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1.2 仕事をしよう
1.心の在処
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長い勉強生活も終わりを告げ、ニヒルと共に7度目の仕事も終わりを告げる。いつもは夕方の5時には帰るという公務員も真っ青な白い会社だが、今日は退社時間が8時を回ってしまった。
会社を出た時には辺りはすっかりと暗くなっており、空にはひと粒の光すら見えない。
ここまで真っ黒な空は、いままで見たことがなかったから不思議で仕方がなかった。
「すっかり、暗くなっちゃいましたね」
そう呟くニヒルの表情は暗さから見えないが、おそらく困ったように笑っているのが目に浮かぶ。
「確かに遅くなっちゃったね。堺がお腹を空かせて待っているだろうね?」
本当は堺のことなどどうでもいいが、話題作りのために活用させてもらおう。
僕のくだらない話しでも、ニヒルは真剣に聞いてくれた。
「堺さんは腹空かしですからね……」
いつの間にか、背後に近づいていた存在に僕たちはまるで気が付いていない。今晩はそれほどまでに魅力的な夜に感じた。
「――――俺がどうかしたんか?」
突然の背後からの声に驚き、僕とニヒルは思わず振り返った。
背後にいたのは、噂の彼。洗湯にでもいったのだろうか、頭には布を巻いている。その風貌はまるで、どこかの民族衣装のようにも見えた。
「……いや、得に大したことでもないよ。それよりその頭――――」
「これええやろ? 俺が開発した頭乾かし法や!」
最後までしゃべらせろ……!
堺のしゃべりたがりに圧倒される僕らで、ニヒルと僕の2人は彼のダンガントークを聞くことしかできなかった。
「そんなことより、聞こえとったで! 俺が腹を減らしているとかなんとか言っとったやろ! 俺ももうアラフォーやで? そんな食いしん坊ちゃうわ! ああそうそう、もっと重要な話しがあったわ!」
重要な話と言われれば聞き逃せないな!
「重よ―――――」
「重要な話してのはな。明日からの仕事のことや」
流石の僕も怒りを覚える。ニヒルに至っては明らかに引きつった顔をしているし、ちょっと注意するべきだよな?
「ちょっと! 堺さん!?」
意外にも、一番先に声を上げたのは僕ではなく、ニヒルだった。
「もしかして、酔ってらっしゃるんですか?」
その言葉に酔いがさめたのか、堺は言い訳を始めた。
「いや、酔ってないよ! ただちょっとテンションが上がっとっただけやん。おこらんとってや……」
2人の様子を見ていた僕は、この一週間で一度も見ることのなかった2人の純粋なやり取りを意外にも感じたが、なにより噴出さずにはいられなかった。
「二人とも仲がいいよな。」
羨ましくなって、ついそう呟いてしまった。
だけど、僕みたいな奴がこんなことを考えてしまうもおこがましいかな……
僕にとっては不意に口から出た言葉だったが、2人には違うように聞こえたようだ。
「イグニス、お前またなんかあったんか?」
この前のことがあったからか、堺はいつにもなく心配そうにこちらを見つめている。それはニヒルも同じであった。
「こんな時間まで、私が勉強を強要してしまったから疲れてしまったのですか?」
2人に心配をかけるつもりなんて一切なかった僕だが、まだどこかで甘えていた所があったのかもしれない。
…………僕はどうしてしまったんだ?
思考を巡らせれば巡らせほど、自分の弱さが目に付くばかりであり、本当の自分の心などわかりようもない。そもそも、僕は人に心配をかけてばかりなのにそれに気がついたのも最近のことだ。
結果的によみがえりによって、ようやく気がつけた事だが、まだこの状況に甘んじている。
僕は自分の都合の為に、大切な人を残して死んでしまったんだ。それなのにこんなに幸せでいいのだろうか?
