21 / 31
タイムスリップ
チパパが!
しおりを挟む
「ジュンジ! ジュンジ!」
振り返るとレラが叫びながら走っている。
「レラ! その身体で走っちゃダメじゃないか!」
レラはジュンジの声を聞いて立ち止まった。両手をメガホンのようにして叫んでいる。
「大変なの! ジュンジ! チパパが! チパパがぁ!」
反射的にジュンジが立ち上がって走る。春樹も続いた。
「チパパがどうした!」
近くに寄るとレラが大粒の涙を流している。
──ただごとではない。
直前に感じた「嫌な予感」がジュンジの胸に去来した。レラは身体を折るようにして泣き叫んでいる。
「どうしたんだ! チパパに何があった!」
ジュンジがレラの両腕を掴んで力を入れる。
レラはしきりに「チパパが!」と叫ぶだけで話が通じない。
ジュンジと春樹は顔を見合わせた。
「春樹! レラを頼む」
ジュンジはそう言い残して家に向かって走り、レラが春樹の胸に顔をうずめた。
「ハルキ! 私、どうしたらいいか……チパパがね、突然倒れて動かないの──」
──チパパが……。
春樹は泣きじゃくるレラの肩をしっかり掴(つか)み抱き寄せた。
「レラ、大丈夫だ。父さんに任せよう」
倒れそうになるレラを何とか抱き止めながら、春樹はゆっくり家に向かって歩いた。
家に入った春樹は愕然とした。
部屋は雑然としていて囲炉裏の灰が舞っている。
ジュンジがチパパを抱き起して寝床へ運んでいるところだった。
春樹は、ひとまずレラを奥の部屋に座らせる。
「父さん! チパパは?」
ジュンジは春樹の方を見てゆっくりうなずいた。
「大丈夫だ! 気を失っているが呼吸はある」
レラの息が急に荒くなり呼吸が早くなった。
「うっ! うっ!」苦しそうな声と共にうずくまる。
──過呼吸か!
春樹は、近くに会った布袋を口と鼻にかぶせ上から押さえた。
「レラ! 大丈夫だ! ゆっくり! ゆっくり息をして!」
片方の手のひらでレラの背中を優しくさすりながらジュンジとチパパを見た。
ジュンジはチパパの頭を少し低くして気道を確保しようとしている。
しばらくして、チパパの意識が戻ったが呼吸は浅く心配そうなレラを見て静かに瞬きをした。チパパの消えそうな声がかろうじてジュンジに届いた。
「ジュンジ……わしも……そろそろお役御免の時が来たようじゃ──」
「何を言ってるチパパ! 気をしっかり持て! まだやるべきことがあるだろう!」
チパパはいつも肩身離さずに持っていた手帳を、震える手でジュンジに手渡した。
「これを……ジュンジ……レラを……レラのことを頼む──」
チパパは、最後に何か言い残そうとして口を半ば開いたまま静かになった。
一瞬の沈黙。
「チパパ!」
ジュンジが力の限り叫び、動かなくなったチパパの体を揺すった。
「いやああ!」
レラがその場に泣き崩れる。
春樹は言葉を失った。体中の力が抜けたレラを懸命に支えている。
顔はチパパの表情から離れない。
呆然としてその場に座ったままで固唾をのんだ。人の死に立ち会う初めての経験に身がすくむ。
「チパパあ!」レラの声が家中に響いた――。
チパパの死から、一週間が過ぎた――。
レラは埋葬が終わるまで終始泣き続け、いつも春樹がその背中を支えていた。
「ジュンジ……。チパパは最期に何を言いたかったんだろう?」
レラは、簡素なチパパの墓碑の前にひざまずいて、悲しい顔でジュンジを見上げた。
ジュンジはレラの胸中を察して目を伏せる。
「ああ、よくわからんが……チパパは最後までレラのことを心配していた」
