第三勢力のレオ

篠崎流

文字の大きさ
30 / 35

絶華との前哨戦

しおりを挟む
後処理は人間の軍に任せてレオと鳳とエスターも一時、東領主府の客間を用意され滞在して夕食の場で話したが、やはり懸念する事は多い

凄い勢いで飯を食う二人を横目にレオも考え込んだ

「人間側の高級料理て美味しいですね」ハグハグ
「だろ?やはり文化レベルはこっちのが高い」ハグハグ
「お前等普段どんなモン食ってんだ‥」
「採った果物やら肉やら焼くとか塩掛けて食うが殆どじゃね?本国でも料理はいい加減だ。そもそも人間と違って細かい調理法なんぞ無いし、どうでもいいて奴が多い」
「ですね。正直コレだけでコッチに住みたくなりますね」

「今回の一件は割りとあっさり片付いたが魔獣が集団で人間側の生存域に入って侵攻してくるてのは珍しいが、やはり、意図だと思うか?」
「だと思いますよ、獣系なら尚更余計な戦いはしませんから、雑食ですが、餌が無いとしても態々人間なんか食べないでしょうハグハグ」
「虫もそうだが知能が低いからな、脅かせば逃げる事が多い、でないなら、誰かの意図だろうなモシャモシャ」
「前に言ってた獣種の王が出て来た、と考えるべきか‥」
「だとしたら面倒ですね」

「ん?ゼッカの事か?」
「ええ、今は獣種の王になってますよね?」
「ああ。となると意図自体が読みにくいな頭が良いし、常にどんな時も最前線を張ってきた戦士だ、ゼノとはまた別方向の意味で何考えてるか分らん」
「ですねぇ‥」
「一応、知ってる範囲で教えてくれ」

二人はしこたま食った後、濃い目のお茶をズズズと吸って
落ち着いた所で鳳が説明した

「私も全部知ってる訳ではありませんが、ゼッカ様は絶華と書きます。以前言いましたが、魔族とも言い難い別の悪魔ハーフですね、私が幼い頃から常に、その名は皆が知っている程の年長です幾つかは知りませんが」
「ああ、一節には五百歳は越えているとも言われている。大体昔から将だった訳でなく、一人を好んでいる種族として分別されないこともあるが」
「常に最前線を張って来た、とエスター様が仰る通り魔物の世界では内外で発生した争いの多くに参加された方です、過去を知らない私達でも知らない人は居ないと言われる程の歴戦の人です。戦士と言った通り一人の時期が多かったのですが近年魔獣の王に成っています、その強さと経験、名声からですね、ですが、どちらかと云えば戦士なので王に成って後も単独行動が多い、どういう考えでそうするのかよく分らない面が強いです」
「単純に本国からの命とかはない?」
「あっても、当人が気に入らなければ受けませんねまた、誰も命令出来ません。」
「だよな」

「つまり、人間の国を取って来いという方針があっても自身の考えと一致しないとまず受けませんね」
「となると、西大陸に来た、と考えるなら、当人に納得して受ける理由があるとかか」
「おそらくそうだろうな。だとすると逆に目的は絞られるが」
「どういう風に??」
「ええと、絶華様はエスター様の言われる通り常に最前線を張って来た、という人だと言う事、つまり、かなり好戦的な方ですが、あくまで一対一とか自分といい勝負出来る相手に拘る所があります」
「私も記録で読んだだけだが、過去参加した戦いでは、圧倒的に有利で進めた戦ですら、最後には一騎打ちを挑んで勝ったという事が何度かあったらしいからな」

「あー成る程、となると、俺に与したゼノや秋を狙ってくる可能性もあるか、味方の内は戦えないが、勇者の手下になった二人なら殴ってもいい、みたいな」
「あると思いますよ、それとレオ様も例外ではないです」
「俺別に強くないんだけどなぁ‥」
「いえ、ゼッカ様は以前魔界に侵攻した勇者とも戦った記録があります、そういう目標が第一基準である、としても不思議ではない」
「けど、ゼノや秋でもタイマンで戦えるていうレベルなんだろ?俺じゃ相手にならんだろう‥」
「対等な条件なら分りませんよ?お互い同じ武器なら少なくともレオ様は秋様に勝ちましたから」

