剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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傭兵団編

最強対最強

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半年を過ぎた頃、依然ライナには及ばぬが、彼の相手をするのが彼女自身大変になってくる、問題は力量差の縮まり以上に彼が大型剣を普通の剣の様に使う事にある。

ヘタな受けをするとこっちの武器が壊れかねないのと腕ごと持っていかれる程威力がある事だ

したがって「避け」「流し」を徹底して対応しなくてはならず割合神経を使う戦いが多くなる為だ、早めに且つギリギリでかわして反撃で対応の連続だった

10戦目
ライナは相変わらずの余裕の試合運びで勝ったが、カミュはそうはいかなかった余裕を持つ程の腕でも技術でもない

が、彼はこの試合で幅広の巨大剣を横に向けて「盾」に使う事を覚えた

しかもそこから剣を弾き反撃に連動させる所謂「個性」が自然と発揮されるようになったのだ

二人の立ち合いもカミュはライナのそのスピードと無駄の無さに対応する為工夫を重ねた、体のうねりを最小にし、剣の振りも小さくする、斬りの目標付近だけ力を入れ剣速を維持して防御への配分もする、段々それが出来る様になり「まともな剣の交し合い」でも打ち合いが続くようになっていた

相手が強大であるだけに、自己の欠点を把握し易かった
「フ‥」とライナは立ち合いが終わった後笑った
「どうしたんです?」とカミュそれが分からず思わず聞いた

「強くなった、カミュは」
「多少は付いていける様には‥なったような」
「この期間でこれ程適応したんだ。成った様な、ではないんだがな」
「いえ、でもまだまだです。全然まだカスリもしない」

その言い草が実に彼らしいとも思った、この時点で彼は既に、ライナ自身の経験から見た中の武芸者でも上位に位置付けられる程にあった



彼は自らを休める事を知らなかった、あくまで同じ事を一つ一つの技を極める努力を続けた

15戦勝った頃カミュはもう大丈夫だろうと。ライナはライナ自身の事を始める事にした、何しろカミュはほうっておいても決して自分に甘い事はしなかったからだ

その日の夜ライナはカミュに自分のこれまでの経緯とすべき事を話した

「私は私の戻るべき場所に戻る、ここにずっと居る訳にはいかないからね」
「その傭兵団に戻るという事ですか」
「ああ、私はこれから、残り1年満たないが、毎週闘技に出る。先にいかせてもらう」
「なら、僕も一緒に行きます、同期ですから、同じペースで勝てば一緒に50勝出来るでしょう?」

そう返されたのだ、まさか「一緒に行く」といわれると思わず戸惑ったが彼は本気だった、だから

「着いて来るのは構わんが、待ってはやらないぞ?」
「いえ、足を引っ張るつもりはありません、ただ、僕が着いていくだけです」

そう言われては一言もなかった
そこからの二人は今まで以上に自己の修練に赴く寝ても覚めても只管戦い、毎週闘技、ライナとカミュの手合わせ、自己鍛錬の繰り返しだった

八ヶ月を過ぎた頃
二人の手合わせも手合わせのレベルでは無くなっていた

カミュがライナに勝つ事は今だ無かったが、彼女自身本気で対応しないと負ける程の力を見せ始めていた。それはライナ自身にも嬉しく有難い事だった

自分自身と全力で戦える相手というのは自己を高めるのに極めて重要な事だから。そしてカミュにとっても常に前に壁があるのは重要な事だった常に目標が目の前にあるという事だ

お互いボロボロになるまで戦ってただ食って寝るだけ
もうそれしかないかのように


いよいよ山の頂が、勝利数的に見え始めた頃、ベルフ本国で細事があった

送られてきた報告書を自分の部屋で受け取ったアリオスは目を通して一考していた。お付きのキョウカは彼の決断を黙って待ったそうしてようやく彼は口を開いた

「あの所長‥どうもよからぬ事を企んでいるようですね‥」
「それは」

と返した所で、アリオスは報告書をキョウカにも見せた。それを読んだキョウカも流石に眉をひそめた

「こんな物持ち出してどうするつもりでしょうか‥?」
「何‥単純な事ですよ‥50勝者を出さないつもりなんでしょうね」
「正気ですか‥」
「ついでに言うと、色々手を尽くしてあそこから出る者を潰してきたみたいですよ、本来の約束事、金を出して闘技者を買うというのも一件も無いようですし」
「腐ってますね‥しかし何故?」

