剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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竜騎士ジェイド編

不屈の努力

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それから更に一年程経過する、その経過はこのような物だ

こうして二人は夫婦と成り、二人の生活を楽しんだ。しかしながら今までの公的な立場が変わったわけでもなく相変わらず忙しく「甘い新婚生活」とはならなかった。

二人は今後の計画を話し合い。
「このままじゃ何も出来ないから、とりあえず仕事を減らさないと」と考え

学園の生徒の中から、やる気と才覚と、特に指導力が高い者を内弟子にとり、後身の育成を急いだ

そうした「特に指導力が高い」者を自分達の兼任していた授業に当て自分達は指導を一つづつ減らす。という作業をゆっくり進めた

それは比較的上手く行き。
「先生止めないで」という不満、懇願は以前よりは少なかった

更にそれに合わせて内弟子の類も徐々に取らなくなり、最終的に「弟子」として残ったのは二人だけにし、学園の方は二人が居なくても回る程度にはなってきていた

合間暇を見て
「マリーの後見人のような立場かな‥」と思い老竜の所へ報告を兼ねて二人で訪問する、ほんとに雪だらけの土地で驚いた

「おじいさん」は氷の山の洞窟奥深くに巨大な竜の姿のまま生活していた。

馬鹿みたいな広いホールで殆ど寝てばかりだそうだが、それほど本人は退屈そうにはしていなかった

それぞれ自己紹介をして挨拶した。 おじいさんは「結構結構。」と笑っていたようだが「さて」と言うと目を細めてジェイドをしばらく見つめていた

マリーは突然ある事に気がついて「ちょ、ちょっとなにしてるのよ!おじいさん」と言った

「え?なんかあるのか?」とジェイドが訳が分からなかったが「かなりの魔力が‥」と呟いた

「はっはっはっ、慌てなさんな。ジェイド殿の「力」をみておったのじゃよ」
「力?」
「サーチという術じゃ、昔はそれなりに皆使ってた魔法なんじゃがな。それにワシは片目が魔眼でな、精神的な資質も見れる」
「驚いたな‥」
「言ってからやってよね‥」

「ふーむ‥精神的資質は高いのぅ‥ワシから見ると強力な青い炎がまとわりついているように見える。それに体自体から白色光が発せられているようにも‥」
「そうなのか‥」
「それ、どんな意味が?」
「精神的な意思の強さ、どのような時でも害されない冷静さ、目的を必ず達成させる継続正しさを貫く正義かの」

「だが‥」
「身体的な特徴は、これまたなんとも妙というか‥そう、実にレアだな。レア竜にはレア人なのかのう」
「?どっか変なの?」
「うーん‥全体的に普通なんじゃが。資質の面で‥」
「普通なの全部?」
「分かってるけど普通、普通って言われるとなんか微妙な気分だな‥」

「いやそれが不思議なんじゃよ‥あらゆる面に置いて資質は普通、良くて中の上くらいだが。現在の総合した戦闘力、武の部分が多くの人間の中から比べても、相当上位くらいの所に到達しておる。つまり「凡才」の資質ならどうがんばっても精精小国の兵士長くらいで止まるハズじゃが、彼の場合現在の力が。恐らく剣だけなら人間の10年史に名が残る名人クラスには行ってるかもしれんレベルに高いんじゃ」
「それすごくない?」
「普通を連呼されてたのにな、なんなんだ?」

おじいさんはブツブツ言いながら首だけ右向け右して近くにいくつか置いてある巨大な宝玉を見て回る、その輝きからエンチャンターの石である事は見て取れる、恐らく人間にとっての辞書や本のようなものなのか?