「つまるところ、俺は魔軍将とどうにかやれるスペックはあるて事なのかな??あんま前線で戦ってないからよくわからんが」
「ええ、少なくとも剣技の勝負ならですね、魔軍将の強さとはすなわち、特殊能力とか、装備とかの面も含めてです、例えばゼノ様は序列では一番ですが事、実戦では秋様のが有利とされているのは、装備と相性ですから」
「ふむ、ブレスが効かんとか言ってたな」
「ええ、ゼノ様は竜として殴りあったら竜の中クラスですが、魔物達とフルスペックで戦ったらまず、殆どの相手に勝てます、それはドラゴンの中で最強を誇る、広範囲高火力のマジックブレスがあるからです」
「逆にそれを土竜槌で防げる秋が相手だと単純に物理勝負に成るので秋のが優勢になる、て事か、なんかジャンケンみたいだな」
「そう考えてもらっても良いかと。ですからレオ様が魔軍将と戦っても長所を活かせば、それなりに何とか成るという事です、勿論現状では不足でしょうが」

「何でもありだとな‥避けて切り返すしかないし肉体的には人間だからもの凄いモロイだろうけど、なんだろう?蜂みたいよな‥」
「このまま修行を続けて暗黒魔法等も極めれば「なんでもあり」の部分でも差は縮まるでしょう、尤もその時間があればですが」
「だよな。ところで、そのマジックブレスてのは?」
「ええと、ドラゴンブレスはご存知ですよね」
「ああ、ファイア、毒、氷結とか吐きつけるやつだろ」
「はい、ですが、ゼノ様は魔力ブレスなんです」
「?」

「口からブレスを吐いてますが、基本魔法て事です、なので、これを耐火装備の類では防げない、しかも相手に寄って、火、氷、闇、光、などを使い分けられます、その上基本魔法なので、範囲と距離もかなり自由ですから。」
「なるほど。魔物だの悪魔だのが避けられない範囲の超遠距離光ブレスとか食らったら、大概死ぬわな」
「そういう事です、ですので魔物では略、ゼノ様には勝てない接近する前に大抵負ける。という事になります、勿論、成長すれば戦闘力も上がるでしょうし。ちなみにですが、ブレス範囲は最大前方九十度、集中して集約してレーザーの様にして撃てば射撃可能距離は十キロくらい、威力重視なら城一つくらいは吹き飛ばせるだろう、と言っていたので」
「移動砲台かよ!」
「そういう運用も可能でしょうね。竜に成って敵対勢力とかの街とか城とか行って、上空から探知出来ない距離からブレス、まあ、大概全滅でしょうね、幸いゼノ様は非常に温厚なのでそういう事は無いでしょうけど」
「オラオラで我侭だったらメチャ酷い事になってるだろうな」

「そういう訳で魔物や同じ竜からも恐れられる理由もお分かりかともっとも、魔軍将同士で争いなんていい迷惑ですし、やるとしても、ある程度条件を揃える事になりますから」
「ああ、そうか‥タイマンやって勝ったら従うルールがあったか」
「です、なので、上位では略ありませんが、小集団のボス同士というのは稀にありますね」
「でもさ、そのゼッカてのは王をぶっ飛ばして王になったんだよね?」
「ええ、確か昔、獣王が絶華様に求婚というか、セクハラしたみたいな形で‥んで、タイマンやってあっさり負けたとか‥」
「それは悲しい理由だな‥」

