境界線の知識者

篠崎流

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巨大な輪

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フォレスは単身で徒歩、飛行を使いつつバルクストの西にあるペンタグラム転移施設に辿り着いたのが一時間後

本国からの連絡を受けたペンタグラムの職員に通され施設から転移、ペンタグラムに辿り着いたのがきっかり二時間後である

ペンタグラム中央城では官僚達は既に待っており、歓迎されて客室に案内される。フォレスも用件、つまり「教皇様と周囲の者と話したい」だけを伝えてソファに座って休んだ

早めの夕食会の場を用意されて会合が開かれる、そこで先の懸念と連合での話し合い、自身がどう感考えて居るかを披露した

「教皇様は以前、オレの出した手紙も直接お読みに成られた、そして中央の混乱は成った、今後起こりうる可能性についても、ご一考頂きたい」
「うむ‥、当時も興味深い意見だったし、実際次々中央でも事が起こった、今回の提案も見るべき所が多いと思う。皆はどう思うか?」
「はっ、同感ではあります」
「しかし‥確証はありませんし」
「いや、問題は証拠ではないし、出せる系統のモノではない」
「うむ、フォレス殿の目的は「保険」だな」
「左様です。実際この懸念がそうなるという高い確率を持っている訳ではない、事が何らかの形で有った場合、それに対するカウンター、緩和です」
「うーむ‥それがペンタグラムの援護者という立場か」

「グランセルナ連合をその立場にしてもらえばこちらは間の国を抜けて中立街道から中央に来れます、ペンタグラムに対しての軍事行動が有った場合、実質的な立場、と理由を持って援護出来ます」
「‥う、む」
「良い、とりあえずこの件はこちらで決を出す、フォレス殿はこちらの決定までお待ち願いたい」
「分りました」

とさっさとフォレスとターニャは部屋を出て客室に戻った、ペンタグラム側の高官はその場で決定を話し合うが、やはり割れた意見となった

「フォレス王の意見と提案は聞くべき点があります」
「が、問題は彼らが派兵許可を使ってペンタグラムを制圧しないか、という事です」
「それはあるかもしれん‥」
「危機を煽って立場を得、何処よりも先んじてペンタグラムを抑える、そういう策もありましょう」

が、ここでカイルが口を挟んだ

「其の懸念は確かにありましょう、しかし、この現状に至ってその様なあざとい策を弄するとは思いません」
「カイル査察官はグランセルナと関わりが多い、傾倒した見解では正しい判断はできますまい?」
「私は冷静です、よくお考え下さい、このペンタグラムの現状あって、何故先んじて話を持ってきたのか」
「と言うと?」
「単なる「策」として見た場合それを今行っても、グランセルナにそれ程得が無い、やるのであれば、他国がそれを行い、ペンタグラムを制圧された、それを見てから再奪取した方が周囲の印象が宜しいし兵力も多かれ少なかれ減らします」

「ふむ‥、隣国がペンタグラムを抑えた後、ペンタグラムを占拠した敵を叩いた方が効率的であるという事か?」
「そうです、で、あれば、その相手を「誅敵」と出来ますし、改めて周辺国に呼びかけも出来ます、其の上ペンタグラムが潰れた後なら、その後釜に座る、宣誓して中央権力を奪取出来ます、ですがフォレス王はそれが始まる「前」にこの会談を持ちました」
「成る程、自軍を一方的に出すと云っている訳だしな」
「ええ」
「しかし彼に何の得があるのか‥」
「損得であれば、先の飢餓や災害に援護はしないでしょう、放置して中央が混乱し潰れる、それを待ってから手を出せば宜しい」
「ふむ‥」
「自国の事を言うは心苦しくありますが、今ペンタグラムからなんらかの称号を受け、それと引き換えに支援をする程、我々の立場に魅力があるとは思えません、もう、実質的な権力や能力は有しておりません」
「地位や立場に固執する者も居るのではないか?」
「フォレス王がそう見えるのなら、私としては何も言えません」
「‥」

