剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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傭兵団編

知将

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しかし皇帝ベルフの「しばし時を待て」は意外な程長い期間だった。

エリザベートに再戦の機会が与えられたのは更に半年後の事で、いよいよとエリザベートが準備を整え始めた頃に更に事態は急転しそれは頓挫する。

銀の国への第二次侵攻作戦が半ば暴走気味に西で行われ、決戦。ベルフ軍は又もマリア軍に大敗退し南進計画も先送りになる

戦後賠償と休戦協定でアリオスが駆り出され、多くの兵と資金を失い動きづらく成った理由がある

それから更に半年大陸戦争開始から2年半が過ぎた頃。

ようやく一定の軍備と内政を整え、クルベルへの再侵攻が許可される

エリザベートはベルフの王都に召還され、皇帝と面談する。皇帝は王座に肘を突いて足を組んだまま話す

「クルベルへの侵攻を任せる。お前の好きにしろ」
「ハ、安んじてお任せあれ」
「前回と同じく三千の兵と中級指揮官をやる、好きに使え。 恐らくそれでは兵が足りまい、それとは別に重装兵も三百出す。 それからアリオスも参戦させる」
「アリオスを?」
「うむ、あれの軍も1千はある。全体司令官はお前でいい。アリオスは下に付ける、精精こき使ってやれ」
「はは」

非常に短い会談が終了して王座の間を出る事になる
大体皇帝ベルフの命はこんな物である

各地の司令官、指揮官に金物人を出すだけで、ほぼ責任者に任せるだけである、それが失敗しても咎める事も殆ど無く、特にエリザベートの様な能力も結果も出す将には寛大である

退出したエリザベートはそのまま長い廊下を歩き出す、それに続いて外で待ったクリスが彼女の後に付く

「如何でした」
「戦力は前回と同じ、重装兵三百とアリオスが1千連れて参戦だそうだ」
「これは頼もしいですな色んな意味で」
「フン、そうだな、一番やりやすい将を付けられたもんだ」

そこへアリオスが図ったように女性仕官を二人連れて現れる

「どうも、やりやすい将のアリオスですエリザベート様」と
「お前はほんと変わらんなぁ‥同じ五大将の一人だろうに」
「エリザベート様はエリザベート様ですよ。」
「他の連中は私を呼び捨てだがな」
「私は対等の立場と思っておりませんからね、やはり様をつけますよ」
「余り卑屈な態度もどうかと思うが。」

「で、やりやすい私めにやりやすい仕事でもありましょうか」
「ああ、お前の知恵を借りたい事案が2,3あるのでね、このまま部屋まで来てもらおう」
「畏まりました」

二人は其々に着く従者を部屋の外に待たせ会談することになる、10分ほどの大まかな情報伝達と事案について伝えただけの簡潔なものであったが。 二人が部屋を出て其々の従者は二人の後ろに控える

「では今回はよろしくお願いしますよエリザベート様」
「それはこちらのセリフではあるがな」
「私は他の将と皇帝陛下に通しておきたい要望があるので、しばらく王都に滞在しますので、後ほど」
「分かったでは先に行かせて貰う」

と二人は別れ其々の準備に取り掛かる事になる


それからのベルフ軍の行動は早い。エリザベートは即日自己の騎馬隊を率いてクルベル方面へ向かう

各地に通知して南進計画を伝えつつクルベルとベルフの領地境界に軍を集結させる、この報はクルベル以下傭兵団にも伝わり、いよいよかと皆いきり立つ

「いよいよベルフのエリザベートと再戦という事になる。数日掛かるだろうが、それまで皆生気を養っておいてくれ」

団会議でフリットに伝えられる。いよいよか、という意気の者もいるが、そうでない者も居る、複雑な両方の感情を均等に持っているのは事実だろう

「ま~たあの女将かよ。めんどくせぇ‥」
「どうせまた私達が相手するんでしょうね」
「止められるがうちの団だけでしょうしね‥」
「どうでしょうねぇ‥今度は五大将の一人「知のアリオス」も居ますから」
「うーん良く知らないんだけど、前線での実績を聞かないわよね?」
「武もあるとは聞きますがこれまでの実績が占領地、領地の治世、女王マリアとの講和等、外交実績が殆どですからね。ただ、国策その物にも関わっていて、いくつかの実績も上げていますし、かなり優秀な人物であるのは間違いないです」

