インフルエンサー

うた

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インフルエンサー 4

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ホテルは四人部屋で、俺は当然ながら大衡達と同室になったのだが、ここでもまた一波乱あった。
風呂から戻ると早々に色ボケの陽キャ二人はまた彼女のところへ行ってしまったのだ。不純すぎるだろ。流石に消灯時間には戻ってくるだろうけれど、またもや大衡と二人きりだ。
畳に敷かれた布団の上に座り、ただ無言でスマホを弄る。部屋は沈黙に包まれている。き、気まずい……。やっぱりこいつと二人だと間がもたない。カフェで打ち解けられたような気がしたのは気のせいだったのか。上野でも下田でもいいから戻ってこないかな……なんて思っていた時。
「小山」
「な、なに?」
不意に話しかけられて思わず声が裏返ってしまう。大衡はスマホを弄っていた手を止めてこちらを見ていた。
「連絡先教えろよ」
「え……」
「明日も自由行動だろ。何かあった時連絡取れないと困る」
「ああ、うん……」
そういえば同じ班なのに連絡先を誰とも交換していなかった。もしはぐれてたら終わりだったな。
お互いスマホを操作し、LINEの友達リストに大衡が追加された。なんだか不思議だ。そもそも俺達って友達なんだろうか……いや、こんなにムカつく友達は嫌だ。
「ついでに写真送ってやるよ」
大衡は今日結構な枚数の写真を撮っていたようだ。行った先々で撮った景色や寺院の写真が送られてくる。
……こいつ意外と写真上手いな。構図の取り方とか光の加減が……オシャレというか……。癪だから言ってやらないけど。でもなんかこういう感じの写真、どこかで見覚えがあるような……。
そんなことを考えていたら、最後に届いたのは竹林の小径で撮られた俺の写真だった。半目だった。なにこれ。最悪の写真写り。
「な?間抜け面残しておくって言っただろ?」
「お前マジで最悪!消せよもう!」
やっぱり嫌がらせかよ!もしかしたら良い奴かもなんてほんの少しでも思った俺が馬鹿だった。大衡はおかしそうに笑って「無理」と言った。ちくしょう。こんな時に心からの笑顔見せてんじゃねえ。


結局その後すぐに上野と下田が戻ってきて、部屋は途端に騒がしくなり俺はまた蚊帳の外となった。手持ち無沙汰になり、そういえば今日はTakaくんのSNSをチェックしていなかったことに気づいた。アプリを開くとちょうど少し前に投稿されたばかりの記事があった。
「修学旅行一日目」というタイトルで、京都で撮った写真が何枚も載せられていた。渡月橋、竹林の小径、金閣寺、清水寺……えっ、嘘、俺が行った場所ばっかりじゃん!まさかマジでどこかですれ違っていたのかも!?一気にテンションが上がる。
それにしても、いくら定番の場所ばかり回ったとはいっても被りすぎじゃないだろうか。こんな偶然ってあるのかな……。そう思いながら写真を眺めていると、あることに気づいた。

なんか……既視感があるような……。

まさか、と思い立ち、先ほど大衡から送られてきた写真を見返す。この写真も、こっちの写真も……全部同じだ。
状況が理解出来なくて頭が混乱してきた。大衡がTakaくんのSNSの写真を俺に送ってきたってこと?
……いや、多分それはない。そんなことをしても何の意味もない。ということは、まさか……。

ドキドキとする心臓の音を聞きながらもう一度SNSを開き、Takaくんが載せた写真を一枚ずつ見ていく。そして最後の写真を見た時、画面をスワイプする俺の指が止まった。
そこに写っていたのは、あのカフェの抹茶ラテ。そして、向かい側にはフォトジェニックなプリン。
人物はぼかされていて誰が向かい側にいるのかは特定出来ないようになっている。でも、俺にはそれが誰だか分かった。いや……きっと俺にしか分からない。
その写真には一行だけ、文章が添えられていた。


『修学旅行一日目。好きな人と二人で回れて楽しかった』


騒いでいる上野と下田の声がどこか遠くで聞こえる。
震えそうになる指でLINEの友達リストを開く。一番上に表示されているのは、ついさっき追加したばかりの名前。
『大衡鷹史たかふみ
鷹史……たかふみ……Taka……。


……マ、マジで?
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