剣雄伝記 大陸十年戦争

篠崎流

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傭兵団編

偶然の乱戦

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それから13日、クルベルから東に進発したカリス王子の軍4千が動く。カリス、シャーロット、エリザベートの三将が一軍集結という稀な事態になった

即援軍が組織されるが、カサフの東隣国、剣の山の国スカイフェルトは左右がまさに剣を突きたてたような高く、崖のような山岳でそこに過剰な兵を派兵しても軍が展開する広さが無いので殆ど意味がない、更にスカイフェルトは自己の軍を二千持っており兵力が必要という程でもない

アクセル=ベックマンと言う、中々の将も居る為
単身で戦えるというより少数でも防衛出来る条件も揃っていた

が、相手も三将同行という事で「では武芸者を出しては?」と案が出され相手がシャーロットやエリザベートならライナかカミュとなるが

この時に「せっかく来たんだし、あたいにやらせてくれよ」とキャシーが志願した為、キャシーと彼女の兵の半数500が出撃する

「ほんとに狭いなこれ‥」とエリザベートはスカイフェルトに辿り着いて呟いた

そう言った通り只管山、山、周囲を囲まれているというより山の中を貫いて道を作ったという感じである、そして道の真ん中にある砦、背後に街

「精々1千しか布陣できません、狭い通路での正面突破しか手がありません」
「なるほど、そんであたしの出番て訳だな」
「中央突破火力なら一番ですからね」
「ま、話が早くていい、けど篭城されたらどうする?」
「ええ、こけおどし攻城兵器持ってきてますので、釣れますよ」

そこでエリザベートは即時百人騎馬と共に最前線に布陣、一方スカイフェルトの軍は初め篭城の構えを見せたがカリス軍を見てそれを中止、打って出て同じく1千配置し正面決戦を挑む

「なんでイキナリ出て来るんだ?」
「アレです」と背後から運ばれてくる木製のパチンコ、いわゆる投石器を二つわざとらしく、戦場で組み立て始めた

「向こうが篭城するなら、石を投げ込み続ければいいだけですから幸い弾はいくらでも落ちてますし」
「ま、そりゃ出て来る、か」
「後、大型弓も30、重装突破兵も500用意してあっちの高台に置いてます」
「また、せこい真似を‥」

「褒められたと思っておきます、ああ、それと‥押すのはいいですが、向こうの砦付近までは押さないでくださいね、向こうも射撃武器くらいあるでしょう」
「だな、分かった」

こうしてスカイフェルトでの開戦が開始される

お互い1千以上の兵が出せない以上、同数での只管突撃戦になる、しかも1千と言ってもかなり縦長の陣形だ、そもそも横に50人並べるかどうかという狭さなのだ

両軍ただ突撃突破が繰り返される

しかし、火力差がありすぎる故かエリザベート効果でどんどん一方的に押していく事になる、狭い通路での同数での打ち合いだと、まず百人騎馬とエリザベートを止められる相手はそうは居ない

そもそもエリザベート個人すら止められる武芸者等めったに居ない

「おい!大佐、どんどん崩されるぞ!」
「はぁ‥ま、そりゃそうでしょう‥」
「そうでしょうではない!、エリザベートを止めんと何も出来ぬまま負けるぞ!」
「いや、わたしにゃ無理なんで‥」
「あほたれ!無理で済むかなんとかしろ!!」

しょうがないなぁという感じでやる気のなさそうな
大佐と呼ばれた男は立って嫌そうに馬に乗り前線に出た

「ハハハ!弱い!弱すぎるぞ、スカイフェルトの兵!」

と例によって罵倒しながら槍斧を振るい、只管敵陣突破していくエリザベート、そこに大佐が前に立ちはだかる、それを見てエリザベートは

「む、武芸者か!いいぞ!かかってこい!」と言ったが。とてつもなく嫌そうに彼は「いや、私じゃ止められませんけどね‥」言い、両手持ちの長剣を構えた

「やる気があるのかないのかよく分からん奴だな、名を聞こう」
「アクセル=ベックマン、大佐ですよ」
「そうか貴様が!」
「けど「武」の人間じゃないんでね、期待しないでくださいよ‥」

