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終章 魔の終末
29.神罰
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誰も居なくなって部屋にはルシフ一人、一人問答をするには最高の環境だろう。
下らない世界に、王が必要かなんて問答をする必要はない。
王とはどれほど腐ったところにも必要だからだ。腐っているからこそ必要なのかもしれないが、それはどうでもいいことだ。
ルシフにとって、王という存在がどれほど意味のないものだとしても、国民が求めるものはいつも支配だ。
支配とは、不自由な中に自由を生むもの。だから誰にだって必要なもので、渇望するべきもの。
王にとってもそうだ。
王は自分の上に神を置く。それはいわゆるスケープゴートであり、イコンとも言える。
裏切りはいつだって、不名誉なものであり、自分以外の存在にとっては名誉である。
ルシフが自分でも知らないうちにとった裏切りは、ルシフ以外の存在においてありがたいもので、最高のプレゼントになった。
「本当にこうなるしかなかったのか?」
自分自身に問いかけるが、答えが返ってくるわけもない。ルシフにとって、それは答えのない問でしかないからだ。
状況に流され、国勢に流され、望まぬ階級を押し付けられたものにとっては不幸でしかない。
誰にとっても自己満足に過ぎない世界は、誰にとっても幸せでなければならないというのに、ルシフの心は不幸になるばかりだ。
「結局最後まで思い出せなかったか……まあこうなってしまっては仕方がない」
誰もいないはずの部屋にルシフではない声が響いた。
だが、ルシフの目には誰も映らない。
「懺悔を聞いてもらえるか?」
ルシフは誰とも知れぬ声の主に問いかける。
声の主は少しだけ唸ると、なんでもなかったように再び声を響かせた。
「お前の始まりはあの懺悔室にあったのだ。これ以上何を懺悔したいというのか?」
「人生をだよ」
強い眼光でルシフは虚空をにらみつける。
声の主は少し黙り、それからルシフに対して諭すように話し始めた。
「それは無理だ。人生というのは、取り返しのつかないものだからな。懺悔などする必要もないし、そうしたところでなにかが解決することもない。罪の意識を軽減するだけだ……お前には罪の意識を感じるほどの人生はなかっただろう?」
「俺は自分の意志で生きたことがない。全部誰かのせいにして、自分を守ってきたからだ」
「それこそがお前なのだから、否定するのは違う筈だ」
「ああ、だからそれをやめることを懺悔したい」
「なにもかもが遅い。もっと早くそうするべきだった。さすれば約束も破られることはないし、私もお前を罰する必要などなかった……いいや、お前を責めるのはお門違いだ。半分は私の責任だからな」
「いいや、これは俺の物語だ。今までも、これからも。
「裏切り者のシナリオだ」
「誰が考えようが、主人公は俺だ。どれだけ面倒臭くても、取り返しがつかなくなるまでほっておいていいということにはならないさ」
二人の問答は続く。外に声が漏れようとも御構い無しに話し続ける。
「だから悪魔として生きて行くというのか? お前には私の力が宿っているのだぞ?」
「力なんて単なる付属品だ。悪魔の恐ろしさは人を堕落させること、英雄の役割は人を導くこと、俺の人生は次に繋ぐためのものってこと」
「だが、お前に罰を与えたがっていた奴らは、皆堕天した。罰など必要ないのだぞ?」
「だからって俺のやったことはなくならない。これからもずっとな」
「人に与えた善悪の知識か……それと人の死……だがそれだって人に与えるべきものだ」
「神は絶対に間違わない。死の恐怖をもたらしたのが俺なら、死なない恐怖をもたらしたのがダンダリオン……人間さ。悪魔も人間も愚かな生き物だ。これから先、俺が責任を持って終わらせないと」
「もう、元には戻れないぞ……」
「ああ、もう『働かない男』は卒業だ。俺は悪魔だから、家族さえ見捨てることが出来るのさ」
そう言い切ったルシフの左目からは涙が一雫だけ溢れたのが光って、魔力痕がキラキラと輝いては消えた。
それを見た声の主はルシフの覚悟を悟った。
自分がなにを言おうとも、ルシフは言うことを聞かないだろう。だったら、これ以上の問答は必要ない。
「神罰なんて下らない。神としてはあるまじきことだが、私はお前を罰しない。お前はもう天使でも人間でもないからな」
「いや、あんたが誰を罰しようと怒るものなど居るはずがない」
ルシフの返答に、神を名乗る声は小さく笑い、何事もなかったかのように一言だけ言うと、それ以降はなにも話さなくなった。
『管轄外の仕事はしない主義だ』
それを聞いてルシフは思わず吹き出した。
自分自身の傲慢さと、神の屁理屈に対して笑わずにはいられなかったからだ。
「管轄外ね……」
彼は自分の状況を見て、その言葉が今の自分に最もふさわしいものだと思ったが、それは口にしないことにした。
仕事、役割というものはいつだってそんなものだ。やりたくもないことは他人に押し付ける……それが人間社会というものだ。
今となっては、押し付ける側だって心苦しいということに気づいたが、悪魔として、王として、その役割を果たすために王座から立ち上がって、部屋のドアを開けた。
