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探偵のクリスマスプレゼント
⑮ 第一発見者の憶測
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希杏と根津はホワイトイーグルに着いた。そのレストランはカジュアルな服では入りづらい店であったが、希杏は高校の制服、根津はスーツだったから、あまり固く思わず入ることができた。
そのとき、店内の時計が午後七時を回ったころだった。
二人はあるテーブルの所に真っ直ぐ進んだ。
「真佑美さん、店長さん、こんばんは。こんな所で夕食なんて優雅ですね」
希杏は真佑美と店長の身の回りのものに目を向けた。真佑美は特に違和感はなかったが、店長の座る椅子には見覚えのある青い手編みのマフラーがかかっていた。
「そんなことないわ。――あなたもここでお食事?」
「いいえ。今回の事件の謎解きに参りました」
「謎解き? ほう。犯人は一体どなたですか?」
「何をおっしゃいますか、店長さん。あなたじゃないですか」
希杏と真佑美たちの会話をじっと聞いていた根津は、店長の目が泳いだのを見逃さなかった。
「どうして私が? 動機がありません」
「その通りです。そこでもう一人の犯人が出てくるわけです。そう、真佑美さんです」
「どういうこと? さっぱりわからないわ」
「まあ、これから説明しますよ。――こんな所ではあれなので、外に行きましょう」
希杏と根津は真佑美と店長を連れて、店の外に出た。真佑美はコートを着て、店長は青いマフラーをつけている。外ではちくちく刺さるような冷たい空気が肌にあたっている。
「さっき私が犯人と言っていたけど、どうして?」
「あなたは嘘をついたからです。あなたは愛人のことを知ったとき、電話で聞いたとおっしゃいましたね。でも、違うんですよ。愛人に話を聞いたところ、弘樹さんとはメールでしか連絡を取っていなかったと言うんです。きっとあなたはそのメールを見て、何か自分の不都合なことが書いてあり、私に嘘を言ったんです」
「……ええ、そうよ。でも、どうやって殺したというの?」
「では説明しましょう。まず、真佑美さんはどこかで弘樹さんを殺害し、五が丘セントラルホテルに運びました」
「それは無理よ。夫は私よりも体重があるから運べないわ」
「ええ。あなたは運んでいません。そこで登場するのが店長さんです。男性の店長さんなら、運べるはずです」
「でも、人なんか運んでいたら怪しまれます」
「ええ、普通なら。でも、昨日なら誰にも怪しまれないで人を運ぶことができます。中央通りクリスマスイベントのサンタさんになればいいんです。いくらサンタさんとはいえ、大きな荷物だけを持っていたら不思議に思いますが、いくつかのプレゼントと一緒に持っていれば何とも思いません」
店長さんはその通りだ、と言わんばかりに息をふうっと吐いた。
「そのあと、深夜になってから店長さんは302号室に弘樹さんを運びました。深夜といっても一一時前ぐらいですかね」
「どうして時間まで?」
と、真佑美が聞いた。
「それは弘樹さんの愛人の一人のホテルスタッフが、昨日の夜一一時に302号室に来るように言われていたからです。きっと、彼女は第一発見者にされて殺人の罪をかぶせられようとしていたんですね」
第一発見者が一番怪しい。こんなのはミステリでは常識だ。
「これで真佑美さんが302号室に泊まらなかったのも説明がつきます。いつも利用する部屋で殺されていたら、不自然ではないし、第一発見者が疑われやすくなりますからね。でも、結局、そのホテルスタッフは一一時と十七時を聞き間違えて、犯人にはされなかったようですが」
「凶器は何だったのよ?」
「店長さんがつけている青いマフラーです。弘樹さんの首許から青い繊維が検出されました」
「じゃあ、動機は何だっていうのよ? 私は夫を愛していたわ」
「そう、その愛です。あなたは愛しているが故に彼を殺したんです。あなたは去年のクリスマスに手編みのマフラーをプレゼントするほど、弘樹さんを愛していました。しかし、彼の方は愛人を二人もつくっていた。自分はあなたを愛してるのに、何であなたは……という感情が積もって殺してしまった」
すると、真佑美は負けた、というように肩の力を落として、その通りよ、と言った。
「あの人は、私を愛してくれなかった! 私はあんなに愛しているのに!」
「そうだったかもしれません。しかし、弘樹さんはこれからあなたを再び愛そうと思っていました。その証拠に、今日あなたとあんなきれいなレストランで食事をしようとしていた」
すると、店長は不思議そうな目で真佑美を見た。
「店長さんは知らなかったみたいですね。そう、ホワイトイーグルは本来、弘樹さんが真佑美さんと行くレストランだったのです」
店長は悲しい目をしたが、そこに怒りはなかった。
「それに、いつも手編みのマフラーをつけていたそうです。これは愛の証とは言えませんか?」
真佑美の表情はどんどん曇っていった。
「それはまだあなたの憶測ですよね?」
店長がまるで真佑美をかばうかのように聞いた。