と言いつつ剣を突き出した
ぬるーい感じの相手なのにその剣撃は早い

それを受け、切り返すエリザベート、それを馬を下げながら受け流すアクセル

5合打ち合ってあまりの手ごたえの無さにエリザベートは拍子抜けした、しかも相手は只管下がり受けだ

「つまらん奴なら要らぬ!その場で死ね!」

エリザベートは一気に馬を前に走らせ距離を詰めようとしたが、その瞬間アクセルは背中越しに隠し持っていた子袋の束を馬の足元に投げつけた。同時にマッチを擦ってそこに軽く投げ入れる

油と火だ、瞬間的に爆炎が巻き上がる

「な!?」と馬を止めるが火に巻かれた

止む無くエリザベートは後ろに跳び馬から下りつつ構えた。しかし相手は何をするまでも無くただ、火の向こうから見てるだけだった、狭い所でイキナリ火を放たれたので周囲も進軍を停止し睨みあいになる

その火の勢いが収まりかけると今度は収まらないのがエリザベートだ

「貴様!」そう叫んで馬に再び乗りアクセルに突っ込む。そして最初の様に打ち合いながら下がり続ける

それがそのまま続くかと思ったが、アクセルは一転反撃、剣を左右に振り回す様に払い距離を取って、距離が離れたと思いきや今度はナイフを投げつけた、あまりの意外な一撃だがエリザベートは咄嗟に槍斧で防いだ

次の瞬間アクセルは片手を挙げて止まった。即時空から矢が降り注ぐ、周囲に居た味方の後続が撃ち抜かれた

「何をしてるんですかあの人は‥」
「後退指示!」 シャーロットとカリスは立て続けに言った

何の事は無い、アクセルの挑発に乗って砦の射撃位置まで引っ張りだされて撃たれただけだ

「クッソ‥!」

エリザベートは止む無く砦の弓、射程圏外まで後退する。とは言え下がるにしても狭すぎて馬を返す余裕も無い。

そのまま盾隊と重装備兵を前に置きながら防衛しつつ、暫く矢に晒されながら、どうにか後退して一旦軍を引いた

「ま、失敗を責めても仕方ないですし」とシャーロットは涼しい顔だ

がコーネリアは「あんな単純な挑発に乗る奴が居るのは驚きだ、事前に釘を刺されておいて」そう、とどめを差して

エリザベートは自陣に戻って「うぐぐ‥」と唸った、コーネリアに言われると特別腹が立つ

「まあ、さほど被害が出てないし、伊達に被弾減らしの装備ではないよ気にするな」と王子に慰められた
「で、次は誰が行く?」
「このままエリザベートさんを前で、直ぐ後ろに私が、もう、めんどうなので援軍が来る前に全部やっちゃいましょう」

引き続き百人騎馬を前、その後ろに重装兵を遠距離弓直ぐ後ろ、そこの周りの護衛にコーネリア、シャーロット、投石器と縦列に並べて進軍する。

ハッキリ言って側面や背後を突かれない状況でこの縦列編成軍は強力だった

「あ~これは無理ですわ」とアクセルもお手上げだった

兎に角前に居る百人騎馬が敵を叩き、重装突破兵が盾のみで壁その壁の隙間から大型弓を射かけ更に後ろから投石器で石を投げ込む

対面したスカイフェルト軍は前で剣で叩かれながら中列は弓で撃たれ後列に石が飛んでくるというとんでもない悲惨な攻められ方をして僅か3時間で半数も戦闘不能をだした

ただ、エリザベートは相手が下がると引きずられて追撃をかけようと意図せず行われるので、そこをあくまで迎撃の範囲に留めて置く為に弟クリスが常に声を掛けつつ

背後からシャーロットが「自重しろ~自重しろ~」と間断なく呪いの言葉の様に言ってくるのでエリザベート的には凄まじいストレスには成った

場所が狭く、策の打ちようも無く、かといって野戦迎撃出来る相手でもないアクセルも何もする事が無く砦に撤退。篭城戦と成る

しかし攻城兵器がある分、カリス軍側が圧倒的に有利だ。
そもそも攻め落とす必要が無いだけに嫌がらせに徹した

遠くから石を投げ込まれ、大型弓撃ち器でパラパラ矢を放り込まれる。正直攻めてる間中自重させられ続けたエリザベートは更にやる事が無い状況に追い込まれた。それを知ってか知らずかシャーロットは

