よみがえりの一族

真白 悟

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2.2 悪魔との出会い

9.空白

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「お前を楽しませるためにやるわけじゃないが、これ以外手段が無いんでな……結果としてお前の暇も終わるが、楽しみも終わる」
 僕は比較的冷静を装って、悪魔に向かって強気で言葉を吐いた。
「それが、俺にとってはいい暇つぶしだというわけだ。むしろ俺を退屈なこの世界から退却させてくれるというのであれば、感謝せねばならないだろう。でも、やっぱりこれは暇つぶしにしかならんだろうがな……」

 その悪魔のセリフを皮切りに、僕はある一つの呪文を唱えた。それは、僕が唯一使える魔法。もっと言うのであれば、誰しも、魔法を知らない者にだって赦されたただ唯一の魔法。祈り。ある意味最も無意味な魔法なはずだった。だがその魔法に対して、唯一と言っていいほど効果がある種族がいた。それが悪魔である。――しかし

「下級悪魔にならともかく、俺にただの人間の祈りなどきくはずもないだろう? まさかこれが奥の手と言うやつだというならガッカリだ」
「安心しろ、これは最後の準備だ」

 そう、聖職者でも無い僕の祈りが彼ほどの悪魔に効果的な道理はない。だが祈りとは、悪魔を遠ざけるためだけにあるわけではない。むしろ上位の悪魔はそれを邪魔するために近づいてくるということさえありうる。ではなぜ、悪魔が邪魔をするのかという話になるが、それはもちろん下級悪魔を守るなどという仲間意識があるからではない。悪魔に誰かを助けようという心は無い。――つまりは本当の目的である神に対して祈るという行動そのものをやめさせるためだけに来るというわけであり、そこには、神に対する人の信仰を減らすという目的がある。
 反対に言うのであれば、悪魔にとっても必要なのが信仰であり、自らのちからを誇示するために必要なものだ。

 しかし、封印されていた悪魔にとってそれはかなり縁遠い。

「なるほど、これがお前の作戦か……」

 どうやら、僕の作戦が悪魔に感づかれてしまったようだ。だがもう遅い。
「もともと、封印によってその名すら失われつつあった悪魔だ。いくら上級の悪魔と言えど、人間の魂をつなぎとめるのは骨が折れるだろう?」
「はっはっは、お前はなにか勘違いをしているようだ」
 悪魔はまたつまらなそうに乾いた笑いを見せた。
「勘違い?」
「俺の正体についてだ」
「お前の正体については知っているつもりだが?」
「お前は俺のことをアモンだと思っているのだろう? だが違う。俺は今は名もない悪魔だ。それ以上でも以下でもない……だからこそ、お前が祈ったところで俺の力はこれ以上減ることはないし、魂の隷属が解けることもない。つまり……お前にはがっかりだ」
 その時に僕が感じたプレッシャーは、最初にこの悪魔が攻撃を仕掛けてきた時の比ではない、僕がようやく悪魔が僕の後ろに移動したと気がついた時には、その口には肉塊が咥えられていた。唐突に起きたことに、僕の意識も体も自身の体に起きた変化に気がつくことが出来なかった。
「いつの間に……!」
 僕が後ろを振り返った瞬間に、悪魔は口に加えていた肉塊を火口の方へと放り投げた。
「鈍いな……動きも、反応も」
 僕は両腕をあげ剣を構えようとした。――だが、構えることは出来なかった。恐る恐る重量を失ってしまった右側を見た。
「……腕がっ!? 僕の腕は……! 僕の腕はどこえいっつ!!」
 その瞬間に右腕に激痛が走った。
「本当に鈍いな……痛みにすら今ようやく気がついたようだ!」
「僕の腕をどうした!? まさか、さっきの……?」
「よくそこまで冷静に判断できるな……簡単に腕を取らせた時はガッカリしたが、どうやら存外楽しませてくれそうだ」
「……っ! こっちは意識も朦朧としてそれどころじゃない……悪魔め……」
 よろける足を何とか引きずって、後ずさる。まだ少しの間は絶えられそうだが、気がつくのが遅れた分、出血の量が多い。このままでは普通に死んでしまう。
「いいや、お前は俺に出会ったその瞬間から死んでいた。お前の命はあの時から俺の暇つぶしの時間でしかなかった。お前も覚えはあるだろう、使い終わったおもちゃはちゃんと片付けないとなあ……! 今までお前がしてきたように、使い終わった道具は処分だ」
「くそ、人間まで道具扱いか……」
「何を言っている。それをしてきたのはお前の国だろう? 俺はそんな無駄な国を処分してやるって言ってるんだ。まあ、俺が暇だからという理由にはかわらんがな」
「そうだ、だからこそ僕が終わらせるんだ……いや、終わらせなくちゃならない。たとえ自分勝手だったとしても、信頼できる部下と、幼馴染のために命をかける――」