「そこまでは断定出来ませんが、罪人を条件を付けて解放という事を彼が許せない一種のイデオロギーなのか、僅かな金より闘技での商売を優先したのか、強い闘士が野に放たれるのを個人的に良しとしなかったのか」
「成る程、分らなくはありませんね」
「ええ、ですが結果国を利すれば何でもいいという話では無いんですがねぇ‥それがルールとして決まっている物なら、私心で自己を優先しては本末転倒です」

「しかし、アリオス様の調査が功を相しましたね」
「ええまあ、ですが、ライナさんとイリアさんが居なければ知らないままでしたね」
「たしかに」
「イリアさんにはまだ内緒ですよ?」
「はい」

アリオスはそのまま部屋の隅にある鍵付きクローゼットに向かいそれを開ける

「それと、キョウカさん3つ頼まれてくれませんか?」
「はい」

同日の夕刻、ライナとカミュは宿舎一階の広い談話室でテーブルに対面して座り普通に食事を取った。食べ物は料理と言えるレベルの物ではなく保存食だが

そこにアルバが加わり3人になった

「よ、お前ら、不味そうに食ってんな」
「正直腹が満たされればどうでもいいわ」
「なんか荒んでるな色々」

とアルバは言ってテーブルに酒を置いた。

「やるか?飯くらい楽しんで食え」
「安くて不味い酒って言ってなかったかしら?前」
「他に無いんだからしょうがないだろ。それに前祝いだな」
「何の?」
「来週にはここ出るだろ。もう顔を合わせる機会もそうなかろう」
「呑んだことないんだけど‥」
「まじかよ。もう19だろ」

アルバはそう言いつつ、コップに軽く酒を注いで2つ差し出した、ライナとカミュは訝しげな顔で酒に口を付けるが即座離して

「呑めなくはないけど不味いわね」
「しかも臭いですけどこれ‥」

二人は不満気だ、が、アルバだけはそれを見て笑った

「ブッ、ハハハお前ら子供かよ」
「子供ですけど‥」
「無礼な奴だ」
「ハハハ」
なんだかそれで妙に和んでしまった

「‥、ところでアルバさんはここから出ないんですか?」
「結局月1闘技を貫いたわね。一緒に出るなら就職先を斡旋したのにね」
「ん?まあ、いいんだよ、どうせ外出てもやる事は無いんだし」
「今26勝?」
「27だ」
「もったいないわね」
「そうなんだが、後から入ってくる奴もどんどん増えるし、そいつら置いてく事は出来んさ」
「そっか」

「ま、ギリギリまで粘るが、外でた時はよろしくな、とは言え外の情報があんま無いからどうなってるのか分からんが」
「そう言われてみればそうですね」
「ベルフが安定して勝ってるのは事実でしょうね」
「ここが存続してるうちは戦争は終わってないって事だな」
「そういう事」

ライナとカミュはいよいよ最後の闘技を迎えようとしていた、その日の夜は気が高ぶって中々寝られなかった

ライナの部屋で雑魚寝していたが、二人共、特に何か話す訳でもなく黙っていた

ただ、ライナには別の懸念もあった故もある


闘技の日を迎え
囚人達は闘技場に向かう

二人も装備を整え出番を待った、がその日は二人同時に同じ控え室に待たされた

長年のカンかライナにはそれが「何か仕掛けてくるのか?」と警戒したが二人同時にそのままコロシアムの観客の前に出された そこに所長が出てきて一際高い観戦場所から告知する

「皆さん静粛に」
「これから最強の二人、ライナ=ブランシュとカミュエル=エルステルの最後の試合を開始する」

そこまで聞いてライナは「やはりか」と思ったが次の一言でそれは外れた事を知る

「故に、普通の相手では皆さんも面白くない。そこで私は外から招いた最強の戦士を二人にぶつけ、最高に相応しい最後の戦いと締めくくりたいと思います」
「どういうことだ?」

と客席がザワつく、その意見にはライナ達も同意だ、が恐らく‥

「この闘技場始まって以来の名剣士二人にはそれに相応しい戦士を用意した、それを最強の二人に協力して戦って貰おうという訳です。面白い趣向ではありませんか?」
「今回の賭けは急な事ですので。しばし時間を置き、賭けの時間を作ります」

