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別れ
1.本気の恋だった
しおりを挟む修学旅行から地元に帰ってきて三日後。休みを挟み、日常へ戻ってきた日の放課後のことだった。
エミリオはホーリーを校舎裏に呼び出し、非常に言いづらそうにしながらも口を開く。
「別れよう」
こんな時でも真っ直ぐ射抜いてくる緑色の瞳から視線をそらし、ゆらゆらと左右へ揺れつつホーリーの視界は地面へと吸い寄せられていった。
視線が痛い。何も感じたくない。
「……うん」
小さく頷く。
下に向いた顔は再度上げることが叶わず、落ちたままになってしまったが肯定の意を持った声は彼に届いたはずだ。
「ごめんな」
「エミリオ君は悪くない」
「でも……」
謝罪と否定。さらに続けられようとした言葉にホーリーは顔を上げた。
「いいの」
どうにか笑みを作ってみるが、上手くできている自信は一片足りとも見当たらない。
まだ、好きなのだ。ホーリーは、エミリオのことが好きで、恋人としてもっと時間を過ごしたいと思っている。一緒に出かけ、他愛もない話をして、手を繋いで、時々、ハグをして。もっともっと時間が経てば、キスの一つだってしてみたかった。
「だって、私達、生きる時間が違うもんね」
自分はどんな顔をしているのだろう。ホーリーは思う。
酷い有様に違いない。
眉が下がっていることは自覚できていたし、瞳は潤んでいる。精一杯上げて見せた口角も震えており、今にも下を向いてしまいそうだ。
「……あぁ」
苦く、エミリオは声を出す。
彼とてホーリーのことを嫌って別れを切り出したわけではない。
可愛らしく笑う顔も、様々なことに目を輝かせる姿も、自分の名を呼んでくれる声も、何もかも、愛していた。今も、好きなままだ。
けれど、分かたれた二つの時間というのは、低くも脆くもない壁であった。
会えぬ時間に溢れる不満と不安。同じ時を生きる恋人達と自分達の差異による憧れや嫉妬。それらを抱え込むには彼らの体は小さく、心は未熟であった。寄り添いあわせることができぬ時と心のまま道を進み続けることはできない。
その先に待っているのは今よりもずっと悲しい別れだけだ。
たかだが十代の恋。
将来を確約できるはずもなく、夢物語のような未来図を話すばかりの甘い時代だった。
「今までありがとう。
た、楽し、かった、よ」
「こっちの台詞だ。
ありがとうな。幸せだった」
それでも、彼らにとっては、本気の恋だった。
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