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25. 強がり *
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*R18回です、ご注意ください*
尚樹さんの発言に、何とも言えない、落ち着かない気分を掻き立てられる。
アルファやオメガは、そういう行為をすると多少なりとも相手の体に自分の匂いを移してしまう。だからアルファとオメガのカップルは、互いの匂いを相手の身にまとわせ自分のものだと他者を牽制することが多い。
中立性であるベータにはフェロモンがない。相手に自分の匂いをまとわせるということはできないが、アルファやオメガの匂いを身にまとうことはできる。
宏樹のオメガの浮気に気づいたのも、その匂いのせいだった。俺じゃないオメガの匂いをべったりとまとわせて俺と暮らすマンションに帰ってきた時は、彼が玄関ドアを開けた瞬間に気づいた。
あれは明らかに俺を牽制した匂いだった。
けれど、普段の尚樹さんからは、そういう性的な空気を感じたことがない。同じ職場で働くようになって三年目。
彼の体は、たとえ髪一本でもオメガの匂いをまとわせたことがなかった。院内で第二性を問わず声をかけられる姿は見るが、どれにも適切な距離を取りお断りしていた。
(まぁ昔の宏樹みたいにベータが相手だったらわからないんだけど……)
こんなことを俺が逡巡してるなんて思いもしてないだろう尚樹さんは、俺をリビングに残して一人さっさとキッチンへと向かってしまった。そうだ、今から夕食を作るんだった。俺も緊張を解き、夕食作りのため後を追う。
いつも俺をからかってばかりの尚樹さんだから、今回も俺をからかっただけかもしれない――うん、きっとそうだ。
先に行った尚樹さんは補助灯をつけただけの薄暗いキッチンで冷蔵庫を開けていた。冷蔵庫と変わらない上背で心做しか少し腰を屈めている。背伸びをしても俺には冷蔵庫の天板なんて見えない。
「何が食べたいとかありますか」
「んー、真緒くんは何が作れるの?」
「余程凝ったやつじゃなければ作れますよ。あ、でも煮込み料理とかは今から作ると時間が足りないからやめといた方がいいですね」
尚樹さんの隣に立って一緒に冷蔵庫の中身を確認する。
「……宏樹にも作ってあげたりした?」
「そうですね。あいつがキッチン使うととんでもないことになるから、同居してる頃は俺が作ってましたよ」
「へぇ、いいなぁ」
宏樹が出て行ってからは俺一人の食事を作るだけで、ついついおざなりなものばかり口にしていたけれど、さすがに彼らにそれを振る舞うわけにはいかないだろう。
特にごちそうにする必要はないが、貧相なものを出すのはいただけない。幸い俺も彼らも好き嫌いは特になさそうだ。
「――――――?」
どうしようかと悩むことに集中しすぎていたかもしれない。ふと背後からぞわりとした圧を感じた。
前面から漂う冷蔵庫の冷気とは違う。背中を何か得体のしれないものが這う感覚に、俺は膝を折り、その場に蹲った。
「……………………………」
「どうしたの真緒くん」
蹲った俺の視界の隅っこには尚樹さんの足。その、冷蔵庫を向いていたつま先が横へ、俺の方へ向き直った。
見られている――と感じた。
普通に考えたら、突然隣にいるやつが蹲ったらそりゃ見るに決まっている。でも今、頭上のアルファから感じるのは蹲った俺に対する心配とか戸惑いとかそういうものとは違う気がした。
「真緒くん」
冷蔵庫の扉を閉じる音がした。
蹲る俺と目線を合わせるように尚樹さんがしゃがみこんで、もう一度俺の名を呼ぶ。
「真緒くん」
「は、い」
「好きな相手から自分以外の匂いがするの、真緒くんには経験あるよね」
「え、あ……?」
