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2 プロフェッサー
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しおりを挟む結局、強盗の男は盗んだ店に謝罪して、その罪を許された。
許されたのは奇跡的だったし、僕は許されないとばかり思っていたが、この街の人間というのも意外と捨てたものではない。しかし、理由はどうあれ、男は盗みを働いて、少なからず店に被害をもたらしたのだから、その損害分を返さなければならないということでその店で働くことになったらしい。
僕は詳しい事情を聞いていないし、それは当人間で解決しなければならない問題なので口を出さなかった。
しかし、救いようのない人間なんていないってことはやっぱりはっきりした。
誰しもが己の欲のためだけに動いているわけではなく、他人のために行動できる人間も確かに存在している。それが善であれ、悪であれ、そこには救いがあった。
そんなこんなで空き時間は消費され、僕は研究室に向かった。
「誰かと思えば君か……」
研究室のドアを開けると、そこにはいつものように仏頂面をしたウィリアムズ教授が椅子に腰を掛けてコーヒーを飲んでいた。いつも仏頂面というと御幣があるかもしれないが、とにかく僕と顔を合わせるときはほとんどが仏頂面だ。
そんな教授が僕から顔をそらすと、こちらに目を向けることもなく、机の上から一冊の資料を手渡した。
「これは?」
数ページめくってみたが、残念なことにそれが何の資料なのかは僕には理解できない。
とりあえず、僕の研究内容とも、教授の研究内容ともまるで一致する部分がないことだけは分かった。
「今の君に一番必要なものだ」
そう教授は面倒くさそうに言う。その表情は見えないが、おそらくあいも変わらず仏頂面であることに違いはないだろう。
しかし、そんな意味ありげなことを言われると、僕はその資料を読まずにはいられない。
一見しただけではよく分からなかったが、それはどうやらFAと呼ばれる新種の生物についての資料であった。ファンタジー生物、通称FAとは、太古に失われた魔法と、過去に起きた現世界への異世界人の流入による何らかの反応によって生じた突然変異によって最近になって現れるようになった生物のことを指すとのことらしい。
以前に教授からはなんとなくそんな話を聞いたが、資料として読むと、以前にもましてうそ臭さが増したような気がする。しかし、50年以上前に起きた世界各地での大災害ではそういった不思議な力を持った者達が確認されているらしい。主要都市を除いた多くの街を破壊した獰猛な野生生物たちを滅ぼしたのもそのものたちらしい。確かに、災害の話は歴史の授業でも習った。世界では終末を知らせるといわれているラッパをふく七人の御使いの話になぞられて『一番目のラッパ』とも呼ばれている。
世界に終わりのときが近づいているというのは今でもまことしやかにうわさされているが、実際のところはその後は一度もラッパは鳴っていない。
だが、もしこの資料に書かれていることが本当だとするなら、歴史の教科書や歴史書は真実を隠しているということになる。
「ありがとうございます。しかし……なぜ僕にこれを?」
僕は教授に向きなおし尋ねた。
教授は一度だけ僕のほうにちらりと視線をやると、今度は教授の手元にあった資料に視線を移した。
「君は無登録のFAだ。セラピーも受けていないし、だからヒーローなどというものにあこがれた。事実を知らないままに、世界に危険をもたらそうとしているのが……つまるところ、君のような無知な人間なのだろう。だから、君は真実を知った上で選ばなければならない。ただそれだけだ」
「どういう意味ですか?」
「君はもっと現実を知るべきだ。ごろつきを相手にしているわけじゃないんだぞ!? 死の危険すらある! だというのに、君は! いまだに! 私の言うことが! 理解できていないということだ!」
教授の怒号が研究室に響き渡る。
幸い研究室には僕しかいなかったが、他の部屋からこちらをのぞいている学生がちらほら見える。それに気がついた教授は声のトーンを少しだけ落として、再び説教を始めた。
「私は言ったはずだ。この問題は私の問題だと、君は首を突っ込むなと! 復讐なんてくだらないことは考えるなとも言った! 復讐はなにも生まない! 報復は新たなる報復を生むだけだ!」
「違います。僕はーー」
「ーー正義感でやっていると!? なら教えてやろう。正義感は何も生まない。誰も助けない! 正義感とはこの世で一番厄介なものだ! 自分を善と信じて、自分がやっていることに過ちなど存在しないと思い込ませる! たとえ、君がプロフェッサーのやり方を真似て、自首を促すような非暴力的なやり方をしたとしても、そこに正義があるだなんて思っているうちは、君に犯罪者を止める資格はない!」
「それは……」
確かに僕は自分に正義を感じていた。だけどそれの何がいけないのだろう。
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