レラが顔を両手で覆った。レラの嗚咽がジュンジの胸に刺さる。
ジュンジは、チパパが生前レラの出生について話していた内容を思い出していた。
『レラはイルシカの子。イルシカはイルファとなって、わしやお前をこの時代に呼び寄せた。レラを育てるために……』
矢越岬で相原から聞いた「イルシカ」という女の名前がジュンジの記憶に蘇る。
ジュンジは忙しそうに毎日動き回っていた。
村の人たちにとってもチパパの存在は大きい。今までも何かあると必ず相談にチパパの元を訪れている。
ジュンジはチパパを引き継いで和人の言葉を村の人たちに教えていた。
チパパ亡き後、人々は次々とジュンジの元に訪れ、チパパの死の意味を口々に話していた。ほとんどの人は自分たちが和人の言葉を使い始めたことを心配していた。言葉を教えたチパパに神の怒りが降りかかったと言う。
ジュンジは「そんなことはない」と人々を説得してまわっていた。
夕暮れ時、沙流川のほとりに座ったレラと春樹はとりとめのない話をしていた。春樹はレラを元気づけることしか考えていない。
「私にはね、父さんや母さんがいないの……ずっと、チパパを私のお父さんだと思い込んでいたの――」
レラは小石を掴んでしきりに川に投げ込んでいる。
「ひとりになっちゃった」泣きそうになったレラを春樹がそっと抱き寄せる。
沙流川は、一人の男の死など知らぬと言わんばかりに上流から絶え間なく波を送り続けている。
「なあレラ?」
「ん?」レラは春樹の肩に頭を乗せて川の流れを静かに眺めている。
「レラの……お腹の子の父親にならせてくれないか?」
春樹は真顔で偽りのない気持ちをレラに伝えた。レラが急に顔を上げ、頬を赤くして春樹を見つめる。
チパパの最期に立ち会って一人の男の壮絶な生き様を目の当たりにした春樹は、今まで自分に足りなかった「生きていく逞しさ」を身につけたいと思った。同時に男としての責任感に目覚め、レラとお腹の子を幸せにすることを自身に誓ったのだ。
「ハルキ──」
「一緒に未来へ行こう」
「ハルキっ!」
レラが春樹の首に抱きついた。二人は強く抱き合い震えながら静かに唇を合わせる。暖かい唇の感触が春樹の神経を刺激した。レラの心の中には将来の希望が広がっている。
「一緒に暮らそう。俺が住んでいた未来で……」
レラは春樹の肩の上にあごを乗せて静かにうなずいた。
「ありがとう……ハルキ──」
その日の夕方、囲炉裏端でチパパが残した手帳を見ているジュンジに、春樹が昼間レラに話したことを伝えた。
ジュンジは手帳を閉じ、満面の笑顔で春樹を見た。
「そうか! それはいい! それはいい!」
ジュンジの大きな声に、レラが少し驚いて春樹を見る。
「春樹! お前も一人前になったな」
「喜んでくれるかい?」
「もちろんだとも、レラも……良かったじゃないか」
「うん」
レラは嬉しそうに春樹の左肩に手をかけた。
ジュンジは「うん、うん」としきりに首を縦に振っている。ジュンジの脳裏に『歴史は許してくれるのか』と言ったチパパの顔がよぎったが、かぶりを振って今は考えないようにした。
レラは嬉しそうに立ち上がると囲炉裏のそばを離れて食事の準備を始めた。
「父さんも一緒に未来へ行けるよね? 母さんもきっと喜んでくれるよ」
ジュンジは「それは……」と少し困った顔をした。
「どうやら、俺は元の世界に戻れないようだ……」
ジュンジは少し顔を上げて春樹の視線を避けた。
「どういうこと?」
