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~怪しいお茶会再び~
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ちょっと変わった入部動機の新入生女子二人を新たにメンバーに迎えてはや半月。
ゴールデンウイークを目前に控えた放課後、いつものように部員たちが実験室に次々と集まってきていた。
「丸せんぱぁい、カエルちゃんの餌ってこのぐらいでいいんですか?」
新入部員でロングヘア―がトレードマークの金子トキが、アフリカツメガエルの水槽の側からコオロギの世話をしていた丸山に声をかける。
「…ん? 二口で食べられるぐらいの量だよ?」
「え~、二口がどのくらいなのかがわかんない~、先輩見てください~」
そんなトキのお願いに、丸山はやれやれといった様子で応じる。
「こんな感じでいいと思うよ。この量を覚えておいてね」
「はぁい」
丸山の言葉にトキが嬉しそうに笑顔で頷いた。
丸山に構って貰えて幸せそうなトキの様子を見ながら、ラッキーの世話をしていた高橋が渉に囁く。
「正直、期待していなかったけど、トキちゃん、ちょっとずつお世話を覚えてくれていますね…」
「丸ちゃんの気を引きたいだけって気もするけどな」
そう言って渉は肩を竦めると、もう一人の新入部員である金沢ユウの方に目をやる。
――相方のトキが生物室に来ると、丸山しか視界に入らないといった状態になり放置されるので、最近、ユウの方は生物室に来ると、順子に話しかけるようになっていた――そんなユウと順子は人体模型のトオル君の着せ替え作業に取り掛かっている。
「…あ、ユウちゃん、小さなこいのぼりが付いた棒があるから恒温室から取って来て」
「はーい」
順子の指示にユウは恒温室に入って行く。
「ユウちゃんの方は順ちゃんとうまくやってそうだし、一安心って事でいいのかな?」と言いながら、一抹の不安を隠せないのか渉は「このままだと、あの二人のどっちかで丸ちゃんの後の部長を決める事になるんだよな…」と呟きを漏らす。
それを聞いた高橋は「それ以前に、トキちゃんが丸ちゃんに飽きる可能性もある訳で…」と苦笑いを浮かべた。
それは渉もずっと懸念していたのか、深いため息を吐く。
「それなんだよな――今は丸ちゃんに熱を上げてるからいいけど、その熱が冷めたらあっさり退部しそうだし、そうするとユウちゃんも…ってなりそうだからなぁ。やっぱ普通に生物好きの新入生部員欲しいよなぁ」
「ですよね…」
同じ思いを抱いて渉と高橋はため息を吐く。
「改めて新入部員募集の為に、なんかイベントでも考えるか?」
「ですね…このままじゃ新入生部員なんて来ないだろうし…」
意見の一致に二人は無言で頷き合うと、新たな新入生部員の確保の為、知恵を絞り始めた。
「え? イベントっすか?」
渉から生物部主催のイベントをやらないかという提案をされた丸山は、少し驚いたようであった。
「…そう。新入生歓迎会のクラブ紹介のリベンジではないけれど、普通に生物部に興味を持ってくれそうな人材を確保したいなって思ってるんだ」
渉の意図を察したのか丸山の表情は納得したものに変わる。
「――別にトキちゃんとユウちゃんがダメだとか、嫌いって訳じゃないんだけど…」
「彼女たちが急に心変わりするかもって思いますよね…やっぱ」
言いにくそうな渉の想いを代弁するように、丸山はそう言うと苦笑いを浮かべた。
「女心と秋の空ってよく言うし、要するに保険をかけておきたいって事ですね」
「さすが丸ちゃん、よくおわかりで」
下級生の女子に好意を持たれていい気になる事なく、冷静に状況を理解している丸山の言葉に渉はホッとした顔になる。
「イベントをしたいってのは判りましたけど、どんな企画を考えているんですか?」
「やっぱうちの生物部と言えば、名物怪しいお茶会なんで、新入生を対象に開催したらどうかな?」
「あ~、そういや、優子先輩や香奈子先輩が卒業してから全然やってないですもんね」
そういう丸山自身も、生物部名物怪しいお茶会の参加経験は一度っきりであった。
「確かに怪しいお茶会はインパクトありますし、ああいうブラックユーモアに近いものって好みがはっきり分かれるから、勧誘対象を絞りやすいメリットはありますね」
「ただ…ちょっと問題があるんだよな」
とりあえずの丸山が意図を理解したのを確認して、渉は高橋との話の上で出てきた問題点を上げる。
「まず、新入生にうちのお茶会に参加してもらうにはどうしたらいいか? どのくらいの頻度で規模はどうするか? あと、順ちゃんだけでお茶会の準備や運営が出来るのか? ってのが今のところ考えられるんだ」
「確かに…」
クラブ紹介のやらかしで、新一年生たちの生物部の印象はかなり悪い。そんな印象の悪いクラブがイベント告知をしても、興味など持ってもらえるとは考えられなかった。
