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ギィィィ…
村のどのあたりだろう?庭の草はボーボーで手入れも管理もされていない建物に師匠は当然のように入っていった。裏口の鍵を開けて入ったのだから、不法侵入ではない。はず。だと思っているんだけど、師匠なにするかすかわからないからなぁ。
軽いため息をもらしながらも、黙って師匠についていく。師匠は1階の少し広い場所にあるテーブルの上に座って嫌そうな表情で言った。
「そう不審な目で私を見てくれるな。大丈夫だ。ここは私の一番最初の工房だった場所だ」
「えぇ!?ここがしsyふいおjし」
「大きな声を出すな!バカ弟子!騒ぐな!大声出すな!いいな!?」
「ふぅぅん、ふぅぅん」
後ろから羽交い絞めにされ口をふさがれてとにかくうなずく。どうやら誰かに見つかったらいけないようだ。
それにしてもこんなところに師匠の最初の工房があったとは。
「ぷはぁっ。はぁ…はぁ…。きゅ、急に驚くじゃないですか。いきなり後ろからやめて下さいよ。死んじゃうじゃないですか!それに、なんで見つかったらダメなんですか?自分の工房に戻ってきたなら普通にすればいいのに」
「戻ってきたわけじゃない。ほらっ」
私は部屋の壁にある棚や、テーブルを見て回りながら、月灯でうっすらと見える師匠のもと工房を見ていた。よく見るとカウンターもあってカウンターの奥には陳列棚もある。あそこにポーションや薬を並べて、こっちのテーブルには便利な道具を並べて、夢や妄想が膨らむなぁ。と思っていたところに師匠は私にキラっと光る何かを放り投げた。
「いだっ」
おデコにあたる。暗いし見えないし、運動得意じゃないし、急だったし。光ったものは金属音とともに私の足元に落ちる。ゆっくりと拾い上げて月明かりに照らしてみる。
「これ、…鍵ですか?」
「そうだ、この工房の鍵だ。ここをお前にくれてやる。だから私が戻ってきたわけじゃない。ここを好きに使ってくれ。その方がみんなよろこぶ」
「ここ…ここって!!この工房をですか!?」
みんな?みんなとは?と思って気になったのは確かだけど、今は自分に工房をくれる、と言われた方が驚きだった。
「ここって、師匠の…その、大切な場所ですよね?テーブルや棚も、ホコリはありますけど壊れてないですし、ずっと放置してたにしては綺麗すぎると思います。もしかして、たまにきて掃除してたんじゃないですか?師匠なら瞬間移動もできますし、いつかここに戻ってくるつもりだったんじゃないですか?」
放浪癖があり帰ってこない。お昼まで寝てたりする生活習慣の悪さ。それもこれも、実はこの工房の維持管理を私にバレないようにこっそりとしていたからでは?もしそうなら私は師匠の事をすごく誤解していた。
私が覚えている限りここの事は知らない。10年以上師匠が私に内緒でここの手入れをしていたのなら、そんな大事なものを何の見返りもなしに貰うことはできない。
「いいんだ別に、この場所に未練はないし、戻る予定も私にはないんだ。だからここはエリナが使った方がいい」
「も、もらえませんよ!いくら師匠でも、家ですよ?工房ですよ?わたし恩返しできるものなにもないですもん!」
「昨日言っただろう?お前の人生は私に任せろって。朝も話してたじゃないか。夢があるって。まだ早いかもしれないがどうせやるなら早い方がいいかと思ってだな。もしどうにもならなくなった時は帰ってくればいいさ。そう重たく考えてくれなくていい。師匠がなんかくれた、それが飴か家だったの違いってだけだ」
確かに言ってたし、なんなら私が朝言ってた『村でお店を開きたい』っていうのにはぴったりかもしれないですけど、なんかいろいろダメ。そもそも飴と家ってレベルが違うでしょ。それにこんな形で工房を貰ったらあとで何を要求されるのかわからなくて怖すぎる。
どうしよう、どうしようとアタフタしていた私を見て師匠は困ったようすだったけど、
「わかったわかった。私の降参だ。それじゃあこうしよう。金貨1000枚。期限はつけない。ここで頑張って金貨1000枚稼いでくれ。そうしたらこの工房はお前に譲る。これで納得できるだろう?」
師匠は煮え切らない私を見て『お手上げ』って感じだった。その妥協策が金貨1000枚ときた。
ざっくり金貨1枚10000円くらいの価値だったから、前世で言うところの住宅ローンのようなものなんだろうけど、こんなのでいいのかな。ちょっとなんか不安が残るけど…。まぁ。なにか裏があるわけでもなさそうだし、本当に私を捨てたい、邪魔だと思ってるならこんな回りくどいこともしないだろうし、なにか師匠のなかで私にここで店をやることで得になることがあるのだろうか?…。うーん。わかんない。でも、本当にここでお店ができるなら、やってみたい。と思っている自分がいるのもまた本当だしな。
「し、師匠はそれでいいんですか?あとでいきなり私のことを、その…お、おお、襲ったりしませんか?」
「お前はいったいどーゆー目で師匠である私を今まで見ていたんだ!」
「今朝みたいなことするから信用ができなくなっちゃうんじゃないですか!」
「…あ、あれはその、ちょっとしたイタズラだ。今日からお前はここで暮らすんだから最後に添い寝をしておこうかと思ってだな」
「こ、ここで暮らす?一人で?師匠は?一緒にいてくれないですか?」
「あたりまえだ。毎日ここまでどうやって通うつもりだ?お前は瞬間移動も、空飛ぶじゅうたんも持っていないだろう?ここでいちから頑張ってみろ、お前はこの大陸1の天才錬金術の妹なんだ。自信を持ってくれ!」
なんか、散々いいように勧められていいように丸め込まれて、この最果ての村にある工房で私は生活するようになった。昨日アカデミーを卒業したばかりのランクF錬金術士がこの村で一人、うまくやっていけるわけがないのに…。
あぁー!せめて部屋からいろいろ持ってくればよかったぁー!!
村のどのあたりだろう?庭の草はボーボーで手入れも管理もされていない建物に師匠は当然のように入っていった。裏口の鍵を開けて入ったのだから、不法侵入ではない。はず。だと思っているんだけど、師匠なにするかすかわからないからなぁ。
軽いため息をもらしながらも、黙って師匠についていく。師匠は1階の少し広い場所にあるテーブルの上に座って嫌そうな表情で言った。
「そう不審な目で私を見てくれるな。大丈夫だ。ここは私の一番最初の工房だった場所だ」
「えぇ!?ここがしsyふいおjし」
「大きな声を出すな!バカ弟子!騒ぐな!大声出すな!いいな!?」
「ふぅぅん、ふぅぅん」
後ろから羽交い絞めにされ口をふさがれてとにかくうなずく。どうやら誰かに見つかったらいけないようだ。
それにしてもこんなところに師匠の最初の工房があったとは。
「ぷはぁっ。はぁ…はぁ…。きゅ、急に驚くじゃないですか。いきなり後ろからやめて下さいよ。死んじゃうじゃないですか!それに、なんで見つかったらダメなんですか?自分の工房に戻ってきたなら普通にすればいいのに」
「戻ってきたわけじゃない。ほらっ」
私は部屋の壁にある棚や、テーブルを見て回りながら、月灯でうっすらと見える師匠のもと工房を見ていた。よく見るとカウンターもあってカウンターの奥には陳列棚もある。あそこにポーションや薬を並べて、こっちのテーブルには便利な道具を並べて、夢や妄想が膨らむなぁ。と思っていたところに師匠は私にキラっと光る何かを放り投げた。
「いだっ」
おデコにあたる。暗いし見えないし、運動得意じゃないし、急だったし。光ったものは金属音とともに私の足元に落ちる。ゆっくりと拾い上げて月明かりに照らしてみる。
「これ、…鍵ですか?」
「そうだ、この工房の鍵だ。ここをお前にくれてやる。だから私が戻ってきたわけじゃない。ここを好きに使ってくれ。その方がみんなよろこぶ」
「ここ…ここって!!この工房をですか!?」
