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17「僕は君に救われているんだよ」
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「『魔王とは特定の国の王を指すのではなく、瘴気を司る者の存在そのものを指す――』」
「アルティア~」
カイルのカフェから戻ってくると、ぶすくれたヴェルグが私を待っていた。
――けども、出かけることは伝えてあるし今度は許可も取っている。
怒られる理由など全くないので、ぶーたれるヴェルグを無視して仕事をつづけた。
「『何人にも心乱されぬ精神こそが魔王を作る――それが悪心であろうとも』、いや、この悪心は悪人と訳すべきかしら……」
「はい、あーん」
「『歴代の魔王は――』……むごごっ」
無視を続ける私にしびれを切らしたのか、ヴェルグは強硬手段に出てきた。
突然甘いものを口に放り込まれ、やっと我に返る。
香ばしいバターの香り、ほろほろとした触感の甘い食べ物……これは――
「マドレーヌ?」
「残念、フィナンシェだよ」
「いや、なんでフィナンシェが……」
やっと顔を上げると、目の前にはエプロン姿のヴェルグがいた。
長い黒髪をポニーテールにして、深緑色のエプロン姿のヴェルグ。にこにことしながら大量の皿を抱えていた。
「アルティアがお仕事頑張ってるから、ご褒美のお菓子」
お皿には、ジャムの乗ったクッキー、プディング、ホールケーキのほか、宝石のように煌めくフルーツが色とりどり飾られている。
ごくり、と喉が鳴る。
「いやいやいや! こんなに食べたら太っちゃう!」
だけど年を重ねた理性が私を冷静にさせる。頭を振って煩悩を払いのけ、自分の作業に集中しようとする。
「いらないの?」
「気持ちだけで充分よ、ありがとう」
だけど、甘く香ばしい匂いは私を逃がしてくれない。
口の中に残る、フィナンシェの甘み。もっと食べたい、たくさん食べたい……! と脳内の私が地べたで寝転んで駄々をこねている。
でも、駄目駄目。体形を戻すのは大変なんだから。
「頭を使った作業には甘いものが一番だよ」
「そ、そうかしら」
……私は駄目な人間です。
ヴェルグの甘く蕩ける様な低い声でささやかれて、私の理性は簡単に揺らぐ。
一つだけなら大丈夫。そんな思いでヴェルグを振り返ると、ヴェルグはプディングをスプーンで掬って私の口元に伸ばしていた。
「あーん♡」
「自分で食べれるから」
「だめ。あーん♡」
「あ、あーん……」
こうなるとヴェルグは梃子でも動かない。
甘い誘惑に負けて、大人しく口を開けて待つ。まるでバカップルだわ。壁中に飾られた私の肖像画が笑っているように感じちゃう。
大人しく餌付けされている私を見て、ヴェルグは嬉しそうだった。
(ヴェルグが可愛く見えるなんて、疲れてるのかしら……)
次は何が食べたい? といそいそとスイーツを準備する様は、まるで子犬のよう。
少しの悪戯心とお礼を込めて、そっと頭を撫でると、ヴェルグは嬉しそうに目を細めた。
「あなたも忙しいのにありがとう。ヴェルグ」
「世界一大切な君のためだもん。お礼なんていらないよ」
世界一大切、か。昔……いや、少し前まで、同じようにささやいてくれる男が私にもいた。
ヴェルグの素直な言葉を、素直な心で受け止めたいのに。オルフィーのことを思い出す度、私の心は身構えてしまう。
「あなたはどうして、そんなに私のことを好きでいてくれるの?」
そんな言葉を口にして、すぐ後悔した。
さんざん袖にしている相手に自分の好きなところを述べよ、なんて、傲慢すぎた。ヴェルグも気を悪くしてしまったかもしれない。少しうつむいて、長い前髪で瞳が見えなくなってしまった。
「君にとっては、たくさん助けた人間の一人かもしれないけど……」
