混血の守護神

篠崎流

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船旅、と言っても粗末な物でもない、5,6人は乗れる漁船に近い物だ、気ままに帆を張り、風まかせで東海に出た

そのお陰で、元の円の生まれ地とは違う土地に流れ着く。ただ、それも結果的にはマイナスという事では無かった

円は今で言う日本の南方、九州の生まれだが北に流されて陸に上がった時は近畿の付近だった、尤も、辿り着いてもどこだか分ってないが

「ここどこよ‥」としか言いようが無いが別にそれで困る訳でもない

「おい、円」
「あによ」
「なんか食おう」

と何故か暇つぶしで付いて来たヤオは言ったが当時の倭国に外向け商売やら店なんぞある訳がない、そもそも通貨経済自体、発生するのがかなり後だ、ただ、円は別に困らない

元々自然の中から食を得てる、その時も木の実を採取して袋につめて持ち歩いている為とりあえずクルミを割ってあげた

「なんか田舎じゃのう、社会体制とか生産とかが他所の国と比べて著しく劣っておるな」
「文化‥もそうね、私が居た頃から金だ政治だの無かったと思う、ただ、食うに困るとも思えないが」

そう言った通り、大抵、海、森、農耕はある。これら実りや収穫の物々交換が「経済」の形に成っている、経済、と言っていいのか微妙だが

これもヤオの云う通りであるが、そもそも政治も無い、各地豪族が好き勝手やっているだけの話しで、統制管理の類も国の概念も無い

ただ円らの辿り着いた時期、土地はある程度あった幸運もある

既にこの時期には大和王権の時代で首都も一応現在の奈良であり、社会政治の部分では形はあった

南に歩きながら適当な集落に入って確認したが中央集権の形に収まっているらしい、この点はどこよりも正しく、争いも目立って多くない理由で寧ろ進んだものだった

これまであった各地豪族や統治者を中央が治める形と各地の土地の権力者を管理するのではなく「連合」の形に近い

つまり、中央が権力によって抑えるという形でなく、其々の統治にある程度任せて、何か事が起こった場合、集まって話し合おうぜ、という体系が出来上がっていた

一方で中央の政治もある意味進んだ物だった、所謂「神事」によって指針を示すという方法、要するに、お告げの類での決定を行うとか道を示すという聊か胡散臭いやり方だった

これは諸説あるが中国と交流があった為、向こう側の資料の類では卑弥呼に代表される様に「鬼道」という宗教の扱いで示される

本格的な王権で政が行われるのもまだ後の話しで、この形も別に可笑しくは無い

実際、中世まではどこの国も多かれ少なかれある、現代ではシャーマニズムに近い物だ

物質界の上位にある霊世界で、全ての物はこれの影響下にある、これに問いかけ祈祷、あるいはトランス状態により意思や問いをするというものだが

「私が云う事でもないけど、そんなんあるの??」
「それはウチが云う事でもないがな」

というのが二人の感想である、云った後ヤオが応えた

「霊世界かどうかは知らんが、人界の問いかけが届く事はある」
「ていうか、そもそも、元々世界は分かれているのでしょ?」
「左様、交信自体はそう難しくは無い、大体昔からアチコチの土地にもあるしの、強い念ならこっちに届く事もままある」
「そーなんだ‥てそりゃそうか、ヤオも地神なんだし‥悪霊の類も何度も戦ってるし‥」

「だが、それを操ったりする事が普通の人間に可能かどうかは知らん倭国では独自に編出したのかもしれんが」
「何にしても行ってみようか」
「そじゃな、まともな物が食いたい」
「‥」

そうして大和朝廷に向かい、それらしき大町に入るが別に仰々しいものでもなく、特に検閲の類がある訳ではない

そもそも文化的には西洋でも中国でもやたら厳しいという訳ではないし、当時の日本はかなり遅れている

ただ「まともな物が食いたい」は基本適わない。先にも述べたが通貨の類がある訳でもなくそれによる商売は無い、従ってどっか宿にでもというのすら無い

逆に言えば、謄本やら戸籍すらなく管理も別にない、つまり、旅人として流浪の円らが紛れても直ぐに溶け込める、ここで円は手持ちの荷物から反物を交換して道具の類を得て、そのまま外れにとりあえずの住居を作った

とは云え、地元の家、と言っても普通の木板の木材家屋で特別に技術やら知識やらは要らない、言葉も通じるし、元々の糧の面で円は草実しか食ってない

「しょうがないなぁ」と円は近隣の森や河川から収穫、魚等釣って適当に料理して食わせた、飢えて死ぬ訳でもないのでそれすら本来必要無いが

円の料理?は割と不評だった、そもそもキャンプ生活に近いし

「おい、味が無い」
「しょうがないでしょ‥塩くらいしかないし素材を楽しめよ‥」
「ふむ、唐辛子もあんまり残ってないな」
「辛ければいいのかと、そもそも調味料の類も無い、調達もへったくれもないし」
「うーん‥これはまた過ごし難い土地じゃのう‥」

