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第16話 結婚発表会
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「私、佐々木 優は、結婚することになりました」
俺は、台上から挨拶をする。
300人くらい集まっている。「結婚発表会」が始まった。
拍手と指笛が鳴る。鳴り止むまで、しばし待つ。
「新しくできた家族を守るため、一層、仕事に励んでいきますので、どうか、ご協力、よろしくお願いします」
お辞儀をする。再度、拍手が鳴り始めた。
これでいいだろう。
そう判断して、台から下りる。
「あっ、部長、下りないで下さい。質問をしますので」
佐伯からマイク越しに注意される。寄ってきた次郎に背中を押されて、台上に戻された。
マジかー、どんな質問が飛ぶのか怖い。
「予め、各所から、質問する内容を集めておきました。ご協力ありがとうございました」
短時間でそこまでやってたのか……。本当に恐ろしいな。
「部長、確認です。どんな質問でも答えてくれますよ、ね?」
彼女が離れたところから睨んでくる。半分脅し……。
「ちなみに、NGな質問は、部長の側近である私が、除いています。ご安心下さい」
お前が質問内容選んでいる時点で、安心できるか!
心の中で叫ぶ。
除いた質問を、2人きりのときに聞いてくるはず。本当にいい性格している。
「では、始めます」
食堂中が静まり返る。なんという集中力だ、おかしくないかー?
「奥様の名前と年齢、学校名を教えて下さい」
なんという晒し。普通、学校名を聞かないと思うのだが……。
「相田 希、16歳、4月から鈴峯女学園に通う予定だ」
「鈴峯ですか……、部長、すごいですね……ハア」
相手は16歳の高校生……噂通りだったせいか、皆、口々に叫んでいる。
しかも、鈴峯女学園は市内有数のお嬢様学校。気持ちはわかる。
佐伯、マイク越しに呟いて、ため息をするのはやめろ。
「やはり16なのか、部長、犯罪でしょー」
「鈴峯で、編入?それって、特級だよー、凄い、佐々木部長の奥様」
「16の少女を、部長の毒牙にって、許せねー!」
「女子高生の柔肌、張りのある肌、透き通る肌、さすが佐々木部長、お仲間だな」
「あそこの制服ってかわいいよねー、憧れだったよー」
「ウチの香と一緒の学校じゃないかー!」
特級って何なんだろう?帰ったらノゾミに聞いてみよう。
おい、一部危ないのがいるぞ、頼むから高校生に痴漢なんかするなよ……。
そこの工場長、ウチの娘と一緒と叫ぶな。
「出会ってからどれくらい経ってますか?」
えーっと、これ、どう答えようか……。
「出会ったのは8年前。で、昨日、再会しました」
「「「「「昨日ーーーーー!!!!」」」」」
一斉に叫ばれた。周りから見ると、かなり異常な状態である。
「……8年前ってことはー、部長は、20代、奥様、小学生……。若紫計画・完結……?」
おい、佐伯、マイクで呟くでない、そして「若紫計画・完結」って止めてくれ。
まるで、8年間準備していたみたいじゃないか。
……確かに、ノゾミは綿密に計画を立てていたようだが、俺は違う。
ちなみに「若紫」と、いうのは、源氏物語で登場する若紫である。
主人公の光源氏が、初恋した藤壺の面影をもつ、幼い若紫の後見人となり、その後結婚する。
そんな「ロリコン」の代表格と一緒にはされたくない。
「マジかー、部長、犯罪だろー」
「シスター○リン○セス・マスター佐々木」
「おまわりさん、こっちです」
「いたいけな小学生を、あの部長はー!」
「8年前に出会って、昨日再会って、なんてドラマチックなのー!」
「佐々木ー!許さん!」
ドラマチックって、実際あると、戸惑うから。俺も昨日は驚いた。
8年前だからな!そのときはまだ部長ではない!
お巡りさんは、少し困るかもしれない……。
工場長?いや、アンタも連れ合いと10離れてるだろうが!
