最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職

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第68話 橘圭一という男

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「だからあんた達にこのイベントを止める権限はねえって言ってるだろ!」

「いや、あなたもこの業界の人間なら分かるでしょ、公にはしていませんがあのダンジョンは『橘フーズ』が占有していて……。そちらの方に社長副社長から何かしら言われている筈ですけど……」

「脅しの話しかい?残念ながら引き抜きの話はあったがダンジョンへの侵入をどうのこうのっていうのは言われてないぞ」

「だとしてもこのまま勝っ手な事を続けていてどうなるか……後で後悔しても知りませ――」

「あのー、『佐藤ジャーキー』のものなんですが、今から次回コラボ商品の話し合いを本日は行う予定でして……こっちとしても時間は惜しいので、どんな話し合いか存じ上げませんが後日という訳にはいかないでしょうか?」

「それは出来ません。こっちはそちらより急務なんです!」

「といいますと?」

「あなた方の会社でも聞いてると思いますけど、今やってるイベントはですね――」


 案の定イベントを中止させようと『橘フーズ』の奴がうちに乗り込んできた。

 しつこいし、無茶苦茶言うしでもうずっと押し問答を繰り返していた。


 そんな時見かねた遠藤が俺達の間に割って入ってきた。

 遠藤は適当に『橘フーズ』の奴の話に相槌を打ちながらチラリと俺を見る。


 恐らく店内が大変だから気を引いている間に一旦俺に戻れと言ってくれてるのだろう。


「店内が混雑して大変そうだから俺は一旦戻らせてもらうぞ。遠藤もまた後でいいよな?」

「はい。構いません。何にせよ行列が出来てる以上はお客様の対応第一ですからね。あなたもそう思いますよね?」

「それはそうかもだけど――」

「無理強いは良くないですよ鈴木さん。あなたがあんまりに大声を出すものだから並んでるお客さんがこちらに注目していますよ」


 俺がその場を立ち去ろうとすると、見るからに高級そうなスーツを着こなしている男性が現れた。


 男性は落ち着いた喋りでイベントを中止するよう必死だった『橘フーズ』の探索者に語り掛け、それを停止させた。

 この異様な雰囲気といい、発言の力といい、歳は宮下と同じくらいだがこいつが橘圭一、『橘フーズ』の現社長で間違いないだろう。


「うちの社員がすみません。そちらはお忙しいというのに……」

「……あんたはこのイベントを止めなくていいのか?」

「止めてくれるならありがたいんですけど、状況が状況ですからね。こっちはもう諦めました」

「こっちは、ですか」

「はい。さあ鈴木さん。ダンジョンに向かいますよ」


 橘圭一は自分のところの探索者に呼び掛けると、後ろを振り返った。

 服を着ていても分かるほど綺麗な筋肉、足運び。

 社長という立場ではあるものの戦闘はしっかりとこなせる、いやそれどころかかなり強そうだ。

 宮下のステータスがいくら高いとはいえ、もし戦うことになればその行方は分からない。


「あっ! そうだ! そっちの人なんだけど、今回の件ここに加担していますね?」

「いえ。俺はただコラボ商品の為に赴いただけです」

「そう、しらばっくれるんですね。あなたの会社ですけど……後日楽しみにしていてくださいね。それでは」


 遠藤に向け手を降ると橘圭一は今度こそその場から離れていった。

 これで取り敢えずこっちは大丈夫だろう。


「助かったぞ遠藤。って大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」

「大丈夫、大丈夫です。作戦さえ上手く行けばいい話なので……」


 自分が勤め先の会社の危機を作ったのだから顔が真っ青になるのは当たり前だったか……。

 こりゃあ最悪遠藤の首が飛ぶな。まぁその時はこっちで何とかしてやりたいけど――


「お父さん! 違った、店長! 列の方はもう落ち着いたみたいだから店の中に入って業務を手伝って! このままじゃ動画撮影どころじゃないの!」

「よし分かった! 悪いが遠藤も手伝ってくれ給料は出せんがまかないと持ち帰りで何か用意してやるよ!」

「……なら今日だけ特別ですよ。はぁ全く散々な日だ 。ただダンジョンから連絡があったら直ぐそっちに向かわせてもらいますからね」

「分かってるよ! さ、早くこれに着替えてくれ!」


俺は遠藤にエプロンを投げ渡すと、ダンジョンで頑張る奴らに負けじと仕事に精を出すのだった。
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