「エリザベートさん、暇なら一つ頼まれてくれませんか?」

と耳打ちして策を伝えた

「良いのか?二千も使って?」
「ええ、どうせここではもう使い道ありませんし、遊兵作るのも無駄でしょ」
「分かった」

とエリザベートは自身の騎馬隊とカリス軍の半数二千とコーネリアを引きつれ撤退する

その情報と現在の戦況がアクセルからフラウベルトに伝書鳩を使って通達される

「もう、こっちはやる事無いからもしもの時の兵だけ領土境界線にくれ。将はいらぬ、ベルフの別軍が多方面に来るからそっちに人回せ、後こっちも、このまま嫌がらせを受け続けると被害が馬鹿にならん余裕があればそっちからベルフ領土に攻める姿勢だけ見せて向こうの指揮を圧迫して撤退させてくれ」

という何ともシンプル且つふざけた要求が通達されたのでそれに応える準備を整えられる。それを読んだエルメイアはその書面をアンジェに渡して意見を求めたが

「ご尤も且つ的確な要求と意見ですねとりあえず出立予定のキャシーさんを停止、人を1千ほど追加して。そのままカサフに送ってフリット隊長に敵の後背を突いてもらって、スカイフェルトのカリス軍を撤退させましょう。ついでに今はこちらへの風向きが来ているのでカサフ北の街道も閉鎖できればしてしまいましょう。兎に角時間が掛かる程スカイフェルトの負担が重くなります最速で最短でお願いします」

そうアンジェは言った為、まず、フリットらに伝書が飛ばされその日のうちにフリットとグレイは団の100人を率いて即出立、こうなればカサフが襲われる事もないので、3分の2の2千の連合混成軍と共に北進する

同日にキャシーを将として1500の混成軍と、カミュが武芸者として補佐に、カサフ側ルートでフリットの後を追う様に進発する

この様な大胆で積極的な策を打つ相手が居ると思わずカリス軍はその後3日、合計四日スカイフェルトの嫌がらせ攻城戦を続けていた

一方カサフから北進して街道に侵入したフリットらは周辺の確保を行おうとした。クルベルから東に伸びる街道は、いわゆる、特にどこの領土という訳でもない中立街道ではある

が、そこをベルフは野営地として軍を滞在させ自由に使っていた。それを奪取すれば、カサフ、スカイフェルトへの移動も出来なくなり。現状ではスカイフェルト攻めをしているカリス軍を孤立させる事が出来る為だ

そうして街道のT字路の分かれ道に守備隊として残るベルフ野営地軍に有無を言わさず突撃を敢行した、仮に上手く行かなくても敵を撤退させる好機になればいいのだ

数自体もベルフ1千、連合二千、ライティスの矛100。余裕の戦いだ、しかもいきなりの事態にベルフ軍の守備隊は混乱していた

円陣を敷いて守るベルフ。突形陣で攻めるフリット以下連合軍、特に連合側はフリット指揮なので強かった、1時間で相手を200戦闘不能にして敵陣進入まで後一歩まで後退させる

が、同時東から撤退してきたエリザベートの軍と鉢合わせエリザベート軍が加勢し打ち合いになった

連合側の奇襲に即時報告と援軍要請が出される

数の上では2100対2800、に成っているが戦闘はややベルフ軍のが劣勢であった、兎に角奇襲を受けた守備隊は混乱と指揮系統の弱さで味方の足を引っ張りエリザベートの参戦も、既に他方面で一戦して戻った後だけに鈍い

2時間後には2020対2620に差が縮まる

「これはまずい!」とエリザベートは自己の騎馬隊を相手の突形陣の先端に割り込ませて止め、その隙にクリスに味方全軍の陣形の変更と指揮系統のエリザベートへの移譲を速やかに行わせる

