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嵐を呼ぶウエディングドレス II
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「い や で す 例え王命でも」
ぷくっと頬を膨らましてぷいっとソコロは横を向く。
デイブは背中に汗をかきながら、やはりなと想像通りのソコロの態度に納得した。こうなるとソコロは手強い。
ソコロはアンバーと一緒にドレスに刺繍をしていた。もう結婚式まで時間がない。急がなくてはならない。
「そう言わず……ソコロ、頼むよ」
デイブの必死の頼み。だがソコロはふんっと鼻を鳴らすだけでデイブを一瞥すらせず黙々と針を動かす。アンバーはあらあらと心中で呟きながら、巻き込まれないように息を殺す。絶対に面倒なことになる。アンバー、我関せずを貫く。
デイブは我関せずと涼しい顔をしているアンバーに気付き、アンバーにも後押しを頼むつもりで問いかけた。
「アンバーからもソコロにお願いしてくれ!」
「お断りします!ソコロがストゥー様からのドレスを即答で選んだとき、私は感動したの。今さらあちらの豪華なウエディングドレスだなんて……個人的に納得できません」
アンバーも即答で答えソコロの真似をしてぷくっと膨れてぷいっと横を向いた。そんなアンバーの膨れっ面がハリセンボンのようで、デイブは悶絶しそうになるのをいかんいかん、悶絶してる場合ではないと自分を戒める。
「いやいや、王命だぞ二人共。拒否はまずいだろ」
「し ら な い デイブが悪い。国王の前でそんなことうっかり口にするから」
「そんなことを言わずに……頼むよソコロ」
デイブの低姿勢な態度とソコロがツンツンしているのがアンバーにはどちらも見慣れない振る舞いで目をぱしぱし瞬かせて、二人の気のおけないやり取りに笑いながらもドレスに針を刺す。
そんな三人のやり取りを部屋の外から少し開いていた扉の陰から、日課のモルガン公爵邸訪問より帰宅したスチュアートはそっと覗いていたが、三人のいる部屋には入らずそのまま着替えに自室へと足を運んだ。
自室で着替えながらスチュアートはナイルズから贈られてきたウエディングドレスを思い浮かべていた。
素晴らしいドレスだった。ソコロが王太子妃として王太子の自分に嫁いだとしても、あれ程のドレスは用意できたか分からないほど。スチュアートは自国と帝国の国力の違いを肌で感じた。
巨大な国力をもつ帝国の第三皇子は次期皇帝になると聞いている。そしてソコロに求婚した相手。
贈られたドレスには百合の紋様が。ソコロは第三皇子の紋章だと言っていた。スチュアートにはナイルズがドレスを贈ってきたことがスチュアートに対しての戦線布告に思えてならなかった。
いつでもソコロを奪いに行くぞ……という。
スチュアートは脱いだ服を乱暴に長椅子に投げつけた。
もしスチュアートが今でも王子だったとしても、同じ皇子のナイルズには敵わない。現実はさらに厳しくスチュアートは貧乏伯爵だ。ソコロに不便ばかりかけている自覚はある、なのにいつもソコロは笑ってくれている。スチュアートはそんなソコロが愛しくて仕方がないのだが、帝国の第三皇子ナイルズならソコロに不便な思いなどさせないだろう。
あの日、ソコロを自分が幸せにすると決めた。その決意に嘘はないが、あんなウエディングドレスを見せられると果たしてソコロを幸せにできるのかと、あの日の決意がぐらぐらと揺らぐ。
「ちくしょう…………」
自分では用意できなかったウエディングドレス。ソコロに気まで遣わせてしまった。それがスチュアートは悔しくて仕方がなかった。
実際のところソコロはドレスのことはちっとも気にしていなくて、スチュアートと結婚式が挙げられるなら着るものなどなんでもよかった。なんなら今着ているナイトドレスでも構わないくらいだ。
夜も更けてきてスチュアートとソコロは寝室の長椅子に腰掛け寛ぎながら、ソコロはあと一息で完成するドレスの刺繍を黙々としていて、スチュアートは真剣な眼差しで針を刺すソコロを、こちらも真剣な眼差しで眺めていた。
いくら眺めても見飽きないソコロの姿に刺繍の邪魔をしてはいけないと、ソコロに触れないようにしていたスチュアートだったが、我慢できなくなりソコロを後ろから抱きしめてスチュアートの両腕にソコロを閉じ込めると、ソコロの首にスチュアートは顔を埋めた。