「まずは、そこの二人」
「そして相手は対面に居ります最強戦士、紹介します「人造魔人ドルド」」
「え?」と全員がそれに注目する

本来、大型の扉から登場する対戦相手だが、今回だけ事情が違う、巨大な檻に入れられた巨大な人、それがそのまま置かれる

「あれが‥」「始めてみた‥」
一斉に声が挙がる

がライナは「だろうな‥」と呟いた。意外ではあった、が、この二人に対するには並大抵の相手では勤まらない

故にそれだけの相手が用意されるのだろう、しかしそれが人外の者とは恐れ入る

体高は2メートル半か。右腕を覆うように、ガントレットにも見えるが体の一部と癒着した爪の付いた腕、体のあちこちに張り付いた鉄の鱗、人に近い顔をしているがそれとは違う半端な容姿

「ライナさん‥」と、カミュは流石に驚いて呟いた
ライナはカミュの肩に手を置いて言った
「どうやら、所長は生きて私達をここから出さないつもりらしいね」
「でも、やるしかない‥」彼は前向きだった、いや戦うしかないのだ
「だなぁ」それにライナも返し覚悟を決めた

「君と戦わせて、どちらかは出してやる、と言うのかと思ったが、これは予想外だったな」
「どうします?‥」
「やってみないと分からんな。初めての事だ、だが」
「はい」
「あれは殻も相当固く、剣も通るか分からん、が、でかいだけに動きは鈍いハズ、まずは私が試す」

「しかしそれは‥」
「いや、どこが通るか見つければ殺せなくは無いはず。それに君の剣なら通るかもしれん」
「確かに‥」

そう、カミュは太く幅の厚い大型剣を使っている、易々と折れる武器ではない。この様な状況でもあくまで冷静だった

勝ちを拾うしか生き残る道は無いのだ、だからどうすべきかを考えた


檻が開けられ、のそのそと人造魔人ドルドが出て来る、開けた兵士はさっさと扉の向こうに逃げる。意外な事にオッズは5対5だった

ライナとカミュは構えた。まず、ライナは大きく深呼吸して目を閉じる、次に開かれた眼は「あの眼」だった

「スラクトキャバリティターの資質」

闘技ではもはや使う必要も無かった程ライナは強かったが、こうなっては出し惜しみは無い、一言だけライナはカミュに

「この状態が極まると自制が利かん、後は自分の判断で動け‥」それだけ言って前に駆けた

まるで影が伸びる様にドルドに飛び掛った、が飛んだりはしない、あくまで低く地面を這う様に、それでいて驚異的な速さで

人造魔人はたしかに「動きはのろい」駆けたライナの姿を見ていない、ライナは足元に滑り込み先ず足首をすれ違い様に斬った「ガ!」とおおよそ人を生物を斬ったとは思えない打撃音が響く

「チッ!やはり通らんか」そのまま背後をぐるりと回る様に駆け4度足元に剣撃を浴びせ、離れる

人造魔人は斬られた足を見たが意に介さない様で視線だけでチラリと見ただけだった

が、丸っきり効果が無い訳では無く、いくつか、かすり傷のような裂傷はついた

やれなくはない!そう思ったのかカミュは正面から魔人の前に立ち、向かう

その爪とも手ともつかない右手でカミュを払う、カミュはそれを身を屈めてかわし、返す手で爪を払う、それにカミュは渾身の剣撃を合わせて返す

それは相手の固い部分らしく「ガン!」と音を立てて両者弾かれ、離れる、もはやカミュも歴戦の勇士という戦いの経験を積んでいる、それで怯む様な心は持っていない立て続けにソードを打ち付ける