ヤオはそう言ったが、他国との交易、交流が薄く隔離地に近い為、文化が独自だとも云う、そして過ごし難いというのも、生存に必要なモノが少なく不自由、という訳ではなく

所謂娯楽や芸術、文学面では劣るが生活は寧ろ困る事は少ない、これはシルクロードやローマ帝国の様に、交易文化が無く他所から学ぶべきベースが入ってこないだけの事だ

実際弥生時代料理と言っても、ここから千年くらいまでそんなに変わらない、調味料は大体塩、炊くと蒸す焼くが主な手法で

米とか餅が主流、これは後の時代まで左程変わらない、一方で発酵食は一部ある漬物とか酒とかだ

当時は時期に関わらず温暖で夏でも冬でも生野菜が食されていた、と書かれる様に気候の寒暖差が少なくどの時期でも生産に困る事は無かった

その為、そもそも何かを奪うとか争うの必然性も少ない、従ってこの様な社会体制でも左程問題が無い

そもそも外敵が居ないし周囲全部海だ、それを越えての侵略の類など、この時代、三世紀頃はまず起こり様が無い

「問題はこの後だなぁ」
「お主の故郷は随分南なんじゃろ?」
「聞いた所に寄るとそうらしい」
「戻るのか?」
「いいえ、もうおそらく残ってない」
「じゃろうなぁ」

「そもそも別に良い思い出がある訳でもないし‥移動するにしても此処の生活に馴染んでからでないと」
「一部馬はあるようじゃが、基本徒歩だろうしな」
「大体300年~以上経ってるし、戻ってどうなるものでもないわ。それなら中央に居た方がいいし、お役目の類があるなら、また大陸に戻る事になると思う」

「ふむ、しかし、あまり意味の無い旅になりそうだな」
「そうねぇ‥確かに今まで見てきた大陸各地とは明らかに違うし、これと言って学ぶモノがあるとも思えないし」
「そじゃな」
「で~、道の類も無いのよね?」

「ふむ‥」とヤオは腕組みしたまま眼を閉じた、それが暫く続いた後、怪訝な表情で返す

「道、自体に分岐は見えんが、どうも変だな」
「どゆこと?」
「全体的に暗い、霧が掛かった様に、遠くまで見えぬ」
「何らかの干渉はある?という事?」
「歴史の本筋には関係ないが、何か別の所で干渉があるようだ」
「つまり、それが有ろうと無かろうと人間の社会には別に影響は無い、でも、それ以外には何か干渉がある、と?」

「そういう事になるな、だが、見えぬでは詳細が分りようがない」
「うーん‥それなら余り気にしても仕方無いか‥」
「何れにしろ、まだ先の事なのだろう、道照らしは近い程明確になる、その時動いても別に問題ない」
「成る程、近い程ハッキリ見える、現実の「道」と変わらないのね」
「それともう一つは関係する相手だな、ウチの場合相手が相反する者の方が像がハッキリする」

「じゃあ、今回は何時もの魔の類ではない?」
「かもしれぬ」
「成る程、よくわかった」

として一旦道の部分については区切りをつけた、何れにしろ。ヤオの予想予知での明確な形なりなんなり見えてこないとハッキリはしない、まだ先だろうという目測あって、あまり深く考えなかった

暫くは円もそのまま地元民として半々に紛れて普通の生活を営んだが、それほど長くも成らなかった

元々の故郷には違い無いのだが、三・四世紀経っていても当時の自分が居た頃と全体的にあまり変わっていない

これまでの経過見ても明らかであるが。円の場合、興味の対象か、お役目以外で長期居る事は無い

そのどちらもあまり無いと成れば無理して留まる「必要性」が無いとも言える

その為、特にちゃんとした家の類は持たず自然の中でのキャンプに近い生活のまま過ごした。これも特に問題ない、仙術の修行の時と同じであるし

事、自然の実りに関してはどこよりもこの国は多い、ただ、ヤオは不満そう、というか退屈そうだった。円は修行などやる事はあるが、ヤオには無いからだ

「ふむ、やはり香辛料の類が無いのは痛い」
「食の幅も狭いしねぇ‥、まあ、特になにかある訳でもない土地だし。本土に戻って買ってきたら?ヤオなら直ぐだし」
「そうじゃな、そうしよう」と簡単に決めてヤオだけ一時離れた

そこから円は中央に接触を図ろうと考えた。理由は一つ、唯一の興味、つまり「神事に置ける政治」の部分からだ

「自然術の様な物なのかしら?」と考え、何か特別な技術があるのではないか?

あるいは、大陸とは別な宗教があるのだろうか?と思った事にある

潜入、という程の事でもない。戸籍すら無いし、元々円は日本人でもある、それに当時の中央と言っても、国家体制が大陸とは違いカッチリしていない

要はいい加減、そうならざる得ない面がある為だが。が、その時は、自ら動く事も無くツテが出来た

山林麓で何時もどおり徒手での訓練の際
ある青年に声を掛けられた

「貴女は武の心得があるのですか?」と

彼は年の頃18くらい、年齢の割りに精悍で大人な落ち着きを持っていた、だから警戒心は与えなかった

「心得という程でもない」
「見た事も無い動きですね、どこでそのような?」

そう問われ、一瞬戸惑ったが、秘密部分は除いてそのまま説明した

「では、元々この国の?」
「ええ、事故で大陸に流れ、あちらで色々なモノを学んで再び帰って来た。そしてこれは学んだことの一つ「拳法」という」
「そうでしたか‥、あの、ぶしつけですが、よろしけばウチに来ませんか?」
「それは?」
「私は中央宮で近衛を務めています、貴女の様な経験と知識をお持ちの方なら是非とも知りたい」

無論、円はこれ幸いと思った・相手の側にも打算の類があるかも知れないが、この際、その点は問題に成らない

誰かの口利きとかツテがあるなら中央に近づくには悪くないからだ

「分った、私程度の経験や知が役に立つなら」とそれを受けたのである

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