八法の拳

篠崎流

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その後
九月の初頭

先の一戦から宣言通り、アニタが全女に参戦する。葉月との直接の戦いを避けて「葉月軍」所謂若手軍に加わる

もちろん演出もある、この際、彼女の知名度から言えば、どちらに入っても盛り上がるのは事実である

ただ、シングルだとまともに相手に成る選手が社長と葉月だけであり、それをどうにかしないと成り立たないのもありこの様な手法がとられた

こちらの中堅選手とアメリカWWLの外国人選手の交換派遣、そこで外国人選手をレイカに集めるそしてそれに対抗する若手達である

実際アニタは葉月の当初のやり方を同じ形で当てはめられた。タッグ、6人タッグ等がメインで戦力調整で一進一退の攻防を展開した、それ自体もかなり上手く行き、好評であった

ただ、偶に大型戦は組まれた、向こうの上位WWLの選手と社長が組んでアニタ&葉月での試合等もあり、かなり盛り上がった

この頃に成ると葉月もあらゆる意味で「上手く」成っていた。リングワーク、ペース配分、力の強弱で「魅せる」事と時間を使う事

そして先の対戦で「失神KO」させてしまった事もあり、10~7割の力の調整である

「ただ勝てばいい」ではダメだとも分った。そしてアニタが傍に居る事でそこから学ぶ所も多かった

彼女も若いがキャリアは多く、上から下まで戦っている、そして全ての基礎技を「必殺技」と評される程極めている事である

現に、アニタキャノンもハイゲートブリッジジャーマンも必殺技には違い無いがオリジナルホールドの類ではなく、ただのラリアットとジャーマンスープレックス。それが必殺技にしているのが「余りにもキレる、そして美しい」錬度故であった

普段の彼女はまともな事は言わない、だが彼女の雑誌でのインタビュー記事を見た時分った

「私たちはお客さんに食べさせて貰ってます、だから強いだけじゃ来てくれません。あくまで美しく、驚く様なモノをミセマス。そして来てもらうのデス。ワタシは衣装も入場も気をツカイマス、それが本当にスバラシイプロレスです!」

これが金言だった
そこから自分で考え。「上手く」なって行ったのである

元々の性格から「好戦的」であるだけに。また、プロレスファンであるだけに、如何に相手の力引き出し。自分も相手もお客を楽しませるか、を考慮するきっかけになった

一方の八陣であるが

この頃から北条が本格的にプロの大会に出る様に成った・空手の大会だが、立て続けに優勝を飾り「天才北条健在」を示したのである

無論空手を立てる意味もあって空手家のまま、胴着もそちらのモノで出場である

特に極新ルールでの実践型試合では無双でもあった。全ての試合 左右の上段蹴りで打ち倒した

「雷光」を自分のモノにした北条は元々言われていた「蹴りの北条」から「雷撃の北条」と自然呼ばれる様になり、雑誌の記事もそう書かれる様になる。尤も、それを最初に書いて浸透させたのも峰岸ではあるが

そしてこの頃には陣との乱取りも10に1,2は一本を取れる様になっていた、さすがに陣も「やるな」と言うしかない

「いや、まだまだ、だ、ようやく一歩さ」

そして北条も自己に甘くはない、無論八陣の中での乱取りでは陣から一本を取る事等、これまで無かった、それだけに嬉しくもあり、実感もあった

肝心の生活だが、それもあって修練に励んだ
社会人プロ大会とも成れば優勝賞金の類もそこそこある、食おうと思えばそれで食えなくはないが北条はバイトも辞めなかったし、協会からの様々な要請大会への出場や指導、協会のちょっとした催しも断らなかった。それも彼の云う「恩義」である

同時に「プロ」としての話も幾つか来る様になり北条も葉月と同じく「有馬」のプロダクションに登録となった

実質的な対外交渉やどこかに参戦、要請とあれば彼が余計な事をしなくて済む様にしたのである


九月中旬、夕方頃
アニタのお願いで自身が八陣の道場を訪れた。早い話こういう事だ、みやびに会って開口一番

「OH!アナタがハチジンのラスボスですね!アナタとも戦ってみたいです!」である
「ラ、ラスボス?」
「という訳なんだけどみやび姉‥」
「何でつれて来るのよ‥」
「ごめん、だって聞かないんだもん」