「まあ、それは置いといて、今後どうする?ゼッカだと想定すると、それはそれで面倒だぞ?」
「んー‥、今回の一件がそうだとすると、何となく目的は分るんだよね。敢て自分で来ないし、人間の国の側だし」
「そうですね‥、策だとするとやはりレオ様狙い感はありますね」
「本国からこっちに来るには何れにしろ人間の国かお前狙いだろうな、ゼッカ当人の目的と本国の命が合致するという事に成る訳だし」
「うむ、俺が相手側だとしても、そうなる、人間の国を取れ、魔軍将が俺の味方に成った事での勇者を倒せ、んで、ゼッカは特定の強い奴と戦いたい、両者の目的も一致するだろう」
「だとすると今は釣りの段階なんでしょうか?」
「多分な、だからおそらく第二弾があるはず」
「私は此処に滞在したほうが良さそうだな」
「出来れば頼みたいが、俺らも暫く居る。向こうが何を考えてるにしろ策だとするならまた仕掛けてくるだろうし」
「確かに」

そういう話合いの結果そのまま東領主府に滞在する事になった。これら会話の内容通りだが、レオも大まかに目算は付いて居る

確定される程ではないので、まだ行動を見る必要もある、同じ事が起きれば、それだけ「事故」でない事はハッキリするがそれはリスクもある。

例えば、相手の動き待ち、釣り待ちだとしても今回の様に、雑魚を使って人間側を突いてくる、それでレオなり秋なりを引っ張り出す目的だった場合、同種の事件が起こる訳でそれは被害の拡大にしかならない

であれば、こちらが動かず相手が釣り餌を投げるのを座して待ってやる必要も無いからだ、だから考慮の結果、現地で次の行動を取った

「鳳、エスター」
「はい?」「ん?」
「二人共、例のゼッカて将と会った事ある?」
「ありますが」

という所でレオは自身の考えを話した

「成る程。相手が再び仕掛けて来る可能性は高い、故に撒き餌を無視して釣り人を探せ、という事ですか」
「二人共召喚得意だよね、んでこっちから相手を探したいがこれを探せるのはゼッカて相手を知ってる必要がある訳で」
「それはまあ、分ったが探してどうする?こっちから奇襲するのか?」
「いや、あくまで交渉、戦うにしても回りを巻き込んでも無駄だから。どういう形でも直接会う機会を作りたい、向こうがこっちを引っ張るためにやってる場合、今後も無駄な小競り合いが起こる、この間の行程を出来れば飛ばしたいという事だ」
「ふむ、やってはみるが‥」
「頼む、それから鳳は秋とゼノの方に連絡してくれ出来れば南側でも哨戒網を絞りたい」
「はい」

まだ限定されては居ないのだが、早い話、ゼッカが主導しての魔物をけしかけて来てるのである、と考えれば意図は比較的明白、人間の国を落せ、という命令を受けて動いているなら、あんな中途半端な戦力では攻めて来ない。

どう考えてもそれ以外な訳で、おそらく鳳やエスターが言った事を合わせれば「特定個人」「あるいは魔物側本国から勇者の撃滅命」のどちからかになる

であれば、秋かゼノかレオを引っ張りだす釣りと考えられる、だから引っ張り出させるのでなく、最初からこっちから出て行ってやろう、と考えた、三者誰が相手の目的であっても、集団戦するよりマシだ

そういう流れでレオは直ぐ動ける体勢のまま待機で鳳とエスターは自身の召喚斥候を複数放ち、ゼッカ探しを行う事になる

とは言え、そう簡単ではないだろう、人間の領土を外して考えても、大陸東の範囲で絞っても滅茶苦茶広いが

これも鳳に指示した通り、範囲を狭める事は可能だ。魔獣を連れて、人間領土内に潜伏する事は無いし、鬼と竜の拠点近くでは直ぐ発見されるし

シュバイクの南は鬼との交易地で鬼の部隊も展開しているし
ヴェルチ大佐の遊撃軍もいる

となれば、人間の領土の近い所で、尚且つ第三勢力の見回り部隊が行かない場所に限定されるので、ツバル、竜拠点、鬼拠点の中間の自然地帯付近、という事になる

鳳を通して出した指示は簡単だ両拠点から主にゼノの直属の手下、ドラゴンを動かし、空から旋回見回り、これで隠れている範囲を狭める追い込み漁だ

結果が出たのが五日後、エスターの使い魔斥候が獣の集団が、南の森でキャンプを張っているのを遠距離から見つけた

「おし!」とレオも二人に指示を出し、ソロのまま現地に向う事になる
「鳳とエスターは後からでもいい、俺が先に行く」として

余裕があれば、相手の位置が分った時点で包囲戦をするなり護衛の類は用意したい所だが逃げられても困るし、単に現地に行くならレオ一人が一番早いというのもある。高速移動、つまり影歩きは一人用だし、接触さえ成功させれば後はどうとでもなる、と考えた

