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32「結婚式」
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すべては、終わった。
長く続いた戦乱も、黒い空も、狂った野望も。
瘴気は静まり、世界はようやく息を取り戻した。
◇ ◇ ◇
ベルモンド王国では、正式な裁きが下された。
オルフィーとカミーユは、氷の塔へ幽閉。
そこは外界と遮断された、永遠に溶けない氷の牢。
彼らは命尽きるまで塔から離れることはできない。
けれど――
エルの願いで、手紙のやり取りだけは許された。
親であることまで奪うのは違う。
そんな願いから私はベルモンド王国に嘆願した。息子の不倫を隠していたという大きな貸しがある王は、しぶしぶそれを承諾してくれた。
本当はオルフィーを殺すことでアシュフォード帝国との貸し借りをさっさと決着つけたかったのでしょうけど、そんなことは許さない。
私を裏切った罪、エルを傷付けた罪を、彼らにはちゃんと償ってもらう。
いつかエルが大きくなって、彼女の意志で「許す」と言ったら、解放してもらうよう声をかけてみよう。
エル。
成り行きですべての力を与えてしまったけれど、親と離れることに文句は言わなかった。
悪いことをしたから、それを償う。エルはちゃんとわかっていた。
あの子は、もう立派な聖女だ。
そして――
聖女エルのおかげですべての被害は消えたけれど、もちろん、ヴェルグと私にも、裁きは下された。
追放刑。
アシュフォード帝国を追い出されるという刑だけど、それは悲劇ではなかった。
ヴェルグの領地は「魔王統治区」として独立し、他国から隔離された小さな国となる。
濃い瘴気と奇跡の力は強大すぎる。故にあらゆる国が手出しできないよう独立させて永世中立国として世界の瘴気を管理することとなる。
世界を揺るがした魔王は、今や小さな国の王。
でも、やることは変わらない。
戦争で壊れた街を立て直し、瘴気の後遺症に苦しむ人々を支え、頭を下げ、汗を流し、時に怒鳴られながらも前に進む。
「魔王様、書類です」
「今行くよ。それじゃあ、アルティア。寂しいけれど……」
「行ってらっしゃい、魔王様」
そんな声が城に響く日々。
忙しいけれど、充実している。
そして、私はといえば――
「瘴気と奇跡を司る新たな聖女エル」の守護者という立場を与えられた。
奇跡の扱い方。
瘴気との向き合い方。
そして何より――人を信じることを教えていく。
でもこれは私がやっている学校と同じ内容だっていうのは、みんな知っている。
つまり、一人かわいい生徒が増えただけなのかも。
エルにはまずは文字から教えていく。
「エル、これは“あ”よ」
「あ!」
「手紙、書いてみるかい?」
「書く!」
「わたくしたちが手伝いますわ。さあ、なんて書きましょうか――」
マルグリッドとカイルに教わりながら、小さな指が文字をなぞる。
両親へ送る手紙のために、エルは今日も一生懸命に机に向かっている。
やらなければならないことは、山ほどある。
償いも、責任も、未来も。
でも――
今日だけは。
今日だけは、少し自由でいいよね。
「綺麗だよ、アルティア」
振り向くと、白い正装に身を包んだヴェルグが立っていた。
昔のような闇はない。
でも、軽やかさもない。
背負うものを知った男の、穏やかな微笑み。
「ダイエット、頑張ったのよ」
くるりと回る。
純白のドレスが、光を受けてふわりと広がる。
城の庭には、生徒たちとカイル、そして領民たち。
「先生ー!」
「お幸せに!」
「魔王様、泣くなよ!」
「泣いてない!」
ヴェルグが真顔で否定する。
エルが、小さな手でリングを運んでくる。
少し大きすぎる花冠を揺らしながら。
「せーじょさま、まおうさま、どうぞ」
私たちは顔を見合わせて、笑う。
指輪を交換する。
過去も、罪も、弱さも。
すべてを知った上で。
「愛しているよ」
「愛しています」
静かな誓い。
拍手が起こる。
空は青い。
黒く染まったあの日が、嘘みたいに。
信じる心が、世界を救う。
それはきっと、奇跡よりも強い。
魔王と聖女の物語は、ここでおしまい。
「アルティア、新しい肖像画を描いてみたんだ」
「……寝室に飾らないでね」
