よみがえりの一族

真白 悟

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1.4 気配の主

5.謎の女

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――――僕はとても恐ろしい夢を見ていたようだ。内容まで思い出すことは出来ないが、友がまた死んでしまう夢それも僕を助けるためにまた一人と死んでいった。
 僕は誰か大切な人が死んだ時も助けることは出来なかったばかりか、助けられてばかりで僕はいつも足を引っ張っている。霧の悪魔を倒したのだって厳密に言えば僕ではないし、何なら火の悪魔を封印できたのだって僕だけの力ではない。
 だからか僕には自身がなかったのだ。……僕は一体何をしているんだ? 結局あのときから何の進歩もない。魔法だって使えるようになっていないし、剣術にいたっては劣化しているといっても過言ではないだろう。

 僕は本当に何をしていたんだ…………?

 何度も何度も頭を這い回るその言葉が僕の魂を削り取る。それだけが僕にとって生きているという証であり、耐え難い苦痛であった。
 ただ、それが僕にとっては重要なことで、僕の人生における最後の課題なのだ。
 僕はなにを……していたんだ……?――――

「――おい!」

 どこからか、女性の声が聞こえる。その声はどこか冷淡で僕の温度が下がりきった頭をさらに凍りつかせた。
 それにしてもこの声はどこから聞こえているのだろうか?
 よくよくあたりを見渡して見ると真っ暗だ。ここはどこなんだ?
 目を凝らせても何も見えないし、誰もいない。それなのにさっき聞こえたあの声は確かに僕の耳へと届いている。

「――――おい! 起きろ!!」

 また聞こえた、ただ今度ははっきりと聞こえた。だが聞き覚えのない声だ。誰なんだろう?
 僕は暗闇のなかを闇雲に駆け巡るが、一向に視界が変化することはなくただ黒い空間が在るだけ。他は全くの無といっても相違ない。
 だけど、僕はそれでも声の主を探した。なぜだか分からないがそれがとても重要なことに感じて立ち止まってなどいられない。

「――――死ぬんじゃない! ソル!! 起きろ!!」

 そう僕はソル、いや違う。俺はイグニス…………
 何を言っているんだ? 『僕』はイグニスだよな? そう僕はイグニス。僕はイグニスだ!
『僕はイグニスだ!!』
 なんだか光が見えたような気がする。僕はただひたすらに光の見える方角へと走り続ける。どこまで行っても暗闇だけだったその空間に一筋の光が僕にとっての希望へとなるのだろうか?

「イグニス!」
 最後に聞こえた声は冷淡とは程遠く、僕の心に火をともすほど熱い声だった。


 目を覚ますとそこは崩れかかったビルの屋上であった。それは先ほど何かと戦った場所だったような気がするが、頭を打ったようで何も思い出せない。
「くそっ! なんだってんだ!!」
 僕はありったけの毒を吐く。なにか重要なことを忘れているような気がして、落ち着いてなどいられない。
「落着け、そこの男……」
 この声には聞き覚えがあった。そうさっきまで聞いていた冷酷な声の主は現実世界から僕に言葉を掛けていたようだ。
 僕はその正体が気になり、声がした後ろを見たがそこには足場などない。どうやらビルのぎりぎりまで吹き飛ばされて間一髪で落ちなかったようだ。

――吹き飛ばされた? そうだ、思い出した!!

「堺! 生きているか!?」

 僕はありったけの息とともに声を吐き出す。それに返ってきたのは呆れ返った溜息だけだった。溜息は僕の頭上から聞こえてきた。
 だが、上には何もないはずだが……
 僕は少々の警戒を頭に浮かばせつつも、上を見てしまった。
「お前はもしかして間抜けなのか? こんなところで大声なんて上げてベアがよって来たらどうするつもりなんだ……?―――」
――――彼女はくしくも僕の期待を裏切ることとなる。
 いや、もしかすれば魔法使いではないのかなどと期待した僕がばかだったのだ。

「それにしても、ようやく起きたか?」
 そう声を掛けた彼女はもちろん魔法で中に浮いていたわけではない。わずかにビルの屋上から突き出した柱に足を掛けて座っている。
 なんといっても全身を黒い鎧で包み、黒い瞳と真っ黒な髪をしていたから、彼女が以下に禍々しい存在かということが感じ取れるばかりで、他になにも感じない…………。いや、感じることがもうひとつだけある。それは悪魔と対峙したときのような絶望感である。

 まさかとは思うがまさか悪魔なのか? いやまさか……でも一応その可能性も否定できないわけだから油断は出来ない。
 そんな不安が浮かぶと同時に堺が言っていたことを思い出した。
確かこちらの世界の悪魔は魔法士とただの人間の区別がつかないということだ。つまり彼女が悪魔だとするのならば、僕は魔法を使えないふりをしなければならないということだ。
 僕は出来る限り何も知らないように大きな声で叫んだ。
 