「……ですか?大丈夫ですか!?」
いつの間にか、またニヒルの顔が僕の目の前にある。どうやら、あまりにも考え込んでいて気がつかなかったようだ。
不安気な表情ではあるが、彼女の顔をみると不思議と安心した。
「……悪い、考え事してた」
何故だか、僕の声はいつもよりワンオクターブ低かった。
僕が突然だまり込んだまま、立ち止まる様子がよっぽど不自然なものだったのだろうか、彼女の目には涙が溜まっている。その様子を見ていた堺もやれやれだという顔をしていた。
「出会って間もないかもしれんけどな……俺らにとってお前は新しい家族も同然や。あんまり心配ばっかかけんなや……」
堺のそのセリフはずっと僕の中を駆け巡っていた。
僕は彼らに何度も謝った。
結局、僕はずっと人のことを考えているようで、自分の事しか見えていなかったのだな……
謝罪の言葉を何度も聞かされたニヒルは、頬を膨らませ不満そうに漏らした。
「悩みを1人で抱え込むのはやめてください。堺さんも言いましたが、この家に住み始めたからにはイグニスさんも私達の家族なんです!!」
僕にとってはずっと他人だった2人だが、彼らはそうは思っていなかったんだ。
僕は彼女言葉と静寂の寂しさからか、気づかぬうちに目から一筋の涙が溢れていた。
それを見てあたふたするニヒルに、自分の心の弱さに失望する僕はつい、自分の思いを伝えてしまった。
「……僕は本当にここにいてもいいのかな?」
「そんなことを悩んでいたんですね。」
ニヒルは僕に失望したような目をした。しかし、それは勘違いであった。
「私はそんなにも頼りないですか?」
彼女は、自分自信に失望していたのだ。
「いや……僕が弱いだけだよ……」
「いいえ、イグニスさんは他人を信じられないだけではないのですか?」
彼女の言葉はきっと確信をついているのだろう。僕にもよくはわからないが、僕は人を信じるのが怖いのかもしれない。
「……僕は」
僕はきっと、恐ろしかったのだ。
「————イグニスさんは、心の中ではわかっているはずです。」
人との別れ、すなわち死に対して必要以上に恐れを抱いていたのだろう。それは『彼女』に植え付けられたものだ。
「そうか……僕は別れが怖かったんだ……」
彼女は僕の回答に満足したようで、ニコリと笑った。
「別れとは確かに怖いことです。ですが、人とは1人では決して生きていけません。私だって、色々な人に助けられて生きてきました。
だから、イグニスさんも私や堺さん、そしてまだ会っていない社員の皆さんに頼って下さい。」
……そうだ、あの時も『2人』に助けられたんだった。
「感動的なお話もいいけどよ。さっさとメシにせんか?」
お涙頂戴な展開もこの男にかかっては、やすっぽいコメディに早変わりするのだった。
ていうか、家が目の前にあるのなら早く言って欲しかった。
そしたらこんな通路の真ん中で、涙など流すこともなかったはずだ。少し堺を恨めしく思うのは御門違いだろうか?
結局、晩御飯はあまり喉を通らなかった。
あんなことがあったのだから当然だろうが、僕は眠ることなど出来ない。
こんなことは、騎士になった時以来だろうか? 僕はゆっくりと目を閉じる。しかし、やはり眠れない。
やっと眠れるかと思った時に、コンコンコンと3回のノック音が鳴った。どうやら、夜分遅いこの時間に来訪者のようだ。
「どうぞ……」
眠気まなこを擦りながら、来訪者を部屋へと招き入れる。中に入ってきたのは、身長が180もある長身の堺だ。
夜にはあまり見たくない顔でもあったが、仕方なく布団から出る。
「なんかスマンな……こんな遅い時間に!」
もう深夜も回ってかなりの時間が経っているにも関わらず、かれの声は驚くことに大きい。
若干、苛立ちを感じながらも彼の話を聞いてやる。
「多分、お前も寝られへんちゃうのかなとおもてな…………」
いま正に眠る瞬間であった僕に対する挑発であろうか?
————だけど、そんな彼の言葉にまた僕は救われた。
僕は……、いや全ての生き物は誰かに救われながら生きているんだ。
だからこそ、彼も僕を気遣い、空気が読めないなりに僕を助けようとしてくれている。
そんな考え方が出来るほどまでに、僕の心は落ち着いていた。
「結局、堺にも助けられてばかりだな……」
堺は突然の言葉に照れ臭そうにした。
「違うで、助けられてばかりいるのは俺や! 俺はちょっとでもお前らに恩を返したいだけや……」
そう言いきった堺の顔は真っ赤だった。
僕達は暖かい雰囲気に包まれながら、様々なことを話していたが、いつの間にか時間は過ぎ夜も更けていた。