「うーむ、どこかで聞いたような‥、」と何かを見つけて

「これじゃ!」と言う
「これじゃ、と言われても、マリー分かるか?」
「わかんない‥」

おっほん!と一つついて説明を始める

「まず、どういうことか説明すると、本来才能の限界を超えて「成長する」というのはありえんのだ、どれほど才能に差があっても最終的に到達するのが誰だろうと100は100.それがジェイド殿の場合恐らく、そこを超えて101、102と伸びているんじゃろう」
「そんな事あるの?」
「どこかで聞いたことがあると思ってさがしたのじゃが、いくつか過去に例がある、その一つが、今探した、もはやおとぎ話に載るようなレベルの逸話で「不屈の騎士フィルフェリア」という正伝じゃ」
「ききたいかの?」と勿体つける

(そういうのいいから‥)とジェイドは思ったが、ほぼそれと同時マリーが
「おもしろそう!ききたーい!」と言って目を輝かせていた。

(意外に両者精神レベルは近いのか?)と口に出したら殴られそうな事をジェイドは思ったがそこは堪えて。黙って聞く事にする

「まだ、神、人、魔の世界の境界が曖昧だった頃の話じゃ‥」


とある小国に「剣」とは全く縁など無かった。
フィルフェリアという普通の少女が居た。

ある日彼女は「おつかい」で、国の外に出た
そこで獣に襲われて殺されかけた彼女は寸での所で騎士団の副長を努めていた男に助けられる

彼女は彼に感謝した、そのとき彼女は12歳で、15歳になるまでずっと彼を思っていた

彼女が「その年齢」になると即日騎士団の門を叩いた、ただあの時の思いとあこがれだけで

だが悲しいかな、なんら経験も無く、更に彼女には「剣」どころか「戦い」の才能もなかった

18歳になっても彼女は騎士団に居ついたが、練習も足をひっぱり試合では誰にも勝てず、後から入った者にも追い越される

だが、副団長のあの「彼」は彼女を見捨てず「剣」を教えた、彼は彼女を覚えていなかったが。彼女にとっての憧れの彼は、理想の通りの彼だった。

その時から「憧れ」から「愛」に変わっていったがその思いをずっと封印し続けた

「え??なんで??」
「彼には妻がおったんじゃよ既に」
「うわ‥かなしー‥」

そんなある日ある「人魔」の討伐任務で団は出かけた、が、そこで「彼」を含む多くの団員は人魔に返り討ちにあい殺される

「人魔?」
「人と魔族のハーフじゃよ、この種は大抵双方の悪い部分が強調されるため暴虐である場合が多い、しかも強い」

フィルフェリアは仲間の足を引っ張るからと重要な任務にはいつも外されていたゆえ死ななかった

彼は「強い」から駆り出され死んだ
彼女は「弱い」から死ななかった、皮肉な話だ

「彼」の妻は泣いて過ごしたがしばらくして自殺。雪辱戦の討伐を他の団員を含め願い出たが、国は渋って最後まで出さなかった

「なにそれ‥全然いい話じゃないじゃん‥」
「おちつかんか、本題はここらじゃ!」
(なんだこのコンビ、まじで血縁じゃないのかよ‥)

フィルフェリアは失望して騎士団を辞めた、それから
「こうなったら私が彼の仇を、いつか、」
と思いつめるようになるが自分が救いようの無い程、弱い事を知っている。

そこで彼女は「寝る」時間以外の殆どの時間を剣の訓練に当てた、彼女自身の様々な物と者への喪失感と悲しみを紛らわせられれば何でも良かったのかもしれない

世界中歩き回り、剣を振っては寝て、起きては振り、寝てをずーと続けた。誰彼構わず剣士に挑み、どんな場所でも行き、戦いと剣を振るだけの作業を23まで続けた

その年齢になってある変化があった
「誰にも勝てない」剣士の彼女が、他流試合で5回に1,2回は勝利するようになっていた

そうなると最弱の自分が強くなっていると実感が出て、更に剣に励むようになる

「ちょっと待った!、寝る時間以外を剣の練習に当てたのに、どうやって「更に励む」のよ?」
「恐ろしい事に、彼女は「旅」の移動の時間すら惜しむようになったんじゃな」
「うえええ!?」

彼女が使う技は2つしか無い。余りに物覚えの悪い彼女に「彼」が基礎中の基礎としてやらせた 足を一歩踏み出しての突き、と斬り

それを歩く移動の際全ての時間で「右足を踏み込んで突き、左足を踏み込んでの突き、また右足を踏み出しての斬り、左足を踏み出しての‥」と前進しながら、繰り返し続けた
「執念ね‥」
「もはや狂気すら感じるレベルじゃの」

