境界線の知識者

篠崎流

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劣勢

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それらフォレスの指示の後、翌日には西、ウィステリア開戦、北西の街道が丁度「東西」と真横になる両国の中間点での対峙

相手もウィステリア側も、これは睨み合いで動かず、もう一つのウィステリア西砦も「脅し」と言った様にこれも動かずである

街道にウィステリア主軍二万が担当し、西砦にリコ滞在軍が一万で防衛、というのもグランセルナ本国や連合からの援軍待ちでいいからである

これはヴァスタとウィステリア、どちらも同じ事情でヴァスタ側も先のフォレスらの見解通り積極的にゼントラム連合に協力している訳ではないという事

故に、牽制に終始し後ろからの援軍待ちでよいので
睨み合いのまま当日動かず

「どういう事でしょう?」
「おそらくだが、テスネアが援軍を寄こすまで待つ、という事だろう」
「では」
「フォレス陛下の見解通りであろう向こうが動かぬ、というならばコチラも攻める選択は無い」

これを示して完全に硬直の睨み合いだけになった。これら戦況の情報を受けグランセルナ本国も「やはり」という感じだった

が、無論そういう流れなのもある程度予想済みだ、問題はここを牽制とあらば、別のどこかからという事になるが

「参ったな‥かく乱か?」

そう呟いてアノミアと連絡を取った

「アノミア、テスネアは西に兵を送ってるのか?」
「確認している、五万程、ペンタグラムから西に直接出している」
「司令官は?例のベステックか?」
「いや、登用して将に充てた軍将らしい」

これでフォレスも迷った

「どうかしたのか?」
「ウィステリアの戦況は知ってるか?」
「ああ、軍は出てるが動きなし、だろ?」
「攻めるのか攻めないのかよくわからんのよね」
「まぁ‥分断戦や多重包囲戦はそういう意味もあるだろう、大軍持って来て囮にして、コッチの目を引き付け、別の所からというのは、ままある」
「ふむ‥」
「現状では情報がそこまで掴めんし材料が少ない。判断は確かに難しい、が、現状中央街道側に配置した直軍を街道からロドニへ、は無理がある」
「と言うと?」
「距離もそうだが、直ぐ東はピスノラだ西を囮にして南下は難しいな、間の国は中立だし、なにかテスネアが交渉でもしておかないと南下はリスクがある」
「そうだな、中央街道を南下しても左右は味方国ではないしな」

「成る程、よく分った、ありがとう」
「?、私にはさっぱりだが?」
「となれば、西に援軍と見せかけたブライドレス攻めかもな」
「ふむ‥ペンタグラム本国の南、中央街道の西がブライドレスだしな、テスネアからは近いと言えば近い」
「うむ、と言う訳でアノミアはそのまま監視を」
「わかった」
「すまんな、いいヒントになった」

そのままフォレスは伝心を切り替えロドニのミルデに

「ミルデ、ブライドレスへの援護は?」
「間の国との交渉は済んでいますので3日前には送っています、何か?」

ここでミルデにも「懸念」を伝える

「成る程、その方が確率は高いですね、では小生のやる事は?」
「バルクストから軍を出す、中央街道から北進して牽制を逆に掛けて圧迫するそっちに滞在している軍の用意と援護を」
「はっ、ロドニの軍は数合わせで宜しいのですね」
「うむ、それと、先の交渉した際の相手国の情報もくれ、これは緊急ではないが」
「分りました」

これら一連の「懸念」は正しい、フォレスが各地に指示して後、実際、ウィステリア側は睨み合いのまま六日動かず

「動いた」のは懸念の通りであぅた

ペンタグラム本国から西地域へのテスネアの援軍、これが北から西に入り、そのまま反時計回りから戻り、現れた先は「ブライドレス」の西街道からである

要するに西に援軍を出すと見せかけ、軍を動かす、この軍は西のゼントラム連合となった西地域を通って南から回ってブライドレスを反対側から、突くというものだ

同時、中央街道に布陣したテスネアの本軍から指揮をベステックに預け五万出して西へ、ブライドレスの東西街道の両方から挟みこむ作戦である

当然、ブライドレス側は大わらわ、即防衛軍を出したがこの時点で、テスネア側、東西挟み撃ちの五万×2で進軍、残りの五万をアデル主軍、中央街道の封鎖の構えである、ブライドレス側、七万

