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18「僕の光」★ヴェルグ視点
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「僕と君が出会ったのは10年前。父……ヴィンセントが魔王となって魔王国を立ち上げたころだったね」
注ぎ込んだミルクのような乳白色の髪を撫でながら、僕はうっとりとかつての過去を思い出した。
意中の人は書物に夢中なふりをしているけど、子猫がぴくぴくと耳を動かすようにこちらの様子をうかがっている。その姿がかわいくて、髪の毛に静かに口づけを落とした。
「君は聖女として、誰よりも早く僕に対峙しに来た」
ぴくり、アルティアの肩が跳ねる。
彼女にとっては遠い記憶なのかもしれないし、もう忘れてしまっているかもしれない。
でも僕には忘れがたい、たった一つの記憶――
◇ ◇ ◇
僕が魔王の息子と呼ばれて間もないころ、僕は間違いなく世界の敵だった。
父を信奉して、世界は父が支配すべきだと心から信じていた。
僕は闇のような髪の色と、凶兆とされる銀の星の瞳を持って生まれた。
かつて瘴気を操り、世界を統べた悪魔と同じ色――僕は呪われた子だと忌み嫌われて生きてきた。
だから、父の理想にすがってしまった。
父が語る“理想の世界”――すべてが父の色に染まる世界。
そこには差別も偏見もなく、ただ父の偉大なる意志だけがあるのだと。
【悔い改めなさい】
そんな僕を正してくれたのはアルティア、君だった。
その言葉は、光そのものだった。
――初めてだった。
僕を「殺すべき敵」ではなく、「正すべき迷子」として見てくれた人。
誰もが僕の名前を呼ばず、ただ「忌み子」「悪魔」としてしか見ていなかったのに、君は、はっきりと僕を見た。
そして言ったんだ。
【神と私はあなたを許します】
その声は揺るぎなくて、怖いくらいに優しかった。
震えた。僕の中に巣食っていた“父への信仰”が、ほんのひとことで崩れ落ちていった。
◇ ◇ ◇
「……それだけのことで?」
「やっぱり、君にとっては小さなことだったね」
あの日、君と出会ってから、僕はずっと君を追いかけていた。
君はすごい速さで走って、未来へ進んでしまうから、追いつくことができなかった。
でも――追いつきたくて、少しでも近づきたくて、魔王にすら背を向けた。
「僕は水面下で父を裏切る算段をつけるようになった。もっとも信頼の厚かった僕がこの土地で何をしても、父は疑うことはなかった。そのおかげで父ののど元に迫るまでの道を、君に捧げることができた」
「た、確かにあなたの手引きがなければ戦争はもう10年は長引いていたわ……でも、そんな理由だったなんて」
「表向きは正義のためなんて言ってるけど、僕は君に追いつきたいだけだったんだ。でも、僕は、今でもあれが正しかったと信じてるよ。だって、あの時の選択が――今の僕と君を繋いでくれてるから」
そっと、アルティアの手を取る。
彼女はもう顔を上げていた。
伏し目がちに揺れる睫毛の奥で、静かなグレーの瞳が僕を見つめ返している。
「僕はね、アルティア。君に救われたんだ」
「……」
「君は世界を救った聖女かもしれないけど、僕にとってはただの“恩人”なんかじゃない」
「じゃあ、何なの?」
彼女が小さく問い返す。
その声に、僕は微笑んだ。
「君は、僕の光だよ」
闇の中に生まれた僕が、初めて恋を知った日の話。
アルティアは静かに笑ってくれた。
その微笑みが美しくて、思わず頬に手を当ててしまう。アルティアは嫌がらなかった。
甘い空気が流れる。これはキスしていいのかな。そんなことを思いながら、恐る恐る唇を近寄せる。
(アルティアが嫌がったら、今日はやめておこう)
でも、彼女は拒否をするそぶりがない。淡い期待を抱きながらそっと口づけ様としたとき――
「失礼いたします」
「り、リズ! どうしたの!?」
「アルティア様と旦那様にお手紙です」
メイドのリズが間に入ってきて、楽しい時間は終わった。
アルティアは慌てた様子で僕を弾き飛ばし、腕力SSSの頼もしい腕に吹き飛ばされた僕は椅子から転げ落ちる。
屋敷の主がひっくり返っているというのに、リズもまた僕と同じでアルティア命なため、僕を気にしてくれる様子はない。
「私?」
「パーティの招待だ。君は飽き飽きかもしれないけど、魔王討伐の祝賀パーティだね」
「アシュフォード帝国には今も昔も大変にお世話になっているし、お断りするわけにはいかないわね。だけど……」
アルティアは困ったようにうつむいてしまう。きっとパートナーがいないとか、余計なことを考えているんだろうな。僕がいるのに。
「僕を、パートナーとして連れて行ってくれないかな」
正式にお誘いをすると、アルティアは頬を染めて笑ってくれた。
「いいの? 私は――」
「君が婚約を承諾してないのは知ってる。だけど、君に今一番近い男だって、感じたいんだ」