と、道場で対峙するのであった
アニタは何故か何時ものプロレス衣装に着替え
みやびはそのままの格好で

「えーと、ウチの乱取りは基本参った、でのお互いの納得するまでの練習試合ね、それと全力打撃の類はOUTです、それでいいですか?」
「OK!、でも手抜きはゆるしまセーン!ワタシも手抜きしません!」
(分ってないだろコイツ‥)そう一家全員が思った

ただ、相手がみやび姉だけに大事にはならんだろうというのも共通認識であった、そして練習試合開始である、一応審判に陣が付いた

10分半、後

「ノオーー!ギブアップ!参ったデース!」

と、7回投げ飛ばされ、4回関節取られてうつ伏せにぶっ倒れたアニタである「やはりラスボスツヨイです‥」だった
(そらそうよ)としか皆云いようがない

打撃なら兎も角、投げとか関節とかになるとみやびの相手に成らない、打撃なら相手が陣なら危険な場面を作る事も偶にあるが、事「組む」となると葉月ですら殆ど相手に成らないのである

ただ、更にズッコケだったのが今度は「アナタが八陣の唯一のサムラーイですね勝負です!!」とビシッとポーズ決めて陣にも噛み付いたのである「あのなぁ‥」と陣も呆れるしかない

だが結局譲らず、アニタと勝負となった
そもそもやりたい事を絶対やる、達成する子だ、分からせる、しかないともいえる

そしてアニタはあっさり2回投げられ
3回寸止めで正拳突きと蹴りを顔面に入れられる、それでも相手が納得せず「参った」しなかったのでやむなく

最後の一戦でアゴの先端に一拍子の上段蹴りをカスらせ、脳を揺らしその場に昏倒させて終らせたのである

「ふむ、思ったより悪くないな、打撃対応が上手くなればいい勝負出来そうな所まで伸びるな」

とかるーく云われるそれでアニタは泣き出して道場の畳の上でジタバタしていた

「あれ?」
「あ」の事態となった
「あーあー、陣兄ぃなーかーしたー」
「ええ?!オレのせいかよ!」

しょうがないので慰めて精一杯たしなめてどうにか収めた、それが達成されたのが更に30分後であった

何だかんだでそれがあって夕食も8時に成った、ただ、アニタは気に入った様だ

「OH!これがにほんの家族団らん!庶民のメシですね!」
(割と失礼な奴)とこれも全員思ったが、云うとなんか面倒な事になりそうなのでスルーした

結局乗り込んできた挙句、勝負を挑んで全敗して、タダメシ食った、しかも「泊まる」と言い出して今度は葉月とプレステ対決を二時間繰り広げた

「ハヅキヨワーイです」
「クッソー!」とここではアニタは勝った様だ

最後に勝って機嫌を取り戻し、結局葉月の部屋に乗り込んで寝たのであった

「なんか子供みたいだな」
「んー、一応向こうの団体の社長の娘だしね。けっこうワガママ?ぽい」
「そうね、アッチの金持ち、て事はコッチとは規模が違うでしょうし」
「そもそもここまで試合も1敗しかしてないんだろ?挫折とかもあんま無さそう」
「いい経験、には成ってるのかな?」
「だといいわね」
「まあ、たのしそーだし、いんじゃない?」

葉月は軽く云って〆たが、それで済まなかった
翌日の日曜には、アニタは普段着で髪を下ろしグラサン装備で葉月と陣を引っ張り出す

「ハヅキ!ジン!アキバいきます!」

何故か葉月も似たようなカッコをさせられた、どうやら変装のつもりだったらしい。そして案の定いきなり街の入り口でバレる

ただ、相手が相手、なのもあって遠巻きに皆見ているだけで実質声を掛けてくる人はほぼ居ない、偶に知っている人で物怖じしない系統の人が握手やサインを求めてくる程度で左程大事には成らなかった。そもそもその人らもやたら礼儀正しい