「どんな国策?しらないんだけど」
「重装備兵は彼の発案ですね。それから闘技場。兵の育成システムを組んだのも彼かと‥また、皇帝ベルフの知恵袋とも言われて居りますし、見えない所でもかなりあるのでは」
「前線に出て来る事もあるんだろ?将なんだし」
「自己の軍を1千程持っていますし侵攻作戦の類も担当したことも2度ありますがどちらも包囲放置戦法で、戦い自体はほぼせず相手を降伏させるというやり方ですね」
「ベルフらしからぬ、ね」
「いずれにしてもめんどうなコンビですよね」
「うーん‥」
「まあ、あれこれ考えてもしゃーない、始まってみないと何もわかんねーし、俺らは兎に角、戦えるようにしとこうぜ。」

「ショットにしてはまともな意見ね」
「フン、じゃねーとあの女将に雪辱できねーからな」
「戦う気なのあんた‥」
「たりめーだ、1年あったんだ、前の俺じゃねーぞ、こんどこそ‥」
「今度は私達も本隊に加われるんだし、そういう覚悟はあっていいんじゃないかな」
「そうですね、何も一対一でやる必要も無いですし」
「ライナ任せじゃ僕らが不甲斐ないですからね」


普段あまりしゃべらないクイックは自分のナイフの手入れをしながら「なら俺達で一対多数の連携でもやってみるか?構成は揃っているからな」と

一同「え?!」
「猟犬は巨大な獲物を狩る時それをやる、俺達ならある程度練習すれば出来るだろう」
「おもしろそうじゃん」
「と、言ってもそう難しい事じゃない、難しいのは俺とイリアとロックだしな」
「や、やってみます!」
「うむ、じゃあ、明日から其々の武器を持って広場に集合だ。後はそう、ロックはナイフの方がいいな」

そう難しい事じゃない。という通りやり方自体は単純な物だ、だが相手からしたらたまった物ではない戦い方だった

前で戦うメンツは2 中距離から1補佐1、後方から2に分け、案山子相手を人間に見立てて前衛が一人の敵の左右から上下、左右で攻撃が被らないように示し合わせて戦い、その隙を補佐が突き、後衛射手が撃つ、また、前衛が崩れた場合にも補佐が一対一での足止め等を受け持つ。 其々が其々決められた部位の攻撃を担当して間断ない攻撃と味方のサポートをしながら連携するという戦法である

ただ、このメンツの場合ライナが著しく動きが早い為アドリブで合わせるのが難しかった また「うわああああ、めんどくせええええええ」とショットが叫んだが

「全力でやろうとするからだ、周りに合わせてセーブしろ、お前が勝つ必要は無い「誰かが」勝てばいいんだ。ついでにミスって味方の邪魔になったら全部崩れる、途中で剣を止められる程度の力配分でいいんだよ、そもそも前衛は一番楽なハズだろ、後ろから撃つ方が遙かに難しいんだぞ?」

そうクイックに、ぐうの音も出ない程言葉で叩き伏せられ、しぶしぶ続けた

それから丁度十日後、ベルフ軍は領土境界線の野営地から侵攻の行軍を始める、2~3日後には決戦になるだろうとクルベル側も早めに出撃し陣を張ってそれを待った

クルベル軍三千、傭兵団二百

ベルフ軍三千、エリザベートの部隊百、重装兵三百、アリオス手勢1千

前回と同じような陣形、1千ずつ分け、右左中央に布陣しての正面決戦での開戦である、傭兵団も以前と同じく後方からの参戦、エリザベートの側面からの崩しに対応する用意がされた しかし、いざ開戦となると事情が違った

中央最前線に百人騎馬隊が配置され中央突破を早々に仕掛けてきたのだ

これにはクルベル軍も驚いたがそうなっては対応するしかなく、両軍ぶつかり合う

戦闘は最初の一時間から苛烈だった、当然だろう。
猛烈な火力を誇るエリザベートの部隊が正統戦法で中央突破を掛けて来たのだ

クルベル軍は工夫を凝らしエリザベートの突撃に子盾や槍、弓などで対応しようとするが、エリザベートには小細工レベルにしか通じず、それ自体どんどん叩き潰して百人騎馬と共に突破していく