俺は遂に床に膝と手をつく。その俺の手に、尚樹さんの手が重なった。そのままその手を持ち上げるように膝立ちにさせられる。俺は、俯いていた顔をゆっくり上げると、熱を帯びた黒い瞳と目が合った。
「んっ、んーっ!!?」
え、と思う間もなく、俺の両頬は尚樹さんの片手に掴まれた。むにと頬の肉を揉まれ、俺の口がぽかっと開く。そこに、文字どおり尚樹さんが大きな口でかぶりついた。
「は――ん、んう、ん、っ!?」
口づけ――とか、そんな優しい言葉で言っていいのかわからないほど、荒っぽく性急なその動作に俺は目を見開いて驚く。
「ふぁ、ん、ンっ――な、なおきさっ」
掴まれた手を放そうとするけれど、尚樹さんは強い力でそれを許してくれない。尚樹さんの体がどんどん迫ってくる。
俺はじりじりと後退させられ、背中に衝撃を受けた。キッチンの行き止まりの壁にいつの間にか追い込まれている。
尚樹さんはまるで覆い被さるように俺を抱きしめてキスを繰り返した。何度も何度も、唇を甘噛みされ、舐められ、そのうち口内に尚樹さんの熱い舌が割り入ってくる。お互いの舌がもつれるように絡み合う。
じゅるっ、と音が鳴るくらいの強さで舌を吸われ、俺は思わず高い声を上げた。
「――んっ、あ、はぁ、あっ、」
「ん、真緒くん、真緒っ」
俺が名前を呼ぶと、とろけるような笑顔で嬉しそうに尚樹さんも俺の名前を呼んだ。
俺はやめてと言おうとして、でもそのとびきりの笑顔に、言うのをやめた。
何だろう。キスをしただけで、こんなに嬉しそうな顔をしてくれるなんて。何だかすごく、嬉しい……気がする。わからない。
「……真緒くん、好きだよ」
掴んだ俺の手が放された。
俺の背に尚樹さんの手が添う。先程感じた得体のしれない圧はもう感じなかった。
「きみに、弟たちの匂いがついてて、辛い」
俺を抱きしめる尚樹さんの体と声が震えている。
「つけたらいいじゃないですか」
「………………えっ」
尚樹さんは俺を抱きしめている手を放し、俺を見た。仕事中に見たことがないくらい、表情筋が活動停止している。
「俺に、宏樹たちの匂いがついてるのが嫌なんでしょう? だったら、尚樹さんも俺に匂いをつけたらいい」
「………………………………本気?」
「冗談でこんなこと言う男に見えます?」
「いや、見えない…………」
「良かった」
少しの間、尚樹さんは俺を胡乱な目で見ていたけれど、俺の笑顔が変わらないのを見て諦めたように頷いた。
「尚樹さん。俺ね、これでも好きな人には一途なんです」
「知ってるよ」
「あと、俺だけを見てくれる一途な人が好きです」
「俺もだよ」
「最後まではできないけど――それでもいいですか?」
尚樹さんの端正な顔が近づく。太く長い指が俺の髪を梳いて、支えるように後頭部へと回った。俺は尚樹さんと視線を絡ませたまま、唇をぺろりと舐めずる。
「もちろんだよ」
そう言って、尚樹さんの唇が俺の唇にもう一度触れた。
・ ・ ・
もう我慢できない、とそう言って尚樹さんは俺のジーンズを脱がせる。俺のまだ勃ちきっていないペニスを、まるで宝物に触れるかのように優しく握った。
初めて、宏樹以外から与えられる刺激に、俺は腰を浮かせる。
「ん……っ」
キスを繰り返していると、ペニスのぬめりと同時に胎の奥にまた熱がこもり始める。キスの度に、アルファのフェロモンが溶けた唾液が口内に注がれ、嚥下させられた。喉がゴクリと鳴るたびに、全然違う場所である子宮が疼いている。
「……真緒くん、いい匂いがしてきたね」
俺の項あたりを尚樹さんの舌が這う。
ネックガード越しの感触でも、俺のペニスは非常に素直だった。まだ対して扱かれてもいないのにだらだらと先走りの汁があふれ出している。後孔からも下着が擦れるたびにぬちゅぬちゅと濡れた水音がする。
