[完結]世にも奇妙な少女に家も婚約者も盗られました

らいむぽとす

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大団円 アンバーはデイブに愛してると言ってほしい ろ

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 王宮の舞踏会も宴たけなわである。デイブとアンバーは何曲も踊り、アンバーはすでにへろへろだ。もちろんアンバーは『まだ婚約者同士だからダンスも二曲が妥当』だと文句は言ってみたが、デイブの意味の分からない微笑みで有耶無耶にされ、何曲も踊るハメになった。

 婚約者のいなくなったソコロは、若い令息達から引くて数多でダンスの誘いを受けているがやんわりと断り、踊るとしても公爵家に利益のある相手を選んで踊っている。流石は元王妃候補である。令息の選別を嫌味にならないようにしているのが素晴らしい。

 ジエネッタは、結構顔が広くよく令息に声をかけられる。微笑みを浮かべながら令息と話はするが、踊ったりはせずに話しては別れ、話しては別れ……雰囲気的にも恋愛という感じではなく、どちらかというと友達とか友人という表現が似合う雰囲気だ。しかも話しかける令息が都会的雰囲気があるというか、悪く言うと、遊び人風というか。ここにきてアンバー、ジエネッタに秘密のかをりを嗅ぐ。

 一息ついて壁際でデイブと休んでいると、デイブの学生時代の友人がやって来てデイブを連れて行く。
 アンバーにこの場所から移動禁止命令をデイブは発令した上で。
 アンバー、にっこり笑って頷き、デイブの姿が見えなくなると、すぐさまソコロの元へ。ソコロはそれはそれはご機嫌だった。

「アンバー、わたくしやり遂げましたわ。使命を完璧に遂行したしました」

 ソコロは高揚感に酔いしれ、しかもワインをぐびぐび飲んでいる。だっ大丈夫か?
 
 そしてアンバーもソコロの『完璧に遂行しましたわ』に期待が高まる。
 やっとデイブも分かってくれたのねと、アンバー、今までを振り返る。

 気になるようになった切っ掛けが
『気の毒そうに冷めた目で見た』とき。

 デイブが心を締め付けられるのは
『冷酷な顔』
『眉間にしわのよってる顔』
『してやったりとほくそ笑む顔』

 そして極め付けが、好きなところ
『純情そうにみえて腹黒い』ところ

――よく考えたらこれって、あんまりではないですか。

 アンバー、どんよりする。

 デイブは甘くないわけではないのだ。少なくともアンバーは思うのだ。ちょっと言葉が違えば、『砂糖を煮詰めたように』や『蜂蜜のように』や『とろける』になるのではないかと。

 それを台無しにしてるのは、『悪巧みする』や『冷酷な笑い』や『してやったりとほくそ笑む』などに悶えるからだ。

 でも……ソコロがそれは違うのだとデイブに説明してくれ、デイブも今までが間違いだったと分かってくれたのだ。

 アンバー、にやにやが止まらない。盛大に勘違いしているのも気付かない。

 アンバーの頭の中では、デイブと砂糖を煮詰めたような甘い場面が、めくるめく展開されている。捕まえてごらん!こら待てー、あはは、うふふ……である。

 そしてソコロも絶対に不可能だと絶望していたデイブに愛を囁かせるが、案外簡単にデイブに分かって貰えたのに浮かれていたので、アンバーがにやにやと底意地の悪そうな顔をしているのを目にしたが、気にしないことにした。関わらないのが一番。ソコロ、ワインをぐびぐび。

 そんなお花畑アンバー、自分の世界へ逃避行中と、ワインぐびぐびソコロ、すっかり心が満たされ自画自賛中のお互いに明後日の方向を向いている二人の元に、デイブとジエネッタがやって来た。

「アンバー、どうした?赤い顔してるな。」
「いえ、大丈夫です。ちょっと……人あたりでしょうか」

 アンバー、まさか逃避行中でしたとも言えず病弱を装おう。

 デイブは心配していた。移動禁止命令を出したのに、その場に戻ればアンバーの姿がない。探してみればソコロと一緒だが、どちらもぽーっとしていて、雰囲気が変だ。しかもアンバーは魅力的な悪巧みをしているかの笑顔を振りまいている(ようにデイブには見える)。冗談ではない、他に男達がいるのにあんな蠱惑的な悪巧みをしている顔をするなんて、他の男が寄りついたらどうするのだ!……とデイブ、内心は憤慨するが、狭量にみられるのは心外なので笑顔に隠す。その為、笑顔が引き攣る。

「人あたりって、アンバーには珍しいわね。――テラスでちょっと涼んできたら?」

 と言えばデイブが付いて行くだろうと、ジエネッタはこの局面を読む。

「そうしようアンバー。」

 デイブは一刻も他に男達がいる場からアンバーを引き離したかったので、その提案に全面的にのった。
 さっとアンバーの腰に腕を回すと、アンバーに有無を言わさず攫うようにテラスへと連れ出した。

 その様子をつぶさに観察していたジエネッタは、絶賛自画自賛中のソコロの肩を軽く叩くと小声で呟いた。

「あの様子だとテラスでなにか起きそうですよね。……行きますよ。ソコロ様」

 ぽーとしているソコロに腕を絡ませ、ジエネッタはソコロを引きずりながら二人を追跡する。

 テラスで長椅子に仲良く座るデイブとアンバーは、無言だった。
 アンバーはめくるめく『蜂蜜のような甘い』世界に胸がいっぱいで。デイブは不用意に蠱惑的な顔を見せるアンバーへの怒りで。しかし二人ともこのまま無言で気まずいのもと、会話を探す。そして

