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07「君はここにいて」
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「おはよう、アルティア」
一夜が明けた。
もちろん、神に誓って不埒なことはしていないわ。
同じベッドで眠ると大騒ぎするヴェルグを黙らせて、私たちは距離をとって寝ていた。
海のように広いベッドの端から、ヴェルグの甘い声が聞こえる。
「……おはよう、ヴェルグ」
柔らかいベッドから、まだ眠たい体を無理やりに起こす。
私はまだ馬車旅の疲れが残っているのに、ヴェルグは朝から元気いっぱいだ。
溶けてしまうんじゃないかってくらいデレデレになりながら私の顔をのぞき込んでいた。
「あっち行って」
寝起きの顔なんて誰にも見せられない。
眠い目をこすりながらヴェルグと反対方向を向くと、目の前には笑顔の私の肖像画。
「……おはよう、私」
なんて落ち着かない部屋なの。
若かりし日の希望に満ちた私の笑顔は、朝日よりも眩しかった。
「はい、お水と盥。顔を洗って」
「ありがとう」
「これは着替え。昨晩のうちに仕立て直したから、今度はぴったりサイズのはずだよ」
「あ、ありがとう」
「着替えが終わったら食事を持ってくるね。僕が作ったんだよ」
ヴェルグが次から次へと朝の準備を持ってきてくれるので、私はベッドから一歩も動いていない。
朝の日の光を全身で浴びたいのに、黒を基調とした部屋にはあまり陽射しが届かないのが寂しかった。
「食事は食堂で摂りたいわ。少し歩きたいし」
――と、言うより先にヴェルグはすでに食事を持ってきていた。
私の返答など一切聞かず、にこりと笑ってトレーをベッドに乗せ、そこで食べろと無言の圧をかけてくる。
(まあ、食べた後でお散歩に行けばいいか)
ハーブ入りのふわふわとろーりオムレツに、ベリーソースのかかったヨーグルト。
ヴェルグ邸は朝ごはんも最高だ。思わずよだれが出てしまうのをぐっとこらえて、スプーンを探す。
「あれ……」
――が、無い!
「嫌だわ、ヴェルグったら忘れんぼう」なんて言葉が喉まで出かかったが、満面の笑みでスプーンを持っているヴェルグを見て息が止まる。
「はい、あーん♡」
「ヴェルグ……」
この男、最初からすべて私に餌付けするつもりだったのだ。
カトラリーは海のように広いベッドの最果てに置かれ、私からでは手が届かない。
「ひとりで食べれるから!!」
「あーん♡」
「ちゃんと話を聞きなさい!」
結局、私は言われるがままにすべてをヴェルグのあーん♡で食べさせてもらった。
まるで赤子になったようで恥ずかしい。いたって健康な成人女性なのに。
「はあ……明日は普通に食堂へ行くからね」
「あ、そうそう。明日なんだけど……ごめんね、今日から泊りで仕事があって……」
そんな私の恨み言など無視して、ヴェルグはいそいそと何か準備を始めている。
仕事。そうだ、忘れていたけど彼は爵位を賜った辺境伯なのだ。ベルモンド王国のパーティーに出て数日を過ごしているし、山ほど仕事を抱え込んでいるだろう。
「そうなの。忙しいのはいいことだわ、頑張ってね。私のことは気にしないで。ひとりで生きていけますので」
この数日続いた過保護生活から逃れられる……!
私は喜んでヴェルグを送り出し――もとい、追い出しにかかる。
背中を押してそのまま部屋から追い出そうとした時、彼はくるりと振り返って熱く抱きしめてきた。
「さみしいよー!! やだ! 行きたくない!」
「ワタシモサミシイワー」
「そうだよね!? 今日はもうお休みを」
「デモオシゴトガンバッテー」
「うう……がんばる、がんばるよ……」
早く行かんかい! という言葉を飲み込んで優しく丁寧に彼を追い出す。
心のなかは今日の予定の妄想でいっぱいだった。
まずはこの地区の教会に挨拶と、お仕事をさせてもらえないかの相談。次は街に行って素敵なカフェを探そう。そうそう、古書店もめぐってみたいわ。
「じゃあ。君はここにいてね」
がちゃり。と鎖の音がして、私は妄想から目覚める。
「え、がちゃり?」
「トイレの時はメイドを呼んでね」
「鎖!?」
気づけば私は鉄の鎖につながれていた。
ベッドフレームから伸びる鉄の鎖は私の足につながり、この部屋から出ることはできなくなっている。
「ちょっと!」
「僕がいない間、大人しくしててね……」
囀るような口付けを目元に落として、ヴェルグは振り返らずに去っていく。
(この男、本気で私を監禁しようとしている……!)