「昨日再会したのに、なぜいきなり結婚になるんですか?早すぎません?」
疑問に思ったらしい。佐伯が素の声でマイク越しに質問してくる。
「ん?許嫁。で、どちらの親もノゾミも乗り気なので。俺も良いと思ってるし」
昨日、散々悩んだことは、置いておく。
そしてすでに結婚する気でいる自分に少々呆れる。
周りに流され過ぎなのか?
でもさ、ノゾミってかわいいし、性格も悪くないから、断る理由が無くなってしまった。
「い・い・な・ず・け。甘美な響き」
「エロゲ、設定」
「どこかの貴族か、異世界か」
「やっぱり、結婚するなら、生活能力のある年上だよねー、奥様、若くして勝ち組だよー」
「許嫁を盾に嫌がる女子高生を……借金のかたに娶って……」
「うらやましいぞー!佐々木!」
しまった。自分でもびっくりするくらい、さらっと答えてしまった……。
周りでは「許嫁」という言葉に反応して、騒ぎまくっている。
まあ、エロゲ設定は認めるわ。あんなこと普通は有り得ない。
工場長……。キャラ崩壊してませんか。ああ、こっちが素でしたね。
「奥様は鈴峯女学園……ってことは、部長って玉の輿?」
マイク越しの質問。
おい、佐伯。それ絶対今考えたろ。
そんな質問なら、個人的に聞けよ。
「……」
「ねえ、部長!答えて!」
「「「「「答えて!」」」」
黙っていると、佐伯に再度聞かれた。皆もノリノリだなぁ……。
この雰囲気、無視できない……。
「……そうかもしれないな……」
つい、つぶやいてしまう。
「そうらしいぞ」
耳ざとく聞いていた次郎が、皆に伝えてしまった。
わぁーーーーっと、盛り上がる食堂。
「……と、時間がないので、独自に入手した奥様のデータを発表いたします」
そんな佐伯の言葉に、一段と盛り上がっていく。
……えっ?独自に入手って何?どういうことなんだ?
「なお、このデータを発表することに関しましては、奥様からの許可は、取ってあるとのことです」
まさかの、ノゾミ了承済み。頭が痛くなってきた。
「相田 希さん、平成12年3月3日生まれ、16歳、東京都出身」
俺の嫁のプライベートデータが読み進められていく。
「部長と希さんは、又従姉妹、はとこの関係になります」
佐伯の澄んだ声で紹介されていく。
「身長145cm、体重やスリーサイズは、発表しません」
そんな言葉に、男性社員からブーイングが飛ぶ。
お前ら、俺の嫁を何と思ってやがる。
と、いうか、データ公表しすぎだろう……。誕生日は知らなかった。
まあ、バストは……。そんな自虐的な娘ではないだろう。
「昨年度までは、武蔵野女子学園に在籍、今年度からは、鈴峯女学園に編入されました」
今度は主に女性社員から感嘆の声が上がった。
先程の「特級」といい、俺が知らないだけで、凄いことなのかもしれない。
「で、そんな奥様は、アイダコーポレイションの社長令嬢、1人娘であられます」
「「「「わーーーーーっ!!!!」」」」
社員たちは騒いでいる。「社長令嬢」という言葉に憧れを持ったようだ
しかし、俺は気づいてしまった。
工場長と一部他会社の要人たちが、何とも言えない表情をしていることに。
「参考までに」
コホン、軽く咳払いをして、佐伯が発表した。いや違う、爆弾を落とした。
「アイダコーポレイション、東証1部上場、売り上げ1.5兆円、純利益645億円の会社であります」
食堂中がシーンと静かになった。兆とか億とか、そんなお金の単位の登場に驚いたのか。
正直、俺自身もびっくりしている。アイダコーポレイション、恐るべし。
「……以上で、データ発表を終わります」
佐伯の澄んだ声が響く。
静まっていた空間が、少しずつ普段通りに戻っていく。
やっと終わったか……。
「最後に、皆さま、お近くのテレビ画像に、注目願います」
ん?何が始まるのか?