ここで教皇は議論を止め決定を示した

「よい、おぬしらの負けだ、余もカイルの意見に賛同する」
「聖下‥」
「そもそもフォレス王はこれまでの行動によって自らを示しておるし先の災害、危機に置いても最善を尽くしてくれた、人を派遣し、今回も全てを見せた、ここで疑っては失礼に過ぎると思う」
「ご尤もですが」
「皆様の懸念は尤もです、ですが「こちらの得」だけ考えても利が多く、損は少なく思います」
「うむ‥そうじゃなそれに教皇様の賛同ありと言う事であれば、我々としてもそれを叶えるべきでしょうな」
「同感です」
「うむ、よく決断してくれた、基本的にフォレス王の策に乗る、直ぐに呼んでくれ」
「ははっ」

そうして再びフォレスが会談の場に呼び戻され決定が伝えられる

「いう訳でフォレス王のご意見を受ける、という事です」
「了解した、基本的にこちらの情報斥候隊は既に展開している、動きが出ればペンタグラムにも直ぐ通達する伝心の出来る術士は居るだろう?」
「はい」
「ただ、実際どういう展開に成るかまでは読めん、それとどこがどういう形で攻めてくるというのも無いだろう、少数精鋭なのか、巨大軍力なのか、或いは「裏」なのかだ」
「成る程‥ご尤もですな」
「うむ、この内、実軍で大軍であった場合、オレらが援軍を出しても止められない場合もあるのは了承してもらいたい」
「分りました」
「打てる手は全て打つが他にもソチラでやれる事はやってもらいたい」
「例えば軍力の強化ですか?」
「それもある、物資の保持、防衛準備等もだが」
「はっ」
「ま、そこからはどうなるか分らんのと、こっちも今から準備に、という形だ」

「で‥フォレス王の立場なり形ですが‥」
「表面上の形で十分です」
「なら「ガーディアン」援護者、後見人で良かろう」
「はっ、では早速書きます」

周囲の者が書の用意を整える間に教皇は問いかけた

「それとフォレス王、一つ聞きたい」
「なんでしょう?」
「先の話合いで出た事だが、この一件、フォレス王に何の得がある?何故南の覇者とならない?ペンタグラムの庇護は何の意味がある?」
「得‥か、あるとしたらと無理に考えればですが」
「うむ」
「ペンタグラムから承認を受ける事で名誉、名声はあるかも知れません、認知を受ければ全方位への派兵はし易いでしょう、それと商売上とか認可の類は優先してもらえるかもしれません」
「それを狙わんのか?」
「ペンタグラムが嘗ての力があれば有効でしょうね、ですが、今それを貰ってもそれ程の利は感じません」
「後ろ盾や威光には成らん、か」
「人に寄ってはあるでしょう、実の有る無しより「権威」を大事にする者も実際多いですから」
「そうだな」

「そこでもう一つの問いですが、自分は誰かに褒められたいとか恐れられたいとか有りません、元々が放浪の術士、今更立場が変わったからと言って面倒な手間や犠牲を強いて、覇者や英雄等望みません、寝て過ごして平和ならそれで良いと思ってます」
「ふむ、それが連合か」
「世界を統一した平和には出来ないでしょう、それは歴史の自明です、また、それを成すにはやはり英雄とか聖人とか資質が要りますオレにはそれは無い」
「では、何故この形を目指すのだ?」
「一つに「覇王」は歴史上、当人も周りも幸せで有る事は少ない、協調する物で無く引っ張って行く者だからです、常に争い、乱、陰謀、謀略のただ中にあります、そんな人生は御免だ」
「うむ」

「もう一つに連合とする形は其々の国の民も統治者も敵しない事です」
「それは?」
「攻め落とし、領土を広げました、支配しました、それを成す者は其の国の民から見れば「潜在的な敵」です」
「確かに」
「もう一つは簡単です、其々の国と地域、そこに住む人々の生活を変えず、連合を広げる事に寄って、「連合」という領土を広げる、それが大きい程、乱の拡大を防ぎます」
「成る程な‥」
「だからオレは独裁者や覇王には成らない、後の歴史にも今を生きる人にも嫌われながら生きて、自己の栄達を図る等アホウのする事だ、そしてそういう者は必ず惨めな最期を遂げる」

