よみがえりの一族

真白 悟

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1.5 失ったもの

4.悪魔

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「そうか、堺が生きているのか……」
 たぶん安心したのだろうか、僕は気分がとても落ち着いていた。よくよくノウェムと火山の顔をじっくりと見つめてみると、どこか余裕のないようだ。
「残念だけど、ノウェムのいう堺が生きているというのはお前が考えているのとははるかにほど遠いと思うがな……?」
 僕はわけがわからずノウェムの方をみた。だが答えが返ってくるわけもなく、ただむなしい空気が流れただけだ。
「なあ、ノウェムさん? どういう意味なんだ?」
「それは言えない……」
 彼女から答えを引き出すことはやはりできないようだ。ならばと火山の方を見る。
「俺は彼女が言わないのであれば、いうつもりはないよ」
 どうやら僕は蚊帳の外らしく、どちらも情報を教えてくれない。確かに僕は頼りがいもなく、どうしようもないヘタレだといえよう。だが、堺のことを隠されることは納得いかない。

「おい、いい加減にいてくれよ? どうして、堺のこと、違うか……どうして堺を襲った悪魔のことをかくす? 襲ったのが霧の悪魔だからか?」

「おいおい、質問攻めだと話す気をなくすぞ?」
 もともと話すつもりもないくせに、この男は何を言ってるんだ?
「火山さん、あなたには恩がありますが相手があの霧の悪魔だというのであれば、きっと堺はいずれ死んでしまうでしょう……なら僕は助けに向かわなければならない!」
 火山は先ほどまでの冷静さを失い、僕の方へと勢いをつけながら駆け寄ってきて僕の襟ぐりをつかんだ。
 突然のことに僕は言葉を失ってしまった。
「お前は何度間違うんだ? 堺がどんな思いで…………どんな思いでお前を守ったとおもっているんだ?」
「そんなことはわかっている!」
「いや、お前はなにも分かっていない……。お前のことは大体堺から聞いている……お前が死んだ理由な……」
 それを聞いて、僕は耐え難い感情に怒りが収まらないことに気が付いた。

————僕は一体どうしてしまったんだ? 怒りに支配されてしまうなんて……これじゃあ、あの時の二の舞じゃないか……?

「そうだ。僕はあの時確かに怒りだけで動いた挙句、フロンスが止めるのも聞かず感情を支配され、自殺にまで追い込まれた……だけど、それでも僕は堺をたすけたいんです」

 黙って聞いていた二人が僕のもとへと近寄ってきた。そしてノウェムは僕に手を差し伸べてこういった。
「だったら、落ち着くんだ。落ち着かなければまた感情を支配されるだけだ……今の君に何かを教えるということはたぶん感情を揺らがせる。だから我は今は君に何も話すつもりはない」
「そうか……」
 納得できない部分も多々あるが、これで納得しないといえばたぶん彼女たちからなんの情報も得られないだろう。

「ところで、火山さんもノウェムさんもどうして堺のことを覚えているんですか?」
 またもや虚を突かれたという顔をする二人。だが、こればっかりは知っておかないと眠ることもできない。
「だから、我は何も話すつもりはないといっただろう?」
「————それは単純明快だ。僕たちが悪魔に近いものだからだよ」
「おい……せっかく我が秘密にしておこうと思ったのに……」

「もう気が付いていると思うが、俺は悪魔だ。俺は火の悪魔でルシフと呼ばれていた。ある時は神父で、またある時は魔法使い、そして極め付けには一国の王だったこともあるんだぞ! どうだすごいだろう?」
 まさかここまで威厳のない王がいたとは……
「じゃあ、ノウェムさんはどうだっていうんだ……彼女は魔女だろ?」
「なにを言っている。君は前にニヒルから説明を受けたはずだろ? 魔女とはそもそも悪魔の影響で魔力を自在に操れるようになったもののことを言う。だから、少なからず魔法が 使えない我はその悪魔の影響を取り除くことが出来ないんだよ」
「じゃあ僕は?」
「「それは知らない! というか君(お前)の方が知ってるだろ?」」
 何も二人同時に突っ込みをいれなくともよいものを…………

「とにかく、お前がなんで堺のことを覚えてるのかは知らんが、俺たちにとっては好都合なんだ! 堺のことが心配なら余計なことは考えずに待ってればいいんだよ!」
「待つっていったい何を?」

 そう聞くと、彼は決め顔でこう言った。

「俺が希望を持ってくることをだよ?」

 よくもまあそんなに恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言えたものだ。僕なら恥ずかしさのあまり顔から火が出てもおかしくないというのに。
 でも、それも彼の自身のあらわれといってもいいだろう。ならば僕にできることは火山達を信頼して待っているだけだ。

 いつの間にかかなりの時間がたっていたようで、出勤時間を回っていた。僕はちょっとだけ焦ったが、よくよく考えれば僕はもう職場にいる。なら遅れたのは灯だということだ。それならば、僕が焦る必要などないだろう。
「火山さんの話はよく分かった。だが、そんなことよりおかしくないか? 灯さん遅くないか?」
「あら、その灯とは一体誰のことでしょう?」
 やれやれ、どうしてこの人たちはみんな同じような登場の仕方をするのだろう。僕の寿命を縮めたいのだろうか……。
「灯がこんなにギリギリな時間に来るのは珍しいな?」
 ノウェムがそんなことをほざいている。さっきは本質がどうとか偉そうなことを言っていた癖に……やっぱり灯さんが遅くなるのは珍しいんじゃないか……。まあこんな暗いことばかり考えていたら頭がおかしくなりそうだからやめておこう。

「本当ですよ。灯さんどうしたんですか?」
 灯が何時に店に来ているなんて知る由もないが、僕も便乗してそう尋ねた。
「ちょっと野暮用……もとい用事があってね」
「野暮用?」
「いや、だから用事ですって」
 言葉遣いなどどうでもいい。問題は僕たちの話が終わったと同時に来たということだ。何らかの思惑が働いたと勘ぐるのも普通のことだろう。僕はノウェムに目配せする。彼女は僕に向かってウインクで答えを返した。
 どうやら彼女が最初に言っていたあれはこのことを知らせるヒントだったようだ。僕は結局最後まで彼女たちに遊ばれていただけなのではないかと不安がよぎる。本当に彼女たちを信じてい良いものか……。
 何度も揺らぐ僕の心であったが、信じられるものが少ない僕は彼女たちを信じるほかに道などもとよりない。
 僕にできることは彼女たちが嘘をついているかどうかを見極めることぐらいだ。
 こんな時堺なら僕を助けてくれるのだろうが、その堺はいない。つまり今この空間で自分を助ける存在、自分が信用できる人間は自分以外にいないというわけである。

「じゃあ、我は帰るとするよ。灯、また今度ご飯でも食べにくるね……」
 ノウェムはこちらに挨拶もなしに、灯にだけ挨拶をして店を出て行った。結局彼女が僕を慰めに来たのか、それとも別の理由で来たのかはわからなかった。

「灯さん、俺は今から職場へ向かいます。願わくば俺が働かなくともいい社会……いや、平和な社会を作ってきます?」
「今少し本音が聞こえた気がしましたけど?」
「気のせいです!」
 まるでコントでも見ているかのようにくだらないやり取りで盛り上がっている火山と灯を見て僕は思った。
————火山さっさと仕事に行け!
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