後方に布陣し観戦を決め込むアリオスは馬上でエリザベートの突撃を見て呆れたような笑ったような表情だった

「いやはや、エリザベート様の強さは本軍主力に据えても有効ですなぁ」

となりに居たお付きの女性補佐官のキョウカが

「全軍の総司令官が自ら槍を持って最前線で戦う等非常識も程がありますが‥」と呆れ顔だ

「いいんじゃないですか、楽しそうですし」
「死なれては困るんですが‥」
「一応うちの子達を全部付けてありますから守ってくれるでしょう。そもそも一番攻撃力のある部隊を後ろに置いて指揮など無駄もいい所でしょう、所謂遊兵を作るって奴ですね」
「我々はいいんでしょうか‥」
「ここは平地ですけど、左右が川や湖ですしね、意外に左右に陣形を展開する広さがないんですよね、平坦な。そう、お城の長い廊下で戦ってる様な物ですから、我々が無理に前に布陣するとかえって邪魔なんですよね」
「たしかに」
「まあ、それにエリザベート様が楽しめるのが一番ですよ、ほら」と指指す

「ハハハ!どうしたクルベルの鉄騎士とやら!名前だけの泥人形か貴様ら!」

大声で罵倒しながら槍斧で立ちはだかる敵兵を斬り捨てていくエリザベート

「活き活きしてますね‥」
「適度に運動していただいた方が我々も楽なんですよね、ストレスを溜めさせると後でこっちに八つ当たりされますし‥それにまあ」
「?」
「百人騎馬やエリザベート様を止められる部隊とやらが向こうにもあるみたいですし。それが出し難い状況を作ればいいと思いましてね」
「なるほど」

「まさか主力中央に割って入る事も出来ますまい。数も二百となれば無理やり前線に出れば陣形を崩しかねませんし混乱の元です。まあ、いずれ対応するでしょうが」

アリオスの狙いは完全に成功だった、両側面から少数部隊で突っ込んでくる相手ならクルベル側も同じく傭兵団をそれに差し向ける事が出来るが乱戦の中央に部隊を送るのは混乱の増大させかねないので、傭兵団への出撃が出せない状況にあった 普段から連携している統一軍であれば可能かもしれなかったが、別々の軍なのだ

が、それでもフリットはどうにかしようとしてクルベルの指揮官に直訴

「こちらの団全体は無理でも数人なら出来ましょう」と

フリットとグレイが中央前線に馬を駆って出撃クルベル主力の軍の前線に立つ

「悪いが、ここで止めさせてもらうぞ!」
と前線で槍斧を振るうエリザベートに仕掛け
「おう!、傭兵団の隊長か!少しは腕を上げたか!」言って応じるエリザベート

「期待に沿える程ではないよ」
「それは残念だな!」

そこにもう一人の騎馬武者が現れエリザベートに仕掛けた

「そういう訳だ、俺も参加させてもらうぞ!」とグレイも剣を振るう、エリザベートはその一撃も軽々と防ぎ

「構わんよ!名を聞こう!」
「副長のグレイ=サージェルだ!」

二対一の打ち合いは善戦しエリザベートの烈火の如き進軍はそこで止まる。

それは10分も続いただろうか

「クッソ!、二人ががりでもギリギリ互角か!」
「甘く見るなグレイ!全然向こうは本気じゃないぞ!」
「伊達に二度目ではないな隊長!」

それを見せてやるとばかりにエリザベートはグレイに槍斧を振り撃つ

「グッ!」とグレイは声を挙げてその一撃を防いだが、馬上でぐらつく
「まじか‥!、同じ振り、同じ速度で打撃力が段ちだ‥!」
「残念だったな副長!今ので7割くらいぞ!」

