よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
42 / 109
1.5 失ったもの

4.悪魔

しおりを挟む
「そうか、堺が生きているのか……」
 たぶん安心したのだろうか、僕は気分がとても落ち着いていた。よくよくノウェムと火山の顔をじっくりと見つめてみると、どこか余裕のないようだ。
「残念だけど、ノウェムのいう堺が生きているというのはお前が考えているのとははるかにほど遠いと思うがな……?」
 僕はわけがわからずノウェムの方をみた。だが答えが返ってくるわけもなく、ただむなしい空気が流れただけだ。
「なあ、ノウェムさん? どういう意味なんだ?」
「それは言えない……」
 彼女から答えを引き出すことはやはりできないようだ。ならばと火山の方を見る。
「俺は彼女が言わないのであれば、いうつもりはないよ」
 どうやら僕は蚊帳の外らしく、どちらも情報を教えてくれない。確かに僕は頼りがいもなく、どうしようもないヘタレだといえよう。だが、堺のことを隠されることは納得いかない。

「おい、いい加減にいてくれよ? どうして、堺のこと、違うか……どうして堺を襲った悪魔のことをかくす? 襲ったのが霧の悪魔だからか?」

「おいおい、質問攻めだと話す気をなくすぞ?」
 もともと話すつもりもないくせに、この男は何を言ってるんだ?
「火山さん、あなたには恩がありますが相手があの霧の悪魔だというのであれば、きっと堺はいずれ死んでしまうでしょう……なら僕は助けに向かわなければならない!」
 火山は先ほどまでの冷静さを失い、僕の方へと勢いをつけながら駆け寄ってきて僕の襟ぐりをつかんだ。
 突然のことに僕は言葉を失ってしまった。
「お前は何度間違うんだ? 堺がどんな思いで…………どんな思いでお前を守ったとおもっているんだ?」
「そんなことはわかっている!」
「いや、お前はなにも分かっていない……。お前のことは大体堺から聞いている……お前が死んだ理由な……」
 それを聞いて、僕は耐え難い感情に怒りが収まらないことに気が付いた。

————僕は一体どうしてしまったんだ? 怒りに支配されてしまうなんて……これじゃあ、あの時の二の舞じゃないか……?

「そうだ。僕はあの時確かに怒りだけで動いた挙句、フロンスが止めるのも聞かず感情を支配され、自殺にまで追い込まれた……だけど、それでも僕は堺をたすけたいんです」

 黙って聞いていた二人が僕のもとへと近寄ってきた。そしてノウェムは僕に手を差し伸べてこういった。
「だったら、落ち着くんだ。落ち着かなければまた感情を支配されるだけだ……今の君に何かを教えるということはたぶん感情を揺らがせる。だから我は今は君に何も話すつもりはない」
「そうか……」
 納得できない部分も多々あるが、これで納得しないといえばたぶん彼女たちからなんの情報も得られないだろう。

「ところで、火山さんもノウェムさんもどうして堺のことを覚えているんですか?」
 またもや虚を突かれたという顔をする二人。だが、こればっかりは知っておかないと眠ることもできない。
「だから、我は何も話すつもりはないといっただろう?」
「————それは単純明快だ。僕たちが悪魔に近いものだからだよ」
「おい……せっかく我が秘密にしておこうと思ったのに……」

「もう気が付いていると思うが、俺は悪魔だ。俺は火の悪魔でルシフと呼ばれていた。ある時は神父で、またある時は魔法使い、そして極め付けには一国の王だったこともあるんだぞ! どうだすごいだろう?」
 まさかここまで威厳のない王がいたとは……
「じゃあ、ノウェムさんはどうだっていうんだ……彼女は魔女だろ?」
「なにを言っている。君は前にニヒルから説明を受けたはずだろ? 魔女とはそもそも悪魔の影響で魔力を自在に操れるようになったもののことを言う。だから、少なからず魔法が 使えない我はその悪魔の影響を取り除くことが出来ないんだよ」
「じゃあ僕は?」
「「それは知らない! というか君(お前)の方が知ってるだろ?」」
 何も二人同時に突っ込みをいれなくともよいものを…………

「とにかく、お前がなんで堺のことを覚えてるのかは知らんが、俺たちにとっては好都合なんだ! 堺のことが心配なら余計なことは考えずに待ってればいいんだよ!」
「待つっていったい何を?」

 そう聞くと、彼は決め顔でこう言った。

「俺が希望を持ってくることをだよ?」

 よくもまあそんなに恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言えたものだ。僕なら恥ずかしさのあまり顔から火が出てもおかしくないというのに。
 でも、それも彼の自身のあらわれといってもいいだろう。ならば僕にできることは火山達を信頼して待っているだけだ。

 いつの間にかかなりの時間がたっていたようで、出勤時間を回っていた。僕はちょっとだけ焦ったが、よくよく考えれば僕はもう職場にいる。なら遅れたのは灯だということだ。それならば、僕が焦る必要などないだろう。
「火山さんの話はよく分かった。だが、そんなことよりおかしくないか? 灯さん遅くないか?」
「あら、その灯とは一体誰のことでしょう?」
 やれやれ、どうしてこの人たちはみんな同じような登場の仕方をするのだろう。僕の寿命を縮めたいのだろうか……。
「灯がこんなにギリギリな時間に来るのは珍しいな?」
 ノウェムがそんなことをほざいている。さっきは本質がどうとか偉そうなことを言っていた癖に……やっぱり灯さんが遅くなるのは珍しいんじゃないか……。まあこんな暗いことばかり考えていたら頭がおかしくなりそうだからやめておこう。

「本当ですよ。灯さんどうしたんですか?」
 灯が何時に店に来ているなんて知る由もないが、僕も便乗してそう尋ねた。
「ちょっと野暮用……もとい用事があってね」
「野暮用?」
「いや、だから用事ですって」
 言葉遣いなどどうでもいい。問題は僕たちの話が終わったと同時に来たということだ。何らかの思惑が働いたと勘ぐるのも普通のことだろう。僕はノウェムに目配せする。彼女は僕に向かってウインクで答えを返した。
 どうやら彼女が最初に言っていたあれはこのことを知らせるヒントだったようだ。僕は結局最後まで彼女たちに遊ばれていただけなのではないかと不安がよぎる。本当に彼女たちを信じてい良いものか……。
 何度も揺らぐ僕の心であったが、信じられるものが少ない僕は彼女たちを信じるほかに道などもとよりない。
 僕にできることは彼女たちが嘘をついているかどうかを見極めることぐらいだ。
 こんな時堺なら僕を助けてくれるのだろうが、その堺はいない。つまり今この空間で自分を助ける存在、自分が信用できる人間は自分以外にいないというわけである。

「じゃあ、我は帰るとするよ。灯、また今度ご飯でも食べにくるね……」
 ノウェムはこちらに挨拶もなしに、灯にだけ挨拶をして店を出て行った。結局彼女が僕を慰めに来たのか、それとも別の理由で来たのかはわからなかった。

「灯さん、俺は今から職場へ向かいます。願わくば俺が働かなくともいい社会……いや、平和な社会を作ってきます?」
「今少し本音が聞こえた気がしましたけど?」
「気のせいです!」
 まるでコントでも見ているかのようにくだらないやり取りで盛り上がっている火山と灯を見て僕は思った。
————火山さっさと仕事に行け!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...