僕は堺にどうしても聞かねければならないことがあった。
「1つ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
僕が突然そう聞いたことに対して、なんら驚きもせず、いつもの調子で気さくに返すばかりである。
「ええよ、なんや?」
そんな彼だからこそ、僕はどれほど聞き辛い質問であろうが、聞くことができたのだろう。
「その空気の読めなさといい、ハイテンションなウザさといい、お前やっぱりフロンスだろ?」
僕の言葉は静寂をもたらした。しかし、その静寂は長くはなかった。彼は重い口を開いたのだ。
「一度しか言わんからよく聞けよ!!」
「イグニス、だから言っただろう? あの時絶対に魔女に手を出すなとな。その結末がこれなんだ。だが、お前は帰って来た! それだけは上出来だったよ。」
そうして、昔からずっとみてきた優しい顔つきになった。僕は言葉を出すことができず、ただただ涙を流すばかりであった。
そうして、長い1週間が終わりを告げ、また新しい旅立ちへと導いてくれるのだろう。
会社を出た時には辺りはすっかりと暗くなっており、空にはひと粒の光すら見えない。
ここまで真っ黒な空は、いままで見たことがなかったから不思議で仕方がなかった。
「すっかり、暗くなっちゃいましたね」
そう呟くニヒルの表情は暗さから見えないが、おそらく困ったように笑っているのが目に浮かぶ。
「確かに遅くなっちゃったね。堺がお腹を空かせて待っているだろうね?」
本当は堺のことなどどうでもいいが、話題作りのために活用させてもらおう。
僕のくだらない話しでも、ニヒルは真剣に聞いてくれた。
「堺さんは腹空かしですからね……」
いつの間にか、背後に近づいていた存在に僕たちはまるで気が付いていない。今晩はそれほどまでに魅力的な夜に感じた。
「――――俺がどうかしたんか?」
突然の背後からの声に驚き、僕とニヒルは思わず振り返った。
背後にいたのは、噂の彼。洗湯にでもいったのだろうか、頭には布を巻いている。その風貌はまるで、どこかの民族衣装のようにも見えた。
「……いや、得に大したことでもないよ。それよりその頭――――」
「これええやろ? 俺が開発した頭乾かし法や!」
最後までしゃべらせろ……!
堺のしゃべりたがりに圧倒される僕らで、ニヒルと僕の2人は彼のダンガントークを聞くことしかできなかった。
「そんなことより、聞こえとったで! 俺が腹を減らしているとかなんとか言っとったやろ! 俺ももうアラフォーやで? そんな食いしん坊ちゃうわ! ああそうそう、もっと重要な話しがあったわ!」
重要な話と言われれば聞き逃せないな!
「重よ―――――」
「重要な話してのはな。明日からの仕事のことや」
流石の僕も怒りを覚える。ニヒルに至っては明らかに引きつった顔をしているし、ちょっと注意するべきだよな?
「ちょっと! 堺さん!?」
意外にも、一番先に声を上げたのは僕ではなく、ニヒルだった。
「もしかして、酔ってらっしゃるんですか?」
その言葉に酔いがさめたのか、堺は言い訳を始めた。
「いや、酔ってないよ! ただちょっとテンションが上がっとっただけやん。おこらんとってや……」
2人の様子を見ていた僕は、この一週間で一度も見ることのなかった2人の純粋なやり取りを意外にも感じたが、なにより噴出さずにはいられなかった。
「二人とも仲がいいよな。」
羨ましくなって、ついそう呟いてしまった。
だけど、僕みたいな奴がこんなことを考えてしまうもおこがましいかな……
僕にとっては不意に口から出た言葉だったが、2人には違うように聞こえたようだ。
「イグニス、お前またなんかあったんか?」
この前のことがあったからか、堺はいつにもなく心配そうにこちらを見つめている。それはニヒルも同じであった。
「こんな時間まで、私が勉強を強要してしまったから疲れてしまったのですか?」
2人に心配をかけるつもりなんて一切なかった僕だが、まだどこかで甘えていた所があったのかもしれない。
…………僕はどうしてしまったんだ?
思考を巡らせれば巡らせほど、自分の弱さが目に付くばかりであり、本当の自分の心などわかりようもない。そもそも、僕は人に心配をかけてばかりなのにそれに気がついたのも最近のことだ。
結果的によみがえりによって、ようやく気がつけた事だが、まだこの状況に甘んじている。
僕は自分の都合の為に、大切な人を残して死んでしまったんだ。それなのにこんなに幸せでいいのだろうか?