「あ、あ、んっ、尚樹さん、う、うな、じはダメです」
「大丈夫。噛まない。舐めるだけ。真緒くんの項、すっごくおいしいから舐めさせてね」
「えぇ……何か、へ、変態みたい……っ」
俺もお返しとばかりに、尚樹さんの首元に噛みつく。と言ってもリーチに差があるから、項ではなくて喉元だけどな。
「んんっ!! あーーーちょ、真緒く、それ、反則……っ」
噛みついた瞬間に、尚樹さんの体から発情した匂いがぶわっと広がった。俺のオメガのフェロモンと、尚樹さんのフェロモンが少しずつキッチンを中心に立ち込めていく。
「真緒くん、真緒くん、真緒くんっ」
尚樹さんは体をずらすと、俺のペニスをぱくりとくわえた。小ぶりなそれは、尚樹さんの大きな口の中にすっぽりとおさまってしまう。
「え、あっ、待っ」
制止する暇もなくじゅぱじゅぱと音を激しく立てて吸い上げられて、俺は一気に昇り詰めそうになる。かぶりを振って、いやいやと駄々をこねると、さらに舐められる。
「んっ、あ、あ、いく、いっちゃう、……なおきさん、口、出ちゃうから口放してっ」
「出していいよ」
「あ、あんんっ! う――あ、いく、いくっ」
尚樹さんの短い髪を掴んで、俺は内ももを震わせた。尚樹さんの口の中で、俺のペニスはどくりと精を吐き出す。
「…………あ、あぁ、尚樹さんの口に、出しちゃった 」
「ふふ、気持ちよかった?」
俺の股の間から顔を上げた尚樹さんは、いたずらが成功した子供みたいにニコニコしている。
「……あれ」
「どうかした?」
「え。尚樹さんの口の中……ま、まさか俺の出したやつ」
「もう飲んだけど?」
「はぁっ!? だ、ダメじゃないですか、そんなの、あんなの飲んじゃダメですって!!」
「ダメじゃないよ。すごくおいしかったよ」
「いや、何そんなAV女優みたいなこと言ってるんですか……あんなの、おいしいわけないでしょ」
「真緒くんの出したものなんだから、おいしくないわけないでしょ」
さも当然のように言い切られる。
赤面した俺の膝下に腕を入れ抱えられる。尚樹さんの膝上に乗って、対面座位の体位をとらされた。
「真緒くん、俺には真緒くんの匂いついたよ。……次は俺が真緒くんに俺の匂いつけていいかな?」
「え、あ……は、はい」
あらためてそう言われて、俺は更に顔を赤くした。
俺も尚樹さんのものをフェラチオするのかな……と思ったけれど、それはやんわりと手で制止される。
「真緒くんはしなくていいよ」
「いいんですか?」
「うん。俺の匂いだけ感じてて、ね?」
剛直、と形容しても差し支えないペニスを、俺の達したばかりのものと一緒に握りこまれた。腹につくほどに反り返った尚樹さんのペニスは、もう待ちきれないとばかりに勃起していて、半透明の先走りを垂らしている。
その雫を俺のペニスに擦りつけながらゆるゆると腰を動かされると、張り出した傘の部分が俺の気持ちいいところを刺激した。
「あっ、ふ、ふぅ……んん……っ、き、きもちぃ」
「俺も、俺も気持ちいい……」
キッチンの奥、仄かな灯りの中で、こんな行為に及んでいいのだろうかという罪悪感と、俺を求めているアルファの匂いが与える快感。自分の吐く息が熱い。その息までも欲しいとばかりに、尚樹さんから口づけをされる。
歯列を舐めとられ上顎を尚樹さんの長い舌で擦られると、後孔からアルファを求める雫が止めどなく溢れた。嬉しそうに尚樹さんの頬が緩む。宏樹の、獣のような色気とは違う、官能めいた色気に胎が疼いた。
「真緒くん、真緒くん可愛い、好き、好きだよ」
「う、ふぅ、んっ、も、もっと強く、して……」
幸せになりたい。求められたい。
俺のことだけを見ていてくれる人が欲しい。そんな資格は俺にはないのに。
目尻から涙がポロポロと零れ落ちる。
俺のことを好きだと言ってくれる人と触れ合っているのに、どうして俺は涙が出るんだろう。
