よみがえりの一族

真白 悟

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1.2 仕事をしよう

5.最後の魔女と白い魔力

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――――まさか素手で魔物を倒せるなんて、自分でも思っていなかった。だが、ものすごく拳が痛い。もう二度と素手で魔物なんか殴ってやるもんか……
 
「やってみればなんとかなるもんやろ?」
 なぜか、堺がドヤ顔をしている。僕はそれが非常に鼻について仕方がない。
 しかもノウェムがそれに続き僕を無駄に褒めちぎる。
「イグニス君、さすがだね……本当に素手で魔物を倒すなんて、君はやっぱり規格外の人間だねぇ?」
 そんなに讃えられても、さっきの一撃がまぐれであることは変わらないし、もう一度やれと言われてもやらないからな!

 僕の拳と同じように自尊心が傷だらけになるような錯覚を覚えた。
 
「でもね、流石に武器もなしじゃ非効率過ぎるのも分かりきったことだよ。イグニス君。だから今度こそ、我の力で魔物を退治させてもらうとするよ!」
 ノウェムがそう言い切ると共に魔力の流れが大きく変わった。
……なにか不吉な事でも起こりそうな雰囲気だな。

――――そんな僕の不安は見事的中、たぶんノウェムもこうなることがわかっていたのだろう。先ほどとは比べ物にならないほどに魔物が集まってた。
 しかし、危険だと感じるのはそっちよりも…………おそらく魔力を高めている彼女の方だろう。
 悪魔や魔女の魔力を感じてきた僕だが、今回はもしかすると僕が知る者の誰よりも高いと感じた。
 敵に回すと、これほど厄介なものはないが、味方である内は最高の戦力になることは間違いないだろう。

………………あれ? でもこれって僕たちもやばくないか?

 そのことに気がついた時には既に遅い。ただ堺がなにか言っているような気がした。
「はぁ、どうせやるなって言ってもやんねやろうから言うけどな……悪魔祓いっていうのは相当な魔力を浪費するんやからな……」
 
 異様な空気が流れる中で彼女の魔力が膨れ上がるのを感じた。

「この魔法は本当は使いたくはないんだがな!ちょっと辛い思いをすることになるが、決して我を恨まないでくれよ……恨むなら悪魔の手下として生まれてきた自分の運命を恨んでくれ! 運がなかったとな!!」
――――ノウェムの魔力が更に高まり、一定の魔力を超えるとそれはまばゆい光があふれだす。彼女から発せられる光は、とても優しく、正に聖母のごとく僕たちを包み込み、僕は強い睡魔に襲われる。
 だが、何とも心地がよいもので不快感などは一切ない。それでもなんとなくは、眠っていけないことも分かっていた。目をこすりつけ重い瞼が落ちないようにこらえる。

 なんとしても耐えなければ……後でどうなるかわかったもんじゃない。

 魔力が高まりきったのか、彼女は高めた魔力を全て解き放つ。
「我が名はノウェム最初の光を呼び覚ます天使よ! その力を我に貸したまえ!! フィアットルークス!!」

 先ほどの光とは明らかに種類が違う光りが周囲を包み込み、魔物の気配が次々消えていく。
 この光は太陽光に近いだろう。聖なる光とでもいうのだろうか、なんというか人が求め続けた救いとでも言うのか、僕にはそれに当てはまる言葉が浮かばない。

 しばらく経つと、辺りを包んでいた光はゆっくりと消えてしまった。
  
「……いまの光はなんなんだ?」

 静寂が鳴り響く草原で唯一それを良しとしない僕は、思い切って疑問の答えだけを求めてみる。だが、それが本当に聞きたいことかはどうでもいい。
 僕はただ、彼女の魔法に圧倒されてしまっただけだ。
「勘違いしているかも知れないから言っておくけど……今のは光魔法じゃないから……」
 
 それはそうだろ……光魔法は今の今までだれも成し得ない魔法だ。こんな毒舌と不思議を愛してやまない人に使えるしろものではないと思いたい。
 だけど。彼女の言葉には納得出来るだけの説得力は皆無だ。どう見たって魔力を光に変換していた。もし、あれが光魔法じゃないとするならなにが光魔法だというのだ

「でもあれは確かに光を生み出していたように見えたが?」

 ノウェムはなにも答えずじっと空を見つめているだけだ。僕の質問には答えたくないのだろう。
 堺の方を振り返ったが、堺は頭を掻いているだけでなにも話さない。
 おそらくだが、彼らは僕に重大な秘密があるのではないだろうか? それがなにかは、皆目検討もつかないわけだが、だれも答えたくないのならどうしようもないな……
 僕はどのようにアプローチをかけたものか考えようとした。しかし、それは堺に阻まれる。

「――――ちっ! しゃあないから、俺が話してやるわ!!」
 暗い雰囲気に耐え切れなくなった堺が説明役に立候補したのだった。
……でもまあ、結果オーライかな?

