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31「奇跡」
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聖剣が、地面に落ちた。
乾いた音が、戦場に響く。
黒い柱は崩れ、瘴気は霧のように薄れていく。
魔物たちは消え、空に青が戻り始めていた。
ヴェルグは、その場に膝をついていた。
「……僕は」
銀の瞳にもう闇はない。だけどそこにあるのは、深い悔恨だった。
「僕は……取り返しのつかないことをした」
崩れた城壁。
倒れ伏す兵。
血に染まった大地。
事実は消えない。
私は彼の前に立つ。
「一緒に償いましょう」
彼は顔を上げる。
「あなたが壊したもの、私も背負う。永遠に、一緒に」
ヴェルグの喉が震える。
「……アルティア」
「あなたを許す。でも、罪は消えない」
その言葉を、彼は受け止めるように目を閉じた。
「共に生きましょう。罪とともに」
彼が頷いた、そのときだった。
甲高い笑い声が響く。
「はは……あははははははっ!」
そこに立っていたのは、乱れた桃色の髪の女。
カミーユ。
そして、その腕に抱えられた小さな影。
「エル……!」
エルの瞳は、淡く光っていた。
聖なる光。
私がすべてを注いだ、その力。
「今はお前こそが聖女よ!」
カミーユの目は焦点が合っていない。
「魔王を殺しなさい! 世界を救いなさい! 私を英雄の母にして!」
エルが震える。
「いや……」
カミーユはエルを突き飛ばすように前へ出した。
聖なる光が暴走する。
剣の形をとり、ヴェルグへ向かう。
ヴェルグが立ち上がる。
銀の瞳が、静かに細められる。
剣を抜く。
ヴェルグが彼女を斬るには十分な距離だ。
だけど、彼は剣を下ろした。
「……斬れない」
エルの瞳に、恐怖が映る。
私はその前に立った。
「エル」
ゆっくりと、手を差し伸べる。
「あなたは、道具じゃない」
カミーユが叫ぶ。
「殺しなさい!」
ヴェルグが、低く告げる。
「許されないことをしたのは、僕だ」
その声は、静かだった。
「だから罰する権利は、聖女にある」
私は頷く。
「私は彼が立ち直ると信じています」
エルを見つめる。
「だからどうか、彼を殺さないで」
戦場が、静まり返る。
「エル! 命令よ!」
カミーユの叫び。
エルの小さな体が震える。
光が揺れる。
そして。
エルは、剣を落とした。
「……いや」
小さな声。
「エル、しんじる」
私を見て、ヴェルグを見て、翡翠色の瞳は涙にぬれて輝いてた。
「せーじょさま、うそつかない」
その瞬間。
光が、爆発した。
まばゆい白が世界を包む。
聖なる力が、ヴェルグへと流れ込む。
裁くためではない。
奪うためでもない。
受け止めるため。
罪を、背負うため。
「これは……」
ヴェルグの体から、黒い瘴気が抜けていく。
だが、それは消えない。
エルの胸へと吸い込まれる。
小さな体が浮かび上がる。
「エル!」
私は叫ぶ。
だが、光は優しかった。
暴力ではない、祈りの光。
信じる心が、形を持ったもの。
(世界が、きしむ……!?)
まるで時間が、巻き戻っているかのようだった。
崩れた城壁が戻り。
倒れた兵が息を吹き返し。
血が消え、瓦礫が組み上がる。
最初から何も起きなかったかのように。
「アルティア、これは……」
「エルの力は聖女の域を超えている……彼女は……大聖女だわ」
「なぜいきなり……!?」
「私のすべての力と、すべての瘴気を吸った……世界を真に救済する存在になったのかも」
光が収まる。
エルは、静かに地面へ降り立った。
瞳は澄んでいる。
ヴェルグは、膝をついたまま。
戦場は、元の姿を取り戻していた。
ただ一つ、私たちの胸に刻まれた記憶だけが、残っている。
カミーユは、呆然と立ち尽くしていた。
「はは……これで、あなたも……英雄に……」
その声は、誰にも届かない。
エルは母であるカミーユではなく、私の胸に飛び込んできた。
私はエルを抱きしめる。
「せーじょさま! せーじょさまあ!」
「ああ、私を許してくれたのね……ありがとう」
ヴェルグが、深く頭を下げる。
「……生きて償う」
空は、青かった。
だけど私たちは知っている。
罪が消えたわけじゃない。
奇跡は、帳消しじゃない。
信じる心が、やり直す機会をくれただけ。
だから。
私たちは歩く。
今度こそ、壊さないために。
共に。
「愛しているわ、ヴェルグ」
