晴海様の神通力

篠崎流

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九十九針

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出たのは丁度午後五時くらいだろうか特に急ぐ訳ではないので安全運転で移動するが辺りはもう真っ暗である

綾辻の所有地から出た辺りだろう、レイナが前を走っていたのだが、バイクのフロントスクリーンに電子情報が入りウインカー掛けて停まる

後続のベンツも道横に停車し時人も後部座席から降りて話しかけた

「どうした?レイナ」
「不味いね‥予想予報が入った、割りと近いぽいし警戒レベル中だね‥」
「と言うとランクE以上か?」
「わかんないけど多分‥ちょっと云って来るわ」
「いや、なら我々も行こう」
「大丈夫か?親父」
「お前一人行かせる方が危ないだろうに」
「‥そう言われるとそうなんだけどね‥」

そうしてレイナのバイク先導で予報が出た範囲を探す事になる、なのだが、それ程明確に「此処だ」と表示されるモノでもない、今回は10キロ範囲円表示で出されたので、その方向・北側に移動と円中心部を回る

通信機は携帯しているのでレイナ側から連絡を入れて状況と対応を求めたが残念ながら地勢的に公的側E対応の部署、警察組織や特殊部隊の組織が遠いので援護に時間が掛かる

慎重に移動しながら辿り着いたのは北西10キロ地点の雑木林の中を通る一本道でメイが停める様に要請して車両を端に停めた

「何だ何だ?」
「メイ分る近い」
「マジか」

言われてレイナも両手に武器を装備、サーモグラスを掛けて周囲をぐるっと見回すが略同じ様なタイミングだろう、自分の位置から右45度を振り向いた所で「ソレ」を瞬間的に捉えた

「ヤバイ!」と思うと同時、味方に警告する前に右の鉄剣を発動させながら体ごと飛び出して投げ出すように「ソレ」の突進進路上に打撃を打ち込んだ

「ガン」というおおよそ生物を殴った音とは思えない打撃音を立てて相手が殴られて仰け反るがレイナも当てた反動で逆方向に踏鞴を踏んだ

そうレイナはサーモグラスを装備していたので消えた状態から斜め横から突っ込んで来た「ソレ」に気づいてそういう行動を取ってどうにか防いだ

時人も見えていなかったが、レイナの行動から略同時に「何かがいる」事を察してメイを抱えて後方跳躍しつつ離れる

レイナにぶん殴られてソレも姿を現し、距離を取って対峙したが、見た目はレイナが一度目に戦った白熊に近いが、サイズは一回り大きく完全四足歩行の犬に近い、ただ明らかにデカイく大型虎という感じだが動きは前の奴より早い

地に伏して飛び掛る姿勢から前に飛んだが
略、目視出来る限界ギリギリの速度で飛び掛る

「早!」と思ったがレイナもどうにか対応は出来た。前から突っ込んで来る相手に対して、籠手盾を斜め前45度くらいに立てて受けつつ自分も体を半身の姿勢から上半身を後ろに倒す様にして受け流した

が、それでも相手の打撃の勢いで引っくり返ったが

虎の様、と言った通りで相手の攻撃は実際の猫科の猛獣と略同じで前に走りながらの両方前足の爪と牙、体ごと飛び込んでの攻撃だがサイズが五メートルで途轍もなく重くて早いのでやりにくいには違い無い

すれ違い様に一撃して離脱する、そういう戦い方でレイナに飛び掛った後、そのままの勢いで20メートルくらい飛んで向き直った

しかも最初に打撃剣を打ち込んで止めた一撃でも別に相手に被弾はないという頑丈さだが、これは分ってはいる。レイナは、というか晴海以外は近接で一人でどうにか出来る装備や技がないので近接するなら主な役割は前でのデコイに近い

古代戦争で言えば盾役と後衛弓みたいな分担なので元々そういうやり方しかない

更に云えば現状後衛が居ないし、場所が場所だけに援軍待ちで時間稼ぎというのも何時に成るか分らない

二・三撃と相手の突進噛み付きを回転、逸らし受けでどうにか流して受けるが四回目の突撃を受けてレイナも引っくり返った、体重差があると僅かでも受けミスすると体ごと吹き飛ばされる