「イグニスは魔女って連中のことをどこまで知っとる?」…………

「――――どうせ長くなるんだから、我は移動しながらがいいと思うのだが?」
 ノウェムの提案はもっともだ。長い立ち話ほど辛いものはないだろうし、さっさと車に乗り込んでこんな危険な場所から逃れるのもいいだろう。
 3人で急いで車の元に向かう。不思議と仕事をやりきったような達成感を得られた気がする……僕は魔物一体しか倒してないんだけどね。

 しばらく道を走った後、堺は気を取り直して説明を再開した。
「魔女っていうのは魔力を持った女のことや!」
 真剣な顔でそう説明する堺に、僕は吹き出しそうになってしまった。さすがのノウェムも呆れ顔だ。誰にでもわかる説明をドヤ顔出する堺はかなり滑稽だった。

「いや! そんなことは僕でもわかるよ!」
「…………堺はバカだからね。我はもう何も言わないよ……」
 堺は自分の起こしてしまった失態に気がついて、一人で爆笑している。
 どうでもいいけど、さっさと説明して欲しいものだな……

「自分でも変なこと言ったと思うわ。魔女になるのは悪魔に取り憑かれた人間の女性。それも、悪魔に取り憑かれても精神が死なん人間が多いんや。なんでかって言うと……」
――――――なるほど、なんとなく理解は出来たぞ。
「魔女っていうのは悪魔の魔力を持った女性のことなのか?」
 堺が答えを言うよりも早く結論を出した。
「そうや、でも魔力が悪魔その物やから、悪魔と区別がつかん。だからこそ、魔女は自分の名前を数字で名乗ることにしたんや……」

……確かに堺の説明は理解出来るが、それが光魔法の説明と同関係があるんだ?

「ここまで説明してもまだわからんのか? 俺にこれ以上この話をさせんといてくれ……でもわからんのなら仕方がない、最後にこれだけは言っておく…………」
 そういうと真剣な眼差しでこちらを見た。

『魔女は魔法なんか使わへんねん。』

 彼の言葉には困惑するばかりであった。魔女はその名の通り魔法を使う女なのではないのか?そんな疑問も生まれたが、確かにゼロの魔女は魔法をつかってなどいなかった。彼女は黒い魔力を使っていたのだ。

「そうかつまり、ノウェムさんは白い魔力を使ったんだな?」
 僕の言葉に怒りを顕にしたノウェムが吠える。
「そうだ、我は光の魔力を言霊に乗せて放っただけだ。光魔法なんか使えないし、そんな魔法は存在しない!」
 一番の驚きは、彼女が魔女であったことだ……だからこそ、彼女も堺もその事実に触れたくなかったのだ。
 確かに僕は、彼女が魔女だろうが違おうが気にも止めはしないが、彼女たちは違う。魔女とは差別と共に生きてきたといっても過言ではないのだから、彼女の怒りはもっともだ。これは僕がデリカシーがなかったと言わざるおえない。

 車から外の風景を眺めている彼女のその琥珀色の目はどこか悲しそうに見えた。それは風にたなびく長い黒髪のせいでもあった。

「ノウェムさん……」

 僕はその先の言葉が出なかった。しかし、彼女はそんなことはどうでもいいようにひたすら廃墟の街を見続けた。
「なんてな……いまさら自分が魔女かどうかなどどうでもいいんだ……。ただ人の役に立ちたいという一心でこの魔力を鍛え上げたんだ! なら使わないと勿体無いだろ?」
 どうやら、彼女は僕が思っているよりも心が強いようだ。
「あの白い魔力があれば魔物も一掃できそうですよね?」
「それは無理だ。あの魔力の解放、《裁きの光》は強い魔物には効かない。なにより、太陽の光を3日間浴びてようやく一回だけしか使えない。」
「制約が余りにも多いですね」
「そう、だから我は事務がメインなんだよ」
 彼女はそう言ってクスクス笑う。
 確かに、制約は多いが使い方によっては魔物を一気に倒せる最高の武器になるだろう。
 
 彼女の顔に笑顔が戻ったところで、どうしても聞きたいことがあった。
「なんで魔女って呼ばれるようになったんですかね?」
 彼女は僕の質問に対しどこか他人事のように話した。
「我は自分から魔女と名乗ったことはないし、他の魔女もそうだろう……たぶん誰か他人が勝手に名付けたんじゃないか?」
「勝手に?」
「そう、そして最後に生まれた我は9番目さいごの魔女お呼ばれていた」

「9番目って、じゃあ全部で10人いるってことですか?」

 彼女は質問責めにうんざりしたかのように適当に答えた。
「そう、ゼロの魔女を含め10人いたんだよ。もういいだろ? 話すのも疲れるんだよ。それに魔女の話はすきじゃないんだ……!」
 さすがに調子に乗りすぎたようだ。だれでも自分について詮索されるのは好きじゃないだろう。
「申し訳ない……つい色々聞いておきたくて……」

「我も知的好奇心を抑えられないことがある。気にしなくていい。だがイグニス君、好奇心は身を滅ぼすことがある。」

 彼女の助言を聞きながら、車はいつになったら街に帰るのかなどというしょうもないことを考えていた。
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