「私の隣に居ようなんてもの好き、あなたくらいよ……」
……アシュフォード帝国にはすでに婚約済と嘘をついているのは、アルティアには伏せておこう。
注ぎ込んだミルクのような乳白色の髪を撫でながら、僕はうっとりとかつての過去を思い出した。
意中の人は書物に夢中なふりをしているけど、子猫がぴくぴくと耳を動かすようにこちらの様子をうかがっている。その姿がかわいくて、髪の毛に静かに口づけを落とした。
「君は聖女として、誰よりも早く僕に対峙しに来た」
ぴくり、アルティアの肩が跳ねる。
彼女にとっては遠い記憶なのかもしれないし、もう忘れてしまっているかもしれない。
でも僕には忘れがたい、たった一つの記憶――
◇ ◇ ◇
僕が魔王の息子と呼ばれて間もないころ、僕は間違いなく世界の敵だった。
父を信奉して、世界は父が支配すべきだと心から信じていた。
僕は闇のような髪の色と、凶兆とされる銀の星の瞳を持って生まれた。
かつて瘴気を操り、世界を統べた悪魔と同じ色――僕は呪われた子だと忌み嫌われて生きてきた。
だから、父の理想にすがってしまった。
父が語る“理想の世界”――すべてが父の色に染まる世界。
そこには差別も偏見もなく、ただ父の偉大なる意志だけがあるのだと。
【悔い改めなさい】
そんな僕を正してくれたのはアルティア、君だった。
その言葉は、光そのものだった。
――初めてだった。
僕を「殺すべき敵」ではなく、「正すべき迷子」として見てくれた人。
誰もが僕の名前を呼ばず、ただ「忌み子」「悪魔」としてしか見ていなかったのに、君は、はっきりと僕を見た。
そして言ったんだ。
【神と私はあなたを許します】
その声は揺るぎなくて、怖いくらいに優しかった。
震えた。僕の中に巣食っていた“父への信仰”が、ほんのひとことで崩れ落ちていった。
◇ ◇ ◇
「……それだけのことで?」
「やっぱり、君にとっては小さなことだったね」
あの日、君と出会ってから、僕はずっと君を追いかけていた。
君はすごい速さで走って、未来へ進んでしまうから、追いつくことができなかった。
でも――追いつきたくて、少しでも近づきたくて、魔王にすら背を向けた。
「僕は水面下で父を裏切る算段をつけるようになった。もっとも信頼の厚かった僕がこの土地で何をしても、父は疑うことはなかった。そのおかげで父ののど元に迫るまでの道を、君に捧げることができた」
「た、確かにあなたの手引きがなければ戦争はもう10年は長引いていたわ……でも、そんな理由だったなんて」
「表向きは正義のためなんて言ってるけど、僕は君に追いつきたいだけだったんだ。でも、僕は、今でもあれが正しかったと信じてるよ。だって、あの時の選択が――今の僕と君を繋いでくれてるから」
そっと、アルティアの手を取る。
彼女はもう顔を上げていた。
伏し目がちに揺れる睫毛の奥で、静かなグレーの瞳が僕を見つめ返している。
「僕はね、アルティア。君に救われたんだ」
「……」
「君は世界を救った聖女かもしれないけど、僕にとってはただの“恩人”なんかじゃない」
「じゃあ、何なの?」
彼女が小さく問い返す。
その声に、僕は微笑んだ。
「君は、僕の光だよ」
闇の中に生まれた僕が、初めて恋を知った日の話。
アルティアは静かに笑ってくれた。
その微笑みが美しくて、思わず頬に手を当ててしまう。アルティアは嫌がらなかった。
甘い空気が流れる。これはキスしていいのかな。そんなことを思いながら、恐る恐る唇を近寄せる。
(アルティアが嫌がったら、今日はやめておこう)
でも、彼女は拒否をするそぶりがない。淡い期待を抱きながらそっと口づけ様としたとき――
「失礼いたします」
「り、リズ! どうしたの!?」
「アルティア様と旦那様にお手紙です」
メイドのリズが間に入ってきて、楽しい時間は終わった。
アルティアは慌てた様子で僕を弾き飛ばし、腕力SSSの頼もしい腕に吹き飛ばされた僕は椅子から転げ落ちる。
屋敷の主がひっくり返っているというのに、リズもまた僕と同じでアルティア命なため、僕を気にしてくれる様子はない。
「私?」
「パーティの招待だ。君は飽き飽きかもしれないけど、魔王討伐の祝賀パーティだね」
「アシュフォード帝国には今も昔も大変にお世話になっているし、お断りするわけにはいかないわね。だけど……」
アルティアは困ったようにうつむいてしまう。きっとパートナーがいないとか、余計なことを考えているんだろうな。僕がいるのに。
「僕を、パートナーとして連れて行ってくれないかな」
正式にお誘いをすると、アルティアは頬を染めて笑ってくれた。
「いいの? 私は――」
「君が婚約を承諾してないのは知ってる。だけど、君に今一番近い男だって、感じたいんだ」
「私の隣に居ようなんてもの好き、あなたくらいよ……」
……アシュフォード帝国にはすでに婚約済と嘘をついているのは、アルティアには伏せておこう。
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