ライナはそれに合わせ挟み込むように、逆方向から「斬れる場所」を探して走りながら剣を浴びせていく

足首、膝周り、腿、腰、胸、背中とあらゆる部分を下から上に雷撃の様な速さと勢いで

それがうっとおしかったのか人造魔人は余った左手でライナを振り払うように一撃を食らわすが

まるで影をすり抜ける様にライナはかわし、同時にその手にすら斬りつけて離れた。あまりの出来事に客席から感嘆の溜息が挙がる

が、その声を感受する耳はもう持っていなかった。既にライナは集中力の極まりでそんな物は耳に入らない

一方カミュは全く逆の戦いだ、武器がそれを可能にしたというのもあるが、人造魔人の右手の攻撃を正面から受け、弾き、斬り返す

相手の一撃は強烈な一撃だが斜めに剣を返しながら微妙に力を受け流せば十分防げる

圧倒的な「敵」という認識だったが、この二人ならやれる、そう確信できるだけの強さが二人にはあった

が、反撃を意に反さない「硬さ」が向こうにはある

ずっとこれを続けても事態は好転しない、何れ体力が尽きる。それはライナ自身にもあった。だから賭けに出た。リスクも勿論承知で

そう、届かない頭への攻撃、ライナは飛び上がりすり抜け様に頚動脈を斬る。それは通った、ホースの様な首の血管が僅かに切れて、血が吹く

人造魔人はその一撃を食らわせてくれたライナを腕で振り払う。空中に居る彼女はそれを避けられない、無論承知の上だ、だから自分の剣を

相手の腕の一撃と体の間に挟みこみ「盾」に利用して且つ足でその腕を蹴って後ろに無理やり跳んだ

これで、可能な限りダメージを減らす「つもり」だったが
その体は軽く7,8メートル吹き飛ばされた転がった

「くは!」と思わず声が挙がる、どうにか体は動く、咄嗟に立ち上がるが致命的な事態に気づく。彼女の剣が折れたのだ

ライナのそれを見て人造魔人はライナに向かうが、いち早く二人の間にカミュが割り込んでけん制する

「ライナさん!」
「カミュ!見たか?!「首」に通るぞ!」とほぼ同時に叫ぶ

失った分の物を得た分の悪い賭けは逃れた

「分かってます!」

カミュは人造魔人に立ち向かうが、向こうは大きく、両手が武器と盾だ、それを防ぐだけで精一杯だった。まして首を狙って斬り込む等相当の奇跡が必要だ

「このままでは‥」

ライナには戦う武器が無い、折れた剣の残り半分でも斬れるか?と思い

それを実行しようと立ち上がる。体は痛むがもう何度かは駆けれるだけの力はあるが

そこで彼女の上方、客席最前線から声が挙がる

「ライナ=ブランシュ!」と

それに反応して僅かに見る、それだけでも十分確認出来た

「貴女は!?‥たしかアリオスの‥」

そこに居た、声を掛けたのはアリオスのお付きの女性士官キョウカだった。彼女は自らの腰に差した剣を鞘ごと抜いて投げて寄越した

「それなら斬れる!!使え!」

確認してる時間は無かった、即座それを掴み鞘から抜き向き直る。普通の剣。だが柄と刃に宝玉が2個填め込まれた宝剣

それを携え、一気に駆ける、これまで最も早く最後の力を全て出して


人造魔人と鍔迫り合いするカミュの横をすり抜け、全力で前進しながら武器をぶつけ壊さん程に腕を振るって駆け抜けながら人造魔人の体を支える左足を斬った

その早く強烈な一撃は魔人の足首を半分程も切り裂いて「奴」が支えを失い左に大きく崩れる
「今だ!」と声を荒げるライナ

千載一遇のチャンスにライナが開けた活路
「首の傷」にカミュは渾身の一撃を見舞う

鈍い音がしたがその一撃は通った、両断するほどでは無かったが魔人の首の中ほどまで斬り込んだ


大量の血が噴出し「ググ‥」と声を挙げてゆっくり倒れる、傷口を左手で押さえたがそれでケガが塞がる訳ではない。生物の無思考の咄嗟の行動だった

ズン、と大きな音とともに人造魔人は崩れ落ちた、そしてそれは二度と動かなかった、完全勝利だった

「やった‥」
「倒した?!‥」

ライナとカミュは呟くように無意識に言った

20秒程してベルフの兵が出てきてそれを確認して首を左右に数回振った「死んでいます」と

これでライナとカミュの勝利がようやく確定され同時に観衆がドッと沸いた

「見事だ!これで二人共ここを出る事も確定された!」

そう所長がわざとらしく言ったが
もうそんな事はどうでも良かった

「ただ、終わった」それしか感想が無く、二人はその場にへたり込んだ

しばらく歓声は鳴り止まなかった、当然だろう、生きている間にこんな戦いは二度お目にかかれ無いのだから

そこで、ライナは思い出し、客席を見た

「あ‥武器を‥」

そう思って武器を持ち上げたが、それを返すべき相手はもうどこにも居なかった

「この武器はいったい‥」