この食堂には、6つのテレビが設置されている。
昼休みの後半には、NHKのドラマが始まり、年配の方々が鑑賞されているところを目にする。
今は、そのドラマの始まる12時45分。
プツッと音を鳴らして、全テレビのスイッチが入る。
「皆さま、こんにちは、佐々木 優の嫁の、希です」
吹き出しそうになった。テレビ画面には、今朝、見送ってくれた女性の姿が映っている。
服装は、鈴峯の制服。襟首にある、エンジ色のリボンが目立つ。
背景は、俺も良く知る部屋……洋室の壁である。アニメ関係のタペストリーが目立っている。
床に座り込んで撮影しているらしい。って、これ、生放送?
「昨日、ユウ兄のお嫁さんになりました」
周りから「ユウ兄ってなんだー」「兄さん呼びかよー」とかそんな声が上がっている。
「私の夫、佐々木 優を、これからもよろしくお願いします」
軽く頭を下げる。
「……希様、まだ時間があります。もう少し、何かないですか?」
画面の外から、俺も聞いたことのない女性の声が。
「希様」と呼んでいるので、友達……だよなぁ……。
「ぅえっ!?……何話せばいいのよー」
画面の外の友達に不平を言っている。今までの丁寧な言葉遣いが台無しである。
宥められて、ようやく話し始めた。
「今夜は、餃子だよー餡を作って皮巻いて、たくさん作るからねー」
そう言いながら、餃子を包む真似をする。
餃子作れるのか。
あの冷凍食品好きのことだ、本当に手作りなのかは、少々怪しいが……。
「……ユウ兄、早く帰って来てね、待ってるよー」
画面の中の彼女は、手を振ってくる。
「あっ、そうだ」
何かを思い出したようだ。手を振るのを止めた。
「ユウ兄、結婚発表会をしてるって聞いたけど、プロポーズ、まだなのー?」
周りの騒めきが大きくなったように感じる。
「ユウ兄も、結婚する覚悟を、決めてくれたみたいなので、おとなしく、待ってまーす」
そんな「爆弾発言」をした後、画面が暗くなる。
プツッという音を残して、テレビのスイッチが切れた。
「佐々木部長による、結婚発表会を、終わります。ご安全にー」
佐伯の締めの言葉により、発表会は終了した。
それに気づかず、唖然としていた。
……圧倒的サプライズに対して。
思考を手放していた。
しかし、周りから向けられる視線と騒めきに、我に返る。
「佐々木部長……、あんなかわいい娘《こ》に……許さん!」
「鈴峯で女子高生で、社長令嬢に黒髪ロング……、佐々木、死すべし!」
「プロポーズしてないのー?してあげてよー」
「……ここまで自慢しなくても……リア充、死ね!」
「あんなかわいい子、不幸にしたら許さんけんね!」
「ああ、ウチの香も結婚したら、ああなるのだろうか……結婚は許さんがな!」
あーあ、皆から、殺気しか感じることができないのだが……。
そもそも、俺は「自慢」する気はなかった、と言っても、最早、信じてもらえないだろう。
参ったなぁ……、昼休みが終わったら仕事なのだが、やる気が起きない。
「まあ、大変だな……」
次郎が肩を叩いてくる。
「部長、プロポーズしてないのは……さすがに擁護できないです」
佐伯、お前に聞きたいことが、たくさんあるんだけど……。
「部長、社長になるんだったら、ワタクシめも、秘書として付いていきますよ」
確かに、佐伯が一緒にいてくれると、助かるのだが……飛躍し過ぎ。
俺は黙って、彼女のおでこにデコピンをお見舞いするのであった。
★★★
和やかな昼休み。
ここの工場関係者は、鮮烈な話題と娯楽を糧に、昼からも働く。
様々な意見や、愚痴を言っても大丈夫な雰囲気を持つ、佐々木 優は皆から愛されていた。
本人は実感していないが。
「みっしょん・こんぷりーと」
影は呟く。
・さぷらいず、せいこう、なり
SNSにてメールを送る。
ほどなくして、返信が来る。
・希様もご満悦です。引き続き従事するように
そんな私も、工場員、昼から仕事、しますかー。
仮初だけど。
他の工場員と、変わらない姿をした彼女は、いや、一緒に集まっていた5人と共に、工場に入っていく。
★★★
昼休み終了のチャイムが鳴った。
昼からの仕事が、今から始まる。
俺は、台上から挨拶をする。
300人くらい集まっている。「結婚発表会」が始まった。
拍手と指笛が鳴る。鳴り止むまで、しばし待つ。
「新しくできた家族を守るため、一層、仕事に励んでいきますので、どうか、ご協力、よろしくお願いします」
お辞儀をする。再度、拍手が鳴り始めた。
これでいいだろう。
そう判断して、台から下りる。
「あっ、部長、下りないで下さい。質問をしますので」
佐伯からマイク越しに注意される。寄ってきた次郎に背中を押されて、台上に戻された。
マジかー、どんな質問が飛ぶのか怖い。
「予め、各所から、質問する内容を集めておきました。ご協力ありがとうございました」
短時間でそこまでやってたのか……。本当に恐ろしいな。
「部長、確認です。どんな質問でも答えてくれますよ、ね?」
彼女が離れたところから睨んでくる。半分脅し……。
「ちなみに、NGな質問は、部長の側近である私が、除いています。ご安心下さい」
お前が質問内容選んでいる時点で、安心できるか!