そこへ背後から声が掛かる
「姉上!時間です!」クリスが叫んだ
「応!」とエリザベートはそれに答え、即時馬を返して後退した

「何!?」とフリットとグレイは止まった、

そこに下がったエリザベートの代わりにベルフ軍中央主力が入れ替わりに殺到してくる

「クソ!何事だよ」グレイは声を挙げてそれに応戦する

「ハハハ!悪いな団の二人!これも作戦でな!」

そこから走りさるエリザベート、そこには先ほどまで居たハズの百人騎馬の兵士も居なかった

アリオスの策はこうだった

少数なら入れ替えられるとし、前線で戦う5~10人と後方のアリオスの自軍の兵を、古くなったパズルのピースを入れ替える様に少しづつ取り替える、古くなったピースは休息と補充をしながら再編成、新品にしてから、またその穴埋めに取り替えるという作業を間断なく続け戦闘を只管続けるという物だった

戻ったエリザベートは百人騎馬と共に休息を取り、次に備え、再び前線に出るという次第である、エリザベートはご機嫌だった

「これは相手は堪らんな。向こうは連戦、こっちは交代しながらの戦い」
「まあ、こっちは統一正規軍ですし、この程度の交換戦闘なら可能です、私の軍丸ごと余ってますからね。一方向こうは全軍出して同数な上予備兵は極小、更に例の傭兵団は正規軍ではありませんし、こっちの真似はできますまい、先ほどの様に数人の武芸者を送り込んで来る事は出来ましょうが」

「実にいいやり方だ、出撃の度にこれぞという武芸者と戦えるしな!」
「ハハ‥まあ、精精楽しんでください、これをずっと続けますから」
「何?ずっと?」

「ええ、昼も夜も、一切向こうを休ませません」
「ハハこれは酷い」
「まあ、強いて挙げればですが」
「何だ?」
「他国からクルベルへの援軍でしょうかね」
「ああ、それが来るとこの策は成立せんな」
「ま、来ても精精百か二百でしょうが、その程度なら問題ないでしょう」
「うん?なんかやったのかお前、他国もそこまで数は少なくないはずだが」
「いえね、王都に居る間「我々がクルベルを攻める間周辺国に南進してはどうですか?援軍に悩まされる事はありませんよ」と皇帝陛下と他の将にアドバイスしまして。今頃多方面にも侵攻しているかと」
「抜け目ない奴だな‥」

「神聖国フラウベルト辺りに纏まった援軍を出されると面倒なのでね。兵力も強さも無視出来ない規模ですし、ですが同時に3,4の侵攻ならあちらも大規模援軍は出せますまい」
「これは決着は早いな」
「ええ、まあ‥野戦は‥、もって2、3日でしょう、その後は篭城するでしょうが、そうなった場合は向こうに立ち直るきっかけを与えず速攻で終わらせたいものですが」
「重装突破兵も用意してあるからな。問題なかろう」
「でしょうな」

この間断ない戦闘はその通り続いた。

クルベルもベルフの狙いに気づくが「取り替えられる兵」は余りに過小、しかたなく陣形の後ろと前を少しずつ入れ替えつつ継続するが、事前に準備していた者とそうで無い者の差か、綻びも多く前線を崩す結果にもなる そこを突いてベルフ側はエリザベートの隊や重装兵を逐次投入し傷を広げる

それにも当初の様に団のメンツで兎角武芸に秀でた者を投入し穴埋め対応するが、エリザベートや重装兵を足止めするのが精精であり 又、かならず2~3人で組んで戦わざる得ない為団員の個々に戦える者 フリットらも著しく疲労していった

また、ライナ、イリア、ロックは16、7歳には成るが若年兵であり不眠不休での戦い等厳しかった

特に厳しいのはイリアで神聖術での治療も掛け持ちであり、自ら志願して治療に当たったが、その日の夜には無理が祟り倒れた。これはと思いフリットは三名に街への撤収と休息を強制的に命じて下がらせた