戦闘状態なら無謀ではあるのだがレオにはこの概念が無い、順序で言えば、外交・交渉>戦闘、だから

少々危険ではあったのだが東領主から可能な限りの速度で影歩きと跳躍を使い、出立から一時間後には、指定された現地手前の森林地帯まで辿り着いた

かなりSPカツカツだが、この際しょうがない、そこから自身の足でダッシュして、更に三十分後に、森の中腹の相手集団キャンプに飛び込んだ

流石に相手も驚いたろう、が、レオが最高速に近い移動で接触を図ったのは正解ではある。相手は既にこのキャンプを引き払う準備の最中だったから

ただ、レオもかなりムチャしてこの場に来たのでバテバテで「ぶは!」と激しく息を吐いてorzポーズで突っ伏した

「な、なんだコイツ‥人間?!」

と亜人系のメスが武器を構えて包囲した、相手は少ない。人型の恐らく手下メス三、オス二大型の犬五と、ボスだけ

レオは包囲して武器を突き付けられたが
これをボスが制した、会話から間違い無く、彼女が絶華だ

「よせ、多分ソイツが人間の代表だ」
「な?!一人で来たと‥」
「多分な」

そして向こうの代表であるゼッカは周囲の手下を下がらせ立ってレオを見下したまま待った

ある程度、レオの呼吸が整うを待ったのだろう、五分近く、それが続いてレオも胡坐に座りなおす

「お前が勇者か?」
「あ、ああ‥そうだ、君が絶華か?」

そう問うた彼女もそうだ、と返した

見た目は略人だろう、和装ぽい形の紫の重鎧に湾曲した刀持ち身長はレオよりデカイが百八十くらいだろう、亜麻色の長い髪を後ろに軽く流し、丁度延髄の辺りで幅広の布で束ねていて、見た目だけで言えばエルフの様な白い肌理細かい女性らしい肌

顔も怖くは無い、少しキッとしているが全体的に柔らかい印象で、ややたれ目で眉も山型であるから、そういう印象を受けるのだろう

「年長者」という事前情報の通り人間の感覚から云っても三十代半ばくらいだろうかどっかの奥さんぽい年輪が見える

これも事前情報通りだが「温厚で冷静」の通りだ、この様な状況にも関わらず、慌ても驚きもせず、レオを拘束するでもない、単身で接触してもイケルと思ったカンと情報は略正しかった

「レオ。レオーネ=ベルグだ」
「一人で乗り込んで来た理由は?」
「君なら、多分コッチが何か仕掛けた場合、直ぐねぐらを変えると思ったんでね、ホントは仲間や護衛は要るだろうがとりあえず直ぐ来た」
「ふ‥豪胆な男だな、で?戦う気は無さそうだな」
「まあな、とりあえず外交したい」
「そのつもりはない、が、聞くだけ聞いてやろう」

として、そのまま自身のテントの様なモノに案内しホントに一対一での会談を行った

レオのやる事は別に変わらない、これまで通り「人間と魔物が全面戦争してもどっちにも得が無い」を説くだけだ

それが通じなければ、魔物の作法に則ってタイマンでも勝負でもするだけの事だ、が

「理屈は分る、が、我は本国の意思等重視していないし部族の事も我は尊重している訳でもない」
「獣の王に勝ったから代表に成っただけ、か」
「そうだ、我は此処に来る前に、既に前任の者に本国の集団は預けた、此処で戦って死ぬも、戻らぬも、もう後の処置はしてある」
「成る程ね」
「こちらからも質問がある、いや、疑問か」
「なんだ?」
「お前は同種の手法に寄って秋やゼノを与したのか?」
「そう、交渉、ただ秋とはタイマンして偶々勝った、だから秋とその下の鬼も従っている、リーダー交代はしてないが秋が俺の従う、という事になってる」
「つまり、強制契約や呪いの類ではない、か」
「ああ」