それは黒と白の揺らめく輝きを放つ宝玉「堅牢」と「切断」の効果付いたエンチャント武器ロバストスカルプであった

一連の事態を聞いたアリオスがキョウカに託しこのギリギリのタイミングに間に合わせたライナへの贈り物である

兎も角、これで全て終わったのだ 所長は歓迎していないだろうが、聴衆の面前で勝って見せたのだ、もはや「出さない」とは言えないだろう


其の夜、アルバ達に祝杯を受け夜は更けていった
翌日、二人は即座開放という運びでは無く

午後4時、輸送船に乗せられ大陸最南東の森の停泊所に下ろされた、というより誰も居ない深い森の桟橋のような場所だ

「せこい嫌がらせか」とも思ったが

この場所はベルフの領土と他国の領土の境界線にあり、ここがギリギリの場所という説明を受けて一応は納得したが

二人はその森の道に出され周囲をベルフ兵20人程に囲まれて荷物と武器を渡される

所長は褒美と路銀として二人に金10を渡し、ここでようやく開放された

「森は深いが古い道が整備されている、距離はあるが、それに沿って行けば南東街道に出る」と説明を受けライナとカミュは歩き出した

ここまで来たら当然まだ、何か仕掛けてくるのだろうとライナは警戒したが一時間程歩いた所でそれが現実となる。ただ悪い方向ではなかったが

夕方で薄暗くなった道、森の中から静かに声をかけられた
「ライナ」と 二人は声をかけた主を見るがライナはその相手に見覚えがあった

「久しぶりだな‥」そう声をかけ、現れたのはクイックであった、思わず「クイック!」と大きな声で答えた

「知り合いですか?」カミュは聞き構えを解く
「ああ、例の傭兵団に居た頃の同僚だよ」
「そうでしたか‥」
クイックはフッと僅かに笑って見せた

「再会を喜びたい所だが、あまり時間の余裕が無いのでね、用件だけ伝えるぞ」
「ええ、分かった」
「例の所長はやはりお前達を生きたままにするつもりは無いらしい、夜になった所で馬を出しお前達に追撃をかけるだろう」
「‥やはり、か‥」

「ああ、どうやら同種の方法で五十勝者を密かに殺していたそうだ。あの人造魔人を持ち出した事でもそれは分かっているだろうが」
「それで?」
「俺は奴らの「掃除」の手伝いを依頼された、これから道を戻り奴等を片付ける。お前達二人はこのまま道を進め、街道に出たら南西側に向かいベルフの敵対国方面へ逃れろ」
「掃除、て、誰に?、クイックは団はどうした?」

「お前と別れた後抜けたよ。その後お前とイリアの行方を追っていた、俺の責任でもあるからな。」
「そうだったのか‥それでイリアは」
「その辺はお前のが詳しかろう、今だアリオスと共にある。俺はそこでベルフ本国に侵入した際アリオスと話した、そこであくまでフリーな立場で仕事請けてくれないかと乞われてな」
「じゃあその掃除もアリオスの?」
「そうだ」

「何故?‥一応ベルフ国同士の味方では」
「あの島はアリオスの発案だ。お前が島に渡った後追調査し、結果、所長が勝手な事を繰り返していたのを知り見逃せる事態では無いと考え、所長の処分を決め、裏で動いた」
「なら、私も手伝うわ、あの所長は私も見逃せない」
「その必要は無い、既にアリオスの「女人隊」も策動している、お前らは余計な事に関わるべきでは無い」
「そうか‥分かったよ」

「この先に馬を用意した、この道は長いそれを使え」
「色々すまない」
「俺は仕事をこなしているだけ、さ」

クイックは背を向けて歩き出す、が、そこであのことを思い出した
「待って!、これ、剣を」と闘技場であの時受け取ったエンチャント武器を返そうとした、が

「祝いだそうだ、貰っておけ」
「アリオスから?」
「どうせ、自分が持ってても使わないから。だ、そうだ」
「そう‥」
「まあ、大事に扱えよ、金千は下らん物だそうだ」
「ええ?!」
「ハハハ。お前でもそんな顔するんだな。ま、そういう訳だからとっとけ、またな」

今度こそクイックは走り
「また、どこかで」
「どこかで」 ライナとクイックとだけ交わし別れた。

「何故アリオスがここまで」とも思ったがそれを聞く時間も無さそうだ、何れそれは分かる事だろうか

兎も角今はこの森を抜け安全を確保する事が優先だった、追っ手がかかるなら尚更だ、故、二人は進む

後日の話ではあるが。罪人島の所長は部下と共にこの森で姿を消し以降の行方は知れず、即日、新しい所長が着任する事となった

森を抜けると大きな街道に出る、時間は既に日付の変わる頃だ、街道はそこから北と南西に伸びる、馬を走らせるわけにもいかないのでゆっくり移動した

着いた先は巨大な砦、フラウベルトの庇護を受けた自治領主の街でアベル、時間は既に昼近かった
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