「……ですか?大丈夫ですか!?」
いつの間にか、またニヒルの顔が僕の目の前にある。どうやら、あまりにも考え込んでいて気がつかなかったようだ。
不安気な表情ではあるが、彼女の顔をみると不思議と安心した。
「……悪い、考え事してた」
何故だか、僕の声はいつもよりワンオクターブ低かった。
僕が突然だまり込んだまま、立ち止まる様子がよっぽど不自然なものだったのだろうか、彼女の目には涙が溜まっている。その様子を見ていた堺もやれやれだという顔をしていた。
「出会って間もないかもしれんけどな……俺らにとってお前は新しい家族も同然や。あんまり心配ばっかかけんなや……」
堺のそのセリフはずっと僕の中を駆け巡っていた。
僕は彼らに何度も謝った。
結局、僕はずっと人のことを考えているようで、自分の事しか見えていなかったのだな……
謝罪の言葉を何度も聞かされたニヒルは、頬を膨らませ不満そうに漏らした。
「悩みを1人で抱え込むのはやめてください。堺さんも言いましたが、この家に住み始めたからにはイグニスさんも私達の家族なんです!!」
僕にとってはずっと他人だった2人だが、彼らはそうは思っていなかったんだ。
僕は彼女言葉と静寂の寂しさからか、気づかぬうちに目から一筋の涙が溢れていた。
それを見てあたふたするニヒルに、自分の心の弱さに失望する僕はつい、自分の思いを伝えてしまった。
「……僕は本当にここにいてもいいのかな?」
「そんなことを悩んでいたんですね。」
ニヒルは僕に失望したような目をした。しかし、それは勘違いであった。
「私はそんなにも頼りないですか?」
彼女は、自分自信に失望していたのだ。
「いや……僕が弱いだけだよ……」
「いいえ、イグニスさんは他人を信じられないだけではないのですか?」
彼女の言葉はきっと確信をついているのだろう。僕にもよくはわからないが、僕は人を信じるのが怖いのかもしれない。
「……僕は」
僕はきっと、恐ろしかったのだ。
「————イグニスさんは、心の中ではわかっているはずです。」
人との別れ、すなわち死に対して必要以上に恐れを抱いていたのだろう。それは『彼女』に植え付けられたものだ。
「そうか……僕は別れが怖かったんだ……」
彼女は僕の回答に満足したようで、ニコリと笑った。
「別れとは確かに怖いことです。ですが、人とは1人では決して生きていけません。私だって、色々な人に助けられて生きてきました。
だから、イグニスさんも私や堺さん、そしてまだ会っていない社員の皆さんに頼って下さい。」
……そうだ、あの時も『2人』に助けられたんだった。
「感動的なお話もいいけどよ。さっさとメシにせんか?」
お涙頂戴な展開もこの男にかかっては、やすっぽいコメディに早変わりするのだった。
ていうか、家が目の前にあるのなら早く言って欲しかった。
そしたらこんな通路の真ん中で、涙など流すこともなかったはずだ。少し堺を恨めしく思うのは御門違いだろうか?
結局、晩御飯はあまり喉を通らなかった。
あんなことがあったのだから当然だろうが、僕は眠ることなど出来ない。
こんなことは、騎士になった時以来だろうか? 僕はゆっくりと目を閉じる。しかし、やはり眠れない。
やっと眠れるかと思った時に、コンコンコンと3回のノック音が鳴った。どうやら、夜分遅いこの時間に来訪者のようだ。
「どうぞ……」
眠気まなこを擦りながら、来訪者を部屋へと招き入れる。中に入ってきたのは、身長が180もある長身の堺だ。
夜にはあまり見たくない顔でもあったが、仕方なく布団から出る。
「なんかスマンな……こんな遅い時間に!」
もう深夜も回ってかなりの時間が経っているにも関わらず、かれの声は驚くことに大きい。
若干、苛立ちを感じながらも彼の話を聞いてやる。
「多分、お前も寝られへんちゃうのかなとおもてな…………」
いま正に眠る瞬間であった僕に対する挑発であろうか?
————だけど、そんな彼の言葉にまた僕は救われた。
僕は……、いや全ての生き物は誰かに救われながら生きているんだ。
だからこそ、彼も僕を気遣い、空気が読めないなりに僕を助けようとしてくれている。
そんな考え方が出来るほどまでに、僕の心は落ち着いていた。
「結局、堺にも助けられてばかりだな……」
堺は突然の言葉に照れ臭そうにした。
「違うで、助けられてばかりいるのは俺や! 俺はちょっとでもお前らに恩を返したいだけや……」
そう言いきった堺の顔は真っ赤だった。
僕達は暖かい雰囲気に包まれながら、様々なことを話していたが、いつの間にか時間は過ぎ夜も更けていた。
僕は堺にどうしても聞かねければならないことがあった。
「1つ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
僕が突然そう聞いたことに対して、なんら驚きもせず、いつもの調子で気さくに返すばかりである。
「ええよ、なんや?」
そんな彼だからこそ、僕はどれほど聞き辛い質問であろうが、聞くことができたのだろう。
「その空気の読めなさといい、ハイテンションなウザさといい、お前やっぱりフロンスだろ?」
僕の言葉は静寂をもたらした。しかし、その静寂は長くはなかった。彼は重い口を開いたのだ。
「一度しか言わんからよく聞けよ!!」
「イグニス、だから言っただろう? あの時絶対に魔女に手を出すなとな。その結末がこれなんだ。だが、お前は帰って来た! それだけは上出来だったよ。」
そうして、昔からずっとみてきた優しい顔つきになった。僕は言葉を出すことができず、ただただ涙を流すばかりであった。
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