しかしそれをさせじとフリット、グレイは最前線に団と共に出てエリザベート自身へ挑み剣を合わせる

「この軍の支柱を自由にさせんよ!」
「ちょこざいな!」と受けるエリザベート

過去にあったように二対一でのエリザベート封じを敢行

無論武力で二人がかりでもエリザベートには及ばないが、かねてより練習してきたコンビネーションが冴える。フリットとグレイは互いにカバーと攻撃をしながら打ち合い互角の戦いになる

「クッソ!‥腕を上げたな!‥隊長!副長!」
「3年遊んでいた訳ではないからな!」
「おうよ!」

勢いと連携と流れ、これが上回る連合軍は兵力の数負けを物ともしなかった

一方、スカイフェルトで報を受け取ったカリスは撤退命令、軍を引かせるがここが勝負所、と引きかけた軍に合わせてアクセルが1千兵率いて出撃、正直それを相手にしている暇は無いのだが今度は逆に嫌がらせを受ける

突撃等してこない、ひたすら一定の距離から弓を浴びせかけられる

それに必死で応戦するが引きながら反撃、更にこちらは大型装備なだけに撤退の足が極端に鈍くなる

「これは本当にまずい‥!」シャーロットはここで王子に指示を出す

「後方の1千を率いてエリザベートの元へ!ここは私がどうにかします!」

と前後に1千ずつ兵を分けカリスにそれを託して撤退させる

自身はそのうち、300の兵を馬中心の足の速い部隊へ編成しつつ、残り800の兵と装備隊に重い装備や攻城兵器の収集を指示

シャーロットは槍を取って馬を返し、アクセルの軍への反撃を開始、後方の装備兵器の収集を邪魔させずに行わせる為だ

戦う数に差があるが、ここはこの判断が功を相した。狭い道だけにシャーロットの武力があれば迫り来る兵を突っ込んで止めるのはさほど難しい事ではない

1時間稼いだ後押し返す

アクセルも陣頭に立ってシャーロットと合わせるが、流石にシャーロットと一騎打ちでは及ばない、特にシャーロットは余裕の無さもあり、全力で挑んだ為

20合打ち合ってアクセルの脇腹を貫き、落馬させて戦闘不能にした、あえて止めを刺さず、そのまま後退

敵軍もアクセルを回収して城内に引いた。
スカイフェルト軍に出来るのはそこまでだった

翌二日目、ほぼ偶然が幾重にも重なって戦闘から戦争になった「街道決戦」は各地からの、兵力の逐次投入でどんどん規模が大きくなっていた

同日、もはや守る必要も無くなったカサフから城に200だけ残し残り全軍の800がフリットらに加わり

其の日の午後には団の部隊20とカミュ、カティ、パティが到着。

3時間遅れて主力のキャシー率いる軍が1500加わる、一時ベルフ側は、将と兵の差から大劣勢に陥るが夜にはクルベルから二千の派兵があり

4300対4400と兵力だけは互角になった

本来この様な兵力の逐次投入は愚作だが。フラウベルト側は、独立参戦のショットが機転を利かせクルベルの南方街道から北に銀の国軍が侵攻の構えを見せ。クルベル側もそちらへの対峙でロベールが自ら出ざる得なく、東街道への対処が遅れる事となった

三日目

深刻だったのが将や武芸者の差と連戦の疲労で。エリザベートに最早何時もの力が無かった事だろう、ほぼ休み無く指揮と戦い続けたのだ

特に其のとき相手したのがカミュで体調が万全でも厳しすぎる相手だ。その戦いはあっさり決着が着いて、エリザベートはカミュの剣を受けきれず肩口を斬られ、馬から落ちた

「ここまでか!?」と彼女自身も覚悟したが
代わりにコーネリアがカミュの前に立ち、クリスが姉を抱えて下がった

両者対峙して剣を合わせる、が、コーネリアも万全な体調ではなくカミュには及ばなかった、それでも、もうまともに武芸者を止められる人間が自分しか居らず、引くわけにいかず、守勢に徹して時間稼ぎするしか無かった