「それも歴史の自明か」
「名は残るでしょうし、短い間は好き勝手出来るでしょうが最期は必ず天寿を全う出来ず、身内か敵に寄って殺されます」
「独裁者の最期は常に惨めな終わり方をする、そうだろうな」
「歴史を読まれるのですね」
「うむ、が、自分で言うのも何だが、ペンタグラムの存在意義はそれ程無いようにも思う、何故助ける?」
「教皇は正直ですな‥」
「この事態に至って面子に拘る必要も無いからな」
「うーん、オレ個人としては、ペンタグラムの形は残したいと思う」
「それは?」
「思想、立場、中立、裁定の場、これをどこにも属さず行うのは大事だ、こういう情勢の後来るのは混乱である事も多い、故、敢て武力を使わず、話し合いの薦めという機関は残したほうが良い、つまり戦後処理で纏める者、という形はな」
「ふむ、そういう事か、よく分った」

「何れにしろ、それは後の事、事が起こるとも収まるとも現状では云えない」
「うむ、兎に角、フォレス王、宜しく頼む」
「はっ」

そしてこの会談の後、翌日昼前にはペンタグラムから「立場」が授与される、直接フォレスに「ペンタグラムのガーデイアン」に任ずるという、書状の授与式が行われる

これは基本、元々あった立場で無く急造のモノだ、こうした事態其の物が初であるという事、ただ、この中央の決定の情報、告知の類はされなかった

理由は二つ
ガーディアンとしての立場を受けたグランセルナへの不興を避ける事

二つに、焦った他国が実力行使に傾く事を避ける事である、無論、事前に明らかにし、ペンタグラムへの武力行使は同時に、グランセルナを敵に回す可能性を匂わせる効果もあるが、この場合、ペンタグラムとグランセルナに整えの時間が必要であり、それを優先しここでの明言を避けた、つまり整いまでの時間が要るという事である

「態々先に全容を明らかにする必要はなかろう」と教皇も同意した事で纏まる

フォレスは当日から中央の斥候隊に連絡を取り、アノミアに事態を告知、周辺の動きの監視強化を指示、同時、ロッゼにも連絡を入れて方針の方向性を和らげた

「という訳でイザ事が起こった場合、ペンタグラムから告知を出してもらう、ロドニとの外交は明確で無くていい」
「では、交流を図る以上は必要ない、ですね」
「うむ、ロドニが難色を示す場合、こちらはこの事実を限定的に伝えてそちらの負担に成らない環境は作ったと云えばいい」
「分りましたが、何れにしろ中央との距離があります、これを整える意味でもやはり交渉は必要かと」
「うーん‥こっちの戦略条件の整いにまだ時間が掛かると思う、今はまだいい、整え自体オレが本国に戻ってからではあるし」
「そうですね‥わかりました」
「うむ、頼む」

翌日朝には再びフォレスはペンタグラムの中央高官と会談、事が動いた場合に行うべき策も伝えた、二時間後の朝10時にはフォレス自身ペンタグラムを離れ本国へ戻る事になった

「パパ、どうするの?」
「そうだなぁ‥ターニャはここに居るんだろ?」
「そのつもり」
「兎に角、ここの強化は任せるしかないが正直そこまで戦力強化は出来ないだろうな」
「うーん、元々そんなに人口多くないし‥」
「うむ、その意味、こっちから兵を出すしかないな、なるべく周囲にバレ無いように」
「具体的には?」
「そこはまだ何とも、策を捻り出すしかないな」
「そっか」
「今日明日の事ではないし、心の準備だけしとけばいいさ、どうせやるのはコッチだしな」
「うん」
「じゃあな」

そのままフォレスはペンタグラムの転移陣を使い戻る、その先々でも調査を行い、ある確信を得た

本国に戻ったのが当日夕方近く、即、高官会議を開き事態の説明を行い意見を求めた

「それにしてもよく許可が取れたな」
「まーな、状況が状況だし、ペンタグラムもそれ程損はないし、そう難しくは無い」
「難しいのは今後ねぇ‥どうすんのせんせー」
「色々小技は考えてあるが‥」
「どういう?」
「まず状況整理だ、ペンタグラムは元々山岳都市で防備施設面では固いが、戦力強化と言っても元々の人口が少ない」
「今3万ちょい?」
「うむ、ここから志願兵つっても精精千増やせれば、て感じだろう、基本兵はこっちから持っていかないと防備兵つっても耐えられん、と言っても露骨に軍行動は取れん」
「うーん‥難しいなぁ」

