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レヴェレナット ―起ノ弐―
敵か味方か
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「人造人間!?」
最初に驚きの声を上げたのは、同じ人造人間である幹であった。
暗闇の中で周りは見えないが、幹の震える手の感触が、緊張を伝達する。
俺も幹の震えに心が揺られ、身体中から汗が噴き出てくる。
何も見えない、それだけでも怖いのに、眼前には人造人間と名乗る男がいるだなんて。
とにかく、何とかしてこの場を凌がないと。
下手したら、俺ら全員殺されることになる。
本当に殺されるのかは疑わしいけど、あまり実感は湧かないけど、危険なのは感じ取れる。
その危険が、最悪死をもたらす可能性があることも。
しかしどうする。
この暗闇に相手は人造人間だ。
いや、人造人間は虚実(ブラフ)かもしれないが、まあそこは後回しだ。
相手は少なくとも、この暗闇の中で俺らが見えている。
俺と烏丸は相手が見えていない。
見えているのは、幹一人だけだ。
俺と烏丸には、下手な行動はできない。
「こんな叢を進んでいくなんて、なかなか豪快だね、君たちは。でも、いい道を選んでるよ」
目の前のそいつは、俺たちの緊張を無視して話し始めた。
「悪魔狩りと称して辺りを駆け回ってる人間にはわからないだろうね、君たちがこんなところにいるなんて。ま、僕みたいな人造人間なら別だけど。ていうか、こんな叢を三日間も歩いて隠れてたの? どうせ、隠れたって無駄なのに。一か月後には、君たちは悪魔狩りをしてる馬鹿どもか、もしくは国の組織に殺されてるよ」
人が黙って聞いていればベラベラと、なんて饒舌なやつなんだ。
「この国は見せかけの平和でいっぱいだからねぇ。といっても、流れるニュースはいつも人の死ばかりなんだけど。まぁ、ニュースで報じれるような死だったら幸せだよね。裏でこそこそと殺されて、誰にその死を認知されるでもなく人生を終える人より、よっぽどね。君たちも気を付けないと、自分の存在が都市伝説的なものになって終わってしまうかもよ?」
「・・・あなた、なんなんですか?」
延々としゃべり続けるそいつにそう言い放ったのは、俺と同じ、目の前が見えていないはずの烏丸だった。
相手が誰かもわからないのに、どんな姿かもわからないのに、よく言えるよ、ほんと。
でも、おかげでこいつの五月蠅い話が止まった。
「なんなんですか? あー、さっき自己紹介はしたんだけどなー・・・もしかして忘れちゃった? あ、もしかして、君って忘れっぽい? 認知症ってやつ? でも、君の年齢的にそれはないか。いやでも、スマホによる認知症もあるって聞いたことがあるような・・・」
・・・止まっていなかった。
こいつ、常に話していないと死ぬ病気にでもかかってるのか?
「そういう意味じゃないわ。あなたが私たちの敵かどうか聞いてるのよ」
烏丸は落ち着いた声でそう言った。
この状況でよく声を震わさずに言えるな。
烏丸だって怖いだろうに。
「敵か味方か?」
「そうよ」
敵か味方か。
簡単な質問だ。
だが、重要なことだ。
でも、ここに来て味方ってオチはないだろう。
口ぶりから察するに、わざわざ俺らを探しにここに来たんだろうし。
俺らを探し出したってことは、ようは俺らを消しに来たってとこじゃないのか。
いやでも、さっき妙な言いぶりをしてたな。
『どうせ、隠れたって無駄なのに。一か月後には、君たちは悪魔狩りをしてる馬鹿どもか、もしくは国の組織に殺されてるよ』
あの言いぶりじゃあ、まるで自分は悪魔狩りの馬鹿でも、国の組織の奴でもないみたいじゃないか。
なら、こいつは味方なのか?