数自体の問題もあるが、二正面作戦なのが痛い
ブライドレス側は両面対処に兵力を割かねばならない

救いは、ブライドレスが二大軍将である点、即座にブライドレス側は簡易会議の後、フェリオス、ドワイトの両将を分散して、西と東に充てる

西への対処にフェリオスの軍、三万。東への対処へドワイト、三万、首都防衛軍と予備兵として残り一万である

東西街道防衛と言っても出撃して迎撃ではない、王都を背にしての近い距離の決戦である

ブライドレスにはグランセルナからの援護、ターニャらの軍五千の手持ち軍が送られて滞在しているがこれは首都に留められた

正直数の面での兵力であまり期待は出来ない事と連合主国の姫で、ある意味お客さん扱いである、そもそも作戦行動を統一出来まいという勘違いがあった、ブライドレスの王家からも

「防げるかは非常に微妙な所、ターニャ姫は状況を見て兵を送ったルートから逃れるがよろしい」

と告知され、援護参戦は拒否に近い形と成ってブライドレス本国に篭城する事となる、正直この判断も問題だが、そうした所で撤退出来るかも微妙だ

「どうしよう‥メリル」
「いらん、と云われてはどうしょうもないですが‥無理矢理参戦する訳には、しかも逃げろと云われても、殆ど首都決戦ですしねぇ、それも出来るかどうか」

二人と護衛兵だけなら転移陣から戻れるが援護の為に送った軍のお陰でそれも出来ない、転移陣と云っても跳べるのは10人くらいだ

しかも、ペンタグラム転移陣はブライドレスと西地域の領土境界線にある、こうも首都から近い場所で戦われては西を一旦突破するしかない

「送ったルート」と言ってもここから戻るには再び間の国との交渉、許可が要る、そもそも、軍を送ったのも援護の形であるがそれを使わない、となれば遊兵もいい所だ

その配慮、先にメリルの判断「見捨てる形を取る訳には行かない」のフォレスとメリルの結局は判断ミスに成ってしまった

が「どうしょう」と二人が頭を捻っている最中も事は動いていた、今回の不幸と読み違いと同時、幸運もあった

一つに、テスネアの実行動の前にある程度の懸念がありグランセルナ連合各国首脳に通知した事、それがウィステリア開戦の睨み合い、直ぐに行われた事

二つに、グランセルナ連合の最も強い点「其々の統治者や軍将が優秀である」事

この事態の前、つまりフォレスの通知から、各国の責任者が「緊急事態に近い、ならばこちらも打てる手は打っておこう」とある意味勝手に、アドリブで動いた事にある

三つに、フォレスがウィステリア開戦前に繰り出した、西地域への斥候隊が既に動いて、本国へ情報を送ってきた事である、これでフォレスも「策」が打てた

「ヴァスタの王家と交渉の余地ありだ、インファル頼む」という策を

同時に、ウィステリアの援護に向かったエミリアにも伝心

「ウィステリア援軍に向かわず、そのままヴァスタに向かってくれ」
「は?、逆に攻めよう、てか?」
「いいや、インファルがヴァスタに向かっている、領土線まで行って待っててくれ」
「どういう事なんだ?」
「全方位寝返り策」

フォレスも勿論、ゼントラム連合が動く前から全体策を新たに考えていた、が、それはまだ先だろうと思ってた

だが、テスネアが今回、ブライドレスを攻めた、これで其々の国が独自判断で対応に動く事に寄り、偶発的にそれが早まったと云えただろう

フォレス自身も直ぐにバルクストに跳び、翌日には教皇周辺と会談を持った「その策」の為である

本題の「ブライドレス防衛戦」は速攻で動く
街道東西に到達したテスネアの軍はタイミングを合わせ東西左右から同時に進軍、これを防ぐブライドレスである

何しろ、余計な策も無いし、指針も一つ、テスネア側は最速で突破し、ブライドレスに踏み込む、ブライドレス側はそれを阻むだ

そもそもゼントラム連合は大義名分も作ってある
「教皇、ペンタグラムを疎かにするグランセルナ連合を許さない」だ

後顧の憂いもないし、これまでの「連合対連合」と違い、ブライドレスにグランセルナが大規模援軍を送るルートがないのだ、ターニャもメリルも動けず「どうしようか」と悩んでいる所に、各国のアドリブ援護が次々「連絡」として届く