暗がりが重なる部屋の片隅で、あの時と同じように俺は誰にも聞こえないように助けてとつぶやいた。
尚樹さんの発言に、何とも言えない、落ち着かない気分を掻き立てられる。
アルファやオメガは、そういう行為をすると多少なりとも相手の体に自分の匂いを移してしまう。だからアルファとオメガのカップルは、互いの匂いを相手の身にまとわせ自分のものだと他者を牽制することが多い。
中立性であるベータにはフェロモンがない。相手に自分の匂いをまとわせるということはできないが、アルファやオメガの匂いを身にまとうことはできる。
宏樹のオメガの浮気に気づいたのも、その匂いのせいだった。俺じゃないオメガの匂いをべったりとまとわせて俺と暮らすマンションに帰ってきた時は、彼が玄関ドアを開けた瞬間に気づいた。
あれは明らかに俺を牽制した匂いだった。
けれど、普段の尚樹さんからは、そういう性的な空気を感じたことがない。同じ職場で働くようになって三年目。
彼の体は、たとえ髪一本でもオメガの匂いをまとわせたことがなかった。院内で第二性を問わず声をかけられる姿は見るが、どれにも適切な距離を取りお断りしていた。
(まぁ昔の宏樹みたいにベータが相手だったらわからないんだけど……)
こんなことを俺が逡巡してるなんて思いもしてないだろう尚樹さんは、俺をリビングに残して一人さっさとキッチンへと向かってしまった。そうだ、今から夕食を作るんだった。俺も緊張を解き、夕食作りのため後を追う。
いつも俺をからかってばかりの尚樹さんだから、今回も俺をからかっただけかもしれない――うん、きっとそうだ。
先に行った尚樹さんは補助灯をつけただけの薄暗いキッチンで冷蔵庫を開けていた。冷蔵庫と変わらない上背で心做しか少し腰を屈めている。背伸びをしても俺には冷蔵庫の天板なんて見えない。
「何が食べたいとかありますか」
「んー、真緒くんは何が作れるの?」
「余程凝ったやつじゃなければ作れますよ。あ、でも煮込み料理とかは今から作ると時間が足りないからやめといた方がいいですね」
尚樹さんの隣に立って一緒に冷蔵庫の中身を確認する。
「……宏樹にも作ってあげたりした?」
「そうですね。あいつがキッチン使うととんでもないことになるから、同居してる頃は俺が作ってましたよ」
「へぇ、いいなぁ」
宏樹が出て行ってからは俺一人の食事を作るだけで、ついついおざなりなものばかり口にしていたけれど、さすがに彼らにそれを振る舞うわけにはいかないだろう。
特にごちそうにする必要はないが、貧相なものを出すのはいただけない。幸い俺も彼らも好き嫌いは特になさそうだ。
「――――――?」
どうしようかと悩むことに集中しすぎていたかもしれない。ふと背後からぞわりとした圧を感じた。
前面から漂う冷蔵庫の冷気とは違う。背中を何か得体のしれないものが這う感覚に、俺は膝を折り、その場に蹲った。
「……………………………」
「どうしたの真緒くん」
蹲った俺の視界の隅っこには尚樹さんの足。その、冷蔵庫を向いていたつま先が横へ、俺の方へ向き直った。
見られている――と感じた。
普通に考えたら、突然隣にいるやつが蹲ったらそりゃ見るに決まっている。でも今、頭上のアルファから感じるのは蹲った俺に対する心配とか戸惑いとかそういうものとは違う気がした。
「真緒くん」
冷蔵庫の扉を閉じる音がした。
蹲る俺と目線を合わせるように尚樹さんがしゃがみこんで、もう一度俺の名を呼ぶ。
「真緒くん」
「は、い」
「好きな相手から自分以外の匂いがするの、真緒くんには経験あるよね」
「え、あ……?」
俺は遂に床に膝と手をつく。その俺の手に、尚樹さんの手が重なった。そのままその手を持ち上げるように膝立ちにさせられる。俺は、俯いていた顔をゆっくり上げると、熱を帯びた黒い瞳と目が合った。