「とにかく来てもらわない事には始まらないですもんね」
「だろ? 行きたいって思ってもらえるにはどうしたらいいんだか…」
マイナス印象を覆して、新一年生に参加してもらえるようなアイディアなど全く思いつかないと渉がぼやく。
「参加者自身に嬉しい事とか、メリットがあるなら来てもらえる可能性もあるでしょうけど、結局のところお茶会だからなぁ…」
「だよなぁ…最初の問題でつまずいてるんじゃどうしようもないよな」
丸山の意見に渉は肩を竦める。
「お茶会の企画でスイーツ食べ放題とかなら、俺行きたいと思いますけど、さすがに予算的にうちのお茶会じゃ無理だし」
そう言って笑う丸山の言葉に渉が「それだ!」と声を上げた。
「え?」
怪訝な表情を浮かべる丸山に「予算的に市販のスイーツの食べ放題は無理だけど、香奈子先輩に相談すれば何とかなるかも」と渉が言う。
卒業生である香奈子は現在、パティシエを目指して製菓の専門学校に進学している事を渉は知っていた。
「香奈子先輩の連絡先はわかんないけど、優子先輩ならメアドは聞いてあるし、優子先輩なら香奈子先輩の連絡先知ってるだろうから、ちょっと相談してみる!」
渉はそう言うと、スマホを取り出し優子にメールを打つ。
困った時の神頼みではないが、困った時の先輩頼み。いい返事が返ってくる事を祈りながら渉はメールの送信ボタンを押した。
生物部名物お茶会の開催日は五月中旬の週末、土曜日の放課後に開催される事となった。
お茶会の会場となるのはおなじみの生物実験室で、隣接する準備室はお茶会の目玉として大量に用意されたスイーツの甘い香りが充満していた。
「皆の口に合えばいいんだけど…」
今回のお茶会の目玉、スイーツ食べ放題の協力快く受けた香奈子は、積み上げられたプラスチックコンテナに視線を向ける。そんな香奈子に渉が「先輩が作ったお菓子は美味しいのは知ってるんで、大丈夫だと思います」と太鼓判を押した。
今日はイベントスタッフとして働く事になっているあおいが「ここ、ケーキ屋さんみたいな美味しそうなにおい~」と笑う。
「おいしそうな香りだからってスイーツのつまみ食いしちゃダメだからね」
コンテナから大きなシャーレにスイーツを移し替えていた優子が、食いしん坊のあおいに釘をさす。
「そんなことしませんよぉ。バイト先でも美味しそうなご馳走がいっぱいあっても、つまみ食いは我慢できるようになったんですから~」とあおいが反論する。
そんなあおいの言葉を聞いて渉が笑い出す。
「我慢って事は、つまみ食いをしたいとは思ってるんだよな――あおいちゃんらしいや」
「つまみ食いはしないけど、残ったら後で食べられるから、問題無いですぅ」
「…あ、そう言う事ね」
あおいの説明に香奈子が納得顔になった。
「あの…どうしてシャーレなんかにスイーツを並べているんですか?」
ユウの質問に順子が「あ…」という表情になり、「そういや、ユウちゃん達って生物部名物のお茶会ってまだ参加した事なかったんだっけ?」と訊く。
頷くユウに生物部名物怪しいお茶会は、食器類がシャーレやビーカー、フラスコなんかの実験器具を使うのだと説明をすると、ユウの表情が信じられないといったものに変わった。
「どうしてそんな変な事するんですか?」
「変な事…」
ユウに真顔で訊かれて順子が困り顔になり返答に窮していると、発案者の優子が笑って口を開いた。
「実験道具を使ったお茶会ってしちゃダメなのかしら?」
「…ダメって事はないですけど、変じゃないですか」
「悪い事している訳では無いし、普通と違うって刺激的で面白いと思わない?」
「面白い…?」
予想もしなかった優子の言葉にユウが不思議そうに小首を傾げる。
「そう――例えばテーマパークとか映画が全く日常と何も変わらない普通のものだったら、何の魅力も無いわよね?」
小さく頷くユウに優子は言葉を続ける。
「リスクがない非日常だからこそテーマパークや映画が魅力的だし、平凡な日々にそういう刺激が人生のスパイスになるんじゃない?」
この実験器具を使ったお茶会も、そんな非日常のスパイスみたいなものだと優子は笑う。
「何の変化も無い、毎日が平凡すぎてつまらないって、不満を持つ人も多いけど、人様に迷惑をかけない形であればアイディア次第で、毎日を楽しく生きていけるんじゃないかな? って、私は思うの」
そんな優子の言葉にユウの表情が驚きを含んだものに変化する。
「『~こうでなければいけない』って固定観念なんて自分が作り出した勝手なルールなんだから、さっきも言った様に他人様に迷惑をかけなきゃ何でもあり。自分の人生は自分のモノなんだから自由に生きればいいのよ」
そう言う優子に渉が「優子先輩は自由人だから」と笑う。
「先輩が言ってる意味はわかりますけど、みんなと違う事をしたらいろいろ言われたりするじゃないですか…」