理屈上で言えば時速百キロ出てる自動車を避ける様なモノで縦横の幅とダメージ範囲がデカイので爪や牙を鳳の籠手で防いでも突っ込んで来る物量は自分の体捌きで流すしかない

ただ名雪に習った戦い方の基礎、のお陰で深刻な被弾をしてなくはある、籠手で受けつつ、直進に対して横に飛んでダメージと被弾自体は消せている

時人もレイナの攻撃では不足と分ったのだろう、彼自身も車の座席から横長ジェラルミンケースを出し用意する

「レイナ!射線を開けろ、後衛は私がやる!」
「出来んのかよ!」

そうお互い叫んだが実際、現状では打つ手が少ない。レイナは相手の攻撃を待たず、相手を中心に置いて周りを回る様に
右回りに走りながら時人と常に正対しないポジションを取る

その隙、つまり相手がレイナを向く方向に頭を向けると必然的に時人からは横か後ろを晒した状態になる。そこで出来る後衛の役割が実際時人が見せた九十九針、これしかないだろう

そうして時人も虎の横腹に九十九針を三本作り打ち込むのだが刺さる事は刺さるのだが大してダメージが無い

一瞬「ああ?」みたいな感じで射撃した時人に眼をやった程度でおそらく虎からすれば針が刺さった様なモノなんだろう、それでも他に有効な手段が無いのだから継続するしかないのだが

教授の際にも見せた通りだが、九十九針の欠点は一本一本の針に高い殺傷能力がある訳ではない事。本来の完全な形で使える場合、指先から連続で複数本の針が継続して飛ぶ、ショットガンとマシンガンを足した様な連続投擲技で、面と圧と刺しにより立ち直る隙を与えず弱らせながら倒す技なのでそもそも霊力が少ない人間が使うとこういう効果にしかならない

相手が人間サイズか小型ならこれでも効果はあるが大きすぎると残念ながら楊枝が刺さった様なモノでしかない、つまり使い手の霊力により依存する技な訳で「実戦では使えない」の理由でもある

そうしてレイナは虎を防ぎながら時人が撃つという戦い方をするが、これも持ちこたえたのは精精一分くらいだろう、まず先に時人の霊力が尽きる、貧血でも起こしたかの様によろめいて車にもたれる

「ぬう‥やはり私程度の霊力では続かんか」
「トキト?気尽きた?」
「あ、ああ‥」
「じゃあ補充スル」

云ってメイが気を渡すが仮に回復してもあまり状況が変わらない、レイナ自身に相手を被弾させられる武器があれば現状でも良いのだが、打撃が大して効果が無いと成ればジリ貧である

10分レイナも凌いだが此処で籠手盾の霊力も尽きてレイナも避けるしかなくなってから被弾して吹き飛ばされる

虎の体当たりを横に飛んで回避したのだが引っ掛かる様に体の左半分に受けてきりもみする様に転倒する。避け方としては完璧だったのだが相手の速度とダメージ範囲が大きくそうなった

「いってー!」と吹っ飛ばされた反動を逆に利用して地面を三回転がって吸収したので大怪我もしてないが、長引く程人間側は不利な要素が増える

ここで代わりに前に出たのがメイである

「レイナ!代わる!」と
「ええ?!大丈夫なのか!?」
「だいじょうぶじゃないけどやる!」

そうしてレイナの反対側から距離を取って虎と対峙「距離を取って」という意味はメイの近接武器はミドルレンジ武器だから

虎が低く構えて飛び掛る姿勢の所の横にポジションを取り構えて勢い良く左右に手を広げる姿勢から袖口から小型の何かを取って投げた

これが無警戒の虎の横っ腹にサクと刺さる、ただやはりそれ「だけ」ではあんまり効果がないらしい、ナイフの様なモノを受けて今度はメイに向き直り、そっちに突撃

時人もレイナも「ヤバイ」と思ったのだが、メイは相手の突進に合わせて「上」に飛ぶ、そのまま逆立ちする様な側転格好のまま、綺麗に相手の後ろに着地しながら両手を思いっきり引いて刺さった武器を手元に戻した

そして夜の闇の中、僅かに光を反射して武器が何かを確認出来た、鉄製のワイヤーの先に中型のナイフが付属したもの。いわゆる「縄鏢」という奴である

中国発祥の暗器で拳法でもある、紐の先に鉄球や殺傷武器が付いた道具で、これで操作しながら振り回して打撃したり切り裂いたりする武器だが、メイのは「技術」ではない

この武器は紐の先に付いている武器で投げて攻撃する、当然、投擲して当たった後手元に戻して回収してまた投げるなのだが何しろメイのは手元に戻ってこない

つまり剣が一定の所で空中に停滞しながら意思を持っているかの様に上下左右から虎に襲い掛かり連続で斬り付ける

「オヤジ」
「あれが黄家の蛇发布という技だ」
「すげー‥」
「気力を注入して操作するらしい、だから「紐付き」なのだが」
「成る程‥「繋がってないとダメ」て事か」
「そうらしいな」