みんな?みんなとは?と思って気になったのは確かだけど、今は自分に工房をくれる、と言われた方が驚きだった。
「ここって、師匠の…その、大切な場所ですよね?テーブルや棚も、ホコリはありますけど壊れてないですし、ずっと放置してたにしては綺麗すぎると思います。もしかして、たまにきて掃除してたんじゃないですか?師匠なら瞬間移動もできますし、いつかここに戻ってくるつもりだったんじゃないですか?」
放浪癖があり帰ってこない。お昼まで寝てたりする生活習慣の悪さ。それもこれも、実はこの工房の維持管理を私にバレないようにこっそりとしていたからでは?もしそうなら私は師匠の事をすごく誤解していた。
私が覚えている限りここの事は知らない。10年以上師匠が私に内緒でここの手入れをしていたのなら、そんな大事なものを何の見返りもなしに貰うことはできない。
「いいんだ別に、この場所に未練はないし、戻る予定も私にはないんだ。だからここはエリナが使った方がいい」
「も、もらえませんよ!いくら師匠でも、家ですよ?工房ですよ?わたし恩返しできるものなにもないですもん!」
「昨日言っただろう?お前の人生は私に任せろって。朝も話してたじゃないか。夢があるって。まだ早いかもしれないがどうせやるなら早い方がいいかと思ってだな。もしどうにもならなくなった時は帰ってくればいいさ。そう重たく考えてくれなくていい。師匠がなんかくれた、それが飴か家だったの違いってだけだ」
確かに言ってたし、なんなら私が朝言ってた『村でお店を開きたい』っていうのにはぴったりかもしれないですけど、なんかいろいろダメ。そもそも飴と家ってレベルが違うでしょ。それにこんな形で工房を貰ったらあとで何を要求されるのかわからなくて怖すぎる。
どうしよう、どうしようとアタフタしていた私を見て師匠は困ったようすだったけど、
「わかったわかった。私の降参だ。それじゃあこうしよう。金貨1000枚。期限はつけない。ここで頑張って金貨1000枚稼いでくれ。そうしたらこの工房はお前に譲る。これで納得できるだろう?」
師匠は煮え切らない私を見て『お手上げ』って感じだった。その妥協策が金貨1000枚ときた。
ざっくり金貨1枚10000円くらいの価値だったから、前世で言うところの住宅ローンのようなものなんだろうけど、こんなのでいいのかな。ちょっとなんか不安が残るけど…。まぁ。なにか裏があるわけでもなさそうだし、本当に私を捨てたい、邪魔だと思ってるならこんな回りくどいこともしないだろうし、なにか師匠のなかで私にここで店をやることで得になることがあるのだろうか?…。うーん。わかんない。でも、本当にここでお店ができるなら、やってみたい。と思っている自分がいるのもまた本当だしな。
「し、師匠はそれでいいんですか?あとでいきなり私のことを、その…お、おお、襲ったりしませんか?」
「お前はいったいどーゆー目で師匠である私を今まで見ていたんだ!」
「今朝みたいなことするから信用ができなくなっちゃうんじゃないですか!」
「…あ、あれはその、ちょっとしたイタズラだ。今日からお前はここで暮らすんだから最後に添い寝をしておこうかと思ってだな」
「こ、ここで暮らす?一人で?師匠は?一緒にいてくれないですか?」
「あたりまえだ。毎日ここまでどうやって通うつもりだ?お前は瞬間移動も、空飛ぶじゅうたんも持っていないだろう?ここでいちから頑張ってみろ、お前はこの大陸1の天才錬金術の妹なんだ。自信を持ってくれ!」
なんか、散々いいように勧められていいように丸め込まれて、この最果ての村にある工房で私は生活するようになった。昨日アカデミーを卒業したばかりのランクF錬金術士がこの村で一人、うまくやっていけるわけがないのに…。
あぁー!せめて部屋からいろいろ持ってくればよかったぁー!!
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