変な風に思われたり、悪く言われるのが怖いとユウは言う。そんなユウの言葉を優子は笑い飛ばす。
「言いたい奴には言わせてりゃいいのよ。人様の事をとやかく言っている人たちが自分の人生を一生みてくれる訳じゃないんだし、そんな人間に限って自分じゃ何かを変えようとせずに不平不満ばかり言う人たちなんだから」
そんな人間と関わるだけ時間の無駄と言い切る優子にユウは黙り込んだ。
「貴方がどういう人生を歩むかはあなた次第だから、人の顔色を窺い続けたければそうすればいいだけの話」
そう言うと、優子は移し替えたスイーツを実験室の方へ運び込み始めた。
「なんか…変わった人ですね…」
優子の強い個性に当てられたのか呆然と呟くユウに順子が苦笑いを浮かべる。
「優子先輩もそうだし、今日は来てないけど静香先輩って人も変わっているというか、すごい人よ――言葉通り生きてるんやもん…うちには無理な生き方だけど」
そんな順子の言葉に無言で頷くユウであった。
「生物部主催のお茶会にようこそ――少しの時間ではありますが、歓談しながら美味しいお茶とスイーツをお楽しみください」
今回のお茶会が新入部員勧誘が目的という事もあり、参加条件は1~2年生のみ。参加費は¥500で、受付で生徒手帳を提示して学年を確認しているとたまに3年生が混じっているという事もあったりしたが、クレームやトラブルといった騒ぎになる事はなかった。
生物部主催のお茶会はスイーツ食べ放題の写真付きチラシの宣伝効果は絶大で、受付け開始と同時に満席となっていた。
アルコールランプで熱せられたコーヒーや紅茶入りの丸底フラスコや炭酸ジュースが入った三角フラスコ、スイーツが盛り付けられたシャーレ、コップ代わりのビーカーに戸惑う参加者たちが座る各実験台には、生物部部員が配置されていて参加者たちの前に置かれたビーカーに飲み物のサービスを行ったり、参加者に話しかけたりして、まずは参加者たちの緊張を解く事から始まった。
最初おっかなびっくりで緊張の面持ちだった参加者たちも、次第に実験用具での飲み食いに慣れ、予想外にレベルの高いスイーツを食べているうちに笑顔が増え会話も弾みだす。そんな参加者たちの様子にホッとしながら、丸山は自分のテーブルにいる参加者たちを見回した。
丸山の横にはトキが座り、その向かいには一年の男子が二人座っていた。トキも生物部員ではあるが怪しいお茶会が初めてという事もあるので、他の参加者と同じ扱いという事になっている。
「——生物実験室で飲み食いって変な感じですね」
丸山の前に座っている加山という男子生徒が素直な感想を口にして笑った。
「まさかビーカーに口をつけるなんて思わなかったよな」
加山の横で藤原と名乗った生徒が苦笑いを浮かべた。
「このお茶会はうちの生物部名物で、何年も続いてるんだ」
「へぇ…」
男子たちが感心したような表情を浮かべる。
「実験用具のお茶会って変な感じ…なんだけど、このスイーツ…マジうまいんでちょっとびっくり」
「だよな…このケーキとか高そうだけど、参加費¥500円で食べ放題って――大丈夫なんですか?」
俺らが心配するってのも変な話だけど…と言いながら男子たちが丸山に疑問を口にした。
「その辺は秘密って事で…」と笑いながら丸山もプリンケーキを口に運ぶ。
「ほんと美味しいよな――見ての通り俺食いしん坊だし、こういう美味しいものが一杯食べてると幸せな気分になるね」
笑顔でそう言う丸山の言葉を聞いて、トキの目が輝く。
「やっぱり先輩が好きなものってスイーツなんですか?」
「ん? スイーツに限らず、美味しいもの全般好きだよ? ——美味しいもの嫌いな奴なんていないよな?」
そう言って丸山は男子たちに同意を求めた。
「確かに、美味しいものって幸せな気持ちになりますからね」と相鎚を打つ藤原の横で加山が「家でも旨いもの食いたいけど、うちのかぁちゃん料理音痴だから、彼女とか奥さんになる人は料理上手がいいな」と笑った。
「それは…親が料理ヘタだとかなりキツイものありそうだな」
「マジ、キツイっすよ」
肩を竦める加山に丸山が同情の目で見る。
「——うちの生物部の先輩女子は料理は科学だって口癖みたいに言ってたみたいだけど…うちの母親なんかはそんなの関係なしに料理上手いんで、才能の問題かも」
「いいなぁ、料理上手のお母さんがいて」
加山はそう言うと丸山を羨ましそうに見る。
「やっぱり男子って料理が上手い人がいいんですか?」
トキの質問に男子たちは大きく頷く。
「飯マズの彼女とか奥さんはちょっとなぁ…」
「美人とか可愛いくて料理上手が理想だけど、俺みたいなのにそんな彼女出来る訳ないんで、料理上手なら多くは望まない」という自虐的な藤原のコメントに「見た目が良くても、性格が悪いとか、料理センスが無かったらちょっと考えるよな」と加山と丸山が笑う。
彼らの意見を聞いたトキの表情は複雑そうなものになる。
「まあ、料理のスキルは男も高い方がいいと思うけどな――SNSなんかでもバズってる男の料理人とかも多いし」
そう言って丸山が笑っていると、加山が「先輩…生物部の部長って言ってたけど、さっきから食い物の話ばっかで、入部勧誘とかしないんですね」と意外そうな表情を浮かべた。
「ん? 俺は次期生物部部長…この夏、あっちに座って居る今の部長先輩が引退したら引き継ぐ予定——そりゃあうちの部にもう少し新入部員入ってくれたらなぁ…とは思うけど、俺自身、興味がない事はたとえ学校のクラブ活動だとしてもやりたくないタイプだから」と離れた席に座って居る渉を指さした後、丸山は笑う。
「…まだ部員足りないんですか?」
自分がいるのに頼りにされていないと受け取ったのか、トキが不満そうに丸山を見た。
「うちの生物部って飼育している小さな生き物多いからね…お世話できる人間が多くないと、部員が体調を崩したりする事もあるし、夏休みなんかの長期休みのお世話とか、部員が少ないといろいろ問題が出てくるから」と丸山が答える。
「小さい生き物って、何いるんですか?」
藤原の質問にグリーンイグアナやアフリカツメガエル、プラナリア、コオロギなどがいると丸山が答えた。
「プラナリアって…どこかで聞いた事ある名前だけど、なんでしたっけ?」
「再生能力が高い原始的な生き物って事で理科や生物の教科書に載っているから、それで記憶に残っているんじゃないかな?」
「教科書…あ~、なるほど」
丸山の説明が自分の記憶と一致したらしく藤原と加山が思い当ったという表情になる。
「良かったらプラナリア見てみる? マジで複数の頭を持っている生きたのがいるから…」
そんな丸山の言葉に藤原と加山は顔を見合わせた。
「大丈夫、心配しなくても、見たからって言って勧誘なんてしないから」
二人の不安を感じ取ったのか、丸山はそう言って笑うと、席から立ち上がって自分についてくるようにと言うと、プラナリアなどの飼育スペースがある生物準備室に藤原と加山を招き入れた。
「——すげぇ、教科書で見たのと同じで、頭が二つある…」
プラナリアの飼育ケースの中を覗き込んだ藤原が驚きの声を上げ、加山が「本当にこんなのがいるなんて…」と信じられないものを見たといった表情を浮かべた。
そんな彼らの驚く様子を楽しむ様に「見ての通りこいつら実際に生きてるし、CGじゃなんだぜ」と丸山が笑う。
「グリーンイグアナもいるから、ついでに見ていく?」
「イグアナ…」
写真や動画でしか見た事が無い爬虫類を前に見学者たちが固まる。
「厳つく見えるけど、グリーンイグアナってこう見えて繊細だし草食なんだぜ」
「え? 草食?」
肉などを貪り食いそうなイメージをもっていたのか、加山が意外そうな顔になる。
「意外かもしれないけれど…野菜とか果物が大好物で、肉なんかやったら病気になって、下手したら死んじゃうからな」
丸山はそう言って笑うと、90cm水槽を示して「その中にはアフリカツメガエルがいる」と説明をした。
「うわっ、でかい!」
自分の掌と同じぐらいのカエルを目にして加山が声を上げる。
「アフリカツメガエルは水棲なんで、他のカエルたちみたいに陸地を飼育環境を作る説明が要らないんだ」
「そんなカエルがいるんだ…」
初めて知る水棲カエルの話に加山は驚いたようであった。
「他にはコオロギの飼育とかミドリムシの培養なんかもあるけど、珍しいもんじゃないから」と丸山が笑っていると、渉と高橋が三人の見学者を連れて準備室にやってきた。
それと入れ違うように、丸山は加山と藤原に声をかけて実験室に戻ると、優子が座って居るテーブルの方ではどっと笑いが起きていた。
「…なんか、あっち楽しそうですね」
「残り時間はあんまりないけど、自分の椅子を持って、あっちのテーブルに席移してもいいよ」
「いいんですか?」
丸山が笑って頷くのを見て、加山と藤原の二人は自分が座っていた椅子を持って優子たちの話の輪に加わる。
「手ごたえあった?」
見学者達の案内を高橋に任せて実験室に戻って来た渉が、ニコニコとお茶会の様子を見ていた丸山に囁くように尋ねた。
「入部してくれるかどうかはわからないですけど、ここで珍しい生物を飼育しているのを知って驚いたみたいでした」
丸山の報告に渉は短く「そっか~」と言うと、楽しそうにしている参加者たちの方を見る。
「そういや、去年も見学に来た丸ちゃん達に白紙の入部届を渡して見送ってから祈ったんだよな。どうぞご縁がありますようにって」
「あれ? そんな事思っていたんですか?」
意外そうな表情の丸山に渉は笑って頷く。
「ちゃんと祈りが通じたみたいだし、今年もお祈りしておくかな」
「んじゃ、俺もお祈りしようかな」
渉と丸山の二人は目を合わせて小さく笑い合う。
