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1.5 失ったもの
6.気配
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とまあ、僕は頭を上げずにずっと地面に頭を擦り付けていたのだが、それ自体が効果覿面だったみたいだ。
「ちょっと! 本当にやめて! 血が地面にこびりついちゃうから!!」
そんな彼女の言葉に僕は我に帰る。頭を触って確認してみた。なるほど、なんとなくだが頭から液体が溢れているような気がする。
だけど、そんな地面にこびりつくというのは大袈裟ではないか……。
僕は何気なしに両手のひらを確認し、自分の考えが正しいということを確認したかった。だが、僕は間抜けだということに気が付かされただけで、僕がくるっていることに違いはなかった。
頭から出ている血という表現が生易しく、頭から溢れているという方がよっぽど的確だろう。
つまり、今の状況を一言で的確に表すのなら『血が足りない』だろう。意識が朦朧としているのはそのためだろうか、倒れ伏して気を失った。
————いつの間にか、知らない場所にいた。
僕の目先にはただ白い壁だけが広がっている。そのほかに何かありはしないかと、見渡してみるが、あるのはどこまでも続く白。それは僕がよく知る景色だった。
だけど、それがどこかは思い出せない。ただ漠然と知っている気がするだけで、もしかすると勘違いなのかもしれない。
「ようやく気が付いた? 血が止まらなくなった時は死んだかとおもったわ……。生きていて本当によかった」
頭の上の方から聞き覚えのある声がきこえ、ゆっくりと起き上がってそちらをみる努力をしたが、体がいうことを聞かず、出来たのは首を横に振ることだけだった。
「……っ!」
首を左右に振るだけでも頭に衝撃が走る。
「あまり無理しないことね! 結構ひどい怪我だったから動くと傷が開くわよ!」
僕が間違っていなければこの声は灯だが、彼女の声は聞き覚えがあるのだが、口調がいつもと違いすぎている。
「すみません灯さん……。でもどうして頭から血が?」
それは僕にとって一番の疑問だった。例のクエストから帰ってきてからはずっと街に篭りっぱなしで、怪我をするようなことは何もしていない。なによりも頭を切るなんてそうそうないだろう。
…………頭を擦りすぎたか?
「さあ、頭が悪いからじゃない?」
「ふぇっ!?」
驚きのあまり僕の口からは出したこともないような気持ち悪い音が漏れ出してしまった。まさか彼女があのような汚い言葉を使うなどとおもってもみなかった。
「本当にイグニスさんはバカですね? もしかして、あんな気持ち悪い口調の女がいると思ったの? いるわけないじゃない!」
頭が痛い。今度は割れるように痛いわけではなく、悩み事に頭を痛めさせられた。この痛みはある意味気持ちが悪い。
「ちょっ!? ちょっと整理させて下さい!」
処理が追いつかず頭がパンク寸前だ。もちろん本当に破裂するわけではない。だが、それぐらい頭に悪そうな情報が頭に押し込まれたということだ。
腐った食べ物を口に押し込まれたらたまったものではないだろう。僕にとってはいま腐った食べ物を口に入れられているような気分である。
「はぁー!」
無駄にでかいため息で僕を威嚇してくる灯、その姿はとてもお嬢様とは言えないだろう。
「どうしてそんな悪態をつくんですか!? 僕何か悪いことしましたっけ? 床を壊したことですか?」
「だから、違うっていってるでしょ? これが私の素の姿なの!? もちろん、客として相手する時は丁寧に対応するけどね」
そう気だるそうにする灯をみて、改めて失意のどん底に突き落とされる。それと同時に再び偏頭痛が僕を襲う。
「…………っ!」
僕が頭を抱えるとともに僕の横へと近づいてくる灯だが、いつものように僕を心配する様子はまるでない。ただ漫然と近づいただけで、他にはなにもしなかった。
もしかするとそれは彼女の中にあった僅かながらの優しさだったのかもしれない。ただ、この時の僕にはそれがわからなかった。
「そろそろ大丈夫そうね……」
しばらくの沈黙の後、彼女は僕に聞こえるか聞こえないか程度の声量で呟いた。
その言葉の真意は不明であるが、僕にとっては悪いことであるという予感がしている。
「えっと……なにがですか?」
彼女はいつものようにニッコリと笑った。僕は少しの安堵を覚えるも、すぐにそれが失敗だと思いさ晒された。
「もう動けるでしょ? なら早く出ていってもらいたいのだけれど? 私のベッドをいつまで占領しているつもりなのかしら?」
いつの間にやら僕は女性のベッドに横たわっていたようだ。
知っていたらもっと堪能しておいたのに……。
…………酒場を追い出された僕は行くあてもなく街を彷徨う。というか、僕は酒場にアルバイトに行っただけなのに……どうしてこうなった?