27に成る頃にはもはや敵は居なくなっていた。
全ての試合で、2手目は必要なくなっていた「2手要らずのフィル」と言われていた

「努力は絶対私を裏切らない」とそれでも続けた

30に成った時彼女はこれならいけると確信を持ち「あの人魔」に挑んだが勝負は一瞬だった。

相手も剣を使っていて終始ニヤニヤしていたが、彼女が一歩踏み込んで剣を伸ばす、軽く剣を出してそれ受けようとしたが、受けた剣ごと人魔の首は両断された。その首はニヤニヤした顔のまま転がっていた

彼女はその首を持ち帰り、元居た騎士団の国に戻って。城に報告。褒め称えようとする国の重臣や王にそれを叩きつけて去った。

「彼」と奥さんの眠る墓前に報告し、彼らの墓の前で丸一日泣いた

その後同年遠方の大国に召抱えられ、近衛兵の筆頭と後身の指導に当たった、彼女の「2手要らず」は事実だったようで、彼女の弟子や同僚はその技を「木刀で大理石に穴を穿った」と証言した。

その頃から自己回想録を執筆しつつ「魔狩り」も続けた、35の頃にはその相手すら身を隠して居なくなった

38で回想録を投函、第三者が調査や物証、証言を取って創作で無い事を概ね確認しそれら証言、物証を同時記載して。本として出された、数は多くはないが、各地の図書館等に収められ至極好評を博したとされる

「うーん、ところでさぁ~。最強の一撃はいいけど、防御どうすんだろ?避けるのかな?受け練習の描写がないんだけど」

「うむ、彼女は防御練習を完全に捨てて。先手を取られたり奇襲をかけられた場合。相手が突いてきた剣その物に攻撃を加えて、叩き壊したり。斬り折ったり、したそうじゃな。相手の攻めを見てから後から打ち込んでも楽に間に合う程早くなっていたそうじゃ」
「うへ‥」
「だが利には叶ってるな。小手打ちを手で無く、武器に打ち込んだだけのことだ」

歳を取っても全く衰えを知らず「二手要らず」で全ての戦いで無敗を誇ったが。

40で近衛と王国騎士を引退
生涯独身のまま45で他界。早世ではあるが、ここは。若年からの体への無理が祟ったのではとも神界に召し上げられた、だの諸説ある

また、38以降の人生については彼女の日記やメモからまとめ追記され再出版、これは大々的に販売され好評であったそうだ

「という話じゃ、恐らく300年程前の正伝とされる本じゃな」

「この本を後注釈した物も出ているが、どう見ても剣の才能が皆無な彼女が。史上最高という剣士にまで引き上げたのは人間が限界を超えようとする行為の結果とか、彼女に同情した神仏が祝福を与え限界を取り払ったのだとか、彼女は人魔の一種なのでは?など、無責任な論評も出ておるが、まあ、そこまで的外れでもないが」

「そうかな~??、後からてきとーな注釈して、故人を侮辱してる感じじゃん」
「全体ではそうだが、抜き出して見ればそうでもないぞい。修練、付与、血だからのう」
「あ~‥」
「修練はジェイド殿其のモノであるし。付与は側にあった物に力が込められていた場合、血はなんらかの親族にそういう血統が混じっていた場合特殊能力として付与されたりする、しかも世代を超えてある孫が突然とかもありうる。これはワシや君。いや、マリー嬢に当てはまるからの。尤も、どれか?と言われても確認は出来んが」

「とにかく、ジェイドはまだ、伸びるかもしれないって事ね」
「続ければな。ただ、限界を超えても、それがどこまで伸びるかはなんとも‥110で止まるとも120で止まるとも言えん。今までが今までじゃから、修練は止めてもやめないじゃろうが」

「それにこの「フィルフェリア」と違い、剣の資質は元々中の上くらいはあるし、精神面では余人の追随を許さぬレベルにあるしの」
「ジェイドってフィルフェリアみたいな無茶苦茶な練習してきたの?」
「そこまでは流石に‥。」

とは言ったが、思い返して見れば、旅の移動中「暇すぎるし時間の無駄だなぁ」と似たような事を一時やってた事を思い出した。気持ち悪がられても困るので秘密にすることにした

おじいさんは「子供が出来たらまたおいで」と言ったが何時の話になるやらと思った

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