イリアをベットに寝かせ、ライナとロックも自分の部屋に戻る気力もなく無言のまま床で寝てしまった

その間断ない戦闘は一昼夜続き翌朝も相手だけは勢いが継続する、当然の事ではあるが

エリザベートの隊は左翼陣に加わり再び突撃と突破を繰り返す。しかしそこで小さな事件が起きた

突撃するエリザベートに対応しようと傭兵団の幾人かの、前線に送り込まれた剣士の一人に弟クリスが敗れる

腕を切られ武器を落とし落馬したのだ。近くに居たエリザベートは咄嗟にその相手とクリスの間に馬を割り込ませ弟を守った

「大丈夫かクリス!」
「大丈夫です姉上、腕をやられただけです!」そう彼は返し立ったのでエリザは安堵の溜息を漏らした
「すみません下がります」 馬に乗るクリス。

がエリザベートはただではすまない
その馬上の相手と対峙しにらみつけた

「弟に勝つとはやるな何者だ貴様!」
「バレンティア=フォン=ロッシュブルグ。傭兵団の隊員の一人よ」

馬上で鮮やかな赤い細剣を構え、右手全体を覆う様なガントレットを着け、金と銀の髪を靡かせる凛とした美少女は答えた

「ほう‥始めて見る顔だな。その傭兵団は幾人並で無い武芸者を飼っているのか」
「さあね、数えるのに時間がかかるくらいかしら?」
「ハハ!。まったく羨ましい部隊だな。野に置くにはもったいないな」

エリザベートは自部隊のメンツが一人また一人と後退して減っていくのを背中越しに確認していた

「お前ともやってみたいが、時間切れの様だ」
「私は貴方とはやりたくないわね。武器の相性が悪すぎる」

と、バレンティアは細剣を掲げて見せた

「たしかに、これは不公平というものか、次からは普通の剣も持って出撃するとしよう」

槍斧と細剣、立会いならまだしも馬上斬り合いとなればとても対等な条件とはならない

が、エリザベートは馬を返して撤退すると見せかけ、槍斧を首を狩らんばかりに横切りで浴びせる

しかし、その一撃をバレンティアは下から上への突き、槍斧の先端に突き上げ軌道を反らして防ぐ。勢い余った槍斧がバレンティアの頭の上を通過するが。それが分かっていたかのように微動だにせずバレンティアは涼しい顔でやり過ごす

「あら?やっぱりやる事にしたの?」
とバレンティアはゆっくり瞬きをする、その両眼を開いた途端彼女の気質と眼光が一変する

「いいや、ただ知りたかっただけさ。どのくらいの強さかな」
「そう‥で、どうなのかしら?」
「お前が団では一番だな。あの隊長より一枚上だろう」
「光栄ね」
「まあいい、再戦の時を楽しみにしている」

と言うが早いか馬を走らせ下がっていった
バレンティアは溜息をついてやれやれといった感じだった

「とは言っても相打ちするのが精一杯な差かしらね‥」

自陣に戻ったエリザベートにクリスが声を掛ける

「すみません姉上」
「気にするな、どの道アレとやる時間は無い」
「ですが‥あの女とは避けてください」

それはクリスにしては珍しい言い様だった

「知り合い、か?」
「いえ、そうではありませんが、危険な相手です」
「たしかに強いだろうが‥」
「あの女の剣、ご覧になりましたか?」
「ん?鮮やかな赤の刀身の細剣だが‥」

「あれは、塗ってある訳ではありません。後からああなったのです」
「まさか‥」
「そうです「数百の血を吸ってああいう色に成った」のです。そして大陸でそれを持っているのは私は一人しか知りません」
「馬鹿な‥あれがアーリアか!?‥だが、名が‥歳も大分若いぞ?!」
「はい、アーリアは生涯で一人だけ弟子を取りました。それがおそらく‥」
「あのバレンティアという娘か」
「あの剣「集血のレイピア」という名剣ですが、それを死別の際、託されたと聞きます。」

これにはエリザベートは笑うしかなかった

「ク‥ハハハ!」
「全くビックリ箱の様な団だな!次から次へと面白い奴が出て来る!」
「ですから姉上、他の連中はともかくアレとはまともにやりませんよう。イザとなれば相打ちにでもしてくる相手です」
「ああ、分かった分かった。全員引き出すまで続けたいしな!」

ふう、と溜息をついてエリザベートは心を切り替え、冷静になる、そして戦う双方の戦場を眺め寂しそうに言った

「だが、そう長くはもつまいな、残念な事だ‥」


この戦いは誰の目から見ても一方的にベルフ側が優勢であった、既にクルベル側は疲労と劣勢、士気の低下は明らかだった。 実際、クルベル側だけが一方的に死傷者を増やして行き、この日の昼ごろには2割近い兵を失う事と成る
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