「ゼノは?」
「ゼノは俺にラブラブ」
「エスターは?」
「単独で攻めて来た時、人間側の大将と戦ってやぶれた、以降は恋人みたい関係になってる」
「成る程、皆当人の意思、並びに戦って負けたので下に付いたという事かこれは、我の出る幕はないな」
「じゃあどうする?」
「我の目的は変わらん。人間の領土削り、勇者と戦う、本国の意思と我の意思だ」
「俺と戦っても面白く無いぞ?先代のそういった勇者や英雄とか比較出来ない、大体、武闘派でもないし、前線で常に戦ってきた訳じゃないからな」
「お前がどう思おうと構わん、これは我の側の拘りだ」

「拘り、ね。ならタイマンするしか無い訳か」
「そうだ、我は人間の国を攻撃する、阻止したい、我を従わせたければ個人でも集団戦でもやって止めればいい」

彼女の考えは至って明確である。ある意味、尤もで、魔物のルールに沿っている、とも言える「欲しければ勝て、実力を示し、我を納得させよ」それだけなのだから

「まあ、分りやすくはあるよな」

とレオも納得せざる得ないし、やる事は一つしかないだろう、正直、自信はないが「表へ出ろ」てことになる

一旦、森の中に張ったキャンプから少し移動し河川のある所、比較的平地のある場所まで行きそこで対峙する

「ルールは?」
「単純に各々が持つ全ての技術を使った闘いだ、好きにやれ、部下に手出しはさせぬし、殺しはせん」
「そうか」

そうしてレオは剣を抜き、ゼッカは居合いの構えを取った、レオは何時もどおり、探りからだ。初対面で相手の力を見抜ける様な特殊な技術は無いし、魔物側で最も実戦経験のある、戦士となれば単純な力技は通じないだろう

そもそも「何でもあり」と云えば対等に聞こえるが実際問題、持っているカードに大分差がある

最初の一手はゼッカから、お互い距離を取ってジリジリ迫る体制だったが、ゼッカは居合い、まだ七、八メートルある距離から素振りでもするかの様に、抜いて横に斬った

「!?」と声に成らない声を挙げてレオは咄嗟に後ろに倒れる様に避けた、後ろに引っくり返った更に後ろで周囲の木が爆砕する

「チィ‥遠距離打撃かよ」

言って立って再び構える。要するに真空刃の様なモノだ、咄嗟に後ろに倒れる様にかわせたのはレオには「見えた」からだ

滅茶苦茶早いが、振った刃から斬撃の様な透明なモノが飛んできたのは見えた、ただ、斬撃ではない

避けた背後で木に当たって爆砕した様に、斬れてはいない、何かで殴った様に、えぐれているので「打撃」だろう

レオは距離を保ったまま横に走りゼッカはこれを真空刃で狙撃撃ちする、意図は明白、これが魔法や特殊技能なら何れに弾切れを起こす、無駄撃ちさせる為と射程を測る為だ。本当に見えない斬撃ならどうにもならないが少なくともレオには見える

とは言え、滅茶苦茶早いのは確かだ、振ってから衝撃が後ろの15~20メートルの障害物当たるまで1秒あるか無いかくらいなので真空刃は多分距離と時間から計算して時速七十~八十キロくらいだろうが体感はもっと早く感じる、野球のピッチングみたいに振りかぶって投げてくる訳ではないので、予備動作が少ないし空気砲みたいなもんなので、実弾は極めて見難いレオなら何とか見て避けられる、というレベルなだけだ

