よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
4 / 109
1.1 忍び寄る死の気配

4.小さな願い

しおりを挟む
 途方に暮れて歩いていると、どこからか香ばしいニオイがしていた。
 僕は路地裏を駆け抜けてニオイのもとをだどった。黒い猫は不幸の象徴だが、白い猫は一体何を象徴しているのか分からない。だけど、そんなことはどうでも良く、僕は白い猫に見向きもしない。
 ニオイの先には一軒の料理屋が立っていた。
 外見はあまり豪華ではないが、そのニオイだけで良い店だということはよく分かった。
 だが、もちろんお金の持ち合わせはない。
 僕は店の前で立ち尽つくし動けなくなった。

 立ち尽くす間にも喉は渇き、腹は鳴り続け僕の頭は働かなくなるが、それだけでない。何も知らない世界で腹を空かせるということ自体がこの上ないストレスになった。
 もし、このまま何も食べることができなければ3日と持たないだろう。

 このままでは人を殺してでも食べ物を得ることすらいとわなくなるだろう……

 そんな僕の前に店主らしき人が現れた。彼は大きな袋を抱えて、ゴミ箱に一直線に向かって行く。
 彼の持つ袋からは絶妙な香りが漂っている。おそらく中身は残飯だろう。
 ――――あれを食べる為ならなんでも出来る。

 店主はゴミをゴミ箱へと放り込むと、すぐに店に帰って行った。

 空腹は最高のスパイスとはよく言ったもので、もう食欲を抑えることは出来そうにない。
 そうして、今では人間としての尊厳さえもどうでもいいものに成り下がった。
 店主が去った今、あとはゴミ箱の蓋を外し、中にある食べ物を貪るだけだ。

 ――――しかし、それは阻まれた。
「いやぁ、どこに行ったのかと思ったよ」

 僕の手を掴む手、そして聞き覚えのある声。
 その正体は先ほどの警察、火山だった。
 彼に店の中へと招かれ、席に着いた。
 店の中は存外綺麗で、床も綺麗に掃除されている。先ほどゴミを捨てていた男が調理場から顔を出し、こちらに挨拶をする。

「まさか、そこまで追い詰められているとは思はなかった……」

 どの国であろうとも、僕が行おうとした行為は非常識だということなどわかっていた。
「僕はお金を持っていませんよ。」
 僕は情けなくおもいつつもそう言った。
 すると火山は笑いながら、「そりゃそうだろうな」と答えた。
 その時にはもう遠慮なんてできる状況ではない。「ありがとうございます」とだけ返した。

 思い切って良いものを食べようと、メニューなるものを見たところで、読むことすら出来ない。仕方がなく、火山が頼んだものと同じものにした。
「メシが来るまでの間に少し話そうか。」
 そう火山が提案するので仕方なく乗ることにする。だが、僕は正直話す気力すら残っていない。
 それなのに、火山は僕の絶望的な現実を突きつける。

「しかし、君も大変だね。記憶がないうえに所持金が全くないなんて、もう絶対絶命だな…………」
 自らの顎を撫でながら火山は続けた。
「それにその黄色い髪に青い目、そして住所不定ときた。そりゃもう、雇い口すら存ないだろうな」

 そんなことはもちろん僕自身が一番わかっていることだ。火山に言われるまでもない。
 だが、頼れる者は火山以外いないのが現状である。

「火山さん、出会って間もない状況でこんなことを頼むのも、仕事と住むところを頂けないでしょうか?」
 その問いかけに対し、火山は考えるように黙り込んだ。

「お待たせしました。トンカツ定食2人前です」

 店主の声により沈黙は破られたが、それもつかの間今度はまた別の提案を切り出す火山。
 「まあ、それについては後で話そうと思っていたんだが……その話は後にして、ひとまず冷めないうちにメシを食うとしようじゃないか!」
……あんたから切り出した話だろ!
 もちろんそう言ってやりたかったが、腹の虫はもう限界を超えている。釈然とはしないものの、ご飯を食べることにした。

 『とんかつ定食』は見たこともない食べ物だ。だがどこか、僕らがいつも食べていたパンに近い形状をしている。それに付け合わせの緑の草、これは食べれるのか?
 スープらしきものはまだわかる。しかし、この白い豆のようなもの、これは一体何か見当もつかない。
 何より、一番問題なのは食器として出された2本の棒だ。おそらく挟んで食べるのだろうが、そんな器用なまねが出来るはずもなく、じっと火山の方を見た。
 そんな様子に気がついたのか、火山が僕に聞く。

「ーーーーなんだ? 箸は初めてつかうのか?」
 この道具はどうやら箸と呼ばれるものらしいが、もちろん使ったことなどあるわけないが……
 そんな恥ずかしいこと言えるわけもなく、なにも答えない。
「ったく、無愛想な奴だな……」
 火山は箸を上手に使い、とんかつ口へと運ぶ。

 なるほど、ああやって使うんだな。

 見よう見真似で箸を使うが、そんなすぐに箸を使いこなせるわけもなく、トンカツを掴むのにもひと苦労だ。
 掴んでは落としを繰り返して、やっとの事で口に運んだ。

「あっつ!」

 口に含んだ途端、いまだかつてない熱が口を襲った。あまりの熱に耐えきれず声をあげてしまう。
 そんな情けない僕を見て、火山はゲラゲラと笑った。
「馬鹿だな、揚げたてのとんかつを一気に口に放り込むなんて命知らずにも程があるぞ!」
「そういうことは、先に言ってください!!」
 苛立ちからか、僕はそう怒鳴りつけてしまった。
 
 だけど、トンカツもスープも、この白い豆も、全部今までに食べたことのないような美味しさで、いかに自分の国の食文化が浅いものだったのか思い知らされた。

 ご飯を食べ終えると、火山は再び話し始める。僕は若干の希望を持って話に臨む。
「さっきの話だが、俺は不動産をいくつか持っていてな……」
「不動産?」
 僕は疑問に思ったことをすぐに口に出してしまう。
「人の話は最後まできちんと聞くものだぞ! まあ、いい。まあ、家をいくつも持っていると考えてくれればいい。
 それをお前に貸してやろうと思う。それで住所不定ではなくなるだろう?」
 彼の言葉は正に僕にとっての希望となり得るだろう。しかし、反対に警戒すべきもその火山だった。

 火山にとって、僕を助けることはなんの利益にもならない。それどころか不利益を被ることにもなるだろう。
 この男が何を考えているのかイマイチ僕には理解出来ない。でも、千載一遇のチャンスであることは確かだから、それに断ることが死に繋がりかねない。
 しかし、どうしても理由だけは聞いておきたい。

「それは願ってもいないことですが、どうして僕をたすけるのですか?」

 僕の質問に火山は頭を掻いている。
「……それな、まあお詫びみたいなものだよ」
 彼はきっと嘘をついているだろう。しかし、追及は出来ない。
「君の言いたいことはよくわかるよ。でも勘違いはするな、一応、一カ月は試用期間とするから、もし、それで信用に足らない場合は出て行ってもらうことになる」
 火山の言葉でなんとなく理解出来た。
「なるほど、それは面白い。僕には他に行くところもないわけだから、あなたの言うことに従うしかない」
 おそらく火山は、僕を利用して何かを企んでいるようだ。
 でも、僕は利用されるだけではない。逆に利用してやろうと決心した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...