「ターニャ姫、メリル参謀長」 の最初がミルデからである
「え?!ミルデさん!?」
「はっ、フォレス陛下に伝心が届かない様で、そちらに直接伝えます宜しいですか?」
「はい、どうぞ?‥」
「当方、先に交渉を行った国に今一度使者を出し、援護、連合を餌に再び、アステラ、オルグの両国の同意を簡易ですが、取りました、兵を送ったルートつまり南から通過許可があります」
「!?」
「なので、緊急の場合、ブライドレスから全軍退避出来ます」
「わ、わかりました、有難う御座います!」
「こちらにそれ程戦力が無いので大軍という訳には行きませんが一万程、アステラとブライドレスの領土線に兵を送りました後数日掛かると思いますがお使い下さい、それから中央街道からバルクストの軍が相手、テスネア本軍後詰に牽制を掛ける為に三万の軍が北進しています向こうの追加兵を引き付けます、これはフォレス陛下が事前に打った手ですが」
「助かります、なんとお礼を云っていいのか‥」
「我らは連合です、お構いなく、ただ、日数、時間は何とも言えませんので無理は為さらぬよう」

ミルデも短く云って伝心を切った。正直これは当事者でもあるターニャらには涙が出る程有り難い、直ぐにメリルはブライドレス側にこの情報を告知し防御線の維持と援軍待ちの方針を進言した

「援軍あり」と成ればブライドレスも徹底して守ればよいのだ

が、「援護」はこれだけではない、前後の事情を聞いた、ピスノラが速攻で例によって「勝手に動いた」

「ふむ、なら反対側から突いて嫌がらせしよう」

君主自ら中央連合側に全軍出して進軍、つまり、テスネア側南に六万の兵軍を出して北伐を始めたのだ、そしてもう一つが、このピスノーラにはカルディアが送られていた事である

「カルディア殿、バルクスト軍が北進して相手を牽制するらしいそちも西に出て嫌がらせして参れ」
「いいのかねぇ‥」
「フォレス様はそんな事で怒りゃせん、第一、姫の危機じゃ、結果物事を良くすれば何でもいいのじゃ」
「んだな」

カルディアも同意して手持ち軍二万で西へ、丁度ピスノラは地勢上、北連合と、西に中央街道が面している、これを使わぬ手は無い

そしてマルギットの意図も明確で基礎に適っている「持てる最大兵力を出して援護する」と兵法の基礎だ

カルディアもこれに応えて、策と同時に西領土線、中央街道手前に出た、そこで伏せて、中央街道を北進するバルクストのアトロスらに使者を出した

これを受けたアトロス、アドニスも頷いた

「成る程、カルディア様と連携できる、という事か」
「流石にアドリブで動いても的確ですね」
「うむ、となれば、こちらも5万になる、仕掛けても問題ないな」
「同感だね」

これら一連の情報をバルクストの会議後フォレスが受けて、彼も驚いた

「皆が独自判断で動いたか」
「の様です、問題無いでしょうか?」
「別に構わん、判断も行動も理に適っているそもそもオレの承認が必ず必要な事じゃないし、寧ろ頼もしい事だ」
「左様ですね」
「まぁ、事後承諾でもいいんじゃないか?それに、こっちもやる事が多いし、任せる事にしよう」
「はっ」

直ぐに彼自身も、グランセルナに跳躍
インファルから伝心が届き「自分の方」が打った策も動く

「せんせー」
「おう、どした?」
「向こうはオッケーだって」
「条件は?」
「特に無い「連合」以外は、多分兵力援助くらいじゃない?」
「そりゃ幸いだな、が、条件は出さなかったのか?」
「無いね、あちらさんもモノの道理を分ってる、連合と成れば、牽制になるし、グランセルナが利用だけするとは最初から思ってなさげ」
「分った、そっちインファル代理で纏めていい」
「アタシの軍もって来るのは時間かかるから、ウィステリアに居るうちらの援軍軍頂戴」
「もうエミリアが行ってる」
「OK、それきたら直ぐ始めるわ」