ぞくっと寒気がして、声を出すのが遅れた。
ばたん、と重い扉が閉じて我に返り、私は慌てて叫んだ。
「私を、出しなさい!!」
一夜が明けた。
もちろん、神に誓って不埒なことはしていないわ。
同じベッドで眠ると大騒ぎするヴェルグを黙らせて、私たちは距離をとって寝ていた。
海のように広いベッドの端から、ヴェルグの甘い声が聞こえる。
「……おはよう、ヴェルグ」
柔らかいベッドから、まだ眠たい体を無理やりに起こす。
私はまだ馬車旅の疲れが残っているのに、ヴェルグは朝から元気いっぱいだ。
溶けてしまうんじゃないかってくらいデレデレになりながら私の顔をのぞき込んでいた。
「あっち行って」
寝起きの顔なんて誰にも見せられない。
眠い目をこすりながらヴェルグと反対方向を向くと、目の前には笑顔の私の肖像画。
「……おはよう、私」
なんて落ち着かない部屋なの。
若かりし日の希望に満ちた私の笑顔は、朝日よりも眩しかった。
「はい、お水と盥。顔を洗って」
「ありがとう」
「これは着替え。昨晩のうちに仕立て直したから、今度はぴったりサイズのはずだよ」
「あ、ありがとう」
「着替えが終わったら食事を持ってくるね。僕が作ったんだよ」
ヴェルグが次から次へと朝の準備を持ってきてくれるので、私はベッドから一歩も動いていない。
朝の日の光を全身で浴びたいのに、黒を基調とした部屋にはあまり陽射しが届かないのが寂しかった。
「食事は食堂で摂りたいわ。少し歩きたいし」
――と、言うより先にヴェルグはすでに食事を持ってきていた。
私の返答など一切聞かず、にこりと笑ってトレーをベッドに乗せ、そこで食べろと無言の圧をかけてくる。
(まあ、食べた後でお散歩に行けばいいか)
ハーブ入りのふわふわとろーりオムレツに、ベリーソースのかかったヨーグルト。
ヴェルグ邸は朝ごはんも最高だ。思わずよだれが出てしまうのをぐっとこらえて、スプーンを探す。
「あれ……」
――が、無い!
「嫌だわ、ヴェルグったら忘れんぼう」なんて言葉が喉まで出かかったが、満面の笑みでスプーンを持っているヴェルグを見て息が止まる。
「はい、あーん♡」
「ヴェルグ……」
この男、最初からすべて私に餌付けするつもりだったのだ。
カトラリーは海のように広いベッドの最果てに置かれ、私からでは手が届かない。
「ひとりで食べれるから!!」
「あーん♡」
「ちゃんと話を聞きなさい!」
結局、私は言われるがままにすべてをヴェルグのあーん♡で食べさせてもらった。
まるで赤子になったようで恥ずかしい。いたって健康な成人女性なのに。
「はあ……明日は普通に食堂へ行くからね」
「あ、そうそう。明日なんだけど……ごめんね、今日から泊りで仕事があって……」
そんな私の恨み言など無視して、ヴェルグはいそいそと何か準備を始めている。
仕事。そうだ、忘れていたけど彼は爵位を賜った辺境伯なのだ。ベルモンド王国のパーティーに出て数日を過ごしているし、山ほど仕事を抱え込んでいるだろう。
「そうなの。忙しいのはいいことだわ、頑張ってね。私のことは気にしないで。ひとりで生きていけますので」
この数日続いた過保護生活から逃れられる……!
私は喜んでヴェルグを送り出し――もとい、追い出しにかかる。
背中を押してそのまま部屋から追い出そうとした時、彼はくるりと振り返って熱く抱きしめてきた。
「さみしいよー!! やだ! 行きたくない!」
「ワタシモサミシイワー」
「そうだよね!? 今日はもうお休みを」
「デモオシゴトガンバッテー」
「うう……がんばる、がんばるよ……」
早く行かんかい! という言葉を飲み込んで優しく丁寧に彼を追い出す。
心のなかは今日の予定の妄想でいっぱいだった。
まずはこの地区の教会に挨拶と、お仕事をさせてもらえないかの相談。次は街に行って素敵なカフェを探そう。そうそう、古書店もめぐってみたいわ。
「じゃあ。君はここにいてね」
がちゃり。と鎖の音がして、私は妄想から目覚める。
「え、がちゃり?」
「トイレの時はメイドを呼んでね」
「鎖!?」
気づけば私は鉄の鎖につながれていた。
ベッドフレームから伸びる鉄の鎖は私の足につながり、この部屋から出ることはできなくなっている。
「ちょっと!」
「僕がいない間、大人しくしててね……」
囀るような口付けを目元に落として、ヴェルグは振り返らずに去っていく。
(この男、本気で私を監禁しようとしている……!)
ぞくっと寒気がして、声を出すのが遅れた。
ばたん、と重い扉が閉じて我に返り、私は慌てて叫んだ。
「私を、出しなさい!!」
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