――良いご縁がありますように…。
心の中で静かに二人は祈ると、再びお茶会の輪に加わった。
ゴールデンウイークを目前に控えた放課後、いつものように部員たちが実験室に次々と集まってきていた。
「丸せんぱぁい、カエルちゃんの餌ってこのぐらいでいいんですか?」
新入部員でロングヘア―がトレードマークの金子トキが、アフリカツメガエルの水槽の側からコオロギの世話をしていた丸山に声をかける。
「…ん? 二口で食べられるぐらいの量だよ?」
「え~、二口がどのくらいなのかがわかんない~、先輩見てください~」
そんなトキのお願いに、丸山はやれやれといった様子で応じる。
「こんな感じでいいと思うよ。この量を覚えておいてね」
「はぁい」
丸山の言葉にトキが嬉しそうに笑顔で頷いた。
丸山に構って貰えて幸せそうなトキの様子を見ながら、ラッキーの世話をしていた高橋が渉に囁く。
「正直、期待していなかったけど、トキちゃん、ちょっとずつお世話を覚えてくれていますね…」
「丸ちゃんの気を引きたいだけって気もするけどな」
そう言って渉は肩を竦めると、もう一人の新入部員である金沢ユウの方に目をやる。
――相方のトキが生物室に来ると、丸山しか視界に入らないといった状態になり放置されるので、最近、ユウの方は生物室に来ると、順子に話しかけるようになっていた――そんなユウと順子は人体模型のトオル君の着せ替え作業に取り掛かっている。
「…あ、ユウちゃん、小さなこいのぼりが付いた棒があるから恒温室から取って来て」
「はーい」
順子の指示にユウは恒温室に入って行く。
「ユウちゃんの方は順ちゃんとうまくやってそうだし、一安心って事でいいのかな?」と言いながら、一抹の不安を隠せないのか渉は「このままだと、あの二人のどっちかで丸ちゃんの後の部長を決める事になるんだよな…」と呟きを漏らす。
それを聞いた高橋は「それ以前に、トキちゃんが丸ちゃんに飽きる可能性もある訳で…」と苦笑いを浮かべた。
それは渉もずっと懸念していたのか、深いため息を吐く。
「それなんだよな――今は丸ちゃんに熱を上げてるからいいけど、その熱が冷めたらあっさり退部しそうだし、そうするとユウちゃんも…ってなりそうだからなぁ。やっぱ普通に生物好きの新入生部員欲しいよなぁ」
「ですよね…」
同じ思いを抱いて渉と高橋はため息を吐く。
「改めて新入部員募集の為に、なんかイベントでも考えるか?」
「ですね…このままじゃ新入生部員なんて来ないだろうし…」
意見の一致に二人は無言で頷き合うと、新たな新入生部員の確保の為、知恵を絞り始めた。
「え? イベントっすか?」
渉から生物部主催のイベントをやらないかという提案をされた丸山は、少し驚いたようであった。
「…そう。新入生歓迎会のクラブ紹介のリベンジではないけれど、普通に生物部に興味を持ってくれそうな人材を確保したいなって思ってるんだ」
渉の意図を察したのか丸山の表情は納得したものに変わる。
「――別にトキちゃんとユウちゃんがダメだとか、嫌いって訳じゃないんだけど…」
「彼女たちが急に心変わりするかもって思いますよね…やっぱ」
言いにくそうな渉の想いを代弁するように、丸山はそう言うと苦笑いを浮かべた。
「女心と秋の空ってよく言うし、要するに保険をかけておきたいって事ですね」
「さすが丸ちゃん、よくおわかりで」
下級生の女子に好意を持たれていい気になる事なく、冷静に状況を理解している丸山の言葉に渉はホッとした顔になる。
「イベントをしたいってのは判りましたけど、どんな企画を考えているんですか?」
「やっぱうちの生物部と言えば、名物怪しいお茶会なんで、新入生を対象に開催したらどうかな?」
「あ~、そういや、優子先輩や香奈子先輩が卒業してから全然やってないですもんね」
そういう丸山自身も、生物部名物怪しいお茶会の参加経験は一度っきりであった。
「確かに怪しいお茶会はインパクトありますし、ああいうブラックユーモアに近いものって好みがはっきり分かれるから、勧誘対象を絞りやすいメリットはありますね」
「ただ…ちょっと問題があるんだよな」
とりあえずの丸山が意図を理解したのを確認して、渉は高橋との話の上で出てきた問題点を上げる。
「まず、新入生にうちのお茶会に参加してもらうにはどうしたらいいか? どのくらいの頻度で規模はどうするか? あと、順ちゃんだけでお茶会の準備や運営が出来るのか? ってのが今のところ考えられるんだ」
「確かに…」
クラブ紹介のやらかしで、新一年生たちの生物部の印象はかなり悪い。そんな印象の悪いクラブがイベント告知をしても、興味など持ってもらえるとは考えられなかった。
「とにかく来てもらわない事には始まらないですもんね」
「だろ? 行きたいって思ってもらえるにはどうしたらいいんだか…」