いや、信じるには早い。
相手の素性は一切分からないんだ。
相手の言いぶりや発言にこだわって考えてちゃ、こっちが簡単に騙されてしまう。
一番に信じるべきは、俺達三人だ。
こいつの意見には耳を貸すな。
言葉にも、何も。
例えこいつの返答が、味方だったとしても。
「んー、まぁ、別に君たちを殺そうなんて思ってないし、味方かな? いや、味方って言い方より、敵じゃないって言い方の方がしっくりくるかな。そもそも、僕が君たちを探して会いに来たのは、同族である君を一目見るためだしね」
敵じゃない、か。
同族を探して会いに来たっていうのは、もしかして幹の事だろうか。
もしかしなくても、幹しかいないか。
こいつの発言を信じるなら、同じ人造人間だしな。
いや、こいつのウソの可能性もあるんだ。
信じるな、耳を貸すな俺。
「私を一目・・・?」
「そ。君は人造人間だろ? あの黒鉄色の特殊な金属素材は、僕たち人造人間に用いられるものだ。名前は確か、グローウィングメタル。成長する金属ってやつだったはずだ。僕たち人造人間の体の骨組みは、全部これで出来ている。その上に、見せかけの皮膚の塊をくっつけてあるってわけ。君のあの写真の姿は、まさに人造人間そのものの姿だ。僕と同じ、人造人間の姿。僕は今まで同族の姿を見てこなかったが、あの写真を見た瞬間にすぐ同族と分かったよ。そして、分かったと同時に会いたくなった。だから会いに来た。これが僕がここに来た理由さ」
グローウィングメタル、聞いたことがないな。
まぁ、俺が知ってるような素材じゃなきゃおかしいか。
普通の素材じゃあ、ここまでの人造人間は作れないだろうしな。
しかし、こいつは本当に一体何者なんだ。
同じ人造人間ていうのは、もしかしたら本当かもしれない。
だが仮に人造人間だったとして、こいつを作ったのは誰なんだ。
いるのか、博士以外に人造人間を作ってるやつが。
「・・・私たちの敵じゃないというなら、今すぐここから静かに消えてくれるかしら」
冷たく言い放ったのは、お察しの通りの烏丸だ。
「あなたもわかっているでしょうけれど、私達は追われる身。あなたと駄弁ってる暇なんてないのよ」
まあ、確かにそうだ。
こんなとこでずっと会話してたら、そのうちバレるかもしれない。
いくら叢とはいえ、人が通りかからないとは言えない。
背高草に囲まれてるとはいえ、音は誤魔化せない。
無駄な会話は命取りだ。
「だから、逃げたって意味ないって」
だが、こいつは人の話を素直に聞きそうなタイプじゃない。
延々としゃべるお喋りくそロボットだ。
「逃げてるわけじゃないわ、私達は博士を助けに行くの」
烏丸の声に疲れが見える。
この三日間、ろくに疲れが取れていないんだ。
それなのにこんな厄介の相手は骨が折れるだろう。
「博士を? 博士がどこにいるのか分かるのかい?」
「それは・・・」
分からない。
幹が言うには
『国に攫われてるはずだから、国が所有してる何かに監禁されてるかも』
というあやふやな情報だし、正直見当がつかない。
そもそも、国が相手じゃ分が悪い。
俺らは高校一年生のガキ三人。
国家に反旗を翻すなんて不可能だ。
知識も経験も足りないのに、ここから博士を探し出すなんて至難だ。
「分からないんだろ? じゃあ結局意味ないよ。逃げても、博士を探しても、結末は変わらない。そう、死ってやつだ。まあ、国はまだ色々と手こずってるみたいだけど」
「手こずっている?」
思わず声が出た。
自分の生に関わる話だからだろうか。
いや、それはさっきからそうか。
だが、なんとなく声が出た。
気になったのだ、その言葉の意味を。
「そうさ。国が動き出してたら、とっくに君たちは見つかってる。国のお抱えの組織は、僕なんかよりよっぽど優秀だからね」
まるで知ってるような口ぶりだな。
もしかして、本当に知ってるのだろうか。
「君たちがよければ、僕が博士の救出に協力してあげてもいいよ?」
なんて考えていた時だった。
こいつの口からその言葉が吐かれたのは。