「あんたは一体何者だ!?」

 しかし、そんな僕の言葉は彼女に届いていないようなそんな感じで、無言でこちらを見つめている。
「……あの?」
 僕は戸惑いながらも声を掛けるが、その黒い瞳に心が飲まれるようでとたんに恐ろしくなる。彼女は僕の恐怖心に気がついたのか少しでも表情をやわらかくしようとしたのか変わらないが、なんとなく微笑んだように見えた。
 同じ目線に立つためなのか、彼女は不安定な柱の上から飛び降りて僕の目の前に着地した。

「どうやらお前は、あの風の魔法士とは関係がないようだな……? 冒険者なのか?」
 夕日が僕らを照らすそのわずかな時間だが、なぜだか暗黒の世界に再び戻された、そんな気分になるようなとても不気味な明るさと、彼女の冷ややかな声が僕の緊張を強めた。
『あの風の魔法士』とは堺のことか? それに魔法士という言葉を知っているということは、やはり悪魔なのか?
僕はとても恐ろしい気持ちが心を駆け巡った。もし僕があと少し冷静でなかったのであればどうなっていたのかわからない。少し頭を冷やさなければならないようだ。

「魔法士? よく分かりませんが魔法を使う人のことですか? ファンタジーの世界の話ですか?」
 出来る限りのしらを切り自分の素性を隠そうとした。
 それはもう、自然に振る舞ったはずだ。しかし、彼女から浴びせられるものは疑惑の目、とても冷たい目つきでこちらを見つめる。
――――まさか、なにかやらかしてしまったか!?
 だがそれは杞憂だった。

「質問しているのはこちらだ……質問に質問で返すんじゃない。次に私が望む受け答えをしなかったら、殴るなんども殴る……」

 殴るとはいっているものの彼女からは一切の殺意が感じない。だが、自ら殴られるほど僕は土ドMでもないし、答えない意味もないだろう。
「僕は冒険者です」
 僕の言葉に満足したのか彼女は先ほどまでとは違い、今度は優しく僕にたずねた。

「それは悪かった。いや実のところ最初からお前が冒険者だということは知っていたんだ……」
 今までとのギャップに驚きを隠せなかったため、僕は言葉が何も浮かばず何も話す事が出来なかった。それを彼女は僕が起こっていると勘違いしたようだ。

「器の小さなやつだな! 悪かったって、お前も見ただろうあのベアを……普通のベアよりもでかくて凶暴で、なによりも人を殺すことに快楽を見出しているようで、自分が食う分を超えても殺し続ける……あんなやつがいたならぴりぴりするのも当然だろ?」
 彼女は焦って弁解した。僕はその様子があまりにもシュールでつい笑ってしまった。それを見た彼女はムスッとし、頬を膨らませている。
「どうして笑うんだ? 私のなにがおかしい?」
 そう言った彼女もまた可笑しいく、かわいらしかった。

「いや、ごめん。さっきとあまりにも様子が違うんで……」

 それを聞いた彼女もつられて笑った。悪魔? と笑う日が来るなんて思ってもみなかった。
――――なにを笑っている、俺は……こいつは堺を殺した奴かもしれないんだぞ……
 そう思っても笑いを止めることは出来なかった。なにより僕はそれが幸せなのだと錯覚させられるほどに追い詰められていた。

 堺生きていてくれ…………。
「お前ってやつは……私がどんな気持ちかも知らず爆笑するなんて、どうかしているぞ……」
「あんただって笑ってたじゃないか!」
 彼女のボケと僕の突っ込みにまた笑いが生まれる。それがどれだけしょうもない理由であれ笑うことはとても気持ちがよかった。
 なにより、彼女といることがとても幸せであるとそう感じている僕がいる。だがいつまでもそんな気持ちでいることなど出来ない。僕は親友の堺を見失ったわけだから……

「なあ、あんた……」――――

――――「ちょっと待て、この気配はまさか! 悪いが私は次のところに行かせてもらう!」
「待ってくれ!」
「なんだ、話ならまた今度聞く! 悪いが今は急いでいる!!」

 彼女は突然何かを感じたようで、僕に対し「気をつけて帰るんだぞ!」というと、また先ほど殺気を剥き出しに北の方へと駆け出して行った。
 それにしても彼女は一体何を感じたというのだろう?

 でもちょっと助かったかも知れない。僕は彼女に対して悪魔かどうかを聞きたくてしょうがなかったから、彼女が去ってくれなければ確実に聞いてしまっていただろう。
 それが自分の命にかかわることであったとしても僕はかまわなかった。ただ僕の中のイグニスに少し感化されてしまったようで僕は悪魔を嫌いになれないようだ。堺を殺してしまったかも知れない彼女に対して狂気の1つも宿すことが出来なかった。
…………だが、それはある意味では僕を救ったのかもしれない。
 
「ベアが帰ってくるかもしれないし早く堺を探して帰らないと……」
夜になると魔物が活発化してしまうから、出来れば夜になる前に街へと戻りたい。情けないが早く堺を見つけなければ一人で帰ることになってしまう。それだけは避けたい。
 絶対に親友を見捨てて自分だけが生きることはもう二度としたくない。
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