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第47話 俺の1番オーク豚トロ

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「という訳で新しいフレーバーとコボルト以外の肉での新商品について上で話が出ているんですが、俺としてはオークの肉のハムなんかどうかなと思ってるんですよ」

「オークも最近は上位種の提供が出来てるからな。遠藤君としても自分が手塩にかけたオークが生産に関わってるわけだし、それは良いと思う」

「仕事に私的な感情を持ち込むのはどうかと思ってたんですけど、ダメですね。私、いや俺もあれから焼肉森本の従業員さん達に流されっぱなしで。会社でも丸くなったとか威厳が消えたとか陰口言われてるみたいです。まぁそのお陰で今までいがみ合ってた部署の人達とか同期の社員に話し掛けて貰えたりしてますが」

「相手を威嚇するばっかりが上に行く道じゃないって事だな。蹴落としたり、強い自分を作るより歩みは遅いかもしれないが気が楽だろ?」

「……そうですね」


 焼肉森本の夜の仕込み時間。

 俺は『佐藤ジャーキー』で持ち上がった話を店長の元に伝えに来た。


 コボルトジャーキーは『佐藤ジャーキー』としては久々の大ヒット商品となり、現在期間限定発売から恒常商品にしようという案もある。


 当然、類似商品や焼肉森本とのコラボ新商品の企画を上から催促される事も。


 以前だったらこういったチャンスは独り占めしてやろうと思うところだが、今度の企画は何人かに協力を依頼して進めていこうと既に話をしている。


 特に今まで俺のような探索者と通常の会社業務をする社員に良い印象がないといった雰囲気の同期にも今回は頭を下げ、協力して貰えることになったのは大きい。


 昔なら考えもしなかったが、今は社員間の隔たりをなくしたいとすら思うまでになった。

 自分で言うのもなんだが相当丸くなったんだな、俺。


「そういえば今日は宮下さんは休みですか? 姿が見えないみたいですけど」

「あいつはダンジョンに行ったよ。新しい食材の確保とか言ってたぞ」

「新しい食材……また新しいビジネスチャンスかもですね」

「どうだかな。それにしてもあのダメダメな探索者がよくもまぁここまでやってくれてるよ。多分宮下がいなかったらこの店は潰れてた」

「俺には会う度ちょっかい出してくる厄介な主人ですけどね。ただ最近はそんなに変な事も命令されませんが」

「最初はどうだったか知らないが、今のちょっかいは兄弟とかそれなりの仲にするそれと同じだと思うぞ。宮下も宮下なりに遠藤くんとの関係を考えてるはずだ」

「そうですかね……」


 確かに最近は露骨に変な事は命令してこないが、豚尻尾を見せるように命じさせて一ノ瀬さんを呼ぶのだけは本当に勘弁して欲しい。


「それで、今日はもう会社に戻るのか?」

「いえ、今日は元々休日なのでそのまま家に戻ります」

「そうか。仕事熱心なのはいいが無理するなよ」

「大丈夫です。焼肉森本に来るのは半ば趣味みたいなものですから」

「そうか。お、そろそろ夜営業時間になるな。……どうだたまには飯でも食ってくか? たまには奢るぞ」

「……そうですね。じゃあ1杯だけ奢って下さい」





「お待たせしました! 生中に特上オーク肉のセットです!」

「……ありがとう」

「そんな風にお礼を言うあんたなんて上司や企業にごますりする時くらいだけだと思ってたよ」

「頑張っている人には素直にお礼が出るようになったのかもな。今じゃ威張り腐ったお偉いさんが相手の方がこんな言葉を出し辛いよ」

「変わったな」

「お陰さまで」

「……ではごゆっくりどうぞ!」


 料理を運んできてくれた小鳥遊は仕事モードに切り替わり去っていった。


 細江や小鳥遊とはまだ気まずい空気が生まれる。

 今まで自分のやってきた事を思い返せばそれも当然か。


「……さて、頂くとしよう」


 俺も折角の食事、しかもただ酒を楽しめる機会を無駄にしない為、ふっと息を吐いて運ばれてきたビールにまず手をつけた。


「っくはぁ……」


 キンキンに冷えたビールが身体に染み渡る。


 焼肉森本には酒飲みのお客さんが多い事もあってか、グラスをしっかり冷やしているのが好印象。


 更にはお通しとしてキャベツとコボルトジャーキーを合わせたシンプルなつまみがビールに合う。


 人によってはこれだけで満足出きるクオリティなのでは?

 やはりうちの会社の商品は優秀だ。


「次は俺の血と涙の結晶を……」


 特上オーク肉の盛り合わせはオーク豚トロ、肩ロース、バラ肉、タンの4種類。

 ホルモンは苦手な人もいるらしくあえて入れていないとか。


 オーク肉の主な特徴として上げられるのは臭みが少ないこと、脂がスープのようにさらっと口の中で広がることの2つ。


 肩ロースやバラ肉は特にその脂が顕著で、焼肉のたれをたっぷりと絡ませた後に口に運ぶと広がる脂とたれが混ざり特上の出汁を引いた汁物のような上品な汁を口の中で生み出す。


 ロースは厚めに切っているのに、歯切れがよく、脂身は甘くて旨い。


 バラ肉は表面をかりっと焼く事で風味が増す。


 今まで食べてきたタンよりこりっとした食感が強く、小ぶりだけれど満足感がある。


「どれも旨い……だけどこれが1番だな」


 オーク豚トロ。

 発達した筋肉のお陰で身が締まり、しっかりとした歯応え、脂は多いけどバラよりもさっぱりとしていて食べやすい。

 あえて塩とレモンで食べるとよりさっぱりと、量も食べられる。


 そして脂でついた口のベタつきを流すかのようにビールを……最っ高だな。


「クレームを言う為に店の門を潜ってたのが馬鹿みたいだよ……。焼肉森本を俺の手で、いや宮下さんと従業員のみんなと一緒に色んな人達に広めたいな」


 まるで焼肉森本の社員のような独り言を呟くと俺は黙々と肉を食べ進めるのだった。
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