ブライドレスの東西の挟み撃ち戦はテスネアが現れてからの実際の開戦はターニャに各国のアドリブ援護の連絡が届き二日後である

方針は両軍明確であり、奇抜な部分は無い、正統的な首都防衛決戦と成った

そしてこれの開戦二時間後には後詰に直軍を置いた、テスネアのアデルの元に各地からの伝聞が時間差で届く、がこれはアデルの、予想の範囲内である

「中央街道を北進?」
「はっ、バルクストの主軍二万とロドニから一万です」
「ふむ、が、これは有るだろうなとは思っていたが」
「如何しましょう?」
「中央街道側出口に向かう、向こうもどうせ牽制だ封鎖の構えさえ見せればいい」
「はっ」

もちろんそれでは済まなかったアデルの直軍が中央街道出口に辿り着いた所での次の連絡である

「ピスノラが北に進軍」である

これには報を受けたアデルも流石に眉を顰めたが、それ程大事という訳ではない

「本国駐留のトーラを南に出せ、北進してくるピスノラの雌狐を抑えさせろ」
「はっ」
「どうせ北伐した所でこちらの防御線を打ち抜ける訳ではない専守でよい」
「分りました、通知致します」

そう命令した通り、マルギットが実際、占領策を打つとは思えない、バルクスト軍の北進と同じく、牽制,であることは自明だ

このグランセルナ連合、各国の独自行動はある意味連動していないフォレスの全体指示ではないそれが、後、大きな流れの変化に結びつく

ブライドレスの防衛戦も攻守の目的がハッキリしている南連合各国の援護が動いて後、直接的戦闘が開始されるが、ブライドレス側からすればただ守ればよい

が、方針が明確なだけに一日目から苛烈ではあった、テスネア側からすれば最速での突破が求められる、東からの進軍の主軍はそのままベステックが担当し

それの迎撃は防衛側、主軍大将ドワイトが受け持ち、反対側の背後がフェリオスが担当する

が、東西数差が、五万対三万で倍、この人事の配置も経歴、立場からすれば、表面上妥当ではあるが、残念ながら東西逆にするべきだったろう

当日からテスネア東軍は主将ベステックが自部隊と共に前に出て高回転の突撃突破を繰り返す、手法、作戦は単純である

開始から主軍を歩兵と騎兵に細かく分けての小規模な入れ替わり突撃、これを一巡したらリバースクロスでの一撃、一通り終ればまた頭から繰り返すだけだ

数もあるが、武力、テスネアの軍自体、軍力や統率が高い正午から始まった防衛戦は当日から戦果差が広がる事になる

そしてテスネア軍は連続戦闘を仕掛ける、篝火を挙げ中断を行わず、夜も継続、つまり一昼夜戦闘、特に、首都決戦に近く、そもそも明かりが多く闇戦闘には成り難い、この作戦がやり易い状況にあった

日付が変わる頃には
テスネア東 四万八千百 ブライドレス東軍 二万五千五百という戦果差に成っていた、死者よりも被弾、疲労に寄る部分が多い

ドワイト大将は連続戦闘の中、僅かな予備兵と、本国の予備兵も交換しながら戦線の維持を行うが元の数も、軍のクオリティも違う為これに苦慮した、テスネアも武装に掛けている金額が違う

まして1,2はまだしも、リバースクロスに対応出来る装備、部隊が無い、精精打てる手が、部隊突撃に手弓を返して突進を鈍らせる程度だ

一方反対側、西の戦闘は一進一退のままやはり継続した数を活かした連続戦闘であったがフェリオス少将は敢て相手と同じ形を取った

相手の縦列交換戦法と同じく、更に細かくして維持を図った、自軍の剣盾兵と弓と補給を10部隊編成し、これを前線で細かく移動展開し相手の前線や後ろに矢を放り込み連携を崩す

