を取り出すと、テーブルの上に大きく広げた。
「で、前にも話したと思うけれど。このままこのルートで国境を越えて、先ずは魔導の国リンデルで情報を集めようと思う。最終的な目的地はアンフェールの予定だけれど、それまでにトーマスが見つかったり、彼の国が事件と関係無いとわかれば、行き先を変更するつもりだ」
長い指でルートを辿り説明してくれる。
私達はこれから、西にある魔導王国リンデルに向かう。そこは、私の実の父が生まれ育ったところだと聞いている。魔導士がいて魔法が盛んな国なのだとか。トーマス=リンデルを追跡するために、まずは出身地や関連性の高いものから捜索しようということになった。手がかりがみつかれば、【黒い陰】への対処法もわかるかもしれないから。
本当は、南の国アンフェールに直接向かった方が早いのかもしれない。けれど、そう提案したら理由を聞かれてしまう。そうすると、カタカナで書かれた文字の秘密や前世の事を話さなければいけなくなる。
「違う世界に生きていて、双子の妹の身体に魂だけが転移した」と言ったら、よくて変人扱い、悪ければ療養地送りになるだろう。そうでなくても、アンフェール国のどこに行けば良いのか全然わからない。今も父がそこにいるとは限らない。だったらやっぱり、きちんと段階を踏んで調査すべきだ。
一路魔導王国リンデルへ。
私達の旅は、まだ始まったばかりだ。
朝の光が瞼に当たる。
何だかとっても頭が痛い。
眠い目を擦りながら薄眼を開けると、何とそこには
レオンのどアップ~~!?
サラサラの金の髪が頬に触れ、濃く青い瞳が目の前にある。
「どわーーっ」
叫びながら、慌てて身体を起こした。
上から私を覗き込むように見ていたレオンがひょいっと避け、腕を組んで横に立った。彼は既に、青のトラウザーズと白いシャツにジレという気軽な服装に着替えている。
「そろそろ時間だけど。朝ごはん、下に食べに行くから着替えたら降りてきて」
レオンはそっけなくそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行った。
起こそうとしてくれたの、かな?
私はというと、昨日と同じ服。
そのまま寝てしまったせいか、シワが寄ってクシャっとしている。あ、お風呂も入ってないや。
いきなり女子力低すぎる。
ま、いっか。一緒にいたの弟だし。
男の子として同行するんだし。
あれ?
でも私、いつの間に部屋に戻ったんだろ。
考えてみる。
……んー、記憶が無いな。
まさかレオンが運んでくれた?
だから朝から機嫌が悪かったのだろうか。
重くて怒ってた?
それとも、起こさないと起きなかったから?
姉なのに迷惑かけてゴメン。お姉さんと認めてないかもしれないけれど……
昔は朝、部屋に飛び込んでハグするくらい仲が良かったのに。照れて笑う小さな義弟が可愛かった。でも、今それやったら完全にアウトだよね? 冷たく睨まれただけで終わってしまうかもしれない。まあ今回部屋に起こしに来てくれたのは、レオンの方だけど。
頭が痛いし、顔もベタベタな気がする。
もしやヨダレ?
レオン、朝から醜いもの見せちゃってゴメン。お姉さんとして、今日からちゃんと頑張るから。朝の寝顔は、どうか見なかったことに……
着替えて下の食堂に行った。
さすがは騎士の常宿だ。
朝ご飯が美味しそう!
全粒粉と思われる焼き立てのパンにはたっぷりのバターがよく合う。野菜がゴロゴロ入ったミネストローネのようなスープには、削ったばかりのチーズが入って美味しそうな湯気を立てている。オムレツはきれいに焼けて黄金色だし、付け合せのカラフルな野菜もパリっとしていて瑞々しい。
「いっただっきまーす!!」
幸い、心配していた二日酔いにはならなかったようだ。私はすぐ寝てしまったから、大して飲んでいなかったのだろう。安心して朝食を楽しむことができる。
「あれ? アリィちゃんは元気いっぱいだね。もう大丈夫なのかな? 対してレオンは、どうやら寝不足のようだけど……」
レイモンド様が涼しげにおっしゃった。
そういえばレオンは、目の下にうっすらクマができている。イケメンだから気づかなかったけど、少しだけやつれているような気もする。
レオンだけでなく、兄とガイウス様も具合が悪そうだ。レイモンド様によると、酒場のお姉さんや常連客に離してもらえなかったんだそう。ということは眠そうなレオンも、朝まで一緒に飲んでいたの? まだ未成年だし、飲み過ぎはよくないと思う。よい子は早く寝なくっちゃ。
みんな朝食にはあまり手をつけず、二日酔いにも効くという薬草茶に手を出している。王都から少し離れただけでこれって、大丈夫なのかしら? みんなカッコいいからモテるのはよくわかるけど、朝ご飯は一日の始まりだし、ちゃんと食べなきゃダメだよ。
「さて、落ち着いたところでみんないいかな。これからのことなんだけど……」
レイモンド様が口を開くと、みんなの顔つきが変わった。さすがに仕事となると、真面目になるようだ。
ちなみに身分をごまかすために、私達は全員、町の人が着るような普通の服を着ている。触れ込みはレイモンド様の趣味? で『旅一座』ということになっているから。
みんなは旅の役者。私だけが女優ではなくて、男装してみんなの世話をする従僕扱い。いえ、根に持っているわけではありません。男装でも気付かれなくて、違和感の無さに自分でもびっくりしているなんて言いません。
『男だけの旅一座』ということにした方が、旅は安全なんだとか。盗賊やゴロツキなんかに目をつけられにくいからなのだとか。女性が一人紛れ込んでいるとわかったら、盗賊だけでなくこの先の町のお姉さん方にも嫌がらせをされそうだ。だって、全員役者と言われても納得の、イケメンぞろいだから。それに私もこの姿の方が、ドレスよりも楽っちゃ楽だ。
レイモンド様は懐に入れていた地図を取り出すと、テーブルの上に大きく広げた。
「で、前にも話したと思うけれど。このままこのルートで国境を越えて、先ずは魔導の国リンデルで情報を集めようと思う。最終的な目的地はアンフェールの予定だけれど、それまでにトーマスが見つかったり、彼の国が事件と関係無いとわかれば、行き先を変更するつもりだ」
長い指でルートを辿り説明してくれる。
私達はこれから、西にある魔導王国リンデルに向かう。そこは、私の実の父が生まれ育ったところだと聞いている。魔導士がいて魔法が盛んな国なのだとか。トーマス=リンデルを追跡するために、まずは出身地や関連性の高いものから捜索しようということになった。手がかりがみつかれば、【黒い陰】への対処法もわかるかもしれないから。
本当は、南の国アンフェールに直接向かった方が早いのかもしれない。けれど、そう提案したら理由を聞かれてしまう。そうすると、カタカナで書かれた文字の秘密や前世の事を話さなければいけなくなる。
「違う世界に生きていて、双子の妹の身体に魂だけが転移した」と言ったら、よくて変人扱い、悪ければ療養地送りになるだろう。そうでなくても、アンフェール国のどこに行けば良いのか全然わからない。今も父がそこにいるとは限らない。だったらやっぱり、きちんと段階を踏んで調査すべきだ。
一路魔導王国リンデルへ。
私達の旅は、まだ始まったばかりだ。
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