「ちょっ……ストゥー、危ないですわ」
くすくす笑いながらソコロはスチュアートに文句を言って首を少し動かせば、ソコロの頬にスチュアートが軽く口付けを落とし、ぎっとスチュアートの両腕に力が入った。ソコロはいつもとは違うスチュアートを感じて小首を傾げた。
「……どうかなさいましたの?」
「うん?どうもしない。ただソコロを感じていたいだけだ」
スチュアートはソコロの首に顔を埋めたままソコロを見ることなく答えた。
「モルガン公爵邸でなにか母に言われまして?」
スチュアートはナイルズが贈ってきたウエディングドレスが原因でこのような態度になっているのだが、ソコロは知らないので日課のモルガン公爵邸通いで、なにかあったのかと訝しげに尋ね顔を曇らせた。
「いや、今日は公爵夫人は留守だった」
未だにソコロの父、公爵にソコロとの結婚の許可を貰えていない。それどころか会えさえしない。だが、公爵令嬢がいつまでも婚約者でもない男と同じ屋敷で過ごすのはソコロの醜聞になる。そこで貴族としては褒められる行動ではないが、婚約を飛ばして婚姻をすることにしたのはソコロの母、公爵夫人の提案だった。ころころと鈴を転がすように笑いながら、そうしたら夫も諦めますわ、と。それにいい加減わたくしもソコロに会いたいですし、と言われたスチュアートは申し訳なさで身を縮こませるしかなかった。
強行突破の結婚式。本来ならソコロの両親と兄にも出席して欲しいが、現段階では難しそうで、だがソコロの為にはどうにかしたいとスチュアートは思っている。
「ではどうなさりましたの?」
スチュアートの様子が可笑しい原因がモルガン公爵邸くらいしか思い当たらないソコロはやさしくスチュアートに問いかけた。
「…………ウエディングドレス……デイブと話していたろ」
嘘ではないが本当でもない。まさかナイルズに嫉妬してとはソコロに言えないスチュアートは、咄嗟にそう言って誤魔化した。
「あぁ聞いてましたのね。いくらストゥーのお父様のご命令でもこればかりは聞けませんわ」
ソコロは刺繍をしていたドレスを机に置き、緩んだスチュアートの腕の中で体の位置を変え、そっとスチュアートの胸に自分の頭を預けた。すぐにスチュアートの手が伸びてきてソコロの頭を優しく撫でる。
「だが王命だぞ。ソコロの夫となる身としては悔しいが、陛下の気持ちも分かるだけに……」
「い や で す わ」
ソコロはスチュアートが話終わらないうちに言葉を被せて、預けていた頭を元に戻すと真っ直ぐにスチュアートを見た。
「わたくしはストゥーが贈ってくれたドレスがいいのです!愛する方が贈ってくれたドレスですのよ、それを結婚式で着たいのは可笑しなことでしょうか?」
「いや……可笑しくない。とっ当然のことだ」
ソコロの迫力に負けたスチュアートは、怒っているのか泣きたいのか分からない顔をしているソコロの頬に手を当てた。
「……ソコロ、愛しているよ」
凪いだ海のようにスチュアートの声は穏やかで深い愛情に満ち溢れていた。ぽろっとソコロの瞳から涙が溢れる。その悲しみの涙ではない喜びの涙はとても美しかった。
その涙をスチュアートは指ですくい、慈しむようにソコロの唇に口付けした。
顔を見合わせて二人はくすりと笑い。また口付けをする。回数を重ねるごとに深くなる口付けをすればすっかり夜の帳が下りていて、そのままソコロはスチュアートに身を任せるのだった。
一方、臍曲げソコロにめためたにやり込められたデイブは寝室の長椅子に座り項垂れていた。アンバーはそんなデイブを冷めた目で見ながら、寝る前のハーブティーを飲んでいる。普段なら妻の観察を怠らずに冷ややかな顔のアンバーにデイブは悶え狂うのだが、流石に今日はその余裕はないようだ。
基本的にはアンバーはデイブの味方だが、今回の一件は全面的にアンバーはソコロの味方である。
嬉しそうに飾り気のない麻の白いドレスをスチュアートが買ってくれたのとソコロは無邪気に喜んでいたのだ。結婚式当日はホラーハウスドゥリー伯爵邸の温室から白い薔薇を摘んでもっていく予定にしていた。花冠とソコロの胸元は生花で飾ろうと刺繍をしながらアンバーとソコロで話し合っていたのに、ナイルズ皇子から素晴らしいウエディングドレスが届いたからそれを着ろと、しかも命令だなんてあんまりだ。とアンバー、かなりご立腹。