「今、チパパのメモを見てたんだが、未来へ戻るには洞窟の中でイルファの亡霊に出会って導かれる必要があるらしい」
「それが? どうしたの?」
「イルファが現れるのは、ブルームーンの夜だけだ。それも、一度それを逃すとイルファには二度と会えないようだ……」
ジュンジは生前のチパパと話した「時空を超える難しい条件」を伝えた。チパパが日記のように記した日々のできごとの中には、幾人もの流人が時を超えて現れ突然いなくなったときのことが克明に書かれていた。それはイルファに導かれてからひと月以内の満月の夜。しかも一年に四度だけ姿を見せるブルームーンの夜だった。
「運よくブルームーンの夜に洞窟へ行った人間だけが時代を超えられるらしい……」
「じゃあ、父さんも──」春樹は言葉を飲み込んだ。
「ああ、そうだ。俺は元の時代に戻るタイミングを逸したことになる……」
ジュンジはこの世界で生きていく覚悟を決めているが春樹には父の気持ちが理解できない。ジュンジの帰りを信じて待っている奈津美の心情を考えると、やりきれない思いが春樹の胸を締めつけた。
「じゃあ、父さんは……このアイヌ集落でずっと生きていくの?」
力を失った春樹の声が虚しく家の中に消えていく。
「ああ、かなりの覚悟が必要だが……チパパの遺志を継いで生きようと考えた」
チパパの手帳には、時空を超えて過去に迷い込んだ流人で、この時代に残された人間は和人に連れて行かれたと書かれている。
明治初期に蝦夷地開拓の命を受けた開拓使は日本語が話せるアイヌを日本語学校の講師として登用した。講師と言えば聞こえが良いが不当な労働条件でほぼ奴隷のような扱いだった。命を落としたものも少なくない。
チパパが和人との接触を避けてひっそりと生活していた理由はそこにあった。砂金採りに来ていた松前藩の人間とジュンジが出会ったときもチパパはたいそう心配していた。
振り返るとレラが叫びながら走っている。
「レラ! その身体で走っちゃダメじゃないか!」
レラはジュンジの声を聞いて立ち止まった。両手をメガホンのようにして叫んでいる。
「大変なの! ジュンジ! チパパが! チパパがぁ!」
反射的にジュンジが立ち上がって走る。春樹も続いた。
「チパパがどうした!」
近くに寄るとレラが大粒の涙を流している。
──ただごとではない。
直前に感じた「嫌な予感」がジュンジの胸に去来した。レラは身体を折るようにして泣き叫んでいる。
「どうしたんだ! チパパに何があった!」
ジュンジがレラの両腕を掴んで力を入れる。
レラはしきりに「チパパが!」と叫ぶだけで話が通じない。
ジュンジと春樹は顔を見合わせた。
「春樹! レラを頼む」
ジュンジはそう言い残して家に向かって走り、レラが春樹の胸に顔をうずめた。
「ハルキ! 私、どうしたらいいか……チパパがね、突然倒れて動かないの──」
──チパパが……。
春樹は泣きじゃくるレラの肩をしっかり掴(つか)み抱き寄せた。
「レラ、大丈夫だ。父さんに任せよう」
倒れそうになるレラを何とか抱き止めながら、春樹はゆっくり家に向かって歩いた。
家に入った春樹は愕然とした。
部屋は雑然としていて囲炉裏の灰が舞っている。
ジュンジがチパパを抱き起して寝床へ運んでいるところだった。
春樹は、ひとまずレラを奥の部屋に座らせる。
「父さん! チパパは?」
ジュンジは春樹の方を見てゆっくりうなずいた。
「大丈夫だ! 気を失っているが呼吸はある」
レラの息が急に荒くなり呼吸が早くなった。
「うっ! うっ!」苦しそうな声と共にうずくまる。
──過呼吸か!