「恐らく‥こっちが万全でもこいつには勝てない‥」そう心で呟いた

最早ここで死ぬ覚悟をして相手の攻勢を止め続けるしかないのだ、ここで、東から戻ったカリスとシャーロットの軍が間に合う。

カリスは指示して主力に兵を合流させ
シャーロットも即座単騎で馬を駆り前線に踊りこむ

「代わります!下がってコーネリア!」とカミュとコーネリアの間に割り込む
「助かった‥」最早これしかコーネリアも言えず後退する

水を差されてしまったがカミュもそれ以上戦わず引いた


数だけは、4250対6200に成ったがまともに戦える兵がベルフ側にどれだけ居るのだろうという程士気が低く、疲労の極みである

それを把握していたシャーロットは無理な迎撃や戦争を継続せず、唯一上回る武装で打開を図る

自ら陣頭に立ちつつ、重装兵を前に押し出し、敵の攻勢を防ぎ、まだ余裕のあるカリスと自分の軍二千を前線投入

疲労の極まっている者と負傷者、それが重い者を優先的にクルベルに撤退させ、解体した兵器、敷いていた野営陣も引払わせ、それも下げる

ここで兵力が逆転し、劣勢になるが重装備兵の隙間から突っ込んでくる敵前線、先頭集団に弓を当て足を止め、自ら騎馬隊を突撃させ相手を後退すらさせる

そこで余裕が出来た瞬間、足の遅い重装備兵も撤退させると同時に突撃を停止して後退しながら迎撃戦を展開、次第にクルベル側にジリジリ下がり、兵の被害を減らしつつ、撤退戦を繰り返す

相手もここが勝負の決め所と突撃を幾度も繰り返すが其のつど弓と騎馬、交互に遠距離と近距離のメリハリを付け、相手の前進のキッカケを作らせずおよそ1時間の後退戦の後、最後には自らもクルベル領内に撤退して見せた

見事とした言いようが無かった。敵領内に撤退を完遂された以上、最早無理攻めする理由も無く連合軍も撤退となった

しかし、東街道への封鎖や陣立ては行わずそのまま引いた、戦力的に余裕が無いものあるが、元々中立地である所以でもある

クルベル城内に最後に撤退したシャーロットは自分も疲労の極みであったがまずエリザベートを神聖術での治療を行う

傷は深いが致命傷では無く、それで安心な所まで回復させた ただ、大量出血もあり、当面安静が必要ではあった

次に、斥候に情報の収集指示を出し ロズエルの妹二人を無傷の兵1千ずつ与え東と南街道の守備を任せる

正直使い難いが動ける「人」が居なかったので「何があっても守れ」とだけ指示して従う様に釘だけは刺したがカレンもフレアも現状を理解しており素直に従った

一晩休んで、翌日、周辺情報を受け取った後、三将会談を行った

「で、どうする?、こうなっては嫌がらせの攻めも出来まい?」
「兵の損失自体は向こうのが大きいし、十分やった、てところかしらね」
「結果的には一応上手くいったんじゃないかな?時間も半年以上稼いだし」
「向こうも連合の強化で人材がこっちより揃った、無理押ししてもしかたないわね」
「後はこっちもクルベルに「封」をして守り抜けばそれでよかろう‥」

「同感ね、余勢を駆って反撃してくるかと思ったけど、それも無いようだし」
「僕らも大分戦ったし、その意味でも十分だと思うよ」
「そうね、後は陛下の御心のままに‥という事になるわね」
「ところで、南から北進してきた連中、銀の国の軍だが、なんだあれは」

「ああ、南方連合に銀の国が加わったそうよ」
「らしいな‥しかし、どこから兵が沸いてきた」
「海‥でしょうね、第二次開戦の時、マリアは船を使って後背襲撃をやったわ、軍ごと運べる、巨大軍船を元々持ってるわ」

「何でまた南方連合に‥」
「ある意味、当然でしょうね西に蓋をされて、抱負な軍力の出し所が無い、しかも、自身が戦わずともこっちを削れるし、そもそもベルフ全部をマリアだけで相手にするなんて、いくら彼女でもあり得ないわ」
「なるほど」
「まあ、こっちはもうやる事ないし私はもう少し休ませて貰うわ、流石に疲れたし、二人共軍の再編と維持よろしくね」
「ああ」
「分かりました」