更に、軌道も一定じゃない。目視で概算しただけだが、真横に振って飛んできた場合軽く自分の体の横幅の三倍くらいあるので三メートルくらい、しかも剣を振った軌道の通りに真っ直ぐ飛んでくるので、横一文字だったり、袈裟切りに近かったりすると斜め横のまま飛んでくる

レオが元々、不利なのは、レオは本調子ではない、て事、現地に来るまでにかなり影歩きを使っているし、走っても来たのでまだSPも体力も回復しては居ない

「あまり長期戦だとキツイ‥」てのはあるのだがレオは基本的に「把握した上で勝機を拾う」というやり方

堂々と正面から戦って勝てるとも思ってないし、思うべきでもないから

ある程度回避しながら遠距離斬撃を13回程撃たせて把握した、空振りに寄って相手の疲労や焦りは見えない、つまり、彼女自身が技としてやってる訳ではない少なくとも魔力なり体力なりを著しく消耗はしない

これ以上見る必要もない、そこで一つ実験する、ゼッカが飛ばしてくる斬撃を横に飛んで回避せず精霊武器で受ける

ガキン!と鈍い音がしてレオも後ろに弾き飛ばされたが
自身に直接ダメージはない

「つまり、最初に当たったモノに命中すれば斬撃はそこで止まる」と言う事、レオも体力的、魔力的に余裕がある訳でもない、肉体的疲労で動きが止まる前に仕掛けるしかない、ここまで材料が揃えば手はある

横移動から相手の斬撃を転がって避けて、前転の反動を使って前にジャンプする、勿論、この着地を狙ってゼッカはそこに剣を振り斬撃を飛ばす、狙いはここである

レオは着地直前に地面を転がった際、拾った石を投擲、着地と同時に影歩きを発動させる、投げた石と斬撃が衝突し、爆砕して土煙が挙がる

その一瞬の煙幕の中から最高速度で相手に突進しゼッカの右横をすり抜けた後に「ギィン!」という金属打撃音が響く

そう、煙幕でのかく乱から最速の突撃、彼女の横をすり抜けつつ精霊剣ですれ違いざまに斬った

が「やった!」とは思わなかった。狙いは成功し、一撃浴びせるには成功し、胴を薙いだが音で分る様に、彼女の重鎧は抜けなかった

レオはそのまま前に駆けた反動で前に転げ、前転してゼッカに向き直ったが、その瞬間彼女の一撃が飛んでくる。咄嗟にこれも剣を出して受けたので直接被弾はしなかったが、打撃力は結構ある、受けたまま、後ろに吹き飛ばされて5,6メートル地面を滑って止まった

「痛っ!」と思ったが別に斬られてはいないが、その時点でも負けに気づいた。そう、二発目の真空刃を剣で受けた際精霊武器の刃が大きく欠けたのだ

破損した剣のまま、一応片膝に構えてゼッカと対峙したが寧ろ、彼女は勝ったとは思わなかったのだろう、小さく溜息をついて、構えを解いた

「見事だ、我にマトモに一撃を浴びせたのは三人目だ、しかもその貧弱な装備でな」
「精霊武器なんだけどな‥これ」
「それなりにして不足という奴だな。だが、面白かった。装備が同等ならお前の一本と言う所だな、観察眼も作戦も判断力も見事だ、賞賛に値する」
「トドメは刺さんのか?」
「この勝負は預ける、もう少しマトモな装備と体調を揃えろ、その時ちゃんと相手してやる」

そう、言った通り、彼女も全力ではない
勿論レオも「そうだろうな」としか思わなかった

要するに敢て受けたのも加減したのもトドメを刺さなかったのも「計る」為だ、そして彼女の最大の目的は「勇者」なのである「全力で全てのカードを駆使して戦って満足する事」だ

敢て言葉で告げずゼッカは武器を納めて自身のテントに戻った、別れ際に一言だけだ

「我は此処に居る」と

レオもバテバテながら、その場から歩いて戻り森を出た所で、後から到着した鳳らと合流、流石に魔力もカツカツだったので彼女の乗り物で鬼拠点の方に戻った

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...