まあ、ヘタな接し方をして怒らせるとラリアットが返ってきそうだと向こうからしたら思うのだろうが、SPだのボディーガードより強いだろうし

そんな訳でしこたま買い物した後陣が荷物持ちさせられて帰還したのであった

ちなみに彼女がやたら日本語が堪能?なのも日本版アニメDVDや動画のお陰である、そして更にトンデモな事を言い出したのがその日の夜で

「ワタシタイトルマッチしか帰りません、にほんではここに住みます!シドウもおねがいします!」となった

「はぁ!?」と云いたくもなるが、その理由は直ぐ分かった

「アキバあるし、強い人いっぱい居ます!ゴハンも美味しいです、アニメもいっぱい有ります!」

要は、自分の得に成る事が多いからである
そして割と乙女だった

「ワタシに勝ったオトコ初めてデース、ジンももらいます!!」である
「ええ!?」

そんな流れで結局九重の家に居座った

「それは構いませんがここに住むならこちらの和を乱す行動は控えてくださいね、ちゃんとルールに従ってください」

とみやび姉に言われて、比較的キッチリ云う事を聞いたのではある

「OK,ラスボスに従います!」

そこから普段の試合、興行、生活、そして「指導」も受けるようになった

(主に陣に)

八陣のルールであるが、あれほどズタボロに負けた事で落ち込むかと思ったがそういう心は全く無かった。実際夕方の道場の個人レッスンが終った後、陣も意外だった、それが口にも出た

「あれ?陣兄またやってたの?」
「ん?ああ、普段の行動がアレだからどうかと思ったんだがスゲーマジメな子だな、良く聞き、良く学ぶ、てヤツだ」
「へぇ‥」
「そもそも改善出来る所がかなりあるしな、元々才能も抜群だ、教えるオレも面白いわ、お前もウカウカしてると抜かれるぞ?」
「うぐ」

ただ、それ以外の所はかなり葉月と陣にベッタリだった
何かとへばりついては一緒に行動しようとしていた

「ハズーキ!ジン!食後のゲームの時間デース!」
「またかよ」
「まただよ」

「オフロデース!ジンも来るです!」
「日本にそんな習慣は無い」
「ハイハイ、ボクが入ればいいでしょ」

だいたいこんな感じだった

「なんか妹みたいね」
「年はアッチのが上だがな」

そんである日、学校の溜り場で

「え!?ええ!アニタ=クロフォード、陣さん家居るんスカ!!」事態を知ったメンツも驚きである

「なんか、決めたら聞かない子でなぁ」
「スゲーな、アタシ見に行っていい?」
「オ、オレも!」
「いいけど、オフレコだよ」
「勿論ッスよ」

と日曜には九重の家に七海と悟がさっそく来て対面したのである

「ハイ!アニタです!」
「おお‥本物だ、さ、悟です!」
「橘七海です」

二人共握手とサイン貰った
「スゲーな、そんでアッチも‥」と悟が云った所で

七海がスリッパの片方を静かに脱いで悟の後頭部を叩いた「スパーン!」と綺麗な音がした

「いって!?何しやがる!」
「いや、なんか、イヤラシイ視線を感じたんで」
「ぐ!‥しゃーねーだろ、あんな巨大な‥」と言いかけて

もう一回「スパーン!」と綺麗な音が響いた。要するにアニタの90センチオーバーのバストに目が行ったのである

「何やってんだお前ら‥」

結局朝から昼まで雑談とゲームしてタダメシ食ってホクホクで帰ったのである

ここまで来ると全女も有馬も絶好調である。海外展開、輸出、動画、グッズ、円盤も絶好調で、新人や他のジャンルからも全女に集まる事と成るのである

そしてもう一つ。海外展開の影響からの外敵である、それが風見社長から与に伝えられる

「誰?」
「ウクライナの選手だよ。アニタや葉月ちゃんをご指名なんだが」
「ヴェロニカ=ブラーセン‥、どっかで聞いた様な‥」
「アニタちゃんに「土」着けた選手」
「ああ!、て、マジで?」
「マジデ」