外からは心地よい風と、冷たい風、その両方をルシフは頬で感じた。
下らない世界に、王が必要かなんて問答をする必要はない。
王とはどれほど腐ったところにも必要だからだ。腐っているからこそ必要なのかもしれないが、それはどうでもいいことだ。
ルシフにとって、王という存在がどれほど意味のないものだとしても、国民が求めるものはいつも支配だ。
支配とは、不自由な中に自由を生むもの。だから誰にだって必要なもので、渇望するべきもの。
王にとってもそうだ。
王は自分の上に神を置く。それはいわゆるスケープゴートであり、イコンとも言える。
裏切りはいつだって、不名誉なものであり、自分以外の存在にとっては名誉である。
ルシフが自分でも知らないうちにとった裏切りは、ルシフ以外の存在においてありがたいもので、最高のプレゼントになった。
「本当にこうなるしかなかったのか?」
自分自身に問いかけるが、答えが返ってくるわけもない。ルシフにとって、それは答えのない問でしかないからだ。
状況に流され、国勢に流され、望まぬ階級を押し付けられたものにとっては不幸でしかない。
誰にとっても自己満足に過ぎない世界は、誰にとっても幸せでなければならないというのに、ルシフの心は不幸になるばかりだ。
「結局最後まで思い出せなかったか……まあこうなってしまっては仕方がない」
誰もいないはずの部屋にルシフではない声が響いた。
だが、ルシフの目には誰も映らない。
「懺悔を聞いてもらえるか?」
ルシフは誰とも知れぬ声の主に問いかける。
声の主は少しだけ唸ると、なんでもなかったように再び声を響かせた。
「お前の始まりはあの懺悔室にあったのだ。これ以上何を懺悔したいというのか?」
「人生をだよ」
強い眼光でルシフは虚空をにらみつける。
声の主は少し黙り、それからルシフに対して諭すように話し始めた。
「それは無理だ。人生というのは、取り返しのつかないものだからな。懺悔などする必要もないし、そうしたところでなにかが解決することもない。罪の意識を軽減するだけだ……お前には罪の意識を感じるほどの人生はなかっただろう?」
「俺は自分の意志で生きたことがない。全部誰かのせいにして、自分を守ってきたからだ」
「それこそがお前なのだから、否定するのは違う筈だ」
「ああ、だからそれをやめることを懺悔したい」
「なにもかもが遅い。もっと早くそうするべきだった。さすれば約束も破られることはないし、私もお前を罰する必要などなかった……いいや、お前を責めるのはお門違いだ。半分は私の責任だからな」
「いいや、これは俺の物語だ。今までも、これからも。
「裏切り者のシナリオだ」
「誰が考えようが、主人公は俺だ。どれだけ面倒臭くても、取り返しがつかなくなるまでほっておいていいということにはならないさ」
二人の問答は続く。外に声が漏れようとも御構い無しに話し続ける。
「だから悪魔として生きて行くというのか? お前には私の力が宿っているのだぞ?」
「力なんて単なる付属品だ。悪魔の恐ろしさは人を堕落させること、英雄の役割は人を導くこと、俺の人生は次に繋ぐためのものってこと」
「だが、お前に罰を与えたがっていた奴らは、皆堕天した。罰など必要ないのだぞ?」
「だからって俺のやったことはなくならない。これからもずっとな」
「人に与えた善悪の知識か……それと人の死……だがそれだって人に与えるべきものだ」
「神は絶対に間違わない。死の恐怖をもたらしたのが俺なら、死なない恐怖をもたらしたのがダンダリオン……人間さ。悪魔も人間も愚かな生き物だ。これから先、俺が責任を持って終わらせないと」
「もう、元には戻れないぞ……」
「ああ、もう『働かない男』は卒業だ。俺は悪魔だから、家族さえ見捨てることが出来るのさ」
そう言い切ったルシフの左目からは涙が一雫だけ溢れたのが光って、魔力痕がキラキラと輝いては消えた。
それを見た声の主はルシフの覚悟を悟った。
自分がなにを言おうとも、ルシフは言うことを聞かないだろう。だったら、これ以上の問答は必要ない。
「神罰なんて下らない。神としてはあるまじきことだが、私はお前を罰しない。お前はもう天使でも人間でもないからな」
「いや、あんたが誰を罰しようと怒るものなど居るはずがない」
ルシフの返答に、神を名乗る声は小さく笑い、何事もなかったかのように一言だけ言うと、それ以降はなにも話さなくなった。
『管轄外の仕事はしない主義だ』
それを聞いてルシフは思わず吹き出した。
自分自身の傲慢さと、神の屁理屈に対して笑わずにはいられなかったからだ。
「管轄外ね……」
彼は自分の状況を見て、その言葉が今の自分に最もふさわしいものだと思ったが、それは口にしないことにした。
仕事、役割というものはいつだってそんなものだ。やりたくもないことは他人に押し付ける……それが人間社会というものだ。
今となっては、押し付ける側だって心苦しいということに気づいたが、悪魔として、王として、その役割を果たすために王座から立ち上がって、部屋のドアを開けた。
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