マイナス印象を覆して、新一年生に参加してもらえるようなアイディアなど全く思いつかないと渉がぼやく。
「参加者自身に嬉しい事とか、メリットがあるなら来てもらえる可能性もあるでしょうけど、結局のところお茶会だからなぁ…」
「だよなぁ…最初の問題でつまずいてるんじゃどうしようもないよな」
丸山の意見に渉は肩を竦める。
「お茶会の企画でスイーツ食べ放題とかなら、俺行きたいと思いますけど、さすがに予算的にうちのお茶会じゃ無理だし」
そう言って笑う丸山の言葉に渉が「それだ!」と声を上げた。
「え?」
怪訝な表情を浮かべる丸山に「予算的に市販のスイーツの食べ放題は無理だけど、香奈子先輩に相談すれば何とかなるかも」と渉が言う。
卒業生である香奈子は現在、パティシエを目指して製菓の専門学校に進学している事を渉は知っていた。
「香奈子先輩の連絡先はわかんないけど、優子先輩ならメアドは聞いてあるし、優子先輩なら香奈子先輩の連絡先知ってるだろうから、ちょっと相談してみる!」
渉はそう言うと、スマホを取り出し優子にメールを打つ。
困った時の神頼みではないが、困った時の先輩頼み。いい返事が返ってくる事を祈りながら渉はメールの送信ボタンを押した。
生物部名物お茶会の開催日は五月中旬の週末、土曜日の放課後に開催される事となった。
お茶会の会場となるのはおなじみの生物実験室で、隣接する準備室はお茶会の目玉として大量に用意されたスイーツの甘い香りが充満していた。
「皆の口に合えばいいんだけど…」
今回のお茶会の目玉、スイーツ食べ放題の協力快く受けた香奈子は、積み上げられたプラスチックコンテナに視線を向ける。そんな香奈子に渉が「先輩が作ったお菓子は美味しいのは知ってるんで、大丈夫だと思います」と太鼓判を押した。
今日はイベントスタッフとして働く事になっているあおいが「ここ、ケーキ屋さんみたいな美味しそうなにおい~」と笑う。
「おいしそうな香りだからってスイーツのつまみ食いしちゃダメだからね」
コンテナから大きなシャーレにスイーツを移し替えていた優子が、食いしん坊のあおいに釘をさす。
「そんなことしませんよぉ。バイト先でも美味しそうなご馳走がいっぱいあっても、つまみ食いは我慢できるようになったんですから~」とあおいが反論する。
そんなあおいの言葉を聞いて渉が笑い出す。
「我慢って事は、つまみ食いをしたいとは思ってるんだよな――あおいちゃんらしいや」
「つまみ食いはしないけど、残ったら後で食べられるから、問題無いですぅ」
「…あ、そう言う事ね」
あおいの説明に香奈子が納得顔になった。
「あの…どうしてシャーレなんかにスイーツを並べているんですか?」
ユウの質問に順子が「あ…」という表情になり、「そういや、ユウちゃん達って生物部名物のお茶会ってまだ参加した事なかったんだっけ?」と訊く。
頷くユウに生物部名物怪しいお茶会は、食器類がシャーレやビーカー、フラスコなんかの実験器具を使うのだと説明をすると、ユウの表情が信じられないといったものに変わった。
「どうしてそんな変な事するんですか?」
「変な事…」
ユウに真顔で訊かれて順子が困り顔になり返答に窮していると、発案者の優子が笑って口を開いた。
「実験道具を使ったお茶会ってしちゃダメなのかしら?」
「…ダメって事はないですけど、変じゃないですか」
「悪い事している訳では無いし、普通と違うって刺激的で面白いと思わない?」
「面白い…?」
予想もしなかった優子の言葉にユウが不思議そうに小首を傾げる。
「そう――例えばテーマパークとか映画が全く日常と何も変わらない普通のものだったら、何の魅力も無いわよね?」
小さく頷くユウに優子は言葉を続ける。
「リスクがない非日常だからこそテーマパークや映画が魅力的だし、平凡な日々にそういう刺激が人生のスパイスになるんじゃない?」
この実験器具を使ったお茶会も、そんな非日常のスパイスみたいなものだと優子は笑う。
「何の変化も無い、毎日が平凡すぎてつまらないって、不満を持つ人も多いけど、人様に迷惑をかけない形であればアイディア次第で、毎日を楽しく生きていけるんじゃないかな? って、私は思うの」
そんな優子の言葉にユウの表情が驚きを含んだものに変化する。
「『~こうでなければいけない』って固定観念なんて自分が作り出した勝手なルールなんだから、さっきも言った様に他人様に迷惑をかけなきゃ何でもあり。自分の人生は自分のモノなんだから自由に生きればいいのよ」
そう言う優子に渉が「優子先輩は自由人だから」と笑う。
「先輩が言ってる意味はわかりますけど、みんなと違う事をしたらいろいろ言われたりするじゃないですか…」
変な風に思われたり、悪く言われるのが怖いとユウは言う。そんなユウの言葉を優子は笑い飛ばす。