心の中で叫ぶ。
除いた質問を、2人きりのときに聞いてくるはず。本当にいい性格している。
「では、始めます」
食堂中が静まり返る。なんという集中力だ、おかしくないかー?
「奥様の名前と年齢、学校名を教えて下さい」
なんという晒し。普通、学校名を聞かないと思うのだが……。
「相田 希、16歳、4月から鈴峯女学園に通う予定だ」
「鈴峯ですか……、部長、すごいですね……ハア」
相手は16歳の高校生……噂通りだったせいか、皆、口々に叫んでいる。
しかも、鈴峯女学園は市内有数のお嬢様学校。気持ちはわかる。
佐伯、マイク越しに呟いて、ため息をするのはやめろ。
「やはり16なのか、部長、犯罪でしょー」
「鈴峯で、編入?それって、特級だよー、凄い、佐々木部長の奥様」
「16の少女を、部長の毒牙にって、許せねー!」
「女子高生の柔肌、張りのある肌、透き通る肌、さすが佐々木部長、お仲間だな」
「あそこの制服ってかわいいよねー、憧れだったよー」
「ウチの香と一緒の学校じゃないかー!」
特級って何なんだろう?帰ったらノゾミに聞いてみよう。
おい、一部危ないのがいるぞ、頼むから高校生に痴漢なんかするなよ……。
そこの工場長、ウチの娘と一緒と叫ぶな。
「出会ってからどれくらい経ってますか?」
えーっと、これ、どう答えようか……。
「出会ったのは8年前。で、昨日、再会しました」
「「「「「昨日ーーーーー!!!!」」」」」
一斉に叫ばれた。周りから見ると、かなり異常な状態である。
「……8年前ってことはー、部長は、20代、奥様、小学生……。若紫計画・完結……?」
おい、佐伯、マイクで呟くでない、そして「若紫計画・完結」って止めてくれ。
まるで、8年間準備していたみたいじゃないか。
……確かに、ノゾミは綿密に計画を立てていたようだが、俺は違う。
ちなみに「若紫」と、いうのは、源氏物語で登場する若紫である。
主人公の光源氏が、初恋した藤壺の面影をもつ、幼い若紫の後見人となり、その後結婚する。
そんな「ロリコン」の代表格と一緒にはされたくない。
「マジかー、部長、犯罪だろー」
「シスター○リン○セス・マスター佐々木」
「おまわりさん、こっちです」
「いたいけな小学生を、あの部長はー!」
「8年前に出会って、昨日再会って、なんてドラマチックなのー!」
「佐々木ー!許さん!」
ドラマチックって、実際あると、戸惑うから。俺も昨日は驚いた。
8年前だからな!そのときはまだ部長ではない!
お巡りさんは、少し困るかもしれない……。
工場長?いや、アンタも連れ合いと10離れてるだろうが!