「ええ。でも、真佑美さんも店長さんも、いずれ事件の参考人になるでしょう。そのときに警察が調べればあなたたちが犯人であることは証明されるでしょう」
すると、真佑美は力のなくあなたはまるで探偵みたいね、と呟いた。
「私はただの第一発見者ですよ」
そのとき、店内の時計が午後七時を回ったころだった。
二人はあるテーブルの所に真っ直ぐ進んだ。
「真佑美さん、店長さん、こんばんは。こんな所で夕食なんて優雅ですね」
希杏は真佑美と店長の身の回りのものに目を向けた。真佑美は特に違和感はなかったが、店長の座る椅子には見覚えのある青い手編みのマフラーがかかっていた。
「そんなことないわ。――あなたもここでお食事?」
「いいえ。今回の事件の謎解きに参りました」
「謎解き? ほう。犯人は一体どなたですか?」
「何をおっしゃいますか、店長さん。あなたじゃないですか」
希杏と真佑美たちの会話をじっと聞いていた根津は、店長の目が泳いだのを見逃さなかった。
「どうして私が? 動機がありません」
「その通りです。そこでもう一人の犯人が出てくるわけです。そう、真佑美さんです」
「どういうこと? さっぱりわからないわ」
「まあ、これから説明しますよ。――こんな所ではあれなので、外に行きましょう」
希杏と根津は真佑美と店長を連れて、店の外に出た。真佑美はコートを着て、店長は青いマフラーをつけている。外ではちくちく刺さるような冷たい空気が肌にあたっている。
「さっき私が犯人と言っていたけど、どうして?」
「あなたは嘘をついたからです。あなたは愛人のことを知ったとき、電話で聞いたとおっしゃいましたね。でも、違うんですよ。愛人に話を聞いたところ、弘樹さんとはメールでしか連絡を取っていなかったと言うんです。きっとあなたはそのメールを見て、何か自分の不都合なことが書いてあり、私に嘘を言ったんです」
「……ええ、そうよ。でも、どうやって殺したというの?」
「では説明しましょう。まず、真佑美さんはどこかで弘樹さんを殺害し、五が丘セントラルホテルに運びました」
「それは無理よ。夫は私よりも体重があるから運べないわ」
「ええ。あなたは運んでいません。そこで登場するのが店長さんです。男性の店長さんなら、運べるはずです」
「でも、人なんか運んでいたら怪しまれます」
「ええ、普通なら。でも、昨日なら誰にも怪しまれないで人を運ぶことができます。中央通りクリスマスイベントのサンタさんになればいいんです。いくらサンタさんとはいえ、大きな荷物だけを持っていたら不思議に思いますが、いくつかのプレゼントと一緒に持っていれば何とも思いません」
店長さんはその通りだ、と言わんばかりに息をふうっと吐いた。
「そのあと、深夜になってから店長さんは302号室に弘樹さんを運びました。深夜といっても一一時前ぐらいですかね」
「どうして時間まで?」
と、真佑美が聞いた。
「それは弘樹さんの愛人の一人のホテルスタッフが、昨日の夜一一時に302号室に来るように言われていたからです。きっと、彼女は第一発見者にされて殺人の罪をかぶせられようとしていたんですね」
第一発見者が一番怪しい。こんなのはミステリでは常識だ。
「これで真佑美さんが302号室に泊まらなかったのも説明がつきます。いつも利用する部屋で殺されていたら、不自然ではないし、第一発見者が疑われやすくなりますからね。でも、結局、そのホテルスタッフは一一時と十七時を聞き間違えて、犯人にはされなかったようですが」
「凶器は何だったのよ?」
「店長さんがつけている青いマフラーです。弘樹さんの首許から青い繊維が検出されました」
「じゃあ、動機は何だっていうのよ? 私は夫を愛していたわ」
「そう、その愛です。あなたは愛しているが故に彼を殺したんです。あなたは去年のクリスマスに手編みのマフラーをプレゼントするほど、弘樹さんを愛していました。しかし、彼の方は愛人を二人もつくっていた。自分はあなたを愛してるのに、何であなたは……という感情が積もって殺してしまった」
すると、真佑美は負けた、というように肩の力を落として、その通りよ、と言った。
「あの人は、私を愛してくれなかった! 私はあんなに愛しているのに!」
「そうだったかもしれません。しかし、弘樹さんはこれからあなたを再び愛そうと思っていました。その証拠に、今日あなたとあんなきれいなレストランで食事をしようとしていた」
すると、店長は不思議そうな目で真佑美を見た。
「店長さんは知らなかったみたいですね。そう、ホワイトイーグルは本来、弘樹さんが真佑美さんと行くレストランだったのです」
店長は悲しい目をしたが、そこに怒りはなかった。
「それに、いつも手編みのマフラーをつけていたそうです。これは愛の証とは言えませんか?」
真佑美の表情はどんどん曇っていった。
「それはまだあなたの憶測ですよね?」
店長がまるで真佑美をかばうかのように聞いた。
「ええ。でも、真佑美さんも店長さんも、いずれ事件の参考人になるでしょう。そのときに警察が調べればあなたたちが犯人であることは証明されるでしょう」
すると、真佑美は力のなくあなたはまるで探偵みたいね、と呟いた。
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