「んっ、んーっ!!?」
え、と思う間もなく、俺の両頬は尚樹さんの片手に掴まれた。むにと頬の肉を揉まれ、俺の口がぽかっと開く。そこに、文字どおり尚樹さんが大きな口でかぶりついた。
「は――ん、んう、ん、っ!?」
口づけ――とか、そんな優しい言葉で言っていいのかわからないほど、荒っぽく性急なその動作に俺は目を見開いて驚く。
「ふぁ、ん、ンっ――な、なおきさっ」
掴まれた手を放そうとするけれど、尚樹さんは強い力でそれを許してくれない。尚樹さんの体がどんどん迫ってくる。
俺はじりじりと後退させられ、背中に衝撃を受けた。キッチンの行き止まりの壁にいつの間にか追い込まれている。
尚樹さんはまるで覆い被さるように俺を抱きしめてキスを繰り返した。何度も何度も、唇を甘噛みされ、舐められ、そのうち口内に尚樹さんの熱い舌が割り入ってくる。お互いの舌がもつれるように絡み合う。
じゅるっ、と音が鳴るくらいの強さで舌を吸われ、俺は思わず高い声を上げた。
「――んっ、あ、はぁ、あっ、」
「ん、真緒くん、真緒っ」
俺が名前を呼ぶと、とろけるような笑顔で嬉しそうに尚樹さんも俺の名前を呼んだ。
俺はやめてと言おうとして、でもそのとびきりの笑顔に、言うのをやめた。
何だろう。キスをしただけで、こんなに嬉しそうな顔をしてくれるなんて。何だかすごく、嬉しい……気がする。わからない。
「……真緒くん、好きだよ」
掴んだ俺の手が放された。
俺の背に尚樹さんの手が添う。先程感じた得体のしれない圧はもう感じなかった。
「きみに、弟たちの匂いがついてて、辛い」
俺を抱きしめる尚樹さんの体と声が震えている。
「つけたらいいじゃないですか」
「………………えっ」
尚樹さんは俺を抱きしめている手を放し、俺を見た。仕事中に見たことがないくらい、表情筋が活動停止している。
「俺に、宏樹たちの匂いがついてるのが嫌なんでしょう? だったら、尚樹さんも俺に匂いをつけたらいい」
「………………………………本気?」
「冗談でこんなこと言う男に見えます?」
「いや、見えない…………」
「良かった」
少しの間、尚樹さんは俺を胡乱な目で見ていたけれど、俺の笑顔が変わらないのを見て諦めたように頷いた。
「尚樹さん。俺ね、これでも好きな人には一途なんです」
「知ってるよ」
「あと、俺だけを見てくれる一途な人が好きです」
「俺もだよ」
「最後まではできないけど――それでもいいですか?」
尚樹さんの端正な顔が近づく。太く長い指が俺の髪を梳いて、支えるように後頭部へと回った。俺は尚樹さんと視線を絡ませたまま、唇をぺろりと舐めずる。
「もちろんだよ」
そう言って、尚樹さんの唇が俺の唇にもう一度触れた。
・ ・ ・
もう我慢できない、とそう言って尚樹さんは俺のジーンズを脱がせる。俺のまだ勃ちきっていないペニスを、まるで宝物に触れるかのように優しく握った。
初めて、宏樹以外から与えられる刺激に、俺は腰を浮かせる。
「ん……っ」
キスを繰り返していると、ペニスのぬめりと同時に胎の奥にまた熱がこもり始める。キスの度に、アルファのフェロモンが溶けた唾液が口内に注がれ、嚥下させられた。喉がゴクリと鳴るたびに、全然違う場所である子宮が疼いている。
「……真緒くん、いい匂いがしてきたね」
俺の項あたりを尚樹さんの舌が這う。
ネックガード越しの感触でも、俺のペニスは非常に素直だった。まだ対して扱かれてもいないのにだらだらと先走りの汁があふれ出している。後孔からも下着が擦れるたびにぬちゅぬちゅと濡れた水音がする。
「あ、あ、んっ、尚樹さん、う、うな、じはダメです」
「大丈夫。噛まない。舐めるだけ。真緒くんの項、すっごくおいしいから舐めさせてね」
