公爵令嬢の選択

つきほ。

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第1章 婚約破棄と転落

第2話 騎士団の門を叩く

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石畳に響く馬蹄の音が、マリアンヌの胸の奥で小さく共鳴していた。

 ――この道を選んだのは自分だ。もう迷いはない。

 彼女は高くそびえる騎士団の門の前で馬を降りた。重厚な鉄製の門はまるで彼女を拒むかのように冷たい輝きを放っている。

 門を守る衛兵が目を細めた。

 「貴族の令嬢が、騎士団に何の用だ?」

 マリアンヌは微動だにせず答える。

 「騎士団に入団を希望します。」

 衛兵は吹き出した。「冗談か?ここは貴族の遊び場じゃないぞ。」

 マリアンヌはその反応を予想していた。

 「この文書を。」

 彼女は父親が準備した推薦状を差し出した。そこにはエストレル公爵の印が刻まれていた。

 衛兵の顔色が変わる。しかし、口調は依然として冷たかった。

 「推薦状があれば入れるとでも?」

 「実力を証明します。」

 マリアンヌは剣を抜いた。陽光にきらめく刃が鋭く光り、衛兵たちの動きが一瞬止まる。

 「試験を受けさせてください。」

 衛兵は困惑したように門の向こうへ消えていった。

 しばらくして、騎士団長のエリック・グランツが現れた。

 「貴族令嬢が騎士になりたいだと?」

 黒髪に深い傷跡を刻んだ顔の男は、一目で歴戦の戦士だと分かる風格を持っていた。

 「ならば見せてもらおうか。その誇りと実力を。」

 彼の挑発的な言葉に、マリアンヌは静かに剣を構えた。




 訓練場に集まった騎士たちが冷ややかな目を向ける中、マリアンヌは試験場に立った。

 「相手を務めるのは、私だ。」

 現れたのは屈強な騎士だった。

 「始め!」

 掛け声と同時に男が剣を振り下ろす。

 マリアンヌは素早くかわし、剣を横に払った。しかし、男は体勢を崩すことなくカウンターを繰り出す。

 ――重い!

 手首が痺れる。男の腕力は凄まじく、すべてを正面から受け止めていては持たない。

 だが、マリアンヌは冷静だった。相手の隙を見逃さず、刃を鋭く突き出す。

 「そこまで!」

 試合は引き分けだったが、マリアンヌは息を整えながら相手の目を見た。

 「やるじゃねえか。」

 相手が言葉を漏らすと、周囲の騎士たちからもざわめきが起こった。




 傷ついた手を布で巻きながら、マリアンヌは息を整えた。

 「なるほどな。この程度では折れそうもない。」

 エリック団長はそう言うと、手に持った木剣を肩に担いだ。

 「だが、騎士団は甘くないぞ。」

 マリアンヌは団長の言葉を受け止め、静かに頷いた。

 ――こうして、公爵令嬢マリアンヌ・エストレルは、騎士団での新たな生活を歩み始めた。

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