「アルティア……僕も、愛している」
魔王と聖女ではなく、罪を背負う男と女として、私たちは熱くキスを交わした。
乾いた音が、戦場に響く。
黒い柱は崩れ、瘴気は霧のように薄れていく。
魔物たちは消え、空に青が戻り始めていた。
ヴェルグは、その場に膝をついていた。
「……僕は」
銀の瞳にもう闇はない。だけどそこにあるのは、深い悔恨だった。
「僕は……取り返しのつかないことをした」
崩れた城壁。
倒れ伏す兵。
血に染まった大地。
事実は消えない。
私は彼の前に立つ。
「一緒に償いましょう」
彼は顔を上げる。
「あなたが壊したもの、私も背負う。永遠に、一緒に」
ヴェルグの喉が震える。
「……アルティア」
「あなたを許す。でも、罪は消えない」
その言葉を、彼は受け止めるように目を閉じた。
「共に生きましょう。罪とともに」
彼が頷いた、そのときだった。
甲高い笑い声が響く。
「はは……あははははははっ!」
そこに立っていたのは、乱れた桃色の髪の女。
カミーユ。
そして、その腕に抱えられた小さな影。
「エル……!」
エルの瞳は、淡く光っていた。
聖なる光。
私がすべてを注いだ、その力。
「今はお前こそが聖女よ!」
カミーユの目は焦点が合っていない。
「魔王を殺しなさい! 世界を救いなさい! 私を英雄の母にして!」
エルが震える。
「いや……」
カミーユはエルを突き飛ばすように前へ出した。
聖なる光が暴走する。
剣の形をとり、ヴェルグへ向かう。
ヴェルグが立ち上がる。
銀の瞳が、静かに細められる。
剣を抜く。
ヴェルグが彼女を斬るには十分な距離だ。
だけど、彼は剣を下ろした。
「……斬れない」
エルの瞳に、恐怖が映る。
私はその前に立った。
「エル」
ゆっくりと、手を差し伸べる。
「あなたは、道具じゃない」
カミーユが叫ぶ。
「殺しなさい!」
ヴェルグが、低く告げる。
「許されないことをしたのは、僕だ」
その声は、静かだった。
「だから罰する権利は、聖女にある」
私は頷く。
「私は彼が立ち直ると信じています」
エルを見つめる。
「だからどうか、彼を殺さないで」
戦場が、静まり返る。
「エル! 命令よ!」
カミーユの叫び。
エルの小さな体が震える。
光が揺れる。
そして。
エルは、剣を落とした。
「……いや」
小さな声。
「エル、しんじる」
私を見て、ヴェルグを見て、翡翠色の瞳は涙にぬれて輝いてた。
「せーじょさま、うそつかない」
その瞬間。
光が、爆発した。
まばゆい白が世界を包む。
聖なる力が、ヴェルグへと流れ込む。
裁くためではない。
奪うためでもない。
受け止めるため。
罪を、背負うため。
「これは……」
ヴェルグの体から、黒い瘴気が抜けていく。
だが、それは消えない。
エルの胸へと吸い込まれる。
小さな体が浮かび上がる。
「エル!」
私は叫ぶ。
だが、光は優しかった。
暴力ではない、祈りの光。
信じる心が、形を持ったもの。
(世界が、きしむ……!?)
まるで時間が、巻き戻っているかのようだった。
崩れた城壁が戻り。
倒れた兵が息を吹き返し。
血が消え、瓦礫が組み上がる。
最初から何も起きなかったかのように。
「アルティア、これは……」
「エルの力は聖女の域を超えている……彼女は……大聖女だわ」
「なぜいきなり……!?」
「私のすべての力と、すべての瘴気を吸った……世界を真に救済する存在になったのかも」
光が収まる。
エルは、静かに地面へ降り立った。
瞳は澄んでいる。
ヴェルグは、膝をついたまま。
戦場は、元の姿を取り戻していた。
ただ一つ、私たちの胸に刻まれた記憶だけが、残っている。
カミーユは、呆然と立ち尽くしていた。
「はは……これで、あなたも……英雄に……」
その声は、誰にも届かない。
エルは母であるカミーユではなく、私の胸に飛び込んできた。
私はエルを抱きしめる。
「せーじょさま! せーじょさまあ!」
「ああ、私を許してくれたのね……ありがとう」
ヴェルグが、深く頭を下げる。
「……生きて償う」
空は、青かった。
だけど私たちは知っている。
罪が消えたわけじゃない。
奇跡は、帳消しじゃない。
信じる心が、やり直す機会をくれただけ。
だから。
私たちは歩く。
今度こそ、壊さないために。
共に。
「愛しているわ、ヴェルグ」
「アルティア……僕も、愛している」
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