混血の守護神

篠崎流

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兆候

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そこからはとんとん拍子だった。

彼は中央政権、宮殿の警備責任者の一人で翌日には周囲、中央の政治官らに引き合わされ紹介

「こんなんでいいのか??」という程あっさり、円は警備の一人に加えられた

勿論それは彼「須岐」の立場と元々の評判にある。円が若い女性な事もあり、訝しんだ者も居たが基本的に

「まあ、須岐が云うなら問題ないだろう」と認めるあるいは。彼の責任の範疇なら構わない、との流れと成った

円自身、あっさりしているな、とも思ったが思い返してみれば他所の国とそれ程変わる訳ではない

後の世なら兎も角、この時代ではどこもこんなものだ、身体検査やら試験、あるいはどこどこの家の、というのは中世からだろう

円は自身の事情もある程度明かし
「それなら、このまま宮に留まればよい」とされ所謂、兵隊の詰め所の様な場所、一室を与えられる

仕事、と言っても特別な任務の類もあまりない。そもそも争い多い、とか、工作員の類が君主を暗殺、潜入、というのもまだ殆ど無い。この国では、だが。その為、比較的自由に見て回る事も出来た

「意外とちゃんとしてるんだな」円の感想はそれだった

他の一般家屋とは似ているが規模は大きい、木造建築であるが大陸の家と違い、床下、基礎がありその上に家が乗っかっている建築が殆どである

後の世で云う、日本家屋の基礎は既にこの時からあったと云える

あまり出来の良い物でもないが、中央宮の周囲兵、護衛も皮の鎧をしているし、鉄や銅だが帯刀もしている

そして興味の対象でもある「神事」も目にする事が出来た、だが、そこに特別なモノがある、とも思えなかった

篝火を上げての祈祷、それを女王が周囲に伝えて、告知とか政治の方針決定、それだけだ

無論、ハタから見てそれがその力の類とか、技術とかがあるというのは分らないが「特別なもの」には感じなかった。この辺りで半信半疑にならざる得ない

そして「そりゃそうじゃな、その力があるなら皆に見せている」と声が掛かった

「あら、戻ってたの?」
「おう」とヤオが何時の間にか対面に居たのである

「どういうこと?」
「云った通りじゃよ、特別な力とか、予言の類があるとするなら寧ろ隠さず、宣伝に使った方が多くの人を繋ぎ止め、信仰を得られる、だが、多くの歴史的な教祖の類はその力を見せられない」
「確かにそうね」
「この二代目には特別な技術や力は無いと見てよい」
「うーん」
「先代、ヒミコとか云ったか、これにはあったのかも知れんが、そういうものがあったとして、実子に力も引き継がれる、などありはせんじゃろ」

事、政治に関してもそうだろう先代卑弥呼の急死から実子である壱が後継する

その際壱は、これも諸説あるが12,3歳とされる、どれ程優れた資質があったとしても

また、当時の本土に政治哲学等の学問すらない訳で専門教育を受けたとは思えないし、その能力があったとも考え難かった

「けど、鬼道と呼ばれてる技術、神事は?」
「おそらく、大陸の宗教とあまり変わらんだろう。神とか異界とかの力を得るという技術ではなく」
「つまり、先代の奇跡の類を政治利用しているだけ、と?」
「キリスト、イスラム教だって変わらんじゃろ?後の布教、信徒に奇跡は起こせん」
「それもまた「一代の事である」か」
「おそらくな、政治体制の維持の為に実子に継がせて象徴としてまつり立て、一本につなぎとめる、そんな感じじゃろ」

「確かに、有るなら有るでおおっぴらに皆に見せてより支持を集めた方が恩恵は大きいわね」
「秘密性に寄る特別感を作り出す、というのも無い事もないだろうが、少なくとも此処には無い可能性のが高い」
「まあ、それはそれでいいか、別に、もう仙術を得てる訳だし‥」

そこで円は「あれ?」と気がついた

「ちょっと待ってよ、私やヤオて生神みたいなもんよね?」
「うん?そうじゃろな、ウチは前にも云ったが地神の類じゃが」
「私は貴女の血を貰って生き返ったのよね?」
「そうじゃな、混ざり物だ、だからその能力も引き継いでいる」
「でも人間の場合、血統が同じでも力は引き継がない」