少しでも崩れれば自軍の騎馬隊を左右回りから小さく一撃離脱戦闘を掛ける、非常に小さい部分から相手の連携を乱し、回転と数の差を埋める、これで当日から繰り返し対応を続けて互角以上に持ち込む

この前線と後衛の入れ替わり戦法の難しい部分と目的は単純、連続した戦闘で仕掛ける側が守る側を削る目的である、数が多ければ同じ手を打っても相手のが先にへばる、それを看破したフェリオスはそこの根底目的を崩した

前線で防御力の高い部隊を展開して入れ替わり戦闘で対応して防ぐ、相手の連携を崩しながら矢を放り込み、移動を縛る、疲弊を避ける為、補充、休息を医療、補給隊をフル稼働して乱れを消す

首都決戦に近い以上、ブライドレス側は近い首都から補給、補充の、所謂補給線が極めて近い、故に、この手段で対応出来る、まして遠征軍であればテスネア側の方がこの負担がデカイ、時間が掛かる程、補給、後方支援の距離の差からきつくなるのである

二日目朝には、同じ展開であるが東西、逆の戦果と成った東は一方的にブライドレス側が不利に、西は逆にブライドレス側が優位に進んだ

二日目の15時にはこの流れが広がる、つまり東が崩れ、戦線の維持が不可能になりつつあった、一方西側はそこまで深刻ではない、というのもテスネア西軍は事前策があるからだ

「西連合側から援護が来る筈」である

故に、多少不利でも維持出来れば良いが、ブライドレス側はそうは行かない、既に戦線維持が難しく、援軍と言っても何時と言うのが無い、しかも引いて守るという事も出来ない為だ

東西の担当司令官もお互いの状況を知っても動く事も援護に回る事も出来ない、どちらも手一杯だから

ここで見兼ねたターニャがブライドレス側の王に進言し無理矢理東の援護に手持ち五千の兵で出る事になる

それでも王は「グランセルナの姫を危険に巻き込めない」と拒否したが

「このままでは最速突破されます、そうなれば巻き込まれるのに早いか遅いかしかありません」と、制して出撃する事になる

この援護でターニャはブライドレス東軍に加わり前に出て武力を活かす方針を見せた、兎角、疲弊したブライドレス側の負担を少しでも下げねば成らない

この状況、作戦で一番問題なのはベステックである、ここを止められれば負担と兵の損耗は極端に減る

メリルはターニャの判断を支持していなかった、そもそも自分らは逃げのルートがあるし、無理する理由も無いが同時、ブライドレス側を捨てる事にはなるという、両方を天秤に掛けた上での「撤退し自身らの安全」が優先であるという判断だ

が、こうなっては仕方なく、あらゆる準備を整える指示を出しターニャに付いていくしかない

「メリル!向こうの部隊を止める!」
「はい、こちらも鉄騎馬を用意します、5分お待ちを」

参謀、補佐のやる事は決まっている如何に指揮官の意思を汲んで実行に支障を出させない様にするかである、故にある種の覚悟の様な物を決めた

「姫の鎧も用意、護衛隊準備。多くはありませんが連弩、弩もあるだけ出します、本国に参戦の報告だけ伝心」
「はっ」

と短く交わして戦いに乗り出した。もう一つ「覚悟」も決死とかそういう事ではない、代わりに援護に出撃した所でそう長くは支えられない事だ

「手持ちが五千しか居ない‥矢もどこまで持つのか‥」という目算である

別段ターニャは「勇」を誇る指揮官ではないだろうが、この際、そこを活かすと考えた、理由は単純で明確、テスネアの東軍の最も相手を被弾させる要素がベステックでありこれを抑制すれば、被害自体減る事、それが出来るのが現状自分らしか居ない