「でだな、移動中転移施設を調査したがあれは基本魔力が尽きん、オレの自作物と違って途中で充電切れも無さそうだ、なんで、こっちの精兵を少人数分割で送る」
「ふむ」
「んで、元々やってる中央への商売も合わせて工作員も送る、後は教皇様へのご機嫌伺いの訪問で人を送る」
「えらくセコイ作業だな」
「まぁしゃーない、後はロドニとかの交渉次第だな、ただ、イザ事が起こった場合ペンタグラムから緊急事態宣言を出して援護をどこでも求める形だ」
「なるほど」
「で、この際中央に派兵はオレの貰った立場を活かし速攻で中央街道に向かうのと、連合全部一斉に動いても「連合」なので問題ない訳だが」
「という事はバルクスト方面にシフトが要るな」
「そうだ、当然これという人材もあっちに行って貰う本国の守りはそんなにいらんし、時間はあると思うのでホントに少しずつになるかな」
「分りました」

「次に財政的援護もする、金もな」
「そこまで必要でしょうか‥?」
「うむ、通貨発行権も行使して国庫も増やしてもらう、そこで公共投資も委託してもらう」
「どこにですか??」
「ウチに」
「建築工兵をそのまま向こうの派兵にしちゃえ、て事ね」
「そうだ理由は適当に付けられる「グランセルナ独自の石家の評判を聞いたのでペンタグラムの一部にも作りたい」とかな」
「成る程‥」
「ついでに、そのまま滞在軍にしちまう」
「つーかバレない?」
「出来上がった後ならどうとでも云えるし、問題は策の整いまでに、どう一定の派兵軍を向こうに送るかだ」
「ふむふむ」
「そもそも周囲の国の軍力を考えればこっちがちょっと送ったくらいで、どうにかなる訳じゃない」
「じゃあ‥」
「どういう事態に成るかは読めん、故、最悪の場合避難を考えている」
「え?!」
「つまり退却戦を想定した一定護衛軍備ですか?」
「そういう事になる、大体周囲国が本気で動いたら5~7万は出せる訳で、こっちが数千送って篭城させても防げんじゃろ」
「確かにねぇ」
「ま、そういう訳だ、プランも全て考えた、ただ事が急に動くというのも考えてないので、兎に角こっちの数の整えを」
「はっ」
「策自体はまだ完璧じゃないのと、ロドニ次第の面もある、今の所は云える事はあんまないなぁ‥という訳だが」

「とりあえずウチから精兵を選ぶか‥」
「そうですな、少数ずつならそうなりますね」
「いや、特に選抜しなくていい、そのままターニャの軍にしちまう」
「ふむ、わかった」
「最終的にはどのくらいの規模になりましょう?」
「んー‥初期三千くらいかなぁ‥多い程いいけど」
「人事は?」
「どうしよう?」
「私が行ってもいいが?」
「司令官はまずいだろ」
「エミリアが戦いたいだけなんじゃ‥」
「ぐ‥」
「図星ね‥」
「いや‥案外悪くないな」
「そう?」
「うむ、いけるかもしれん」

「んで、誰が行くの?ペンタグラム」
「知と武のバランス、つっても万能なんだよね、ターニャ」
「単純に相性とか向こうでの政治的アドバイスで云えばやっぱメリルかなぁ」
「そうだな、ファルメントの所は泣いて貰おう、こっちの教師を交換派遣で」
「OK」
「それと一応全体の策の流れを説明する、これはまだ確定ではないので修正する事もある」
「拝聴しましょ」