「要するにウチに参戦、て事?」
「ああ、なんらかの形での対戦の申し込みだそうだが、どうする?与さん」

そして与は調査資料をペラペラめくった

「欧州じゃ有名なのね‥アタシ知らないけど、まだ22歳、サンボ、レスリング、へぇオリンピックや世界大会でのメダル経験ありか‥173センチ65キロ結構美人ね~ムカツクわ」
「まあ、写真集とかもあるらしいけど見るかい?」
「そういう趣味は無いけど、どーしよーかなー、んー。向こうの条件は?」
「金は安いね、こっちに定期、継続参戦してもいい、て事らしいよ」
「うーん、何が目的なのかな、よーわからん」

「まあ、彼女もプロ化して出たのはいいけど、格闘技の商業化にはまだ地味、てか、アメリカや日本と違ってキッチリした商業団体て無いからねぇ。しかもヴェロニカは向こうじゃ敵なしだし、その割りに知名度が低い、てのはあるね」
「ああ、つまりコッチで名を売ろう、てか?」
「それもあるし、稼ぐには日米のデカイ団体のが楽、てのはあるねそもそも彼女はフリーに近いしね」
「へぇ、結構美味しい選手ね、ウチで買っちゃおうか?」
「そこは与さん次第だね、こと商業的なと成れば、どうビジネスに結びつくかはアタシの判断はイマイチだし」

「そうね、人気出るかどうかもあるけど、ウチで全部やってあげたほうがこの子にも得かもしんないし、まあ、とりあえず呼んじゃおう」
「OK、カードはアタシが決めていいんだね?」
「ええ、そこは風見さんの手腕をアテにしてるわ」

と、かるーい気持ちでこの選手を呼んだのである「まあ、年俸安いし、コケても痛くないしね」という程度で与も判断したのだが

実際呼んで興行に、初回と言う事で団体の中堅選手とのタッグ戦に混ぜて稼動したがその実力に驚いた

正直、素人目には分らないのだが、兎に角寝技がキレる、早い、殆ど別次元に強い、試合も殆ど相手に何もさせず押さえ込む。そして問題なのが「プロレス的でない」事である

実際に見た与も風見も逆に困った事態と成った

「所謂ガチ系ね‥」
「めちゃくちゃ上手いな、けど使いにくいね‥」

それで済まないのがアニタである

「な、何でアイツをヨンダですか!アタエ!」だった
「いや~‥だって経歴も凄いし、お買い得だったから‥」
「アイツはプロレス出来るヤツじゃないです!ぶっ壊されますよ!?」
「だから人気がイマイチなのか‥」
「ソウデス、クレパーで上手いデス、でも魅せるイシキあいません。ムボウです」

「けどねぇ、まさか呼んで使わない訳にもねぇ、そもそもアナタと葉月ちゃん指名だし」
「ええ?!ボク!?」
「あれは自分がツヨイと思ってます、イマまで判定でしかマケありません、だからその道のトップに挑んできます。そして勝てばいいひとです、ハッキリ云って、違約金払っても追い出したほうがイイデス」
「そうなの?‥なんかそれもかわいそーな」

「ハヅキはへんな同情しないでいいです、お客さんの為に試合、出来ない人、無用です」
「まあ、そうかもね、葉月ちゃんはどう?」
「んー、単純に勝てる勝てないなら、いけそーだけどね」
「ヤルキなんですか?‥」
「どっちにしろ、コッチの興行には出るんでしょ?避けてもしょーがないしどっかでハッキリさせた方がいいんじゃない?」

「それをハヅキがやるんですか?確かに‥他のヒトとぶつけるよりはイイデスが」
「まあ、ただ、アニタの言うとおりにしてもいいけどね、そんなに損がある訳じゃないし、どっちにしても、日本でもアメリカでも使えないと思うし人気が出るとも思えないし」
「ワカリマシタ、ただ気をつけた方がいいデス、折りに来る訳じゃないですけど、加減をしらないアイテです」
「んー、一応みやび姉にも相談しよう」
「そうね、それは必要ね」