「言いたい奴には言わせてりゃいいのよ。人様の事をとやかく言っている人たちが自分の人生を一生みてくれる訳じゃないんだし、そんな人間に限って自分じゃ何かを変えようとせずに不平不満ばかり言う人たちなんだから」
そんな人間と関わるだけ時間の無駄と言い切る優子にユウは黙り込んだ。
「貴方がどういう人生を歩むかはあなた次第だから、人の顔色を窺い続けたければそうすればいいだけの話」
そう言うと、優子は移し替えたスイーツを実験室の方へ運び込み始めた。
「なんか…変わった人ですね…」
優子の強い個性に当てられたのか呆然と呟くユウに順子が苦笑いを浮かべる。
「優子先輩もそうだし、今日は来てないけど静香先輩って人も変わっているというか、すごい人よ――言葉通り生きてるんやもん…うちには無理な生き方だけど」
そんな順子の言葉に無言で頷くユウであった。
「生物部主催のお茶会にようこそ――少しの時間ではありますが、歓談しながら美味しいお茶とスイーツをお楽しみください」
今回のお茶会が新入部員勧誘が目的という事もあり、参加条件は1~2年生のみ。参加費は¥500で、受付で生徒手帳を提示して学年を確認しているとたまに3年生が混じっているという事もあったりしたが、クレームやトラブルといった騒ぎになる事はなかった。
生物部主催のお茶会はスイーツ食べ放題の写真付きチラシの宣伝効果は絶大で、受付け開始と同時に満席となっていた。
アルコールランプで熱せられたコーヒーや紅茶入りの丸底フラスコや炭酸ジュースが入った三角フラスコ、スイーツが盛り付けられたシャーレ、コップ代わりのビーカーに戸惑う参加者たちが座る各実験台には、生物部部員が配置されていて参加者たちの前に置かれたビーカーに飲み物のサービスを行ったり、参加者に話しかけたりして、まずは参加者たちの緊張を解く事から始まった。
最初おっかなびっくりで緊張の面持ちだった参加者たちも、次第に実験用具での飲み食いに慣れ、予想外にレベルの高いスイーツを食べているうちに笑顔が増え会話も弾みだす。そんな参加者たちの様子にホッとしながら、丸山は自分のテーブルにいる参加者たちを見回した。
丸山の横にはトキが座り、その向かいには一年の男子が二人座っていた。トキも生物部員ではあるが怪しいお茶会が初めてという事もあるので、他の参加者と同じ扱いという事になっている。
「——生物実験室で飲み食いって変な感じですね」
丸山の前に座っている加山という男子生徒が素直な感想を口にして笑った。
「まさかビーカーに口をつけるなんて思わなかったよな」
加山の横で藤原と名乗った生徒が苦笑いを浮かべた。
「このお茶会はうちの生物部名物で、何年も続いてるんだ」
「へぇ…」
男子たちが感心したような表情を浮かべる。
「実験用具のお茶会って変な感じ…なんだけど、このスイーツ…マジうまいんでちょっとびっくり」
「だよな…このケーキとか高そうだけど、参加費¥500円で食べ放題って――大丈夫なんですか?」
俺らが心配するってのも変な話だけど…と言いながら男子たちが丸山に疑問を口にした。
「その辺は秘密って事で…」と笑いながら丸山もプリンケーキを口に運ぶ。
「ほんと美味しいよな――見ての通り俺食いしん坊だし、こういう美味しいものが一杯食べてると幸せな気分になるね」
笑顔でそう言う丸山の言葉を聞いて、トキの目が輝く。
「やっぱり先輩が好きなものってスイーツなんですか?」
「ん? スイーツに限らず、美味しいもの全般好きだよ? ——美味しいもの嫌いな奴なんていないよな?」
そう言って丸山は男子たちに同意を求めた。
「確かに、美味しいものって幸せな気持ちになりますからね」と相鎚を打つ藤原の横で加山が「家でも旨いもの食いたいけど、うちのかぁちゃん料理音痴だから、彼女とか奥さんになる人は料理上手がいいな」と笑った。
「それは…親が料理ヘタだとかなりキツイものありそうだな」
「マジ、キツイっすよ」
肩を竦める加山に丸山が同情の目で見る。
「——うちの生物部の先輩女子は料理は科学だって口癖みたいに言ってたみたいだけど…うちの母親なんかはそんなの関係なしに料理上手いんで、才能の問題かも」
「いいなぁ、料理上手のお母さんがいて」
加山はそう言うと丸山を羨ましそうに見る。
「やっぱり男子って料理が上手い人がいいんですか?」
トキの質問に男子たちは大きく頷く。
「飯マズの彼女とか奥さんはちょっとなぁ…」
「美人とか可愛いくて料理上手が理想だけど、俺みたいなのにそんな彼女出来る訳ないんで、料理上手なら多くは望まない」という自虐的な藤原のコメントに「見た目が良くても、性格が悪いとか、料理センスが無かったらちょっと考えるよな」と加山と丸山が笑う。
彼らの意見を聞いたトキの表情は複雑そうなものになる。
「まあ、料理のスキルは男も高い方がいいと思うけどな――SNSなんかでもバズってる男の料理人とかも多いし」