やるせない思いで、夜の街を徘徊する。
この街では、最近多発している連続殺人の一件からか、夜になるとすっかり人がいなくなるらしい。
昼間の賑やかさからは考えられないことだが、それほどまでに殺人犯に恐怖心を抱いている人が多いのだろう。
だが夜に家から出ないことなど当たり前であり、それが連続殺人犯が出ない限りは行わないというのであればこんなに幸せなことはないだろう。
そもそも、人とは朝起き夜に寝る生き物だ。それはこの世界における基準である。
それを破ることが出来るのはやはり人間的な余裕からだろう。
「……それにしてもお腹が空いたな」
頭の痛みばかりに気を取られて忘れていたが、朝ごはんを食べたきりなにも口にしていないことを思い出し、お腹を抱えながら夜道を歩く。
————その刹那、背後から異様な気配を感じた。僕は勢いに任せて気配の方を振り向いたがそこにはなにもいない。
何か殺意にも似た感情が僕に向かって当てられたような気がしたが……気のせいか。
自身の感覚が鈍ってしまったことに気を落としたが、それよりも首を思いっきり振りすぎて頭が痛い。
少し無理をしすぎてしまったようだ。今日は帰って寝るとしよう……。
「ちょっと! 本当にやめて! 血が地面にこびりついちゃうから!!」
そんな彼女の言葉に僕は我に帰る。頭を触って確認してみた。なるほど、なんとなくだが頭から液体が溢れているような気がする。
だけど、そんな地面にこびりつくというのは大袈裟ではないか……。
僕は何気なしに両手のひらを確認し、自分の考えが正しいということを確認したかった。だが、僕は間抜けだということに気が付かされただけで、僕がくるっていることに違いはなかった。
頭から出ている血という表現が生易しく、頭から溢れているという方がよっぽど的確だろう。
つまり、今の状況を一言で的確に表すのなら『血が足りない』だろう。意識が朦朧としているのはそのためだろうか、倒れ伏して気を失った。
————いつの間にか、知らない場所にいた。
僕の目先にはただ白い壁だけが広がっている。そのほかに何かありはしないかと、見渡してみるが、あるのはどこまでも続く白。それは僕がよく知る景色だった。
だけど、それがどこかは思い出せない。ただ漠然と知っている気がするだけで、もしかすると勘違いなのかもしれない。
「ようやく気が付いた? 血が止まらなくなった時は死んだかとおもったわ……。生きていて本当によかった」
頭の上の方から聞き覚えのある声がきこえ、ゆっくりと起き上がってそちらをみる努力をしたが、体がいうことを聞かず、出来たのは首を横に振ることだけだった。
「……っ!」
首を左右に振るだけでも頭に衝撃が走る。
「あまり無理しないことね! 結構ひどい怪我だったから動くと傷が開くわよ!」
僕が間違っていなければこの声は灯だが、彼女の声は聞き覚えがあるのだが、口調がいつもと違いすぎている。
「すみません灯さん……。でもどうして頭から血が?」
それは僕にとって一番の疑問だった。例のクエストから帰ってきてからはずっと街に篭りっぱなしで、怪我をするようなことは何もしていない。なによりも頭を切るなんてそうそうないだろう。
…………頭を擦りすぎたか?
「さあ、頭が悪いからじゃない?」
「ふぇっ!?」
驚きのあまり僕の口からは出したこともないような気持ち悪い音が漏れ出してしまった。まさか彼女があのような汚い言葉を使うなどとおもってもみなかった。
「本当にイグニスさんはバカですね? もしかして、あんな気持ち悪い口調の女がいると思ったの? いるわけないじゃない!」
頭が痛い。今度は割れるように痛いわけではなく、悩み事に頭を痛めさせられた。この痛みはある意味気持ちが悪い。
「ちょっ!? ちょっと整理させて下さい!」
処理が追いつかず頭がパンク寸前だ。もちろん本当に破裂するわけではない。だが、それぐらい頭に悪そうな情報が頭に押し込まれたということだ。
腐った食べ物を口に押し込まれたらたまったものではないだろう。僕にとってはいま腐った食べ物を口に入れられているような気分である。
「はぁー!」
無駄にでかいため息で僕を威嚇してくる灯、その姿はとてもお嬢様とは言えないだろう。
「どうしてそんな悪態をつくんですか!? 僕何か悪いことしましたっけ? 床を壊したことですか?」
「だから、違うっていってるでしょ? これが私の素の姿なの!? もちろん、客として相手する時は丁寧に対応するけどね」
そう気だるそうにする灯をみて、改めて失意のどん底に突き落とされる。それと同時に再び偏頭痛が僕を襲う。
「…………っ!」
僕が頭を抱えるとともに僕の横へと近づいてくる灯だが、いつものように僕を心配する様子はまるでない。ただ漫然と近づいただけで、他にはなにもしなかった。
もしかするとそれは彼女の中にあった僅かながらの優しさだったのかもしれない。ただ、この時の僕にはそれがわからなかった。
「そろそろ大丈夫そうね……」
しばらくの沈黙の後、彼女は僕に聞こえるか聞こえないか程度の声量で呟いた。
その言葉の真意は不明であるが、僕にとっては悪いことであるという予感がしている。
「えっと……なにがですか?」
彼女はいつものようにニッコリと笑った。僕は少しの安堵を覚えるも、すぐにそれが失敗だと思いさ晒された。
「もう動けるでしょ? なら早く出ていってもらいたいのだけれど? 私のベッドをいつまで占領しているつもりなのかしら?」
いつの間にやら僕は女性のベッドに横たわっていたようだ。
知っていたらもっと堪能しておいたのに……。
…………酒場を追い出された僕は行くあてもなく街を彷徨う。というか、僕は酒場にアルバイトに行っただけなのに……どうしてこうなった?
やるせない思いで、夜の街を徘徊する。
この街では、最近多発している連続殺人の一件からか、夜になるとすっかり人がいなくなるらしい。
昼間の賑やかさからは考えられないことだが、それほどまでに殺人犯に恐怖心を抱いている人が多いのだろう。
だが夜に家から出ないことなど当たり前であり、それが連続殺人犯が出ない限りは行わないというのであればこんなに幸せなことはないだろう。
そもそも、人とは朝起き夜に寝る生き物だ。それはこの世界における基準である。
それを破ることが出来るのはやはり人間的な余裕からだろう。
「……それにしてもお腹が空いたな」
頭の痛みばかりに気を取られて忘れていたが、朝ごはんを食べたきりなにも口にしていないことを思い出し、お腹を抱えながら夜道を歩く。
————その刹那、背後から異様な気配を感じた。僕は勢いに任せて気配の方を振り向いたがそこにはなにもいない。
何か殺意にも似た感情が僕に向かって当てられたような気がしたが……気のせいか。
自身の感覚が鈍ってしまったことに気を落としたが、それよりも首を思いっきり振りすぎて頭が痛い。
少し無理をしすぎてしまったようだ。今日は帰って寝るとしよう……。
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