――もし、後悔というものがあったとするのであれば、僕にとってそれはこの時に起こった出来事であったはずだ。それが一番初めの後悔でなければならない。だからこそ忘れてはいけないはずの出来事で、それから戒めであったはずだ。
 だけど、ここから先は全く思い出すことが出来ない。
 僕はあの時一体どうしたのだろう? 悪魔はどうして僕の中に封印されているのだろう? それを思い出すことが、今回の回帰でいちばん重要な部分だったはずだ。それ以外はオマケみたいなもので、虚ろになる記憶を掘り起こしたがために、矛盾が生じているはずであるが、それでも順序を守って思い出したはずだ。
 それなのに、悪魔のことは愚か、自分のことすら思い出せない。
 いいや、いくつか思い出せた。僕の聖剣だ。



「悪魔……お前との戦いの後、僕は聖剣をどうしたんだ?」
 現実に引き戻されてしまった僕は、悪魔に尋ねた。
「……知らん。激しい戦いだったから溶岩の中に堕ちたんじゃないか?」
――果たして、本当にそうなのか? でも、僕の記憶の中でも悪魔は一切嘘をついてはいなかった。だからこいつの言葉を疑いはしない。
「僕にはそうは思えないが……お前が知らないんじゃどうしようもないな」
「……」
 その後、僕が何を話しかけようが悪魔は返事をすることはなかった。

 一応二人いるわけだが、一人が話す気が無いというのなら、この状況では一人と同じだ。だから一人でじっとしているのも気が滅入ってしまうのではないかと思い、僕はこの密室からどのように脱出しようかなんて途方もないことを考えていた。
 だがしかし、最初にも言ったとおり出口は外から閉められ、開ける事はできないし、窓すら無い。置いてあるものの中に食料や飲料を見つけはしたが、脱出する手段は見つからない。
 僕は話し相手が何もしゃべらないことに焦燥感を覚えつつも、それでも腹ごしらえは必要だと思い、誰が準備したかも分からないそのおにぎり、しかもなぜか昆布と梅干しという渋い具の入ったおにぎりを口に放り込みながら
、一緒に置いてあった緑茶で流し込んだ。袋の梱包と塩加減からして、手作りのものとは思えなかったが、いわゆるコンビニ飯とやらなのだろうか? 僕はなんやかんやでコンビニに訪れたことが無いから分からないが、そんな気がした。――しかし、こんな物を大量生産するなんてとても恐ろしい。元商人の息子として、非常に興味深いことではあるが……そんなことを考えている場合でもない。
 自分の思い出からも大した情報が得られなかったとするのであれば、最終手段はニヒルとなる。悪魔が何も話す気が無いと言うのであれば、どれだけ気が進まないこととはいえ、唯一の連絡先の相手であるニヒルに本当のことを話して助言してもらう他無い。

「なあ……」

 僕が最大級に頭を回転させているというのに、悪魔がそんな風に沈み返ったような声をだすものだから、全ての考えが飛んでしまった。

「なんだ?」
 出来る限り、イラつきを抑えつつも不機嫌さを顕にしながら問い返す。
「お前、本当に何も覚えてないのか?」
「何が?」
「だから、さっきお前が聞いてきた……」
「あの後のことか?」
「ああ」

 心が読めるのだから、聞くまでもないはずだが悪魔はどうしてかそんな質問をしてきた。もちろん答えはイエスだ、何も覚えてはいない。だが、それをそのまま答えては、会話が終わるようなそんな、何か取り返しのつかないことが怒る気がした。
「幾つか覚えていることもある」
「そうか……いや、この際だ。全部話すことは出来ないが、少しだけ俺のことを話してやろう」
 その言葉は以外も以外、昔から自分のことを一切話さなかった悪魔がついに自分の話をしようと言う。もちろんどのようなきっかけがあったのかなんて分からない。もし分かるやつがいるのだとしたら、今すぐに僕に説明してもらいたい。

 結局、僕が半日使ってしたことと言えば、悪魔との意味の分からない問答と、ニヒルへの電話、後は自分の頭を更に困惑させる思い出を思い出したということだけだ。
 その中のどれが悪魔の気持ちを変えたのか……決まっている。僕の思い出せない最後の部分だろう。しかし、自分でも分からない部分が、人の……悪魔の気持ちを変えると言うのはとても奇妙なことのように感じられた。だがそれでも、今日の目的の第一段階である、いちばん身近な悪魔の情報を引き出すと言う目標は達成出来るということだ。……ってこれも全部筒抜けなんだった。
 とにかく、悪魔から話を聞くことによって、この一週間の情報、ひいては、今回の敵であるサルガタナスとやらの情報を探ることが出来るだろう。

「ああ、お前の話を聞かせてくれ」

 意味があるのかは分からないが、僕は出来るだけ平然を装って悪魔に話を始めるようにと促した。だが悪魔ともあろうものでもかなり緊張する話なようで、話し始めるまでかなりの時間を要した。そんな中でも、僕はただゆっくりと悪魔が話し始めるその瞬間を待ち続けた。
 悪魔が話始めたのは僕が全てのおにぎりを食した後だった。
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