頭を抱え項垂れるデイブは、猛スピードで頭を働かせていた。国王陛下よりの王命をいやですで退けられた……が陛下にソコロに嫌だと言われましたなどと報告できるわけがない。デイブの脳裏に無表情の国王の顔が浮かび、ふるっと震える。
ソコロのナイルズ第三皇子からのウエディングドレスを着るのが嫌と国王からの王命、着せろを両立させるにはどうしたらいいのか……。
はっとデイブは閃いた……閃いたがそれを実行に移すにはデイブはかなり手間暇苦労を、下手したら苦痛も強いられるかもしれない。だがそれしか方法は思いつかなかった。
「アンバー――――――だったらソコロがナイルズ皇子からのドレスを着ても許されるだろ?」
アンバーは目をぱちくり瞬かせて、デイブの提案を頭の中で噛み砕き一度整理してみる。確かにすべてが丸くは収まる提案ではあるが、でもめちゃくちゃ大変なのでは?主にデイブが――だけど。
「そうですね。実行できればナイルズ皇子のドレスを着るのは可能ですね。実行できればですけど」
デイブは髪の毛を両手でわしゃわしゃとかき乱し、少し血走った目をして溜め息を吐く。
「仕方がない。これも国王の前で口を滑らせた私が招いたことだ。後始末もしないと」
「えっ、実行するのですか?」
「しょうがない。ソコロへの罪滅ぼしだ」
デイブはすごく嫌そうな顔でそう言って溜め息を吐いた。アンバーはふふっと笑ってデイブを見た。なんだかんだ言っても人のいいデイブ。アンバーはそんなデイブが大好きだった。
「もちろんアンバーは手伝ってくれるよね」
デイブは背後からどす黒いものを垂れ流しながらアンバーの腕をがしっと掴み、目をキランと光らせた。暗に逃がさないとでも言いたげに……。
「えっ……」
逃げ遅れたとアンバーは悟り、それでも何処かに逃げ道はないかと探し目を泳がせるが、デイブに隙のない包囲網を敷かれていて見つけられなかった。
必死に作り笑いをするアンバーの唇にデイブは口付けを落とすと、仄暗い微笑みを浮かべアンバーをがっちりと抱きしめたのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
一話完結のつもりが……続きますm(_ _)m
ぷくっと頬を膨らましてぷいっとソコロは横を向く。
デイブは背中に汗をかきながら、やはりなと想像通りのソコロの態度に納得した。こうなるとソコロは手強い。
ソコロはアンバーと一緒にドレスに刺繍をしていた。もう結婚式まで時間がない。急がなくてはならない。
「そう言わず……ソコロ、頼むよ」
デイブの必死の頼み。だがソコロはふんっと鼻を鳴らすだけでデイブを一瞥すらせず黙々と針を動かす。アンバーはあらあらと心中で呟きながら、巻き込まれないように息を殺す。絶対に面倒なことになる。アンバー、我関せずを貫く。
デイブは我関せずと涼しい顔をしているアンバーに気付き、アンバーにも後押しを頼むつもりで問いかけた。
「アンバーからもソコロにお願いしてくれ!」
「お断りします!ソコロがストゥー様からのドレスを即答で選んだとき、私は感動したの。今さらあちらの豪華なウエディングドレスだなんて……個人的に納得できません」
アンバーも即答で答えソコロの真似をしてぷくっと膨れてぷいっと横を向いた。そんなアンバーの膨れっ面がハリセンボンのようで、デイブは悶絶しそうになるのをいかんいかん、悶絶してる場合ではないと自分を戒める。
「いやいや、王命だぞ二人共。拒否はまずいだろ」
「し ら な い デイブが悪い。国王の前でそんなことうっかり口にするから」
「そんなことを言わずに……頼むよソコロ」
デイブの低姿勢な態度とソコロがツンツンしているのがアンバーにはどちらも見慣れない振る舞いで目をぱしぱし瞬かせて、二人の気のおけないやり取りに笑いながらもドレスに針を刺す。
そんな三人のやり取りを部屋の外から少し開いていた扉の陰から、日課のモルガン公爵邸訪問より帰宅したスチュアートはそっと覗いていたが、三人のいる部屋には入らずそのまま着替えに自室へと足を運んだ。
自室で着替えながらスチュアートはナイルズから贈られてきたウエディングドレスを思い浮かべていた。
素晴らしいドレスだった。ソコロが王太子妃として王太子の自分に嫁いだとしても、あれ程のドレスは用意できたか分からないほど。スチュアートは自国と帝国の国力の違いを肌で感じた。
巨大な国力をもつ帝国の第三皇子は次期皇帝になると聞いている。そしてソコロに求婚した相手。
贈られたドレスには百合の紋様が。ソコロは第三皇子の紋章だと言っていた。スチュアートにはナイルズがドレスを贈ってきたことがスチュアートに対しての戦線布告に思えてならなかった。
いつでもソコロを奪いに行くぞ……という。
スチュアートは脱いだ服を乱暴に長椅子に投げつけた。
もしスチュアートが今でも王子だったとしても、同じ皇子のナイルズには敵わない。現実はさらに厳しくスチュアートは貧乏伯爵だ。ソコロに不便ばかりかけている自覚はある、なのにいつもソコロは笑ってくれている。スチュアートはそんなソコロが愛しくて仕方がないのだが、帝国の第三皇子ナイルズならソコロに不便な思いなどさせないだろう。
あの日、ソコロを自分が幸せにすると決めた。その決意に嘘はないが、あんなウエディングドレスを見せられると果たしてソコロを幸せにできるのかと、あの日の決意がぐらぐらと揺らぐ。
「ちくしょう…………」
自分では用意できなかったウエディングドレス。ソコロに気まで遣わせてしまった。それがスチュアートは悔しくて仕方がなかった。
実際のところソコロはドレスのことはちっとも気にしていなくて、スチュアートと結婚式が挙げられるなら着るものなどなんでもよかった。なんなら今着ているナイトドレスでも構わないくらいだ。
夜も更けてきてスチュアートとソコロは寝室の長椅子に腰掛け寛ぎながら、ソコロはあと一息で完成するドレスの刺繍を黙々としていて、スチュアートは真剣な眼差しで針を刺すソコロを、こちらも真剣な眼差しで眺めていた。
いくら眺めても見飽きないソコロの姿に刺繍の邪魔をしてはいけないと、ソコロに触れないようにしていたスチュアートだったが、我慢できなくなりソコロを後ろから抱きしめてスチュアートの両腕にソコロを閉じ込めると、ソコロの首にスチュアートは顔を埋めた。
「ちょっ……ストゥー、危ないですわ」
くすくす笑いながらソコロはスチュアートに文句を言って首を少し動かせば、ソコロの頬にスチュアートが軽く口付けを落とし、ぎっとスチュアートの両腕に力が入った。ソコロはいつもとは違うスチュアートを感じて小首を傾げた。
「……どうかなさいましたの?」
「うん?どうもしない。ただソコロを感じていたいだけだ」
スチュアートはソコロの首に顔を埋めたままソコロを見ることなく答えた。
「モルガン公爵邸でなにか母に言われまして?」
スチュアートはナイルズが贈ってきたウエディングドレスが原因でこのような態度になっているのだが、ソコロは知らないので日課のモルガン公爵邸通いで、なにかあったのかと訝しげに尋ね顔を曇らせた。
「いや、今日は公爵夫人は留守だった」
未だにソコロの父、公爵にソコロとの結婚の許可を貰えていない。それどころか会えさえしない。だが、公爵令嬢がいつまでも婚約者でもない男と同じ屋敷で過ごすのはソコロの醜聞になる。そこで貴族としては褒められる行動ではないが、婚約を飛ばして婚姻をすることにしたのはソコロの母、公爵夫人の提案だった。ころころと鈴を転がすように笑いながら、そうしたら夫も諦めますわ、と。それにいい加減わたくしもソコロに会いたいですし、と言われたスチュアートは申し訳なさで身を縮こませるしかなかった。
強行突破の結婚式。本来ならソコロの両親と兄にも出席して欲しいが、現段階では難しそうで、だがソコロの為にはどうにかしたいとスチュアートは思っている。
「ではどうなさりましたの?」
スチュアートの様子が可笑しい原因がモルガン公爵邸くらいしか思い当たらないソコロはやさしくスチュアートに問いかけた。
「…………ウエディングドレス……デイブと話していたろ」
嘘ではないが本当でもない。まさかナイルズに嫉妬してとはソコロに言えないスチュアートは、咄嗟にそう言って誤魔化した。
「あぁ聞いてましたのね。いくらストゥーのお父様のご命令でもこればかりは聞けませんわ」
ソコロは刺繍をしていたドレスを机に置き、緩んだスチュアートの腕の中で体の位置を変え、そっとスチュアートの胸に自分の頭を預けた。すぐにスチュアートの手が伸びてきてソコロの頭を優しく撫でる。
「だが王命だぞ。ソコロの夫となる身としては悔しいが、陛下の気持ちも分かるだけに……」