「えぇ……何か、へ、変態みたい……っ」
俺もお返しとばかりに、尚樹さんの首元に噛みつく。と言ってもリーチに差があるから、項ではなくて喉元だけどな。
「んんっ!! あーーーちょ、真緒く、それ、反則……っ」
噛みついた瞬間に、尚樹さんの体から発情した匂いがぶわっと広がった。俺のオメガのフェロモンと、尚樹さんのフェロモンが少しずつキッチンを中心に立ち込めていく。
「真緒くん、真緒くん、真緒くんっ」
尚樹さんは体をずらすと、俺のペニスをぱくりとくわえた。小ぶりなそれは、尚樹さんの大きな口の中にすっぽりとおさまってしまう。
「え、あっ、待っ」
制止する暇もなくじゅぱじゅぱと音を激しく立てて吸い上げられて、俺は一気に昇り詰めそうになる。かぶりを振って、いやいやと駄々をこねると、さらに舐められる。
「んっ、あ、あ、いく、いっちゃう、……なおきさん、口、出ちゃうから口放してっ」
「出していいよ」
「あ、あんんっ! う――あ、いく、いくっ」
尚樹さんの短い髪を掴んで、俺は内ももを震わせた。尚樹さんの口の中で、俺のペニスはどくりと精を吐き出す。
「…………あ、あぁ、尚樹さんの口に、出しちゃった 」
「ふふ、気持ちよかった?」
俺の股の間から顔を上げた尚樹さんは、いたずらが成功した子供みたいにニコニコしている。
「……あれ」
「どうかした?」
「え。尚樹さんの口の中……ま、まさか俺の出したやつ」
「もう飲んだけど?」
「はぁっ!? だ、ダメじゃないですか、そんなの、あんなの飲んじゃダメですって!!」
「ダメじゃないよ。すごくおいしかったよ」
「いや、何そんなAV女優みたいなこと言ってるんですか……あんなの、おいしいわけないでしょ」
「真緒くんの出したものなんだから、おいしくないわけないでしょ」
さも当然のように言い切られる。
赤面した俺の膝下に腕を入れ抱えられる。尚樹さんの膝上に乗って、対面座位の体位をとらされた。
「真緒くん、俺には真緒くんの匂いついたよ。……次は俺が真緒くんに俺の匂いつけていいかな?」
「え、あ……は、はい」
あらためてそう言われて、俺は更に顔を赤くした。
俺も尚樹さんのものをフェラチオするのかな……と思ったけれど、それはやんわりと手で制止される。
「真緒くんはしなくていいよ」
「いいんですか?」
「うん。俺の匂いだけ感じてて、ね?」
剛直、と形容しても差し支えないペニスを、俺の達したばかりのものと一緒に握りこまれた。腹につくほどに反り返った尚樹さんのペニスは、もう待ちきれないとばかりに勃起していて、半透明の先走りを垂らしている。
その雫を俺のペニスに擦りつけながらゆるゆると腰を動かされると、張り出した傘の部分が俺の気持ちいいところを刺激した。
「あっ、ふ、ふぅ……んん……っ、き、きもちぃ」
「俺も、俺も気持ちいい……」
キッチンの奥、仄かな灯りの中で、こんな行為に及んでいいのだろうかという罪悪感と、俺を求めているアルファの匂いが与える快感。自分の吐く息が熱い。その息までも欲しいとばかりに、尚樹さんから口づけをされる。
歯列を舐めとられ上顎を尚樹さんの長い舌で擦られると、後孔からアルファを求める雫が止めどなく溢れた。嬉しそうに尚樹さんの頬が緩む。宏樹の、獣のような色気とは違う、官能めいた色気に胎が疼いた。
「真緒くん、真緒くん可愛い、好き、好きだよ」
「う、ふぅ、んっ、も、もっと強く、して……」
幸せになりたい。求められたい。
俺のことだけを見ていてくれる人が欲しい。そんな資格は俺にはないのに。
目尻から涙がポロポロと零れ落ちる。
俺のことを好きだと言ってくれる人と触れ合っているのに、どうして俺は涙が出るんだろう。
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