「協力? そんなの無理に決まっているでしょう」
『当然でしょう』という口ぶりで烏丸が答えた。
「なぜ無理なんだい?」
「信用できないからです・・・」
それに続くように幹が答えた。
「信用・・・はぁ、この期に及んでそんな言葉を使いますか。ならどうぞ、好きにしてください。僕は同族を見れたことですし、もうあなた達に用はないですから」
そんな二人の返答に、こいつはため息を吐いてそう言った。
「ええ、好きにさせてもらうわ」
これは、あれか、流れ的に、こいつが去る感じか。
確かにな、こんな奴を信じるより、味方を信じたほうがいい。
そう、味方を。
「それじゃ、僕はお暇させてもうよ」
味方。
味方だ。
今の味方は、烏丸と幹の二人。
俺の事を嫌う烏丸と、自分の存在があやふやな幹の二人。
予感がする。
こいつの話は聞かないでおこうと、耳を貸さないでおこうと思った。
だが、こいつの言う通り、俺らはこのまま行ったら死ぬ。
三日間は持った。
だがこれからは、これよりももっとしんどくなるはずだ。
この三人じゃ、死ぬ気がする。
「また会えたらいいね。それじゃ、バイバ――」
「待ってくれ」
声が出た。
咄嗟に、唐突に。
見えないそいつに声をかけた。
「なんだい、まだ僕と話したいの?」
「・・・協力しよう」
「ハァッ!?」
烏丸が声を上げた。
予想はしていた。
そりゃそうだ。
俺の意見は、二人とは違うのだから。
「へぇ、君はこの二人とは違うんだ」
「桐谷!! 勝手な真似しないでくれる!!? あなたが出しゃばったってろくなことないの!! あなたは黙って私たちの意見に――」
「優くんがそういうなら、私もそうする」
「なっ!? 幹まで!?」
「ありゃ、こりゃまたさっきと話が違うな」
「・・・優くんの言うことは、信じてるから・・・」
これで形勢逆転だ。
俺の意見の方が、多数決では勝ってる。
俺は死にたくない。
少しでも望みのある方に、俺は賭ける。
「ふーん・・・なら、望み通り協力してあげるよ」
「勝手に話を進めないで! 私はまだ・・・」
「なんだい? 僕は君には協力しないよ?」
「・・・え?」
「当たり前だろ、君は僕を拒んだじゃないか。今だって拒んでる」
「それは、だって幹が、幹が危ないから・・・・」
「当の本人は、君とは違う意見に賛成のようだけどね」
烏丸が焦っているのが分かる。
烏丸の思考もわかる。
こんな奴を信じるよりも、私を信じたほうが安全という思考だ。
だから、烏丸は幹をこいつのもとに置いておきたくない。
自分のそばにいるのが、一番安全なのだから。
だが、その思考が俺とは違う。
俺は自分を信用していない。
自分一人で、幹を助けれると思っていない。
烏丸のような知力はないし、幹のような速さもない。
俺には何もない。
だから、人に頼ってしまう。
いつもなら悪いとこだ。
だが今は違う。
自分を信じすぎて盲目になるよりかは、はるかに良い選択肢なはずだ。
そう思う。
それが俺の思考だ。
「・・・」
烏丸は黙っている。
沈黙だ。
音ひとつ立てず、黙っている。
「さて、じゃあ二人は僕についてきて。安全なところに連れて行ってあげるから」
そんな烏丸を無視して、こいつは喋り始めた。
「・・・分かりました」
俺も、烏丸の事を無視した。
「よーし、それじゃあさっそく――」
そんな時だ。
「私も連れてって・・・」
「ん? なんか言ったかい?」
「・・・私も・・・連れてって・・・」
悔しそうな、泣きそうな、哀しそうな、そんな声で、烏丸は小さくつぶやいた。
「・・・いいよ、しょうがないから。僕は優しいからね」
こいつの発言はきっと、今の烏丸を苦しめているだろう。
今の烏丸は、きっと醜い顔をしているに違いない。
「さて、じゃあ、これからは僕もみんなの味方ってことで、味方の証にこちらをプレゼントするよ!」
そんなこともお構いなしに、こいつは元気そうにそういい放った。
プレゼントということは、何かもらえるんだろうか。
味方の証のバッジとか入らないぞ。
出来ればライトが欲しい。