会議室を出て、休むと言ったがシャーロット自身はそれで済む状況には無かった、自室に戻り書簡を用意し始める

「兵も将も居る、問題なのは、周りを固める中堅以下の者ねそのクオリティでどうしても負担が将に来る、この際使える者は何でも使わなければ‥」

思考しながら筆を進める

「南方連合で済んでいる内はいいけど、それが大陸連合に発展すれば全方位敵だらけという事態になりかねない、こちらの時間は案外少ない‥」

書簡の用意を整え、部屋の外に出て兵に渡す

「こちらだけ急ぎで」
「ハイ」とそれを受けって兵が走った


一方三日後、一時各地の軍官を招き
南方連合はフラウベルトにて国家間会議を行った

「問題は今後の戦略ですが‥」
「向こうも当面動けますまい、が、守りを続けてそれで済むのかどうか」
「ほら‥アンジェさん‥」と例によって肘で突きアンジェラに意見を出させるヒルデブランド

「あー、兵も将も居ますので攻めても良いのですが、城攻めは無謀かと有効な攻城兵器がありませんから」
「兵装の豊富さと、かけている資金が違うからのう」
「はい、せめて重装備兵の類がこちらも組織できればいいんですがそれは無理でしょう」

「うむ、では逆にこちらから嫌がらせをかけるのはどうか」
「南と東から攻める、という事ですか?」
「うむ」
「フラウベルトからは行けましょうが、皆さんの国からでは無理でしょう、なんだかんだで半数近い兵を失ってますから。それが向こうの狙いだった、と言えなくもないですが」

「そうだな‥元の数を取りもどすのに7,8ヶ月は掛かるだろう」
「はい、結局こちらは能動的に動く状況には無いのです」
「ま、当分向こうは出てこないだろうし、方針は変わらぬ、か」
「すくなくとも皆さんは、何か仕掛けるとしたら、フラウベルト単騎でやるしかないでしょう」

結局の所、戦略的に有効な一打が無い以上、兵力がカリスらの戦略で削られ、劣っている為方針自体も「守る」しか無かった

今回の一件で分かった事だが戦略的には付け入る隙はあった、少なくとも街道決戦の様な状況になり攻勢に出られたのだ戦略については「甘い部分」も向こうにはあった

ただ逆にシャーロットの「戦術面」についての強さが際立った、なにしろあの状況から味方の被害を最小に防ぎ、一人で全てをコントロールし得る能力があるのだ

エルメイア自身も、事が動いたならそれを大きくしたい、と思っていた

フラウベルトだけなら、将も兵も戦えるだけの戦力がある、それ故だ

その事をアンジェと団のカミュ、マリアの代理人でもあるショットとお茶会の場で話したが

「必ず勝つ、なら出来なくはないですけど、失敗すれば、こっちの戦力が低下し連合への援護兵も出せなくなりますが」
「フラウベルトもそこまで戦力投入出来ないんじゃないかな‥」
「だろうな。マリアに戦力の追加を頼んでもいいんだが、軍船はあれ4隻だし船帰して、また持ってくるにしても往復2ヶ月かかるぜ?」
「うーん‥せめてマリアの意見が聞ければ‥私にはマリア程抜きん出た策はありませんし」

「いや、まあ、俺だけ戻って聞いてもいいんだが‥陸路、単騎なら一ヶ月くらいでも戻れるし」
「それは流石に、状況の変化に対応できませんし」

ショットは腕を組んでうーんと考えていたが

「せめて伝達が可能な術士が居ればなぁ‥いや、まてよ」
「?」
「やっぱ一旦戻るわ、何かあるかもしれんし」
「何か?」
「そういう便利アイテムあるかも」
「便利アイテム?」
「マリアは魔法具収集が趣味だからな、なんか使えそうな物があるかもしれんし、つーわけで、後を頼むわ」

と飛び出して行ったショット
が、彼が往復する一ヶ月の間に事が動く

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四郎
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クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

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