と、今度は三人揃って家へ戻る
そしてみやびと共にDVD鑑賞会

「身長の割り、スマートね、動きも早いし、確かに寝技がキレる」
「デスネ、隙の少ないアイテです」
「アニタは何で負けたの?」
「左肩を脱臼させられました、それでレフェリーストップです」
「で?みやびはどう思う?」
「んー、アニタさんと逆ですね、クールで緩急が殆ど無い、そんで、能力が高い訳じゃない、所謂スペックの高さで勝ってる訳じゃないわね」
「え?そうなん??」

「ええ、運動能力で云えば葉月やアニタさんのが遥かに上ね」
「でも無双してるんだよね、負け無しらしいし」
「寝技、てのは訓練と経験に比して伸びますから、向き不向きはありますが練習すればその分伸びます、その錬度の高さが群を抜いているだけですね」
「ほほう」
「経歴を見る限り、最初からレスリングやサンボですから、そこから自分はココしかないとそこを伸ばした、まあ、ハッキリ云ってプロレスに来たのが間違いでしょうね」

「ソレハあります、そもそも総合系のが向いてます」
「打撃は殆ど手業、掌打ですね、そこから小さく当てて、連動して関節クレパーですねぇ、かと云って陣とも全く別なタイプだし‥」
「ボクがやったらどう?」
「本来の八陣なら問題ないですが、「試合」となると面白くないでしょうね、ただ、ここまでキレる相手だと、ミスが許されない、勝ち負けは云えないわね」
「基本的にボクとアニタちゃん指名らしいから、無視は出来ないんだけど」
「そうですねぇ、うーん」

考え込むみやび

「とりあえず、呼んでしまったのなら、後、いずれヤルなら、二人にも技が必要ね」
「どんな?」
「んー‥まだ早いと思うけど「与命」の対サブミッション防御の技法を幾つか、多分、基礎はそんなに苦労はしないで身に付けられるハズ。特にどっちが、葉月にしろ、アニタさんがやるにしろ、極まったら終わりじゃ困るし、保険的に必要ね」
「ふむふむ」
「関節、てのは一旦完璧に極まると逃れられないわ、それをどうにかする為の技ね、ま、プロレスはエスケープがあるけど」

「ワ、ワタシもやるですか?!」
「この際「苦手、嫌い」は云ってられないわよ?またやられたければ別だけど?」
「うう‥ワカリマシタ‥」

そんなこんなでアニタと葉月はその日から特訓である。葉月は兎も角、アニタはかなりきつい、これまでサボった分、である

「では「与命」の無力を教えます」
「ハーイ」

訓練は非常に簡単。動きながらのリラックスである、まず、最初に両手を前に出し、そこに「置く」両者で交互に引っ張ったり下に押したり、肘を曲げさせたりと相手側が全力でやる、対して受け側は力を入れず防ぐ、ただそれだけだ

「力を抜く、てのが意味ワカリマセン」
「人間は全力で力を入れるとかえって力が出ません、だから全身の力を抜いて「そこにあるだけ」の力だけ残します、そうすると相手は投げる事も関節で腕を伸ばすことも出来ません」
「んな事出来るの??」
「そうですねぇ‥じゃあアニタさん私は抵抗しないので投げてみてください」
「ハ、ハイ」

と正面から抱えて全力で後ろにフロントスープレックで投げるが「ア、アレ??」

みやびは抱きつかれた体勢のまま両手を軽く挙げて指先をヒラヒラ動かす「うぐぐぐ!!」と後ろに投げようとするがビクともしない

「ハイ、私は全く力を入れてません、抵抗もしません。極まってくるとこの様に成ります」
「マジックみたい‥」
「これは合気道では「合気」と呼ばれる技術です。まあ、あれです分り易く云うと。子供を抱える時普通は簡単に持ち上がります、ですが、相手が無意識、寝ていたり、寝ようとしていると逆に重くなります。人間は意識をしてないと数字上は変わりませんが相手からは重くなります、その「意識」「力の入れ具合」の法則を利用したものです」