メイが虎と対峙して引き受けたが残念ながらこれも「時間稼ぎ」以上の事は出来ない。確かに優れた技だし、斬れるのは斬れるが精精五センチ程度の切り傷を付ける程度で火力が足りていない

普通の猛獣ならこれでもいいのだが何しろ生物ですらなく痛みも無ければ出血等もする訳ではない

ヤツラの厄介な所は弱らせて倒すというのが基本効かない事にもある、初戦で晴海がやった様に体のどこかの部位を「切り取れる」くらいの殺傷力があるか

打撃なら陥没させるくらいの打撃力が必要だという事、そして人間は戦闘が長期化する程疲れとか被弾とかが蓄積する事

「これはジリ貧だ」と時人にもレイナにも分るが既に二人も武具と自身の霊力の消耗により戦力は半減している

そこで「アタシの霊力で出来るかな?」と思ったのが九十九針である、尤も、レイナの霊力は時人より少ない、一般人と同等なのだから撃てても精精十~だろうがメイもそう何時までも戦える訳でもない

ポケットから貰った触媒を取り出し左手に構えて虎とメイの対角線左周りにステップしながら射線を確保して集中する

「よし、触媒へ注入、構築」
「行け!」と初発動してみるが、そこで事件が起こる

加減が分らず「どうせアタシの霊力じゃそんなに撃てないだろうから」とありったけ霊力注入して発射したのだが指先から出た「針」は尋常じゃない数だった

「ええ?!」と自分でびっくりするくらい

最初に飛んでった光の針は5発だったのだが速射砲の様に止まらず連続でバシバシ発射される、メイも驚いて咄嗟に後方跳躍して距離を取った

そりゃそうだ、何しろ虎の右側の顔面から腹部まで光弾が突き刺さって、しかもそれが継続して連発で続く、巻き込まれては堪ったものではない

「レイナ!?」と時人もメイも離れて叫んだが
「ちょ!?どうなってんのこれ!?」

どうも自身も制御不能らしい

先に受けた通りで虎には鉛筆大の針なんて大した被弾でもないが、言っても秒間12~3発も打ち込まれては堪らない、あまりの圧と射撃量で地に伏して動けなくなった

正確にはレイナに飛び掛ろうとしているのだが
前に進めない程の着弾量である、という事

5秒で70発も受ければ流石に体の方が持たない、右前足と顔半分が水鉄砲を受けた砂の様に剥ぎ取られて圧から逃れるように下がって離れるが、そのまま走って林の側に逃亡した

レイナの連射が終ったのが更に二秒後、自身も霊力空っぽでそのまま尻餅を付いて「ぷは~」と大の字に倒れた

そう、これが「九十九針」の本来の形である
時人とメイも駆け寄り、レイナに気を注入して回復させるが

「だいじょうぶ?」
「さんきゅー、大分楽になったよ」
「一体何があったんだ?」
「アタシが聞きたいよ‥普通にあるだけ霊力ぶち込んで撃っただけなんだけど‥」

「九十九針は触媒に入れた霊力に寄って威力と数が変わる、つまりお前の霊力がかなり多い、という事に成るのだが‥」
「前測った時は0、9だったけど‥伸びてるて事?」
「としか考えられんな‥だが普通に霊力上昇訓練しても0,1上げるのに数年掛かるどんな手品を使ったのやら‥」

「特に何にもしてないハズなんだけどね‥」
「メイのキ入れても全然全快にならない。タブン2以上はある」
「マジデ‥」
「マジデ」

「とりあえず今は解明のしようがないな、車に乗って休め援護が来るはずだ」
「そうだな‥」

として一同は一旦現場から離れる、今の状態で襲われたらどうにもならないし、林道から出た所で停車して休憩するが援護の警察車両が来たのは更に十分後。時人が対応して現場を地元警察に移譲する

何が起きたのか、レイナ自身にも分ってないのにこの現象を幾ら考えても無駄であり、とりあえず三十分後には警戒予報も解除されたのでレイナらも再び車両で移動して帰る事になった
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