俺も周りが見えないのは不便だからな。
「プレゼントはこちら! 僕の特製、暗視眼鏡だよ!」
と思っていたら、想像の三倍はいいプレゼントだった。
「ということで、はい君。えっと、名前は・・・」
「桐谷優です。えっとあなたは・・・」
「僕の名前を忘れたのか? ったく、君も認知症の類かい? まあいいや、仕方ないからもう一度教えてあげるよ。僕の名前はフレジルーク、次は忘れないでよ」
こうして、俺はフレジルークからプレゼントを受け取った。
それと同時に、俺の味方が一人増えた。
新しい仲間だ。
最初に驚きの声を上げたのは、同じ人造人間である幹であった。
暗闇の中で周りは見えないが、幹の震える手の感触が、緊張を伝達する。
俺も幹の震えに心が揺られ、身体中から汗が噴き出てくる。
何も見えない、それだけでも怖いのに、眼前には人造人間と名乗る男がいるだなんて。
とにかく、何とかしてこの場を凌がないと。
下手したら、俺ら全員殺されることになる。
本当に殺されるのかは疑わしいけど、あまり実感は湧かないけど、危険なのは感じ取れる。
その危険が、最悪死をもたらす可能性があることも。
しかしどうする。
この暗闇に相手は人造人間だ。
いや、人造人間は虚実(ブラフ)かもしれないが、まあそこは後回しだ。
相手は少なくとも、この暗闇の中で俺らが見えている。
俺と烏丸は相手が見えていない。
見えているのは、幹一人だけだ。
俺と烏丸には、下手な行動はできない。
「こんな叢を進んでいくなんて、なかなか豪快だね、君たちは。でも、いい道を選んでるよ」
目の前のそいつは、俺たちの緊張を無視して話し始めた。
「悪魔狩りと称して辺りを駆け回ってる人間にはわからないだろうね、君たちがこんなところにいるなんて。ま、僕みたいな人造人間なら別だけど。ていうか、こんな叢を三日間も歩いて隠れてたの? どうせ、隠れたって無駄なのに。一か月後には、君たちは悪魔狩りをしてる馬鹿どもか、もしくは国の組織に殺されてるよ」
人が黙って聞いていればベラベラと、なんて饒舌なやつなんだ。
「この国は見せかけの平和でいっぱいだからねぇ。といっても、流れるニュースはいつも人の死ばかりなんだけど。まぁ、ニュースで報じれるような死だったら幸せだよね。裏でこそこそと殺されて、誰にその死を認知されるでもなく人生を終える人より、よっぽどね。君たちも気を付けないと、自分の存在が都市伝説的なものになって終わってしまうかもよ?」
「・・・あなた、なんなんですか?」
延々としゃべり続けるそいつにそう言い放ったのは、俺と同じ、目の前が見えていないはずの烏丸だった。
相手が誰かもわからないのに、どんな姿かもわからないのに、よく言えるよ、ほんと。
でも、おかげでこいつの五月蠅い話が止まった。
「なんなんですか? あー、さっき自己紹介はしたんだけどなー・・・もしかして忘れちゃった? あ、もしかして、君って忘れっぽい? 認知症ってやつ? でも、君の年齢的にそれはないか。いやでも、スマホによる認知症もあるって聞いたことがあるような・・・」
・・・止まっていなかった。
こいつ、常に話していないと死ぬ病気にでもかかってるのか?
「そういう意味じゃないわ。あなたが私たちの敵かどうか聞いてるのよ」
烏丸は落ち着いた声でそう言った。
この状況でよく声を震わさずに言えるな。
烏丸だって怖いだろうに。
「敵か味方か?」
「そうよ」
敵か味方か。
簡単な質問だ。
だが、重要なことだ。
でも、ここに来て味方ってオチはないだろう。
口ぶりから察するに、わざわざ俺らを探しにここに来たんだろうし。
俺らを探し出したってことは、ようは俺らを消しに来たってとこじゃないのか。
いやでも、さっき妙な言いぶりをしてたな。
『どうせ、隠れたって無駄なのに。一か月後には、君たちは悪魔狩りをしてる馬鹿どもか、もしくは国の組織に殺されてるよ』
あの言いぶりじゃあ、まるで自分は悪魔狩りの馬鹿でも、国の組織の奴でもないみたいじゃないか。
なら、こいつは味方なのか?