春樹は、近くに会った布袋を口と鼻にかぶせ上から押さえた。
「レラ! 大丈夫だ! ゆっくり! ゆっくり息をして!」
片方の手のひらでレラの背中を優しくさすりながらジュンジとチパパを見た。
ジュンジはチパパの頭を少し低くして気道を確保しようとしている。
しばらくして、チパパの意識が戻ったが呼吸は浅く心配そうなレラを見て静かに瞬きをした。チパパの消えそうな声がかろうじてジュンジに届いた。
「ジュンジ……わしも……そろそろお役御免の時が来たようじゃ──」
「何を言ってるチパパ! 気をしっかり持て! まだやるべきことがあるだろう!」
チパパはいつも肩身離さずに持っていた手帳を、震える手でジュンジに手渡した。
「これを……ジュンジ……レラを……レラのことを頼む──」
チパパは、最後に何か言い残そうとして口を半ば開いたまま静かになった。
一瞬の沈黙。
「チパパ!」
ジュンジが力の限り叫び、動かなくなったチパパの体を揺すった。
「いやああ!」
レラがその場に泣き崩れる。
春樹は言葉を失った。体中の力が抜けたレラを懸命に支えている。
顔はチパパの表情から離れない。
呆然としてその場に座ったままで固唾をのんだ。人の死に立ち会う初めての経験に身がすくむ。
「チパパあ!」レラの声が家中に響いた――。
チパパの死から、一週間が過ぎた――。
レラは埋葬が終わるまで終始泣き続け、いつも春樹がその背中を支えていた。
「ジュンジ……。チパパは最期に何を言いたかったんだろう?」
レラは、簡素なチパパの墓碑の前にひざまずいて、悲しい顔でジュンジを見上げた。
ジュンジはレラの胸中を察して目を伏せる。
「ああ、よくわからんが……チパパは最後までレラのことを心配していた」
レラが顔を両手で覆った。レラの嗚咽がジュンジの胸に刺さる。
ジュンジは、チパパが生前レラの出生について話していた内容を思い出していた。
『レラはイルシカの子。イルシカはイルファとなって、わしやお前をこの時代に呼び寄せた。レラを育てるために……』
矢越岬で相原から聞いた「イルシカ」という女の名前がジュンジの記憶に蘇る。
ジュンジは忙しそうに毎日動き回っていた。
村の人たちにとってもチパパの存在は大きい。今までも何かあると必ず相談にチパパの元を訪れている。
ジュンジはチパパを引き継いで和人の言葉を村の人たちに教えていた。
チパパ亡き後、人々は次々とジュンジの元に訪れ、チパパの死の意味を口々に話していた。ほとんどの人は自分たちが和人の言葉を使い始めたことを心配していた。言葉を教えたチパパに神の怒りが降りかかったと言う。
ジュンジは「そんなことはない」と人々を説得してまわっていた。
夕暮れ時、沙流川のほとりに座ったレラと春樹はとりとめのない話をしていた。春樹はレラを元気づけることしか考えていない。
「私にはね、父さんや母さんがいないの……ずっと、チパパを私のお父さんだと思い込んでいたの――」
レラは小石を掴んでしきりに川に投げ込んでいる。
「ひとりになっちゃった」泣きそうになったレラを春樹がそっと抱き寄せる。
沙流川は、一人の男の死など知らぬと言わんばかりに上流から絶え間なく波を送り続けている。
「なあレラ?」
「ん?」レラは春樹の肩に頭を乗せて川の流れを静かに眺めている。
「レラの……お腹の子の父親にならせてくれないか?」
春樹は真顔で偽りのない気持ちをレラに伝えた。レラが急に顔を上げ、頬を赤くして春樹を見つめる。
チパパの最期に立ち会って一人の男の壮絶な生き様を目の当たりにした春樹は、今まで自分に足りなかった「生きていく逞しさ」を身につけたいと思った。同時に男としての責任感に目覚め、レラとお腹の子を幸せにすることを自身に誓ったのだ。
「ハルキ──」
「一緒に未来へ行こう」
「ハルキっ!」
レラが春樹の首に抱きついた。二人は強く抱き合い震えながら静かに唇を合わせる。暖かい唇の感触が春樹の神経を刺激した。レラの心の中には将来の希望が広がっている。
「一緒に暮らそう。俺が住んでいた未来で……」
レラは春樹の肩の上にあごを乗せて静かにうなずいた。
「ありがとう……ハルキ──」
その日の夕方、囲炉裏端でチパパが残した手帳を見ているジュンジに、春樹が昼間レラに話したことを伝えた。
ジュンジは手帳を閉じ、満面の笑顔で春樹を見た。
「そうか! それはいい! それはいい!」
ジュンジの大きな声に、レラが少し驚いて春樹を見る。
「春樹! お前も一人前になったな」