これからは、アルティアとヴェルグとしての日々が待ち受けている。
長く続いた戦乱も、黒い空も、狂った野望も。
瘴気は静まり、世界はようやく息を取り戻した。
◇ ◇ ◇
ベルモンド王国では、正式な裁きが下された。
オルフィーとカミーユは、氷の塔へ幽閉。
そこは外界と遮断された、永遠に溶けない氷の牢。
彼らは命尽きるまで塔から離れることはできない。
けれど――
エルの願いで、手紙のやり取りだけは許された。
親であることまで奪うのは違う。
そんな願いから私はベルモンド王国に嘆願した。息子の不倫を隠していたという大きな貸しがある王は、しぶしぶそれを承諾してくれた。
本当はオルフィーを殺すことでアシュフォード帝国との貸し借りをさっさと決着つけたかったのでしょうけど、そんなことは許さない。
私を裏切った罪、エルを傷付けた罪を、彼らにはちゃんと償ってもらう。
いつかエルが大きくなって、彼女の意志で「許す」と言ったら、解放してもらうよう声をかけてみよう。
エル。
成り行きですべての力を与えてしまったけれど、親と離れることに文句は言わなかった。
悪いことをしたから、それを償う。エルはちゃんとわかっていた。
あの子は、もう立派な聖女だ。
そして――
聖女エルのおかげですべての被害は消えたけれど、もちろん、ヴェルグと私にも、裁きは下された。
追放刑。
アシュフォード帝国を追い出されるという刑だけど、それは悲劇ではなかった。
ヴェルグの領地は「魔王統治区」として独立し、他国から隔離された小さな国となる。
濃い瘴気と奇跡の力は強大すぎる。故にあらゆる国が手出しできないよう独立させて永世中立国として世界の瘴気を管理することとなる。
世界を揺るがした魔王は、今や小さな国の王。
でも、やることは変わらない。
戦争で壊れた街を立て直し、瘴気の後遺症に苦しむ人々を支え、頭を下げ、汗を流し、時に怒鳴られながらも前に進む。
「魔王様、書類です」
「今行くよ。それじゃあ、アルティア。寂しいけれど……」
「行ってらっしゃい、魔王様」
そんな声が城に響く日々。
忙しいけれど、充実している。
そして、私はといえば――
「瘴気と奇跡を司る新たな聖女エル」の守護者という立場を与えられた。
奇跡の扱い方。
瘴気との向き合い方。
そして何より――人を信じることを教えていく。
でもこれは私がやっている学校と同じ内容だっていうのは、みんな知っている。
つまり、一人かわいい生徒が増えただけなのかも。
エルにはまずは文字から教えていく。
「エル、これは“あ”よ」
「あ!」
「手紙、書いてみるかい?」
「書く!」
「わたくしたちが手伝いますわ。さあ、なんて書きましょうか――」
マルグリッドとカイルに教わりながら、小さな指が文字をなぞる。
両親へ送る手紙のために、エルは今日も一生懸命に机に向かっている。
やらなければならないことは、山ほどある。
償いも、責任も、未来も。
でも――
今日だけは。
今日だけは、少し自由でいいよね。
「綺麗だよ、アルティア」
振り向くと、白い正装に身を包んだヴェルグが立っていた。
昔のような闇はない。
でも、軽やかさもない。
背負うものを知った男の、穏やかな微笑み。
「ダイエット、頑張ったのよ」
くるりと回る。
純白のドレスが、光を受けてふわりと広がる。
城の庭には、生徒たちとカイル、そして領民たち。
「先生ー!」
「お幸せに!」
「魔王様、泣くなよ!」
「泣いてない!」
ヴェルグが真顔で否定する。
エルが、小さな手でリングを運んでくる。
少し大きすぎる花冠を揺らしながら。
「せーじょさま、まおうさま、どうぞ」
私たちは顔を見合わせて、笑う。
指輪を交換する。
過去も、罪も、弱さも。
すべてを知った上で。
「愛しているよ」
「愛しています」
静かな誓い。
拍手が起こる。
空は青い。
黒く染まったあの日が、嘘みたいに。
信じる心が、世界を救う。
それはきっと、奇跡よりも強い。
魔王と聖女の物語は、ここでおしまい。
「アルティア、新しい肖像画を描いてみたんだ」
「……寝室に飾らないでね」
これからは、アルティアとヴェルグとしての日々が待ち受けている。
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