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第2話 【ステータス上昇1000倍】
しおりを挟む「取り敢えず上には連絡したが……あれどうするよ」
侵入禁止の道を進むと地面に横たわるさっきの探索者2人、そしてその脇にはバカでかいコボルトが1匹佇んでいた。
胸当てや兜なんかの装備までして明らかにこの階層に居ていいレベルのモンスターじゃない。
もしかすると人の出入りが無いこの場所で生き残り、すくすくと育ってしまったのかもしれない。
「落石なんかよりよっぽどやべえよこれ……」
レベル10の俺なんかが挑んだところで到底敵わない。
逃げるか?
でもこのままあいつらを放っておいたら間違いなく殺されるよな……。
「グオッ」
バカでかいコボルトは気絶するを見て嬉しそうに吠えると、舌舐めずりをして見せた。
怖い。
その姿に自分が狩られる側ではなく狩られる側の存在である事を本能で感じ取り、全身が恐怖に飲み込まれた。
汗が止まらない、心臓の音がうるさい、脚が、身体が動かない。
――ゴクッ
思わず唾を飲み込むと喉を鳴らす音が響く。
普通なら気付かれない程小さな音かもしれない。
だけど、そこにいるモンスターは普通じゃなかった。
俺の喉を鳴らす音に耳をピクリと動かし反応したコボルトは、ゆっくりとこっちを見た。
恐ろしい程の笑顔。
こいつにとって俺は新しい餌くらいの認識でしかないんだろう。
「ひっ! に、逃げ――」」
ズドン。
俺は情けなくその場に尻もちをつくと、何とか四つん這いで逃げ出そうとした。
しかしその瞬間、コボルトはその場で地団太を踏み、その衝撃による落石で意図的に道を塞いだ。
今までの落石はこいつの仕業だったのか……にしてもこれじゃあ逃げ道が――
「ひぃっ!」
コボルトは動けずに居た俺の元に向かって走り出した。
その形相、響く足音、プレッシャー。
世界一怖いお化け屋敷なんか比じゃない程の恐怖。
「く、来るな、来るなぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」
もはや立ち上がる事も出来ず、俺は恐怖で気を狂わせた。
いっそのことさっきの探索者2人みたいに気絶出来たならどれだけ良かったか。
俺は大声で叫びながら必死に何かを払いのけるように両手を振り回した。
これが俺に出来る精一杯。
死に際の抵抗がこんな泣きじゃくる子供みたいなみっともない姿なんて……。
ぺチ、ブチ、ボト。
「来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな……来る、な?」
目を瞑ってひたすらに両手を振り回すが、一向に痛い冷たいとか熱いとかそういった感覚が襲って来ない。
強いて言えば変な音がしたくらい。
不思議に思った俺は恐る恐るゆっくりと瞼を持ち上げる。
「――えっ」
大量の血で赤に染まる地面、頭の無いコボルトの死体、地面に転がるコボルトの頭。
まさかこれ、俺がやったのか?
コボルトの身体の上に表示されているDEATHの文字がゆっくりと薄くなっていくのを俺は呆然と眺めながら状況を飲み込もうとする。
「……そういえば、レベルアップの時覚醒がどうのこうのって言ってたっけ? ……『ステータス』」
【ステータス上昇1000倍】
「なんだこれ? これが覚醒?」
俺は新しく現れたスキルとコボルトを交互に見た。
「もしかして俺、めちゃくちゃ強くなったんじゃねえのか? ってもう死体消えちゃうじゃん! やば、回収しないと」
俺は一先ずステータス画面を閉じ、コボルトの死体に触れて表示された【拾う】のコマンドを選択するのだった。
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