ターニャの性格。ペンタグラム一連の流れでも分る事だが、彼女は目前の事例から逃れる、見捨てるという判断はしない

ある意味、ターニャとメリルは逆の性格だ、それが完璧な組み合わせと言える、メリルはどちらかと云えばマルギットに近い冷淡で効率的

ターニャは情熱的で思いを優先する
そしてメリルは知 ターニャは勇、である

ブライドレス側大将、ドワイトに良を取り15回目の突撃を打つベステックと再び対峙する事になる前線で対面した両者は最早意外な部分等ない

「ほう、こちらに対応する部隊を用意したか」
「今度は譲らない」
「いいだろう、オレを楽しませろ」

交わした言葉はそれだけで
再び激しい双方の部隊の激戦が繰り広げられる事になる、このターニャの参戦から明らかに東も互角に持ち込む

理由は二つである
勿論、リバースクロスを止められる力が大きいがベステックが「拘り」を見せた事にある、先のペンタグラム開戦で交し、互角であるターニャと手を合わせる事を優先した事

これで作戦その物を修正する
つまり、交換戦闘をリバースクロスがメインで回し「わざと」ターニャらの部隊と高頻度で当る様に仕向けた

もう一つがメリルの参戦
戦術部分での狡猾さである

リバースクロスと他部隊の交換時に「弩」を浴びせ連携を鈍らせ、二次突撃の次部隊に盾兵をぶつけて止めつつ、盾隊の後ろから更に連弩を浴びせ相手部隊の右から自軍騎兵部隊を突撃させ後退させる

そこで次突撃用意の第二陣を突撃前に崩し、第三陣の準備の敵集団に「弩」での、火矢で遠距離攻撃を叩き付け、相手第三陣待機陣周囲に火を付け2と3を同時に崩した 

交換戦闘の「交換」の意味を消したのである
流石にベステックも眉を顰めた

「ぬ‥、第二、三隊自体に楔を打ち込むか‥」
「如何します?」
「チッ‥やはりグランセルナだけは別格だな、やむを得ない、通常の翼陣に再編、オレの部隊だけで遊撃する、自軍を前後に分けて、主軍側は数を活かせ」

つまり、通常行われる、主軍で中央を勤めリバースクロスは左右どちらかに回り込み遊撃隊でサイドアタックをするという方針に切り替えた

「が、中央街道からも敵が来る、陛下が封鎖に回っているが無駄に時間を掛けると、戦況が転がる事もありえる、主軍を左右に開き、前のグランセルナ軍を半包囲の形を作る、どうせ、強かろうが数は多くない」という形に

テスネア東軍、主軍はそのまま左右に扇陣に展開、横に伸ばした翼で包囲を縮める形で半包囲で叩きに行く

こうなるとグランセルナ側でも対処が難しい、そもそもの数が違う、これで一時前に出て友軍の連戦の負担を下げたグランセルナ側も再び後退してブライドレス主軍と合流して数での維持に切り替える

それでも一時、テスネアの猛攻を遠距離主体に切り替え防ぎはしたが深夜から朝に掛けての戦闘で再び劣勢に成る、連続戦闘での疲弊と、不利な陣形でも数の面で応じる形が出来ない

グランセルナ側が相手に対して打った手、連弩や弩での先出し迎撃での矢の消失が激しく

開始から6時間で頼みの綱、維持に使えた連弩や弩の矢が早々に尽きた事である

ましてグランセルナ軍は五千しかいない上に本来最も必要である「独自武装の補給、交換」が無い、故に、グランセルナ軍はその規模が最初から大きく、工夫がある

考えてみれば当然だが、武装が強いと云ってもそれは壊れる
矢も尽きる、要するに「弾切れ」が発生する、弾切れの銃等、鈍器にもならないという事だ

「覚悟」の意味はそういう事だ、最初から一時しのぎか時間稼ぎにしか成らない、メリルには、それが分っての事である

が、最初から分っている、ならやりようはあるとは云え、手持ちでの遣り繰りもコレしかなかった

「矢が尽きたなら弩兵は後退、換装して歩兵へ藤甲兵に変換して歩兵で支えます、被弾した者は無理せず下がってください」

メリルの指示から部隊、遠距離戦から軽歩兵での
対応に全て切り替える、これでベステックも見切った

「向こうの矢が早々に尽きたか」
「のようです、全体兵力の差がここに来て出ましたな」
「ああ、そう長くは持つまい」

そう、テスネア側が云った通り、この戦いは
グランセルナ連合側が極めて「劣勢」であった
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