「こうやってデイブ様と二人でテラスにいるのは、あの海以来ですね」

 まずはアンバーが先陣をきる。しかし海でのテラスの思い出とは……。

「あぁ……あのときか。あのときは怖かった。」

 デイブ、急に顔色が悪くなり声調がいつもより一段低くなる。

「あっ……怖かったですね。あの『にたぁ~』は今でも夢でみます」

 アンバー、一気に現実に引き戻され、赤かった顔が青くなる。

「あぁ、あの髪の長い女性の妙に真っ赤な唇の『にたぁ~』は破壊力があった」

 ミミル、特別赤い口紅使用

「あの背筋の伸びた男性のやけに真っ白な顔も衝撃的でした」

 シャローム、ドーラン使用

「しかも稲光りだから、陰影がまた……恐ろしさを演出していた」
「ええ、本当に。一瞬、幽霊の類だけではなく、妖怪の類まで見えるようになったのかと軽く疑いましたよ……まさかあれがミミルとシャロームだったなんて……」
「あのときはまったく気付かなかったな」
「ですね……」

 盛り上がりは兎も角、会話は続いた。

 きっとあの恐ろしさは体験したものでなければ分かるまい。共感できる二人の雰囲気は盛り上がりには欠けるが、悪いものではなかった。

 ふっと会話が途切れ、少しだけ気まずい雰囲気が二人を包んだ。

 そっとアンバーがデイブを見上げれば、デイブもまたアンバーを見ていた。

 ゆっくりとデイブが近づいてきて、アンバーの唇にデイブの唇が触れた。

 アンバー、驚きすぎて目をくりくりさせてデイブを見た。

「目を瞑るもんだろ」

 戯けたデイブの声にアンバーは恥じらいを感じる。そっかデイブも恥ずかしいのか……とアンバーはこくんと頷き、目を閉じる。目前が見えなくても空気の動く気配で、なにが起きようとしているかが分かる。優しくデイブが近づいてくる……

 あ……重なる……。あ……っ……。

 デイブが離れて行くのが分かり、アンバーはゆっくり目を開けたると、アンバーの瞳に映ったのは、デイブの真剣な眼差しが宿る瞳……。

 すっと立ち上がると、デイブはアンバーの手を取り立ち上がらせた。

 そしてデイブは片膝をつくと躓いて、アンバーの手の甲に口付けを落とす。

 アンバーを見上げるデイブの瞳は熱を帯び甘く蕩けるような笑顔にアンバーは期待で胸を高鳴らせる。

 月の美しい夜。王宮のテラス。一人の騎士よろしく膝をつきドレスを着た女に躓いている男。室内からは微かに漏れる円舞曲。優しい風が吹き抜ける。

 えっなに?なんなのこの状況。アンバーの乙女心は刺激される。期待が高まる。胸もさらに高鳴る。ばくばくと、誰かに聞こえるのではないかという程に。

 緊張でアンバーの背中を汗が伝う。

 そのとき、デイブの薄い形のいい唇が言葉を紡ぐ。

「君のその魅力的な腹黒い笑顔を一生守ってみせる」

 …………アンバー、硬直糸目

 …………覗き見していたソコロとジエネッタ、目が点

 その瞬間だった。辺り一面に雪が積もり吹雪が白い渦を巻く。暴風雪だ……見えないだけで。
 
 …………覗き見、ソコロとジエネッタは顔色を青くしながら、凍死と遭難を覚悟する。

「アンバー、だから結婚してくれ」

 暴風雪なんてなんのその、破顔なデイブはにこやかにアンバーへ求婚する。

 …………アンバー、硬直し、糸目なまま魂が迷子になってて聞こえていない。

 …………覗き見、ソコロとジエネッタ、眠気に襲われ凍死寸前。

「アンバー、そんなに嬉しいのか!やはりとっておきの言葉をとっておいて正解だったな」

 デイブ、アンバーからしたら迷惑な勘違いをする。

 デイブは大事そうに、魂がまだ迷子のアンバーを抱きしめた。

 その日、アンバーの迷子になった魂は帰って来ることはなかった。

『まぁ、結婚式の誓いの言葉では流石にデイブ様も言うのでは?』

 後日、あまりにアンバーが不憫になり、幸運にも凍死も遭難もしなかったジエネッタがそう励ました。

 しかし結婚式の当日、誓いの言葉は神父が読み上げる形で、『はい』のみが新郎新婦の言葉だった。アンバー、涙を流す。デイブ、結婚できた嬉し涙だと思う。
 
 ソコロとジエネッタ、目を泳がせる。

 こうして『アンバーのデイブに愛してると言ってほしい』は、アンバーが一生を懸けて、闘い勝ち取るものとなったのだった。

『アンバーの底意地悪そうな顔は素晴らしいね!私はなんて幸せなんだろう』
『たまには『底意地』を『愛しい』に変換しましょうよ!』

 なんて会話が聞こえてきそうな二人でした。

おわり

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 長い間、ありがとうございました。

 一応大団円で終わりです。

 ぽとす、あまりにキャラに愛着がありまして(汗)ちょっと先の話になりますが、『ようこそホラーハウスドゥリー伯爵邸へ』という題名(誰も読んでくれなさそうな……)で続編を書くかもです。
 
 アンバーちゃんが魅了されちゃったり、デイブの膝の上に乗っちゃったり(でも色っぽさはない)や、ソコロちゃんの貞操の危機だったり、ジエネッタは実は男前姉さんだったり……と構想はしてますがまだまとまりません。

 もしそんな題名を見つけたらご一読してくださいね~。

 ありがとうございましたm(_ _)m


 
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