出来上がった物ではないが、そこでフォレスの基本策を披露し会議自体は解散「策」を聞いた閣僚も正直唖然だった「そこまで引っ掛けるの‥」としか言いようがない物だった

フォレスはインファルらと策の詰めの段階を話し合い兎角、主軍は錬と数、武装の揃え等急がれた

連絡を受けたメリルも一旦本国に戻り、直ぐにターニャと合流する為間を置かずペンタグラムに移動する事になる10人程の護衛兵を連れ転移陣から跳んだ

一方、ロドニとの外交を行っていたロッゼはプルーメとの数度の交流会談はあったが目に見えての効果は無かった

個人的な好感では無く勿論外交的進展である、これには最初にフォレスが訪問した時と同じ事情だプルーメ個人がどうこうで無く「周り」である

ロッゼに似ている、と云われて居たがプルーメはどちらかと云えば、ロッゼから見れば「昔の自分」の様な感情を受けた

国を思う士は多く居る、が、彼女には彼女の意思を尊重してくれる友は居ない、自分にはシンシアやクロスが居たが彼女には居ない、それがどこか、孤立したような雰囲気を与えた

10日間の最期に一度、ロドニ側閣僚との大会議もあり、両国参加と成ったが、やはり結論ありきの会談であった

「連合と言う形が双方にとってやり易いと云うのは分ります、ですが同時国の壁を少なくする事です、それが軍事、戦略面に置いて、有益とは成り難いでしょう」
「フォレス様もロッゼ様も国の独自性を奪う事はしないと明言しています」
「保証の限りではありません」
「必ずしも保障が必要なら政策は進められません」
「事の重要度に寄ります、他の政策と違い「ミスして修正出来る」質の物ではありませんから」

という感じで何も動かなかった、参加していたロッゼらも何とも言いようが無い、それを見かねてなのかそうでないのか、同席していたフローデが座ったまま腕組をして呟いた

「馬鹿な人達だなぁ‥」と
「!?」と一斉にロドニ側の一同に注目させる

「何がですか?」
「これまでのフォレス王の行動を何も見て来なかったのか?」
「どういう意味ですか?フローデ領王」
「そのままの意味さ、フォレス王が南の覇者を目指したならとっくに成っている、考えてもみなよ、あれ程の策、軍力、人材、武装、後方支援力を備えた国が何故そうしない?」
「それは‥連合を置く事で自国に被害を」
「底が見えたな」
「なんですと?」
「単に自国の壁に使うなら援助も派兵もしてないし人材だって出さない、僕が盟主なら壁が疲弊したら壁自体壊して自国にするね」
「そう成らないとも限りません」
「今の時期にそれをやって成せる可能性は?」
「‥多くはありませんな残念ながら」

「ついでに言えばグランセルナ独自の生産品を配備援助する意味もないね、バルクストに元の王家の一族を充てる必要も無い、ロベルタへの援護も必要ない、ロッゼとの結婚で間の子をロベルタの後継者とする公示も必要ない、ウィステリアの連合も助けて併合してもいいし、女王を貰ってもいい、君たちは我連合の盟主をどれだけ捻じ曲げて理解しているのだ?」
「単純な理屈ならそうでしょうね」
「実行し、成した者に如何な詭弁を持って当るつもりだ?」
「そう見えるなら仕方ありません」
「ならば何故同盟を組んだ?不戦のまま、こっちに構うなで良かろう」
「それは、こちらの状況の整いがあるからです」
「つまり、本来利用すべき理由と条件はそちらにあるのではないか?フォレス王は知って、同盟を受けた、君らは何だ?、信頼度や信用、裏の有る無しはどちらにあるんだ?」

フローデの言にミルデも言葉に詰まった
だが、流石にここまで来ると回りが傍観は出来ない

「止めなさいミルデ!」
「フローデ云い過ぎですよ」

そう両君主に制され両者下がった

「申し訳ありません‥少々熱くなり過ぎました」と、が、実際フローデは「敢て」そうした

会議自体一旦解散となり結果自体方向性は定まらないままで終ったが、この一撃は明らかに効いた

客室に戻ったフローデはソファに飛び込む様に座って両手を頭の後ろで組んで余裕だった「これで多少方向性は変わるだろう」と

「まさかあそこで、ああいう形を取るとは‥」
「偶に相手を突く奴が居てもいいだろ?、じゃないと何時までも、ダメにしろ良いにしろ、進まない」
「けどフローデ、あれは感心しませんよ」
「いいんだよ、僕ならどこかの立場を悪くする事も無いし「ガキ」だからね、敢て正論とか倫理とかぶつけてやればいい」
「分っててやったんですね」
「そりゃそうさ、て云うかさ、プルーメ様もロッゼも協調を図るのはいいけど君主なんだし、こうしたいという事を云っても別にいいんじゃないかな」
「そう云われると‥」
「大体、見ててイライラするんだよね、ああいう奴」
「それは、仕方無いでしょう‥あちらの事ですし」