いや、信じるには早い。
相手の素性は一切分からないんだ。
相手の言いぶりや発言にこだわって考えてちゃ、こっちが簡単に騙されてしまう。
一番に信じるべきは、俺達三人だ。
こいつの意見には耳を貸すな。
言葉にも、何も。
例えこいつの返答が、味方だったとしても。
「んー、まぁ、別に君たちを殺そうなんて思ってないし、味方かな? いや、味方って言い方より、敵じゃないって言い方の方がしっくりくるかな。そもそも、僕が君たちを探して会いに来たのは、同族である君を一目見るためだしね」
敵じゃない、か。
同族を探して会いに来たっていうのは、もしかして幹の事だろうか。
もしかしなくても、幹しかいないか。
こいつの発言を信じるなら、同じ人造人間だしな。
いや、こいつのウソの可能性もあるんだ。
信じるな、耳を貸すな俺。
「私を一目・・・?」
「そ。君は人造人間だろ? あの黒鉄色の特殊な金属素材は、僕たち人造人間に用いられるものだ。名前は確か、グローウィングメタル。成長する金属ってやつだったはずだ。僕たち人造人間の体の骨組みは、全部これで出来ている。その上に、見せかけの皮膚の塊をくっつけてあるってわけ。君のあの写真の姿は、まさに人造人間そのものの姿だ。僕と同じ、人造人間の姿。僕は今まで同族の姿を見てこなかったが、あの写真を見た瞬間にすぐ同族と分かったよ。そして、分かったと同時に会いたくなった。だから会いに来た。これが僕がここに来た理由さ」
グローウィングメタル、聞いたことがないな。
まぁ、俺が知ってるような素材じゃなきゃおかしいか。
普通の素材じゃあ、ここまでの人造人間は作れないだろうしな。
しかし、こいつは本当に一体何者なんだ。
同じ人造人間ていうのは、もしかしたら本当かもしれない。
だが仮に人造人間だったとして、こいつを作ったのは誰なんだ。
いるのか、博士以外に人造人間を作ってるやつが。
「・・・私たちの敵じゃないというなら、今すぐここから静かに消えてくれるかしら」
冷たく言い放ったのは、お察しの通りの烏丸だ。
「あなたもわかっているでしょうけれど、私達は追われる身。あなたと駄弁ってる暇なんてないのよ」
まあ、確かにそうだ。
こんなとこでずっと会話してたら、そのうちバレるかもしれない。
いくら叢とはいえ、人が通りかからないとは言えない。
背高草に囲まれてるとはいえ、音は誤魔化せない。
無駄な会話は命取りだ。
「だから、逃げたって意味ないって」
だが、こいつは人の話を素直に聞きそうなタイプじゃない。
延々としゃべるお喋りくそロボットだ。
「逃げてるわけじゃないわ、私達は博士を助けに行くの」
烏丸の声に疲れが見える。
この三日間、ろくに疲れが取れていないんだ。
それなのにこんな厄介の相手は骨が折れるだろう。
「博士を? 博士がどこにいるのか分かるのかい?」
「それは・・・」
分からない。
幹が言うには
『国に攫われてるはずだから、国が所有してる何かに監禁されてるかも』
というあやふやな情報だし、正直見当がつかない。
そもそも、国が相手じゃ分が悪い。
俺らは高校一年生のガキ三人。
国家に反旗を翻すなんて不可能だ。
知識も経験も足りないのに、ここから博士を探し出すなんて至難だ。
「分からないんだろ? じゃあ結局意味ないよ。逃げても、博士を探しても、結末は変わらない。そう、死ってやつだ。まあ、国はまだ色々と手こずってるみたいだけど」
「手こずっている?」
思わず声が出た。
自分の生に関わる話だからだろうか。
いや、それはさっきからそうか。
だが、なんとなく声が出た。
気になったのだ、その言葉の意味を。
「そうさ。国が動き出してたら、とっくに君たちは見つかってる。国のお抱えの組織は、僕なんかよりよっぽど優秀だからね」
まるで知ってるような口ぶりだな。
もしかして、本当に知ってるのだろうか。
「君たちがよければ、僕が博士の救出に協力してあげてもいいよ?」
なんて考えていた時だった。
こいつの口からその言葉が吐かれたのは。
「協力? そんなの無理に決まっているでしょう」
『当然でしょう』という口ぶりで烏丸が答えた。
「なぜ無理なんだい?」
「信用できないからです・・・」
それに続くように幹が答えた。
「信用・・・はぁ、この期に及んでそんな言葉を使いますか。ならどうぞ、好きにしてください。僕は同族を見れたことですし、もうあなた達に用はないですから」