「昨日再会したのに、なぜいきなり結婚になるんですか?早すぎません?」
疑問に思ったらしい。佐伯が素の声でマイク越しに質問してくる。
「ん?許嫁。で、どちらの親もノゾミも乗り気なので。俺も良いと思ってるし」
昨日、散々悩んだことは、置いておく。
そしてすでに結婚する気でいる自分に少々呆れる。
周りに流され過ぎなのか?
でもさ、ノゾミってかわいいし、性格も悪くないから、断る理由が無くなってしまった。
「い・い・な・ず・け。甘美な響き」
「エロゲ、設定」
「どこかの貴族か、異世界か」
「やっぱり、結婚するなら、生活能力のある年上だよねー、奥様、若くして勝ち組だよー」
「許嫁を盾に嫌がる女子高生を……借金のかたに娶って……」
「うらやましいぞー!佐々木!」
しまった。自分でもびっくりするくらい、さらっと答えてしまった……。
周りでは「許嫁」という言葉に反応して、騒ぎまくっている。
まあ、エロゲ設定は認めるわ。あんなこと普通は有り得ない。
工場長……。キャラ崩壊してませんか。ああ、こっちが素でしたね。
「奥様は鈴峯女学園……ってことは、部長って玉の輿?」
マイク越しの質問。
おい、佐伯。それ絶対今考えたろ。
そんな質問なら、個人的に聞けよ。
「……」
「ねえ、部長!答えて!」
「「「「「答えて!」」」」
黙っていると、佐伯に再度聞かれた。皆もノリノリだなぁ……。
この雰囲気、無視できない……。
「……そうかもしれないな……」
つい、つぶやいてしまう。
「そうらしいぞ」
耳ざとく聞いていた次郎が、皆に伝えてしまった。
わぁーーーーっと、盛り上がる食堂。
「……と、時間がないので、独自に入手した奥様のデータを発表いたします」
そんな佐伯の言葉に、一段と盛り上がっていく。
……えっ?独自に入手って何?どういうことなんだ?
「なお、このデータを発表することに関しましては、奥様からの許可は、取ってあるとのことです」
まさかの、ノゾミ了承済み。頭が痛くなってきた。
「相田 希さん、平成12年3月3日生まれ、16歳、東京都出身」
俺の嫁のプライベートデータが読み進められていく。
「部長と希さんは、又従姉妹、はとこの関係になります」
佐伯の澄んだ声で紹介されていく。
「身長145cm、体重やスリーサイズは、発表しません」
そんな言葉に、男性社員からブーイングが飛ぶ。
お前ら、俺の嫁を何と思ってやがる。
と、いうか、データ公表しすぎだろう……。誕生日は知らなかった。
まあ、バストは……。そんな自虐的な娘ではないだろう。
「昨年度までは、武蔵野女子学園に在籍、今年度からは、鈴峯女学園に編入されました」
今度は主に女性社員から感嘆の声が上がった。
先程の「特級」といい、俺が知らないだけで、凄いことなのかもしれない。
「で、そんな奥様は、アイダコーポレイションの社長令嬢、1人娘であられます」
「「「「わーーーーーっ!!!!」」」」
社員たちは騒いでいる。「社長令嬢」という言葉に憧れを持ったようだ
しかし、俺は気づいてしまった。
工場長と一部他会社の要人たちが、何とも言えない表情をしていることに。
「参考までに」
コホン、軽く咳払いをして、佐伯が発表した。いや違う、爆弾を落とした。
「アイダコーポレイション、東証1部上場、売り上げ1.5兆円、純利益645億円の会社であります」
食堂中がシーンと静かになった。兆とか億とか、そんなお金の単位の登場に驚いたのか。
正直、俺自身もびっくりしている。アイダコーポレイション、恐るべし。
「……以上で、データ発表を終わります」
佐伯の澄んだ声が響く。
静まっていた空間が、少しずつ普段通りに戻っていく。
やっと終わったか……。
「最後に、皆さま、お近くのテレビ画像に、注目願います」
ん?何が始まるのか?