翌朝にはロッゼらの客室にプルーメがミルデを連れ直接訪問し謝した

「申し訳ありません、無礼な事を」
「いえ、別に無礼ではありません。どうかお気になさらずに、ほら、フローデ」
「うん、僕も気にはしてない、そういうキャラを演じたに過ぎないし」
「と言うと?」
「どうもキミの所の閣僚は議論の目的を勘違いしてるらしいのでね」
「どの様にですか?」

とここでもミルデも前に出て、二人の対峙姿勢になったが
フローデは全く意に介さず続けた

「あのね、議論とは国家の会議であれば、国の指針を決める物だ」
「はい」
「そこに有効な意見、方向性が出たなら取り入れるべきだろう、何故、連合の云々に固執する必要が何故あるんだ」
「‥ご尤もですね」
「そう、それにこれはプルーメの御意ではないのか?」
「はい」
「不安は尽きないだろうけど、必ずしも慎重で有る事が有効な訳じゃないよ」
「そうです、ですが、それが払拭出来ない限り当方としては安易に同調はしません」
「成る程、それも道理だ、ではフォレス王が掌を返したら僕は君たちに味方しよう、と、云ったらどうする?」
「え?!」
「多分、連合の各国は大方諌めるだろう」
「成る程、しかし何故そこまで信用します?」
「信用か‥僕は彼のこれまでの行動見て信ずるに値しないとは思わない、少なくともキミ達の考えて居る様な事には成らないし、その可能性は低い、そして彼は形として「連合の益」に貢献してきた、これからもそうだろう」
「ふむ‥」

「そしてこれから来るであろう事に備えるに、連合という形は妥当とも思う」
「分りました、私も今一度考えましょう」
「それがいいよ」
「それと、陛下は敢て不戦に戻し、お互い不干渉にしてもいいと考えています」
「それはどういう事ですか、ロッゼ様」

ここでロッゼも先の連合会談、フォレスが打った手を始めて明かした

「成る程‥そう考えて‥」
「故に、フォレス陛下は連合の「前」の国、同盟でもあるロドニ、ロンドギアこれらの国の負担は避けたいと考えています」
「ふむ‥」
「わたくし達は連合でありますし、フォレス陛下を信じます、ですが、国益の面で連合で無い、同盟国に負担を強いるのは間違いとも思います、無論、これは最悪の事態に成った場合の事ですが」
「分ります」
「不戦に戻して不干渉としても、陛下もわたくしもロドニを捨ててしまえとは考えていません、同盟、不戦に関わらず、わたくしは過去の友人は捨てません」
「中央の災害ですね、それにロッゼ陛下はトロント件もあります」
「わたくしが「外」の立場から見ても連合はやはり公正と思います」
「それは理解しています」
「ただ、一方でロドニに連合と言う立場が必ずしも必要であるとも思いません、外敵の脅威が大きいという程ではありませんし」
「小生もそう思います」
「ええ、ですから、それ程裏を考えなくても大丈夫だと思います」

「はい、ですが、一方で大勢が変わるとも限りません」
「そこは、そちらの国の事情ですから、ただ、どの様な形になるにしろ、わたくし達は頼ってきた者は捨てません、フォレス陛下も同じ考えです、そこだけは理解していただきたい」
「はい」

結局、この朝の遣り取りが方針を決めたと云える、昼食後の会議でもミルデはその流れを作った

「陛下の御意でもありますし、基本的に連合という形に持っていく、そういう形でも良いと思います」

そう指針を示して誘導した
彼とプルーメの主張が合えば流れは一定の方向を示す、特にロッゼやフローデの材料があり、それは容易かった

「しかし、グランセルナが反転する可能性は示唆されておりましたが?」
「其の点についてはロベルタ、ウルズの両陛下から保障を頂きましたので」
「と言うと?」
「もしグランセルナ本国がその様な判断をするとなればウルズはロドニの味方をしても良い、です」
「‥本当ですか?」
「うん、そうしても良いよ、無論書いた事ではないけど、今に至って掌を返すなら僕も連合に残るつもりもないし」