そんな二人の返答に、こいつはため息を吐いてそう言った。
「ええ、好きにさせてもらうわ」
これは、あれか、流れ的に、こいつが去る感じか。
確かにな、こんな奴を信じるより、味方を信じたほうがいい。
そう、味方を。
「それじゃ、僕はお暇させてもうよ」
味方。
味方だ。
今の味方は、烏丸と幹の二人。
俺の事を嫌う烏丸と、自分の存在があやふやな幹の二人。
予感がする。
こいつの話は聞かないでおこうと、耳を貸さないでおこうと思った。
だが、こいつの言う通り、俺らはこのまま行ったら死ぬ。
三日間は持った。
だがこれからは、これよりももっとしんどくなるはずだ。
この三人じゃ、死ぬ気がする。
「また会えたらいいね。それじゃ、バイバ――」
「待ってくれ」
声が出た。
咄嗟に、唐突に。
見えないそいつに声をかけた。
「なんだい、まだ僕と話したいの?」
「・・・協力しよう」
「ハァッ!?」
烏丸が声を上げた。
予想はしていた。
そりゃそうだ。
俺の意見は、二人とは違うのだから。
「へぇ、君はこの二人とは違うんだ」
「桐谷!! 勝手な真似しないでくれる!!? あなたが出しゃばったってろくなことないの!! あなたは黙って私たちの意見に――」
「優くんがそういうなら、私もそうする」
「なっ!? 幹まで!?」
「ありゃ、こりゃまたさっきと話が違うな」
「・・・優くんの言うことは、信じてるから・・・」
これで形勢逆転だ。
俺の意見の方が、多数決では勝ってる。
俺は死にたくない。
少しでも望みのある方に、俺は賭ける。
「ふーん・・・なら、望み通り協力してあげるよ」
「勝手に話を進めないで! 私はまだ・・・」
「なんだい? 僕は君には協力しないよ?」
「・・・え?」
「当たり前だろ、君は僕を拒んだじゃないか。今だって拒んでる」
「それは、だって幹が、幹が危ないから・・・・」
「当の本人は、君とは違う意見に賛成のようだけどね」
烏丸が焦っているのが分かる。
烏丸の思考もわかる。
こんな奴を信じるよりも、私を信じたほうが安全という思考だ。
だから、烏丸は幹をこいつのもとに置いておきたくない。
自分のそばにいるのが、一番安全なのだから。
だが、その思考が俺とは違う。
俺は自分を信用していない。
自分一人で、幹を助けれると思っていない。
烏丸のような知力はないし、幹のような速さもない。
俺には何もない。
だから、人に頼ってしまう。
いつもなら悪いとこだ。
だが今は違う。
自分を信じすぎて盲目になるよりかは、はるかに良い選択肢なはずだ。
そう思う。
それが俺の思考だ。
「・・・」
烏丸は黙っている。
沈黙だ。
音ひとつ立てず、黙っている。
「さて、じゃあ二人は僕についてきて。安全なところに連れて行ってあげるから」
そんな烏丸を無視して、こいつは喋り始めた。
「・・・分かりました」
俺も、烏丸の事を無視した。
「よーし、それじゃあさっそく――」
そんな時だ。
「私も連れてって・・・」
「ん? なんか言ったかい?」
「・・・私も・・・連れてって・・・」
悔しそうな、泣きそうな、哀しそうな、そんな声で、烏丸は小さくつぶやいた。
「・・・いいよ、しょうがないから。僕は優しいからね」
こいつの発言はきっと、今の烏丸を苦しめているだろう。
今の烏丸は、きっと醜い顔をしているに違いない。
「さて、じゃあ、これからは僕もみんなの味方ってことで、味方の証にこちらをプレゼントするよ!」
そんなこともお構いなしに、こいつは元気そうにそういい放った。
プレゼントということは、何かもらえるんだろうか。
味方の証のバッジとか入らないぞ。
出来ればライトが欲しい。
俺も周りが見えないのは不便だからな。
「プレゼントはこちら! 僕の特製、暗視眼鏡だよ!」
と思っていたら、想像の三倍はいいプレゼントだった。
「ということで、はい君。えっと、名前は・・・」
「桐谷優です。えっとあなたは・・・」
「僕の名前を忘れたのか? ったく、君も認知症の類かい? まあいいや、仕方ないからもう一度教えてあげるよ。僕の名前はフレジルーク、次は忘れないでよ」
こうして、俺はフレジルークからプレゼントを受け取った。
それと同時に、俺の味方が一人増えた。
新しい仲間だ。
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