そう言って丸山が笑っていると、加山が「先輩…生物部の部長って言ってたけど、さっきから食い物の話ばっかで、入部勧誘とかしないんですね」と意外そうな表情を浮かべた。
「ん? 俺は次期生物部部長…この夏、あっちに座って居る今の部長先輩が引退したら引き継ぐ予定——そりゃあうちの部にもう少し新入部員入ってくれたらなぁ…とは思うけど、俺自身、興味がない事はたとえ学校のクラブ活動だとしてもやりたくないタイプだから」と離れた席に座って居る渉を指さした後、丸山は笑う。
「…まだ部員足りないんですか?」
自分がいるのに頼りにされていないと受け取ったのか、トキが不満そうに丸山を見た。
「うちの生物部って飼育している小さな生き物多いからね…お世話できる人間が多くないと、部員が体調を崩したりする事もあるし、夏休みなんかの長期休みのお世話とか、部員が少ないといろいろ問題が出てくるから」と丸山が答える。
「小さい生き物って、何いるんですか?」
藤原の質問にグリーンイグアナやアフリカツメガエル、プラナリア、コオロギなどがいると丸山が答えた。
「プラナリアって…どこかで聞いた事ある名前だけど、なんでしたっけ?」
「再生能力が高い原始的な生き物って事で理科や生物の教科書に載っているから、それで記憶に残っているんじゃないかな?」
「教科書…あ~、なるほど」
丸山の説明が自分の記憶と一致したらしく藤原と加山が思い当ったという表情になる。
「良かったらプラナリア見てみる? マジで複数の頭を持っている生きたのがいるから…」
そんな丸山の言葉に藤原と加山は顔を見合わせた。
「大丈夫、心配しなくても、見たからって言って勧誘なんてしないから」
二人の不安を感じ取ったのか、丸山はそう言って笑うと、席から立ち上がって自分についてくるようにと言うと、プラナリアなどの飼育スペースがある生物準備室に藤原と加山を招き入れた。
「——すげぇ、教科書で見たのと同じで、頭が二つある…」
プラナリアの飼育ケースの中を覗き込んだ藤原が驚きの声を上げ、加山が「本当にこんなのがいるなんて…」と信じられないものを見たといった表情を浮かべた。
そんな彼らの驚く様子を楽しむ様に「見ての通りこいつら実際に生きてるし、CGじゃなんだぜ」と丸山が笑う。
「グリーンイグアナもいるから、ついでに見ていく?」
「イグアナ…」
写真や動画でしか見た事が無い爬虫類を前に見学者たちが固まる。
「厳つく見えるけど、グリーンイグアナってこう見えて繊細だし草食なんだぜ」
「え? 草食?」
肉などを貪り食いそうなイメージをもっていたのか、加山が意外そうな顔になる。
「意外かもしれないけれど…野菜とか果物が大好物で、肉なんかやったら病気になって、下手したら死んじゃうからな」
丸山はそう言って笑うと、90cm水槽を示して「その中にはアフリカツメガエルがいる」と説明をした。
「うわっ、でかい!」
自分の掌と同じぐらいのカエルを目にして加山が声を上げる。
「アフリカツメガエルは水棲なんで、他のカエルたちみたいに陸地を飼育環境を作る説明が要らないんだ」
「そんなカエルがいるんだ…」
初めて知る水棲カエルの話に加山は驚いたようであった。
「他にはコオロギの飼育とかミドリムシの培養なんかもあるけど、珍しいもんじゃないから」と丸山が笑っていると、渉と高橋が三人の見学者を連れて準備室にやってきた。
それと入れ違うように、丸山は加山と藤原に声をかけて実験室に戻ると、優子が座って居るテーブルの方ではどっと笑いが起きていた。
「…なんか、あっち楽しそうですね」
「残り時間はあんまりないけど、自分の椅子を持って、あっちのテーブルに席移してもいいよ」
「いいんですか?」
丸山が笑って頷くのを見て、加山と藤原の二人は自分が座っていた椅子を持って優子たちの話の輪に加わる。
「手ごたえあった?」
見学者達の案内を高橋に任せて実験室に戻って来た渉が、ニコニコとお茶会の様子を見ていた丸山に囁くように尋ねた。
「入部してくれるかどうかはわからないですけど、ここで珍しい生物を飼育しているのを知って驚いたみたいでした」
丸山の報告に渉は短く「そっか~」と言うと、楽しそうにしている参加者たちの方を見る。
「そういや、去年も見学に来た丸ちゃん達に白紙の入部届を渡して見送ってから祈ったんだよな。どうぞご縁がありますようにって」
「あれ? そんな事思っていたんですか?」
意外そうな表情の丸山に渉は笑って頷く。
「ちゃんと祈りが通じたみたいだし、今年もお祈りしておくかな」
「んじゃ、俺もお祈りしようかな」
渉と丸山の二人は目を合わせて小さく笑い合う。
――良いご縁がありますように…。
心の中で静かに二人は祈ると、再びお茶会の輪に加わった。
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