「い や で す わ」
ソコロはスチュアートが話終わらないうちに言葉を被せて、預けていた頭を元に戻すと真っ直ぐにスチュアートを見た。
「わたくしはストゥーが贈ってくれたドレスがいいのです!愛する方が贈ってくれたドレスですのよ、それを結婚式で着たいのは可笑しなことでしょうか?」
「いや……可笑しくない。とっ当然のことだ」
ソコロの迫力に負けたスチュアートは、怒っているのか泣きたいのか分からない顔をしているソコロの頬に手を当てた。
「……ソコロ、愛しているよ」
凪いだ海のようにスチュアートの声は穏やかで深い愛情に満ち溢れていた。ぽろっとソコロの瞳から涙が溢れる。その悲しみの涙ではない喜びの涙はとても美しかった。
その涙をスチュアートは指ですくい、慈しむようにソコロの唇に口付けした。
顔を見合わせて二人はくすりと笑い。また口付けをする。回数を重ねるごとに深くなる口付けをすればすっかり夜の帳が下りていて、そのままソコロはスチュアートに身を任せるのだった。
一方、臍曲げソコロにめためたにやり込められたデイブは寝室の長椅子に座り項垂れていた。アンバーはそんなデイブを冷めた目で見ながら、寝る前のハーブティーを飲んでいる。普段なら妻の観察を怠らずに冷ややかな顔のアンバーにデイブは悶え狂うのだが、流石に今日はその余裕はないようだ。
基本的にはアンバーはデイブの味方だが、今回の一件は全面的にアンバーはソコロの味方である。
嬉しそうに飾り気のない麻の白いドレスをスチュアートが買ってくれたのとソコロは無邪気に喜んでいたのだ。結婚式当日はホラーハウスドゥリー伯爵邸の温室から白い薔薇を摘んでもっていく予定にしていた。花冠とソコロの胸元は生花で飾ろうと刺繍をしながらアンバーとソコロで話し合っていたのに、ナイルズ皇子から素晴らしいウエディングドレスが届いたからそれを着ろと、しかも命令だなんてあんまりだ。とアンバー、かなりご立腹。
頭を抱え項垂れるデイブは、猛スピードで頭を働かせていた。国王陛下よりの王命をいやですで退けられた……が陛下にソコロに嫌だと言われましたなどと報告できるわけがない。デイブの脳裏に無表情の国王の顔が浮かび、ふるっと震える。
ソコロのナイルズ第三皇子からのウエディングドレスを着るのが嫌と国王からの王命、着せろを両立させるにはどうしたらいいのか……。
はっとデイブは閃いた……閃いたがそれを実行に移すにはデイブはかなり手間暇苦労を、下手したら苦痛も強いられるかもしれない。だがそれしか方法は思いつかなかった。
「アンバー――――――だったらソコロがナイルズ皇子からのドレスを着ても許されるだろ?」
アンバーは目をぱちくり瞬かせて、デイブの提案を頭の中で噛み砕き一度整理してみる。確かにすべてが丸くは収まる提案ではあるが、でもめちゃくちゃ大変なのでは?主にデイブが――だけど。
「そうですね。実行できればナイルズ皇子のドレスを着るのは可能ですね。実行できればですけど」
デイブは髪の毛を両手でわしゃわしゃとかき乱し、少し血走った目をして溜め息を吐く。
「仕方がない。これも国王の前で口を滑らせた私が招いたことだ。後始末もしないと」
「えっ、実行するのですか?」
「しょうがない。ソコロへの罪滅ぼしだ」
デイブはすごく嫌そうな顔でそう言って溜め息を吐いた。アンバーはふふっと笑ってデイブを見た。なんだかんだ言っても人のいいデイブ。アンバーはそんなデイブが大好きだった。
「もちろんアンバーは手伝ってくれるよね」
デイブは背後からどす黒いものを垂れ流しながらアンバーの腕をがしっと掴み、目をキランと光らせた。暗に逃がさないとでも言いたげに……。
「えっ……」
逃げ遅れたとアンバーは悟り、それでも何処かに逃げ道はないかと探し目を泳がせるが、デイブに隙のない包囲網を敷かれていて見つけられなかった。
必死に作り笑いをするアンバーの唇にデイブは口付けを落とすと、仄暗い微笑みを浮かべアンバーをがっちりと抱きしめたのだった。
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一話完結のつもりが……続きますm(_ _)m
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