「血統だから優位とか適正が強いとかはない、血統に寄る遺伝、見た目とか病への耐性の類はあるかもしれんが単に能力で云えば多くの他人と同じで五分五分でしかないだろう」
「確かに歴史的には殆どそうかも」

「そうじゃな王朝の類で一代目は偉人、名士で多く発展したがその子、配偶者が初代の様な政治や功績を残したとか発揮したなんて殆ど無いし、その意味「血」とかではなく、あくまで一個の人間としての才能とかになる」
「血統に寄る王朝の制度自体否定されそうね」
「だが、1から構築するよりはマシだろう。土台が用意されている訳じゃし、その地盤を引き継ぐか、そうでないか、という事になるかの。何れにしろ、政治やら統治者次第である事には変わり無い」

「だとすればやはり選任制度のがいいのかしら?」
「選挙とかか?ちゃんと選べればソレが良いがそれが成される事もなかろう」
「と言うと?」
「これも歴史が証明している、多くの民衆から支持、選抜されて統治者と成った、だが、素晴らしい政治だった、なんて事もあまり無い。理屈としては正しいのだが」

「うーん、それも確かに、選挙で勝ってトップになった。けど暴政だったとかふつーにあるわね‥」
「左様、簡単に言えば、だが、その時最も優れた者とか皆の為に動いて政治するもの、を選べば良いのだが、選んでいるのも多くの他人じゃ、一般の民衆、他人は人事選抜眼や審美眼を多くの人が持っている訳ではない」

「そうねぇ、先の例で言えば各地の皇帝が例えば、劉備殿とか孔明殿とかが公正である、皇帝に抜擢しよう!なんて成る訳無いわよね‥考えてみれば、それが一番死人が少なくて、不幸が少ないその確率が多い」
「じゃが、人間は、いや考えの有る者は皆そうじゃ。効率性と合理性だけで動く事も無い。一番優れて、聖者が居るなら任せた方が本来は早いし全員の不幸は少ない」
「それが結果的に自分を不幸にすると分っても?」

「愚かな為政者を選び立てる、それは全員不幸だろう自分らを弾圧する政治家を自分たちで立てるのだからな。これは権力に就いた者でもそうだ、何しろ能力も無く才能も無く。その立場に就けばまともな政治等出来る訳がないし全てマイナスな結果しか出ない。だから自身、或いは評価を自分で著しく下げる事でもある」
「馬鹿なんじゃないの」
「そうでもない、現にお主は「あの」曹操殿に肩入れしていた。それは直に接して好ましい部分があったからじゃ。それが所謂、他人で云う所の「個人的な範疇」だ」
「あー‥そう云われると否定できないわ‥」

「意思有る者、とは其々個人的な範囲の基準を持っているとも云う、確かに効率面で言えば馬鹿らしいが人間はずっとそうじゃ。それにウチらもあんま変わらん」
「‥そうかも」

「うむ、自分の嫁とか子供とかに嫉妬したり、貶めたり、実際神話では、人間と恋した神とかの娘の親、主人とかが嫉妬して醜く実の子を変えたり、相手の人間を殺したり、魔側に突き落としたり一時の感情でとんでもない事をやった例もある」
「なるほどねぇシヴァ神もそんな事やってた様な‥」
「そういうこっちゃ第三者から見れば、馬鹿じゃないと思うが当事者になるとまた違う考えとか、判断とかするものよ」

「これって解決出来ないモノなのかしら?」
「出来たらもうやっとるだろうな、だが、そこに近づいているのではないか?」
「それは?」
「例えば仏教とか道教じゃな、人の成すべき道とか正義とか道理とか、理想論だな」