「喜んでくれるかい?」
「もちろんだとも、レラも……良かったじゃないか」
「うん」
レラは嬉しそうに春樹の左肩に手をかけた。
ジュンジは「うん、うん」としきりに首を縦に振っている。ジュンジの脳裏に『歴史は許してくれるのか』と言ったチパパの顔がよぎったが、かぶりを振って今は考えないようにした。
レラは嬉しそうに立ち上がると囲炉裏のそばを離れて食事の準備を始めた。
「父さんも一緒に未来へ行けるよね? 母さんもきっと喜んでくれるよ」
ジュンジは「それは……」と少し困った顔をした。
「どうやら、俺は元の世界に戻れないようだ……」
ジュンジは少し顔を上げて春樹の視線を避けた。
「どういうこと?」
「今、チパパのメモを見てたんだが、未来へ戻るには洞窟の中でイルファの亡霊に出会って導かれる必要があるらしい」
「それが? どうしたの?」
「イルファが現れるのは、ブルームーンの夜だけだ。それも、一度それを逃すとイルファには二度と会えないようだ……」
ジュンジは生前のチパパと話した「時空を超える難しい条件」を伝えた。チパパが日記のように記した日々のできごとの中には、幾人もの流人が時を超えて現れ突然いなくなったときのことが克明に書かれていた。それはイルファに導かれてからひと月以内の満月の夜。しかも一年に四度だけ姿を見せるブルームーンの夜だった。
「運よくブルームーンの夜に洞窟へ行った人間だけが時代を超えられるらしい……」
「じゃあ、父さんも──」春樹は言葉を飲み込んだ。
「ああ、そうだ。俺は元の時代に戻るタイミングを逸したことになる……」
ジュンジはこの世界で生きていく覚悟を決めているが春樹には父の気持ちが理解できない。ジュンジの帰りを信じて待っている奈津美の心情を考えると、やりきれない思いが春樹の胸を締めつけた。
「じゃあ、父さんは……このアイヌ集落でずっと生きていくの?」
力を失った春樹の声が虚しく家の中に消えていく。
「ああ、かなりの覚悟が必要だが……チパパの遺志を継いで生きようと考えた」
チパパの手帳には、時空を超えて過去に迷い込んだ流人で、この時代に残された人間は和人に連れて行かれたと書かれている。
明治初期に蝦夷地開拓の命を受けた開拓使は日本語が話せるアイヌを日本語学校の講師として登用した。講師と言えば聞こえが良いが不当な労働条件でほぼ奴隷のような扱いだった。命を落としたものも少なくない。
チパパが和人との接触を避けてひっそりと生活していた理由はそこにあった。砂金採りに来ていた松前藩の人間とジュンジが出会ったときもチパパはたいそう心配していた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
久遠の呪祓師―― 怪異探偵犬神零の大正帝都アヤカシ奇譚
山岸マロニィ
キャラ文芸
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
第伍話 12月12日
連載再開します
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
モダンガールを目指して上京した椎葉桜子が勤めだした仕事先は、奇妙な探偵社。
浮世離れした美貌の探偵・犬神零と、式神を使う生意気な居候・ハルアキと共に、不可解な事件の解決に奔走する。
◤ 大正 × 妖 × ミステリー ◢
大正ロマン溢れる帝都・東京の裏通りを舞台に、冒険活劇が幕を開ける!
【シリーズ詳細】
第壱話――扉(書籍・レンタルに収録)
第弐話――鴉揚羽(書籍・レンタルに収録)
第参話――九十九ノ段(完結・公開中)
第肆話――壺(完結・公開中)
第伍話――箪笥(連載中)
番外編・百合御殿ノ三姉妹(完結・別ページにて公開中)
※各話とも、単独でお楽しみ頂ける内容となっております。
【第4回 キャラ文芸大賞】
旧タイトル『犬神心霊探偵社 第壱話【扉】』が、奨励賞に選ばれました。
【備考(第壱話――扉)】
初稿 2010年 ブログ及びHPにて別名義で掲載
改稿① 2015年 小説家になろうにて別名義で掲載
改稿② 2020年 ノベルデイズ、ノベルアップ+にて掲載
※以上、現在は公開しておりません。
改稿③ 2021年 第4回 キャラ文芸大賞 奨励賞に選出
改稿④ 2021年
改稿⑤ 2022年 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる