Princess Dragon

Rchild

文字の大きさ
4 / 11

New games started by debuggers.

しおりを挟む
『Princes Dragon』



 フルダイブゲームのRPGにしては珍しい、ソロプレイ専用のゲーム。



 未確認の疫病や戦争を乗り越えて変化した世界に颯爽と輝こうとする、ソニテン一押いちおし、期待の配信サービス。



 事前登録者数は二十億人を超え、資本主義の根幹を成す数字至上主義社会の影響から抜け出せていない民衆は、まだまだその船に乗ろうと数を増やし続けている。



 しかし、どうして今になってソロプレイ専用のRPGにここまで人が集まるのか。ソニテンという大きな名札から配信される物ではあるけれど、その数とスピードは、通貨が廃止される前の社会からは異常とされるようなものだった。



 社会心理の学者は、こう推測する。

『世界から通貨がなくなったことによる反動です。人は群れる動物であるのは間違いないですが、それは己の生命を維持する上で不可欠だったからであり、その生命維持が他者との繋がりが無くとも容易になったことで、他者より己への問いかけが重要だと判断するのでしょう』、と。



 もちろん、反論もある。マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム。通称MMORPGは未だ健在であることもその一因であるが、『そもそも、ゲームの話しに生命維持など関係ないだろう』というネットの声が大きかった。



 だから、明確な理由は判然としていない。

 脳科学の分野に理由を求めても、アトラクターを通して脳内物質の種類や量が解析できるだけで、ならば何故、『ソロプレイ専用ゲーム』の一文に多量のセロトニンとドーパミンの検出が起こったのかは分からないのだ。



 しかし、人間学は知っている。

『人間はひとつの答えによって動く生き物ではない』ことを。人とは、知り得ないということを、知っている。



 そんな、配信前から都市伝説を作るような期待のゲーム『Princes Dragon』。これ迄に十年の歳月を費やした超巨大ゲーム。RPGの中にアドベンチャーゲームの要素やシュミレーションゲームの要素などを大量に混ぜ込み、ソロプレイRPGに三千種類以上のエンディングを用意する力の入れようは常軌を逸していると言えるかもしれない。



 そんな、ソニテンの力を遺憾なく発揮したゲームに今、外部顧問の小林はるかが操るデバッグ用キャラクター【テンセニー・ポケット】が降り立った。



 ──

 ────

 ──────



「……」



 小林はるか、もといテンセニー・ポケットの『ポッケ』は周囲を見渡した。妖精種×伝承種でキャラクターメイクされた小柄な女の子アバターで満足そうに頷く。



 ──いつ見てもこの始まりは高揚感があるね。

 

 輝く運河。晴れ渡たる空。多種多様なNPCが行き交う雑踏の中。商店が並ぶ通りに活気のある商人の声が響き、これからの冒険に期待を膨らませる最初の一歩。



 基本を押さえたキャラクターはエルフやドワーフといった人類の亜種から、魚人種、鳥人種、爬虫種、蟲種、魂霊種、鬼種、巨人種、一つ目種。獣人種、多相種、樹総種、星霊種、竜種、妖精種まで様々に存在し、伝承にしか語られない【伝承種】──伝承種は一般プレイヤーには解放される予定はない──や、宇宙の神秘や上位種として姿はなくとも存在しているとされている【思念種】、この世界にある七種の神話から概念として存在を認められた【神族】まで、それこそ目まぐるしい数のキャラクターが──、



 ──って、物思いに耽ってる場合じゃなかった。さっさと問題を確認しにいかなくちゃ。



 ポッケは女性キャラクターの下着のデザインを確認するために動き出す。



 ──まずは……チュートリアルをスキップ。戦闘のしかたや、街の人たちからクエストを受注する方法ならいやというほど確認したし。



 空中に浮かぶように現れたスキップの可否を選択し、ヘルプモード(右上に表示されるメインストーリーのクエストが受けられるマップ上のアイコン)を非表示に変える。



 ──それから、ステータスやアイテム、アビリティの確認、と。



 思考し、ステータス画面を呼び出す。

 表示されているのはレベル1のステータス。

 

 ──ステータスはOK。道具とアビリティも……うん、デバッグ用になってるね。



 道具は各種ポーションや消費系アイテムが無限大表示で納められている。装備品は各一つずつ。アビリティに関しては、其々の職業の初級から上級、隠しアビリティまで揃っていた。



 ──キャラクターレベルは1だから、そのままじゃ使えないし、装備もできないけど……。



 ポッケは画面に一つの指輪を表示させた。



【神意の指輪】



 ──これがあれば全てが思いのままに! チート枠で一気にストーリークリアだぜぃ! ……ま、今回は必要ないけど。



 画面を消して、思案する。



 ──えっと、聞いたフリル付きパンティの踊り子が居るのはモエイ村の酒場、か……。そこに転移して、確かめて、もし話の通りだったらチームに報告。自分で直せる程度ならいいけど、深い場所で混線とかしてたら直してもらわなきゃ……。



 ポッケは小さな体で溜め息を吐いた。



 ──モエイ村は、領主のお偉いさんがいる場所。苦手なんだよなぁ、お偉いさんって。ファンタジーの王道で時代設定は中世ヨールッパだから、貴族だし。まあこのゲーム、場所によって機械化が進んだ地域もあるし、スチームパンクな風景もあるけど、それとこれとは関係ないし……AIが選択する貴族言葉がもう、癇に触るっていうか……。



 吐き出される溜め息の重いことったらなかった。



 しかし、これもより良いゲームを作るためだと覚悟を決め、ステータス画面から道具欄を開くと【転移の車輪】というネックレスの効果を発動させる。

 

 ──いくら苦手っていても、相手はNPC。会話がとってもリアルで、本物の人間みたいだけど、全てはAIの選択。第一、目的地は酒場なんだし、会わなければ良いだけ! そう、会わなければ……!



 そして、モエイ村に転移完了。

 どう考えてもフラグにしかならなそうなことを考えつつ、モエイ村を足早に歩く。



 ──もう地図を見なくても何処だって進めるあたしは偉い。凄い。逞しい! だから神様、領主スキエブーハに会いませんようにぃ!



 ……でも、誰もが知っている。

 そんなこと、そもそも考えちゃいけないと。

 頭に浮かばせるだけで、世界線は確定されるのだ、と──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

ワシの子を産んでくれんか

KOU/Vami
ライト文芸
妻に先立たれ、息子まで亡くした老人は、息子の妻である若い未亡人と二人きりで古い家に残された。 「まだ若い、アンタは出て行って生き直せ」――そう言い続けるのは、彼女の未来を守りたい善意であり、同時に、自分の寂しさが露見するのを恐れる防波堤でもあった。 しかし彼女は去らない。義父を一人にできないという情と、家に残る最後の温もりを手放せない心が、彼女の足を止めていた。 昼はいつも通り、義父と嫁として食卓を囲む。けれど夜になると、喪失の闇と孤独が、二人の境界を静かに溶かしていく。 ある夜を境に、彼女は“何事もない”顔で日々を回し始め、老人だけが遺影を直視できなくなる。 救いのような笑顔と、罪のような温もり。 二人はやがて、外の世界から少しずつ音を失い、互いだけを必要とする狭い家の中へ沈んでいく――。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...