「なるほど、一理あるね」
「争わず、和合し、貶めずとかな。愚か、マイナス、と思われる物事、基準をまず排除して、では其の後どうしますか?という事を考え、理想とする社会とかシステムは何なのか、と一つ一つクリアしていく、そしてそれを多く広める」
「うーむ‥」
「五徳なんかもそうじゃろ。やさしさ、正しさ、清さ、賢さ、信じる心、まずもって、それを一つ一つ目指しましょうてな」
「仁義礼智信ね」
「そじゃな、後はまあシステムだろな共和制とか法家とか」
「ああ、王様に任せないで皆でやろう、法律を基準にして全て行おう、ていうやつね」
「会議システムなら独裁は発生し難いしの」

「で~話は最初の疑問に戻るけどさ。私はヤオの能力引き継いでる、天魔の血、て強いのかな」
「そういう事になるな」
「んじゃ、私ってもしかしてヤオの他の能力も引き継いでいるの?」
「んー‥、かもしれんな」
「分身とか治癒とか使えるのかしら」
「わからん、何が継がれるかはランダムじゃろうし、なんかの切欠で開眼する事もある」
「うーん、あったら便利なんだけどなぁ」

「ただ、ウチの能力は元々神術として持っているのと法具とかで与えられている物も多い、元々力弱い神じゃし、調べる事は出来るが、それも外に力が出ての事だ」
「そうなんか」
「試しに訓練してみたらどうじゃ」
「具体的には?」

「同じ様に使えるかは知らんが道照らしは瞑想と集中で見えるぞ」
「なるほど」

とさっそくその場で試してみるが、特に何か見えるという事はない

「ダメじゃん!」
「んな事云われてもなぁ‥ウチはそれで出来るし、と言うか他人に指導した事ないぞい」
「それもそうよね‥使徒としても専属初なんだろうし」
「まあ、暇なら続けたらいいんじゃないかウチには教えようが無い」
「そうね」
「それにまあ、このまま安定してお役目をこなしていればお主にも法具が与えられるかもしれんし」
「え、マジデ」

「うむ、そういう例もあるし」
「あー、前に云ってた「英霊」ね」
「そそ、こっちの側で出世すると「神」としての階位も貰えるし褒美が出るかもしれん」
「そっかー、がんばろう」
「お主‥それ以上強くなってどうすんじゃ‥」
「やる事ないとつまらないじゃん」

結局それらあって、円は半信半疑ながら各能力の出し方を練習し続ける事になった

一方で当初の目的「鬼道」に何か特別なモノは無いのだろうと見切ったのだが、そのまま直ぐ去る、というのも無かった

理由は単純に国としての生活のしやすさ。確かに文化、技術共に大陸と比べれば劣っているのだが争いが少なく、トラブルも略無い

食材、実りは豊富だし、飢えとか他人の不幸とかは少ない温暖で自然も多い、という所だ

二つに、円を誘ってくれたタスキが何かと円に教えを乞うた事

「まあ、一応義理もあるし」と剣術の指導をした事である

三つに、未だ「歴史とは関係ないが干渉がある」という点、これがハッキリしない

そうした理由もあってそのまま暫く居る方針を見せた

特に2の部分、円もそこまで武器術が得意とか秘術を持っているという訳ではないのだが

その彼女から見ても、現地の「技」は歯痒い。持ち方、構え方、基礎の突き払い受けすら碌に出来ていない

無論、大陸の兵でも民兵はそんなもんだが近衛としてはあまりに錬度が低かった。その為「そんなんじゃダメだろう」と居ても立ってもいられず指導を行った側面がある

確かに彼女を誘った須岐もそう言った事を期待してはいたが、あまりにも違った。効率的な技術だった

「剣でも棒でも基本は変わらない、なるべく体に近い所と中心線に置いて構えたほうが良い」
「むう‥」
「剣先もブラブラさせない刃に近いほうを持って構える」
「成る程」

「人間の腕力など、どう鍛ええてもたかが知れている。腕で振り回そうとするな、体とか腰とかを左右に回転させる、これに巻きつけるように振った方が無理せず素早く力も入らず振れる」
「おお‥確かに、これなら腕の力が要らない」

剣術、と言っても武器術には違い無い、使っているのは「道具」に過ぎない、両手で持って手で振っても力が入るし遅い、第一、非常に疲れる

拳法の武器術も徒手術も大体基本はこれで両手で構えるにしても左右どちらかの手の力を抜く、腰の回転に連動して体に巻きつける様に振ると殆ど力が要らない、故に演舞の類も滑らかで美しい

