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29「決闘をしましょう」
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空が裂けていた。
黒い瘴気が渦を巻き、魔物の咆哮と兵の悲鳴が入り混じる。
崩れ落ちた城壁。焼け焦げた大地。血の匂い。
その中心に立つのは、たった一人の男だった。
漆黒の髪を風になびかせ、銀の瞳を虚ろに光らせる――魔王。
「ヴェルグ……!」
息が切れる。
足は震えるし、肺は焼けるように痛い。
奇跡も魔法も、もう使えない。
だけど私は走った。
瓦礫を越え、倒れた兵を避け、瘴気の嵐の中を。
「ヴェルグ!!!」
彼の背中が、見えた。
再び大きな声を上げると、やっと瘴気の中心の彼に言葉が届いたらしい。
瘴気が天を貫く黒い柱となって立ち昇る。
まるで世界そのものが、彼を中心に歪んでいるみたいだった。
「……アルティア!!」
ヴェルグが振り返る。
一瞬、銀の瞳が揺れた。
それは喜び――のはずだった。
けれど次の瞬間、その瞳は凍りつく。
「……その姿……どうしたの?」
私は膝に手をついて、荒い呼吸を整える。
服は裂け、血が滲み、髪も乱れている。もう聖女の面影なんて、どこにもない。
面影どころか力もない。ここに居るのはただの女でしかない。
「あなたを追いかけてきたら、こんなことになっちゃったわ」
冗談めかして笑おうとした。
でも、声がかすれる。
ヴェルグの瘴気が、爆ぜた。
「誰がやった」
地面がひび割れる。
「誰が、君をこんなにした」
「……自分でよ」
「嘘だ」
瘴気が私の周囲を取り囲む。
重圧で息が苦しい。
「君を傷つけた奴は、生かしておかない」
「ヴェルグ、もうやめて!」
どれだけ叫んでも、彼の瞳はもう私を見ていない。
瘴気が精神を蝕むのか、彼の中にあるのは強い破壊衝動だけだった。
「ベルモンド王国は滅ぼす。全員だ。誰一人残さない」
「だめ!」
魔物たちが雄叫びを上げる。
兵が震える。ベルモンド王国兵だけではない、ヴェルグの配下も彼の恐ろしさに震えている。
今、彼は孤独だった。
「君を捨て、そして愚かにも僕から奪った国だ。壊して当然だろう?」
その声は、優しかった彼の声じゃない。
「私はここにいる!」
一歩、前へ出る。
足が震える。
「奪われてない。私は自分の足で戻ってきたの」
「……力が、消えてる」
ヴェルグの目が細められる。
「聖女の光が、ない」
その瞬間。
怒りが、爆発した。
「誰が、何をしたんだ!」
瘴気が暴風となり、城を吹き飛ばす。
「答えてくれ!!」
声が雷鳴のように轟く。
「やめて!」
私は、倒れかけながらも立つ。
「私が捨てたの!」
ヴェルグの動きが止まる。
「……何?」
「聖女の力なんて、いらない。あなたを止めるのに奇跡なんて必要ない」
「止める?」
ヴェルグが低く、笑った。
「僕を?」
「ええ」
私は、地面に突き立てられていた剣に手を伸ばす。
聖剣。
かつて、魔王ヴィンセントを討ったときの剣。
(……重い)
魔力の補助もない。
ただの鋼の重み。
それでも、両手で握る。
「決闘しましょう」
剣を握りしめ、私は静かに告げた。
「……決闘?」
「かつて、あなたのお父様と戦ったときと同じように」
瘴気が揺れる。
「聖女と魔王としてじゃない」
一歩、踏み込む。
「アルティアとヴェルグとして」
風が止まる。
「あなたが世界を壊すなら、私はあなたを止める」
剣を構える。
腕が震える。
それでも、目は逸らさない。
「私は、あなたを愛してる」
はっきりと言った。
「だから、あなたを殺してでも止める」
沈黙。
空が、きしむ。
ヴェルグの瞳に、わずかに揺らぎが走る。
「……そんな顔で」
彼の声が、かすれる。
「そんな、弱い体で」
瘴気が揺らぎ、乱れる。
「僕に勝てると思ってるの?」
「思ってない」
即答する。
「でも、逃げない」
息を吸う。
「あなたが闇なら、私はその前に立つ人間になる」
聖女ではない。
救世主でもない。
ただの、女。
「来なさい、ヴェルグ」
剣を握り直す。
震えは、止まらない。
それでも。
「あなたの暴走を、私が終わらせる」
黒い空の下。
魔王と、ただの人間が、向き合った。
黒い瘴気が渦を巻き、魔物の咆哮と兵の悲鳴が入り混じる。
崩れ落ちた城壁。焼け焦げた大地。血の匂い。
その中心に立つのは、たった一人の男だった。
漆黒の髪を風になびかせ、銀の瞳を虚ろに光らせる――魔王。
「ヴェルグ……!」
息が切れる。
足は震えるし、肺は焼けるように痛い。
奇跡も魔法も、もう使えない。
だけど私は走った。
瓦礫を越え、倒れた兵を避け、瘴気の嵐の中を。
「ヴェルグ!!!」
彼の背中が、見えた。
再び大きな声を上げると、やっと瘴気の中心の彼に言葉が届いたらしい。
瘴気が天を貫く黒い柱となって立ち昇る。
まるで世界そのものが、彼を中心に歪んでいるみたいだった。
「……アルティア!!」
ヴェルグが振り返る。
一瞬、銀の瞳が揺れた。
それは喜び――のはずだった。
けれど次の瞬間、その瞳は凍りつく。
「……その姿……どうしたの?」
私は膝に手をついて、荒い呼吸を整える。
服は裂け、血が滲み、髪も乱れている。もう聖女の面影なんて、どこにもない。
面影どころか力もない。ここに居るのはただの女でしかない。
「あなたを追いかけてきたら、こんなことになっちゃったわ」
冗談めかして笑おうとした。
でも、声がかすれる。
ヴェルグの瘴気が、爆ぜた。
「誰がやった」
地面がひび割れる。
「誰が、君をこんなにした」
「……自分でよ」
「嘘だ」
瘴気が私の周囲を取り囲む。
重圧で息が苦しい。
「君を傷つけた奴は、生かしておかない」
「ヴェルグ、もうやめて!」
どれだけ叫んでも、彼の瞳はもう私を見ていない。
瘴気が精神を蝕むのか、彼の中にあるのは強い破壊衝動だけだった。
「ベルモンド王国は滅ぼす。全員だ。誰一人残さない」
「だめ!」
魔物たちが雄叫びを上げる。
兵が震える。ベルモンド王国兵だけではない、ヴェルグの配下も彼の恐ろしさに震えている。
今、彼は孤独だった。
「君を捨て、そして愚かにも僕から奪った国だ。壊して当然だろう?」
その声は、優しかった彼の声じゃない。
「私はここにいる!」
一歩、前へ出る。
足が震える。
「奪われてない。私は自分の足で戻ってきたの」
「……力が、消えてる」
ヴェルグの目が細められる。
「聖女の光が、ない」
その瞬間。
怒りが、爆発した。
「誰が、何をしたんだ!」
瘴気が暴風となり、城を吹き飛ばす。
「答えてくれ!!」
声が雷鳴のように轟く。
「やめて!」
私は、倒れかけながらも立つ。
「私が捨てたの!」
ヴェルグの動きが止まる。
「……何?」
「聖女の力なんて、いらない。あなたを止めるのに奇跡なんて必要ない」
「止める?」
ヴェルグが低く、笑った。
「僕を?」
「ええ」
私は、地面に突き立てられていた剣に手を伸ばす。
聖剣。
かつて、魔王ヴィンセントを討ったときの剣。
(……重い)
魔力の補助もない。
ただの鋼の重み。
それでも、両手で握る。
「決闘しましょう」
剣を握りしめ、私は静かに告げた。
「……決闘?」
「かつて、あなたのお父様と戦ったときと同じように」
瘴気が揺れる。
「聖女と魔王としてじゃない」
一歩、踏み込む。
「アルティアとヴェルグとして」
風が止まる。
「あなたが世界を壊すなら、私はあなたを止める」
剣を構える。
腕が震える。
それでも、目は逸らさない。
「私は、あなたを愛してる」
はっきりと言った。
「だから、あなたを殺してでも止める」
沈黙。
空が、きしむ。
ヴェルグの瞳に、わずかに揺らぎが走る。
「……そんな顔で」
彼の声が、かすれる。
「そんな、弱い体で」
瘴気が揺らぎ、乱れる。
「僕に勝てると思ってるの?」
「思ってない」
即答する。
「でも、逃げない」
息を吸う。
「あなたが闇なら、私はその前に立つ人間になる」
聖女ではない。
救世主でもない。
ただの、女。
「来なさい、ヴェルグ」
剣を握り直す。
震えは、止まらない。
それでも。
「あなたの暴走を、私が終わらせる」
黒い空の下。
魔王と、ただの人間が、向き合った。
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