「‥しかし、何故そこまで、他所の国の事でしょう?」
「と言うより、フォレス王がソレをするとは思ってないからね、やるなら今まで何度でもその機会があった。今までの連合の防衛戦も、中央の混乱でもそうしなかった、今更掌返す意味は無い」
「‥」
「わたくしも、陛下がその様な事をするとは思っていません、もし、仮にそうするのなら連合の一国として、妻としてお諌めするでしょう」
「うむ‥」

これで会議の結果は決まったのである
そのまま決を取って連合への参加への票も大勢を取った、その事をロッゼがフォレスに連絡を入れ

「うん、それでいいよ」で承認

翌日午後にはロッゼが代理を務め署名と宣誓を行い承認される事と成った

ロドニの連合承認もありフォレスにとっては有り難くも、そうでもないとも云える状況になった、何故ならクソ忙しく成ったからだ

ロドニは前後の事情あり、実際問題連合になったのならその補いと同時「前」の整え、更に派遣と、施設の追加が要る、理由は単純である

「中立街道を基本通る事になる訳だが、そうなると向こうの出口に備えが要る」
「同感ねぇ‥また交渉が要るわね」
「と、いう訳でインファルに任す」

で、インファルが代理でロドニ本国に向かう事になった、ロドニに迎えられて城に上がりロベルタ側と合わせて王座の間会合に等しくなった

「えーと‥グランセルナの代表代行の参与を務めてるインファルよ」
「始めましてプルーメです」
「ミルデ=バウアーと申します、軍師を任されています」

「早速だけど、連合、という事はこちらのやる事も多いわ、色々あるんだけど、こっちの屯田兵の配備、施設建造したいわ」
「軍事施設ですか?」
「ここには滞在施設、気に入らなければ、北、中立街道出口付近の砦の類かしら?」
「‥、では、中立街道側の滞在施設でお願いします」
「あら、貴方は話早そうね」
「組む、と成ればこちらもすべき事は理解していますし、協力は致します、ただ、基本的にこちら側に不満や不安は出ますでしょう」
「なるほど、じゃ、どうする?連合だけどソッチへの併合は行わないとか書いてもいいわよ?」
「可能なら」
「分った、フォレスに伝える、なるかどうかは保障の限りではないけど」
「結構です、北に砦なりを築くとあらば、こちらに不利益はありません、フォレス王の懸念で最も注視すべきは、中立街道での防衛戦です、出入り口に壁を築くのは至極まっとうな戦略です」
「OK、こっちから作業員兼軍が来る、承認してくれる?」
「はい、一つ問題はあまり大げさですとかえって中央からいらぬ疑念を招きます、中立街道ですし、ご配慮もお願いしたい」
「そうねぇ‥なら実際「壁」じゃなくて北街道周囲森辺りに、邪魔にならない程度の滞在監視施設、そんな感じかしら」
「それで宜しいと思います、事が始まるタイミング手前まで待ってから迎撃の本格的策を進めましょう、あるいは中立地域、この場合街道ですが、世界法があるので、なんらかの承認をペンタグラムから出して貰う様に」
「OK」

「それから、こちらはイザという時に軍指揮の面で勇将は居りません、人材の派遣、ヘイルズの統治もあり、防衛兵も本国から割いて出している為こちらの整いまで、補助をお願いしたい」
「了解、其の面は既に本国で人選を進めているわ、今年の実り次第の面もあるけど、食料、財政援助の準備も始まっている、ここの軍力での支えの面で不足が多いのでこちらの建築防衛施設等の用意もこっちでします、ペンタグラムの方は、あちらの事なので通るとは限らないけど」
「感謝します」
「他にはある?」

