ファンタズマ

真白 悟

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「そういえば、アッシュもハンバーガーが好きなのよ」
 気まずくなった空気を変えるように、アカリがあわてて話題を変える。

「へえ……いやまあ、知ってるけど」

 彼女の慌てようがおかしかったのか、エフェルはほんの少しだけにやける。
 彼と僕はハンバーガーショップをめぐる仲だ。それを知らないはずがないし、そのことはアカリも十分に知っているはずだ。というか、彼女もよくそれに付き添ってくれる。

 言われてようやくそのことを思い出したのか、彼女は再びあわてた様子で話題を変える。
「いや、そうじゃなくて……あ、そうだ。アッシュとエフェルは雰囲気こそ違っても、顔つきがそこはかとなく似てるのよね」
 それを聞いたエフェルと僕が思わず吹き出す。
「ふふ、なんだい? 僕とアッシュが生き別れの兄弟……だとでも言いたいのかい?」
「それはないだろう。確かにハンバーガーは好きだけど、趣味嗜好はまるで違うし……僕がもしここのハンバーガーを毎日食べ続けろって言われたら発狂しちゃうしね」
 エフェルはかなりのゲテモノ好きで、どこのハンバーガーショップに行っても一番まずそうで、なおかつ人気のなさそうなメニューを注文する。反対に僕は一押しのバーガーを頼む。
 彼と僕には似たところなどまるでない。

「でも、身長の高さもほとんど一緒だし……笑った時の顔なんてほんとに兄弟みたいだよ?」
「そうかな……まあ、世界には同じような顔を持つ人が3人いるって言われているし、特に気にもしなかったけどそうなのかもね」
「エフェルが僕のドッペルゲンガー……そんなわけないよね?」

 そんな風に3人で笑いあう。
 こんな日常がいつまでも続けばいいと思っていた。

 そんな時、エフェルが何かを思い出したかのように、ハンバーガーを一気に口に含みコーラで流し込んだ。
「わ、忘れてた! ごめん。僕、この後、教授に呼ばれているから……」
 ゴミをゴミ箱に捨てて、あわてて立ち上がったエフェルは僕たちに手を振って慌てて去って行こうとするも、何か忘れ物をしたらしく戻ってきた。どうやら携帯を置きっぱなしにしていたようだ。
 そそっかしいやつだ。
「騒がしいな……やっぱり僕とは似ても似つかないや」
「そうでもないと思うけどね」
 そんな風に2人で話し合っていると、エフェルが僕に手招きをする。

「なんだ」
 面倒に思いながらも立ち上がり、エフェルのそばまで歩いていく。
 近くまでよると、エフェルは僕と肩を組み、耳元で小さくつぶやいた。
「せっかく、二人っきりにしてやるんだ。彼女とのデート楽しむんだよ……」
「なっ……!」
 思わず変な声を出しちゃった。
 そんな僕にかまわず、エフェルはそのままいそいそと去っていく。
 席に戻りながら彼を見送った僕だが、いざアカリの目の前に座ると、彼の言葉が頭の中で何度もこだまするのを感じて少しだけ顔が熱くなる。

「あいつ……」
 僕がアカリを好きなことに気が付いていたんだ……絶対に気が付かれないように細心の注意を払っていたというのに。思いのほか目ざといやつだ。
 ほんの少しだけだが、何となく恥ずかしくなり下を向く。
 それを不思議に思ったのか、アカリが僕の顔を覗き込む。

「何を言われたの?」

 彼女はたぶん、僕のことを単なる幼馴染としか思っていない。だからこんな風に息がかかるほどの距離まで顔を近づけてくるわけだ。

「さあね……」
 なんて風にごまかして僕は顔をそらした。
「変なアッシュ」
「変で結構。変人と天才は紙一重ってね」
「なんか微妙に違う気がするけど……」
「細かいことを気にしてたら、彼氏が出来ないよ」
「もう!」
 なんて風に、アカリは頬を膨らませて顔を僕からそらす。

 話題を変えることには成功したが、どうやら今度は彼女を拗ねさせてしまったらしい。
 これじゃあ本末転倒だ。

「ごめん、ごめん。今度お昼ご飯をおごるから……許して?」

 両手を胸の前で合わせる。僕が出来る最上位の謝罪を表すポーズだ。
 日本には、地面に頭をこすり付けて許しを請うポーズがあるらしいが、今こんなところでそんなことをしたら彼女にも恥をかかせてしまう。……もちろん、僕がやりたくないからとかでは絶対にない。
 アカリもここまでお願いされて、それ以上を求めるような心の狭い女の子ではない。膨らませた頬をもとに戻すと、輝かしい笑顔をこちらに向けた。

「わかった。いつもののカフェで手を打つわ!」
「……えっ!? 食堂じゃないの?」

 彼女の提案に思わず声を上げてしまった。
 いつものカフェでコーヒーを飲む程度なら別だが、昼食をとるとなると大学の食堂よりも損害(謝罪のご飯代)が5倍近い金額にまで上ってしまう。
 僕の懐事情を考えるとどうにかして避けたいところではあるが……彼女の笑顔を見ていると、どうしても避けて通ることが出来ない道だという事を理解させられる。

「ダメ……なの?」

 悲しげな表情を浮かべた彼女を見て、尚のことその気持ちが強くなる。
 確かにかなりの痛手を負う事にはなるが……エフェルの言うとおり、デートをすると考えれば安いものだ。それで彼女の機嫌が直るというのであれば、必要経費として何とか捻出することも出来るはずだ。

「ダメなわけないじゃないか! 僕も丁度あのカフェでご飯が食べたいと持っていたところだからね!」

 大丈夫だ。アルバイトを増やせば……今月生き抜くぐらいのお金は何とかなる。
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