この食堂には、6つのテレビが設置されている。
昼休みの後半には、NHKのドラマが始まり、年配の方々が鑑賞されているところを目にする。
今は、そのドラマの始まる12時45分。
プツッと音を鳴らして、全テレビのスイッチが入る。
「皆さま、こんにちは、佐々木 優の嫁の、希です」
吹き出しそうになった。テレビ画面には、今朝、見送ってくれた女性の姿が映っている。
服装は、鈴峯の制服。襟首にある、エンジ色のリボンが目立つ。
背景は、俺も良く知る部屋……洋室の壁である。アニメ関係のタペストリーが目立っている。
床に座り込んで撮影しているらしい。って、これ、生放送?
「昨日、ユウ兄のお嫁さんになりました」
周りから「ユウ兄ってなんだー」「兄さん呼びかよー」とかそんな声が上がっている。
「私の夫、佐々木 優を、これからもよろしくお願いします」
軽く頭を下げる。
「……希様、まだ時間があります。もう少し、何かないですか?」
画面の外から、俺も聞いたことのない女性の声が。
「希様」と呼んでいるので、友達……だよなぁ……。
「ぅえっ!?……何話せばいいのよー」
画面の外の友達に不平を言っている。今までの丁寧な言葉遣いが台無しである。
宥められて、ようやく話し始めた。
「今夜は、餃子だよー餡を作って皮巻いて、たくさん作るからねー」
そう言いながら、餃子を包む真似をする。
餃子作れるのか。
あの冷凍食品好きのことだ、本当に手作りなのかは、少々怪しいが……。
「……ユウ兄、早く帰って来てね、待ってるよー」
画面の中の彼女は、手を振ってくる。
「あっ、そうだ」
何かを思い出したようだ。手を振るのを止めた。
「ユウ兄、結婚発表会をしてるって聞いたけど、プロポーズ、まだなのー?」
周りの騒めきが大きくなったように感じる。
「ユウ兄も、結婚する覚悟を、決めてくれたみたいなので、おとなしく、待ってまーす」
そんな「爆弾発言」をした後、画面が暗くなる。
プツッという音を残して、テレビのスイッチが切れた。
「佐々木部長による、結婚発表会を、終わります。ご安全にー」
佐伯の締めの言葉により、発表会は終了した。
それに気づかず、唖然としていた。
……圧倒的サプライズに対して。
思考を手放していた。
しかし、周りから向けられる視線と騒めきに、我に返る。
「佐々木部長……、あんなかわいい娘《こ》に……許さん!」
「鈴峯で女子高生で、社長令嬢に黒髪ロング……、佐々木、死すべし!」
「プロポーズしてないのー?してあげてよー」
「……ここまで自慢しなくても……リア充、死ね!」
「あんなかわいい子、不幸にしたら許さんけんね!」
「ああ、ウチの香も結婚したら、ああなるのだろうか……結婚は許さんがな!」
あーあ、皆から、殺気しか感じることができないのだが……。
そもそも、俺は「自慢」する気はなかった、と言っても、最早、信じてもらえないだろう。
参ったなぁ……、昼休みが終わったら仕事なのだが、やる気が起きない。
「まあ、大変だな……」
次郎が肩を叩いてくる。
「部長、プロポーズしてないのは……さすがに擁護できないです」
佐伯、お前に聞きたいことが、たくさんあるんだけど……。
「部長、社長になるんだったら、ワタクシめも、秘書として付いていきますよ」
確かに、佐伯が一緒にいてくれると、助かるのだが……飛躍し過ぎ。
俺は黙って、彼女のおでこにデコピンをお見舞いするのであった。
★★★
和やかな昼休み。
ここの工場関係者は、鮮烈な話題と娯楽を糧に、昼からも働く。
様々な意見や、愚痴を言っても大丈夫な雰囲気を持つ、佐々木 優は皆から愛されていた。
本人は実感していないが。
「みっしょん・こんぷりーと」
影は呟く。
・さぷらいず、せいこう、なり
SNSにてメールを送る。
ほどなくして、返信が来る。
・希様もご満悦です。引き続き従事するように
そんな私も、工場員、昼から仕事、しますかー。
仮初だけど。
他の工場員と、変わらない姿をした彼女は、いや、一緒に集まっていた5人と共に、工場に入っていく。
★★★
昼休み終了のチャイムが鳴った。
昼からの仕事が、今から始まる。
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