「そうですね‥事が急激に動くというのも考え難いですが、ここから中央までの間の国にも何らかの取引は必要でしょう」
「同感、ただ、これは先にやりすぎるとバレるわね」
「ええ、なので財政援助を直接こちらに早い段階でお願いしたい」
「そっちがやる?」
「ええ、こちらから「ペンタグラムと繋がりを作りたい」と街道沿いの国に出し、元々中立街道ですが、金を撒いて、お目こぼししてもらうか、領土の通過を許可してもらいます、同時情報統制も掛けます」
「了解、これも伝える、他には?」
「今はありません」
「では、終了で」と解散に成った

会議に他に多くの閣僚が居るがほぼ二人が話して決まった「話はや!」と思わなくもないが、口を挟める部分が一つもないのである

インファルはそのままロッゼらとグランセルナ側とも
昼食会議で方針を示した

「ロッゼの方は本国に戻ってもいいってさ、ティアらは滞在でいいって」
「了解した、後詰は?」
「多分トリス辺り来ると思う、こうなると本国エミリアが動いてもいいし、状況次第ね」
「ふむ」
「わたくしはこのままグランセルナにお寄りします」
「そうだね、僕も行ってみたいし」
「ええ」
「問題ないわ、お疲れ様ロッゼ」
「いえ、新鮮な体験をさせて頂きました」

「インファルだと話が早いな」
「んー‥相手が超効率型だしねぇ、楽でいいわ」
「伊達に知側の国ではないな」
「どうだろね、裏とかには弱そうだけど」
「軍学士でもあるらしいからそうでもないのでは?」
「なんつーか固い」
「一理あるな、柔軟な奴ならこの連合自体もめはしないだろうし」

「ま、立場があるからねぇ‥極端に慎重なんかも、使える人物には違い無いけど」
「ふむ、それはいいか」
「兎に角、武側があんまり宜しくないわ、その意味お願いねティア」
「ああ」

翌日朝にはロッゼらはフローデを伴なってグランセルナに、フローデの件もあるという事である、転移陣等を使いグランセルナ本国に着いたのが三日後、即中央砦に上がってフォレスと対面し雑談会議と成った

「よくやってくれた」
「いえ、わたくしは何もしていませんフローデのお陰ですわ」
「うむ、前後の事情は聞いている、感謝するよ」
「見てて歯痒かったのでね、口出しさせてもらった」
「暫くここに?」
「そうだね、あちこち見て回るよ」
「成る程、どこか客間を用意しよう」
「うーん、いや、街に宿を取るよ、大都市だし色々散策したいそれに二人の邪魔はしないさ」
「‥そ、その様な事は考えてませんよ」
「別にロッゼが態々グランセルナに同行しなくていいだろ?其の辺りは察しているよ」
「フローデ!」

と茶化して怒られてフローデはさっさと笑いながら部屋から逃げた

「まったく‥」
「しかし、武勇に秀でたと云うが、中々「知」側の能力もあるんだな」
「そうですねぇ‥演じ分けというか‥そういう切り替えは上手いですね、敢て、と自身で云う様に、意図して出来る様です」
「ただ、姑息な者ではないな、あくまで大局・全体利益とは何だという前提に立って動いている、頼りにはなりそうだ」
「ええ、頼もしいですね」

実際は先の一連の策あってロッゼとフォレスが常に一緒にというのはあまり無く、ロッゼも10日ほど滞在してからロベルタへ戻った

会議、指示、思考、視察とフォレスは兎に角忙しかった、特に、ペンタグラム方面に関しては「秘密」部分もあり、細かい作戦が多く配慮が要る点である

それでも既にこの時期、ペンタグラムへの訪問、商売、伺い等を繰り返し、そこから中央への派兵と、連合の生産物補助は成りつつあった、他国のどこにもバレずに

兵力は少数ずつだが既に一千程送られ、そのままターニャ、メリルの貴下に加わる

ロドニの派兵、建築にはグランセルナから本国軍である必要も無く、エミリア、トリスの軍が一万五千率いてロドニへ、無論「策」の為でもある

同時、状況の整い、つまりバルクストの後詰の援軍滞在軍の必要性も薄い為、クローゼは関所に軍を残したまま本国騎士団に戻る

本格的な夏場には先年の混乱、不作は起こらず、中央の混乱に拍車が掛かるような部分も無く、安定した静かな時間が「表面上」進む事と成った
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