ヴェルグの声は暗かった。嫌なことを思い出させてしまっただろうか。だけど、ぽつりぽつりと彼は口を開いてくれる。
「僕は君に救われているんだよ」
「アルティア~」
カイルのカフェから戻ってくると、ぶすくれたヴェルグが私を待っていた。
――けども、出かけることは伝えてあるし今度は許可も取っている。
怒られる理由など全くないので、ぶーたれるヴェルグを無視して仕事をつづけた。
「『何人にも心乱されぬ精神こそが魔王を作る――それが悪心であろうとも』、いや、この悪心は悪人と訳すべきかしら……」
「はい、あーん」
「『歴代の魔王は――』……むごごっ」
無視を続ける私にしびれを切らしたのか、ヴェルグは強硬手段に出てきた。
突然甘いものを口に放り込まれ、やっと我に返る。
香ばしいバターの香り、ほろほろとした触感の甘い食べ物……これは――
「マドレーヌ?」
「残念、フィナンシェだよ」
「いや、なんでフィナンシェが……」
やっと顔を上げると、目の前にはエプロン姿のヴェルグがいた。
長い黒髪をポニーテールにして、深緑色のエプロン姿のヴェルグ。にこにことしながら大量の皿を抱えていた。
「アルティアがお仕事頑張ってるから、ご褒美のお菓子」
お皿には、ジャムの乗ったクッキー、プディング、ホールケーキのほか、宝石のように煌めくフルーツが色とりどり飾られている。
ごくり、と喉が鳴る。
「いやいやいや! こんなに食べたら太っちゃう!」
だけど年を重ねた理性が私を冷静にさせる。頭を振って煩悩を払いのけ、自分の作業に集中しようとする。
「いらないの?」
「気持ちだけで充分よ、ありがとう」
だけど、甘く香ばしい匂いは私を逃がしてくれない。
口の中に残る、フィナンシェの甘み。もっと食べたい、たくさん食べたい……! と脳内の私が地べたで寝転んで駄々をこねている。
でも、駄目駄目。体形を戻すのは大変なんだから。
「頭を使った作業には甘いものが一番だよ」
「そ、そうかしら」
……私は駄目な人間です。
ヴェルグの甘く蕩ける様な低い声でささやかれて、私の理性は簡単に揺らぐ。
一つだけなら大丈夫。そんな思いでヴェルグを振り返ると、ヴェルグはプディングをスプーンで掬って私の口元に伸ばしていた。
「あーん♡」
「自分で食べれるから」
「だめ。あーん♡」
「あ、あーん……」
こうなるとヴェルグは梃子でも動かない。
甘い誘惑に負けて、大人しく口を開けて待つ。まるでバカップルだわ。壁中に飾られた私の肖像画が笑っているように感じちゃう。
大人しく餌付けされている私を見て、ヴェルグは嬉しそうだった。
(ヴェルグが可愛く見えるなんて、疲れてるのかしら……)
次は何が食べたい? といそいそとスイーツを準備する様は、まるで子犬のよう。
少しの悪戯心とお礼を込めて、そっと頭を撫でると、ヴェルグは嬉しそうに目を細めた。
「あなたも忙しいのにありがとう。ヴェルグ」
「世界一大切な君のためだもん。お礼なんていらないよ」
世界一大切、か。昔……いや、少し前まで、同じようにささやいてくれる男が私にもいた。
ヴェルグの素直な言葉を、素直な心で受け止めたいのに。オルフィーのことを思い出す度、私の心は身構えてしまう。
「あなたはどうして、そんなに私のことを好きでいてくれるの?」
そんな言葉を口にして、すぐ後悔した。
さんざん袖にしている相手に自分の好きなところを述べよ、なんて、傲慢すぎた。ヴェルグも気を悪くしてしまったかもしれない。少しうつむいて、長い前髪で瞳が見えなくなってしまった。
「君にとっては、たくさん助けた人間の一人かもしれないけど……」
ヴェルグの声は暗かった。嫌なことを思い出させてしまっただろうか。だけど、ぽつりぽつりと彼は口を開いてくれる。
「僕は君に救われているんだよ」
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