「この練習も手の先、指や手のひらは完全に脱力させます、そして相手が押そうとか曲げようとする力のポイントだけで抵抗します、それが出来れば関節が入った際も、例えば腕十字などで腕の伸びきりを防げます、また、入っても耐える労力が少なく脱力している為かなり耐えられます」
「口で言うのは簡単だけど‥」
「その通りですね、ですから、咄嗟に動きながら出来る様にします」
「うーん」
「ま、これも慣れですね、出した手を「空間に置いておく」以上の力は要りません、その意識でやってください」
「ほーい」

ただ実際はコレは直ぐ出来る、アニタも葉月も交換しながらやったが案外楽だ

「成る程」
「ナルホド」と感覚的には理解出来た様だ

「では、二人で練習してください、後、葉月はアニタさんに通常のグラウンド練習もしてあげてください」
「そこでもこの技法を使えばいいんだね?」
「ええ、その方が通常の寝技練習になっていいでしょ。まあ、ただ実際に寝技攻防で使うのはかなり慣れが要りますね、人間の条件反射を否定する練習とも云えますから」

「うむむ、確かにこれはムズカシイ」
「手が伸びてきたら咄嗟に動いちゃうよね‥」

理屈は簡単なのだが、これを実践レベルでやるのは非常に難しい、そもそも「合気」も出来る、完璧に使える人はそう居ない

ただ軽い寝技スパーリングでそれを繰り返す内、アニタもコツを掴んだ

「おお!?力、抵抗しなくても、ガード出来ます!」
「え?この十字固め入ってないの?」
「ハイ!痛くありま‥‥アイタタタタタ!」
「ちょwww」
「油断シマシターギブデース!!」

(何してんのよ‥)とみやびも思いながら微笑ましく見ていた

実際、これは極めた方には入った様にしか見えない。が、ギリギリの所、腕が伸び切って関節を極められた所のほんの数ミリ前の状態からも伸びきりを防げる、しかも最小限の力で、ただ、絞めには有効な技ではないが、それも後日指導した

肝心のヴェロニカだが、社長のマッチメイクあって葉月やアニタとの対戦は無かった。ある程度時間が必要、という事でもあり、彼女の参戦からの客の反応を見る為である

ただ、まるで人気が出ない、という事も無かった。そもそも美人だし、こういうガチスタイルの選手は団体に居ないアクセントとしてはそれほど客の反応も悪くなく意外に問題は少なかった

歓声というのは殆ど無い、玄人思考の一部ファンにウケてどちらかといえば、静かな「オ~‥」という感心のため息が多い

そして、選手がやりたがらない。マッチメイク自体苦労するという事である

やむなく、風見社長と本郷コンビとWWLの女子外国人選手と組ませて試合も一回だけやったが

そこもあまり盛り上がらない。風見自身は寝技は上手いのだが、攻防というよりヴェロニカが隙を見逃さず間断なく攻めてくる為

ヴェロニカは攻めて、風見が守るという流れになり緩急や波が殆ど無く、完全失敗と言える程の試合と成ってしまった

一応、当人とも話したが
「勝つ為の戦いの何が悪いんだ?」であった。風見にとっては頭を抱える事態だ

「どうするかね~アレ‥」

と、思ってた所で葉月が名乗り出たのである

「とりあえずボクやるよ?」
「へ?マジデ?」
「マジマジ」
「つーかアレ面白くするのはねぇ」
「というかさ、このままだとホント当人に良くないし、この際いいんじゃない?やるにしてもやらないにしても、ハッキリさせたほうが」
「そうだな‥分った、任せる」

そしてヴェロニカと葉月のマッチメイクがされたのである。社長にしても手が無く、このままだと途中契約解除に成りかねない、そこで葉月に任せてみたのであった



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