突き、槍もそう半身に構えて、一歩目の出足で体ごと前に移動する、すると剣でも槍でも、体に連動して付いて来る

つまり手打ちで無く全身の力を乗せる事、突進プラス打ちという事だ

そして武器は「刃」が付いている相手を両断するなら兎も角、斬って倒すだけなら、撫でる様に当ててスライドさせれば斬れる

こうして指導が続いた結果3ヶ月過ぎた頃には彼もいっぱしの剣士だった、云うまでも無く、これがこの国の剣術の楚として残った

彼は自身がある程度のモノを得た後、これを周囲、部下に指導して広める事になった。こうなると円も関わらなくても勝手に広がる

まともな人間にまともな技術を必要なだけ与える、すれば後はそれが継承されていくものだ

「何だかんだで楽しそうじゃの」

個人部屋で夕食を頬張ってヤオも言った

「やる事があるのは良い事よ、それに、まともなモノが食えて良かったじゃん?」
「うむ、材料は円の料理と変わらんのに何故こうも味が違うのか‥」
「悪かったわね、そんな経験も必要性もあんまり無かったし」
「お主は木の実食ってりゃ満足だからな」
「それはまあ、そういう修行だし‥」

「しかし、あまり関心せんの、折角生きてるんじゃ食という娯楽も必要じゃぞ?」
「そうかしら?」
「音や芸術はやるくせに食は貧相というのもどうかと思うが」
「‥そういわれるとそうかも、まあ、私が食べる食べないは兎も角どっかで習ってもいいかもね‥」

「というか仙術の修行前は何食ってたんだ」
「あんまり変わってない、そこいらで果物とか米とか魚とか」
「その時のをそのまま同じやり方でウチに食わせたのか塩ぶっかけて焼くという」
「まじめにそれしか知らないし‥一応米とかも炊けるぞ?」
「大雑把じゃのう‥」

時代が時代だから仕方無いとも云えるが、所謂、現代で云うキャンプ料理というやつだ

魚獲って串刺して塩かけて焼くとか網に乗せて貝を焼くとかダイナミックなものだ

「けどまあ、それも大陸に戻ってからね、ここにはそんな料理スキルも大したものないし」
「そじゃな、ところで、このまま居るのかの?」
「うーん、やる事はやった、あとは干渉だけかしら?その辺はどう?」

そう云われ再びヤオは集中して「見る」が
処に至って見えるモノにも変化はあった

「うーん‥正面に女、後は、背中しか見えんが多分男、だな」
「なにそれ‥」
「のち、起こりうる場面を切り抜いて持ってくる、それをウチは見ている、そんな感覚かの」
「何時もそんななの?」
「いや、もっとハッキリしている、今回はやはり明確ではない」

「それは必ず起きる?」
「とは限らん、三国時代、ジャンと初めて戦ったろ、あの後、後の干渉、予知も略消えた」
「そういえばそんな事云ってたね‥」
「そ、相手が中断したとか断念した、干渉を止めた、存在自体消えたとなればその後の別れ道も無くなる」
「しかし、そこから推理も難しいなぁ‥男、干渉となればやっぱまたジャンみたいな?別な使徒とか?」
「姿は分らん」
「あとは女か、もう少しなんか分らない?」

云われてヤオはなぜか虚空を見つめて目を細めた。多分、円には分らないが面前の絵か映像を見ているような感覚なのだろう

「んー‥、着物、長い髪、色は分らんだが、なんか笑っとる」
「ますますワカラン」
「そう言われてもウチにも分らん、見えているモノをそのまま説明しとるだけだ」
「んー‥、ジャンみたいのとも違う起こるかも謎、か」

「ま、それ程気にせんでもいいがな、お役目とは関係ない、歴史的干渉はなし、だけは分っているし、仮に敵としても現在のお主に敵う相手もそう居ない」
「だといいけど‥」

そうして一旦区切って、というよりこれまでと違い。あまりに不確定な為、特別な準備のし様もなく、心の準備と武器の手入れの類だけはして過ごした

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