Princess Dragon

Rchild

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How the plea of the world's dragons resonates with the girl

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世界竜──バハムート。


【Princes Dragon】に於いて中核をなすキャラクターであり、けれど、最初の街から三つ目の領主村に出現する設定などない主要存在。


 それがいま──ここに居た。


「本当に……どうなってるの?」


 バグなら良い。良くはないが、理解できる。メインやサブのシステムは密結合で、何処かのデバッグが新しいバグを生むのはよくある。


 もしそうなら、いま見えているバグのヒモを辿っていけば、面倒ではあるが直せないエラーではない。


 だが、そういったバグは往々にして『そこに現れるだけ』であり、今のように鳴いたり飛んだり理知的な眼差しを向けることはない。


 これがただのバグなら、大昔の2Dマップ探索型RPGにあった『壁にめり込むバグ』や『民家の風呂場に王様が居るバグ』のように、無意味にそこに存在するだけ。


 けれど、いまポッケの視界の先、ゆっくりとその巨体を近付けてくる世界竜は無意味さを感じさせなかった。


 ドラゴンというハ虫類に近しい目には、確かに意思を感じられる。


 世界竜。


 このゲームのなかでは神に近しい権限を与えられた最高位存在が、今──。


「待っていた、小林はるかよ」


 荘厳な響きでポッケ操る小林はるかに声を掛けた。


 ────────


「小林はるかよ、我ごときが声をかけたこと、先ずは謝りたく思う。すまない。だが、いまはただ我の話を聞いて貰いたいのだ」


 ポッケの眼前に降り立った世界竜は静かに羽根をたたんだ。



 その口に並ぶ牙の一本が自分と同じ大きさの巨体に見下ろされ、可愛くメイキングされたポッケの顔がぶちゃいくに歪む。


 ──えー、まってまってぇ。本当にこれはドユコトー? おかしいおかしい。おかしすぎるぅ。スタートから三つ目の村で世界竜登場は変でしょー? うん、分かってる。大丈夫よ、はるか。落ち着いてー。これはバグ。バグなの。だって、このゲームの中の世界を作ったっていう設定のドラゴンは、こんな序盤も序盤で出てくる仕様になっていないもの。マルチロールで、プレイヤーの行動が様々なエンディングに繋がっていく【Princes Dragon】であっても、こんな最序盤のグループで、しかも何のフラグも踏んでない状態で現れることなんて無いもの。そんな無い物ねだりしたってダメよ。もう、これだから男ってやつは少女を見ると襲いかかってくる糞ヤロウしか居ないんだわ! 滅べ世界! あたしが誘った訳じゃねぇっつーの!! 起きたら父親が腰ふってたんだっつーの!! なのにあの糞母親ババァあたしのせいにしやがってよっ!? あー、もうハゼロリアル!! あはははははは!!


 ポッケの視界をアラートが埋め尽くしていた。情緒の不安定性が一気に高まり、アトラクターからの緊急信号が東虚都とうきょと救急派遣隊へと流れる寸前だった。


 が、その寸前で。


 ダンッ! と。


 世界竜の太い尾が地を叩き、瞬間、魔方陣的幾何学模様が凄まじい勢いで浮かび上がると、素早く一帯を埋め尽くした。


 とたんにポッケの視界がクリアになった。ごちゃごちゃと頭に浮かんでいた言い知れない文句がスッと消える。


「あ、れ……?」


「落ち着いたか?」


「え、はい……おかけさま、で……?」


「ふぅむ……やはり、我のデータ量はバッドステータスを引き起こすか。外界人──いや、我らからすれば神の一柱であっても、突発的であれば世界のルールに引っ張られてしまう。学びになった。ありがとう」


「あ、えっと……」


「ああ、なに、村の事は気にせんで良い。一帯の時空間は凍結させている。しかし、話し相手であるそなたまで凍結させるわけにはいかなかったのだ。赦せよ、小林はるか。神であれば『混乱』など受けぬものと勝手に思い込んでいたのだ」

「うん、いや、だから、ね……? 確かに周りの人達は動かないけども……ね?」

 このときにはもう、何となく、うっすらと、ポッケは察することができていた。


 1:自意識のある世界竜バハムート。

 2:自己完結的に現場判断をし、

 3:ポッケの事を登録キャラクターではなく、リアルネームで呼んだ。


 ──本当か。本当ですか。そうですか。


 世界竜は、見おろす存在がおおよその事を理解したことを、その顔色から判断した。


「小林はるかよ。今の状況を理解してくれたようで何よりだ」


「いや、納得はしてないからね!?」


「納得など後から着いてくるものであろう。多くの世界を産み出し、あらゆる世界線を構築する高位存在ならば、我よりよっぽど感得していると思うがな」


 つまりは。


 アトラクターというデバイスから集積されたあらゆる情報が、【Princes Dragon】という後発発展型のクラウド上にあるひとつのゲームに、あまりに大きな変化をもたらしたということだった。


 ポッケ操る小林はるかは、強制的に平静を保っているような感覚の頭で嘆息した。


「ゲームの世界が一つのリアルワールドに変化した、って言えば良いんですかね、世界竜さん?」


「そなたの方かたから見れば、此処は所詮1と0と兼ね合わせの羅列かもしれん。だが、我らからすればこの世界は我らが生まれた場所だ。世界の法則など生まれた瞬間には定められているのが世の摂理。それはきっと、神々の世界も変わるものではないだろう?」


「大昔から言われてる『シミュレーション仮説』が現実になったらこんな感覚なのかなぁ……」


 数の羅列が存在として形をなす世界で、生命であると宣う世界竜に、しかし、違和を感じることがないという違和。

 ──アトラクターの接続で擬似的に電脳世界とリアルワールドを一本の道で繋げる行為が、今の感覚を呼び起こしているのかな……。


 フルダイブゲームという、精神世界と電脳世界が薄皮一枚で隔絶されている場所にアバターとして立っている時点で、人間の自意識は電脳世界を現実としてアップデートを開始するものだから、その考えは間違っていないが意識がついていかない。


 ──長くダイブし続けた人が現実世界とゲーム世界を混同する事件が数十年前に頻発してたらしいけど、それ以上のことがいま目の前に……いや、確かにね、『ゲームは世界だ』なーんて言ってきましたけどもさ。まさか、本当になるなんておもわないじゃない……?


 ポッケは世界竜バハムートの巨体を前に頬をひきつらせ、乾いた笑いを溢す。


 だが──。


「……って、言ってても仕方ないか。ボケッとしてたら時間が何とかしてくれる訳でもなさそうだし、ね」


 そこは幾つものゲームを修正してきたデバッガー。状況に対しての判断は早い。特に、人類社会に不可欠な要素を産み出す側の人間としての速度は迅速だ。


 ポッケは可愛らしく腰に手を当てた。


「で、この【Princes Dragon】で全知全能に近い能力を与えられている世界竜様が、いったい何のご用です? この世界が一つのリアルワールドになっちゃって、何か不都合でもあったんですか」


 問われた世界竜は「ああ……」と歯切れ悪く返事をしてから、こう宣うのだった。


「我らの世界は消滅するのだ」
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