13 / 136
幕末動乱篇3 攘夷決行
攘夷決行(3)
しおりを挟む
扉を叩き壊して、中に入った三人は、建築用の木材が積み重なっている、作業中の場所を見つけた。
「ここでなんとかなるじゃろうか」
聞多が福原に声をかけた。
「ようし、ここに火をつけよう」
福原が焼玉を取り出すと、聞多と堀も続いた。
カンナ屑など燃えやすそうなものを集めて、その上に焼玉を置き、板などを重ねて火をつけた。この時、聞多は一つ手元に残していた。もう逃げようと福原が声をかけたので、立ち去ろうとした。
火の行方を気にしながら聞多は何度も振り返った。思ったよりも火が強くないことに、聞多は不安になった。一人立ち戻り建築資材や紙を見つけて、火が点いているところに載せた。もう一山作り残していた焼玉に火をつけた。
今度は二箇所から火が勢いよく出たので、慌てて外に出た聞多は入り口を見失った。
声をかけようにも二人はすでに立ち去っていて見当たらない。
落ち着けと自分に言い聞かせながら周りを見渡した。低い塀がずっと並んでいて、暗い中ではどこから来たのかわからなかった。仕方がない。ここならと適当なところから柵を飛び越えたところ、空堀に落ちてしまった。
「うわぁ、痛いのう」
あぁやらかしたなぁと何故か冷静に星空を見ていた。このままでは捕まるとかは、なぜか思わなかった。ただ己の小ささを感じていた。しかしこのままでいるわけにもいかず、泥まみれになりながら、道にどうにかあがった。泥を叩こうとしたが、全身の泥の様子を見て諦めた。
このざまではそうそう立ち歩けないと思い、とりあえず一番近そうな高輪の手引茶屋に入った。
「ちょっとすまん」
聞多が店に入りながら声をかけた。
「あら、旦那様大変なお姿で」
店のものが声をかけてきた。
「先程品川の方を歩いていたら、なんかすごい騒ぎがあって、空堀に落ちてしまった。今日は馴染みと、しかと約束しておったので、行かぬ訳にはならぬのだ」
愚痴を言うように説明をした。こういう店は余計な詮索もしないので、気が楽だった。
「わかりました。お召し替えのご用意もいたしましょう。座敷の方へお上がりください」
「うむ、たのむ」
声をかけた。そして通された座敷に入った。
汚れた羽織と袴を脱ぎ、羽織につけてあった木綿布を剥ぎ取り、着替えが来るのを待った。やっと生きた心地に包まれて、我に返るとこんなものかという、気概のかけらしか残っていなかった。膳には手を付けず、畳に大の字に横たわりぼうっと天井を眺めていた。
「お召し替えをお持ちしました」という声がしたので、起き上がった。女中から着物を受け取ると、すぐに着替えた。そして着ていたものを女中に渡した。
「洗濯しまして、お店の方へお持ちします」
「よろしく頼む」
そう言うと先程までいた土蔵相模に送りつけてもらった。
「お里は空いておるか」
「大丈夫でございます」
座敷に通されると、お里がやってきた。聞多の顔を見ると、一瞬ホッとしたようだった。何も言わずに抱きついてきて、聞多はその胸元に顔を埋めた。
「生きておるということじゃな」
「そのとおりでございます」
お里を布団に横たえ、組み敷くと帯を解いた。
馴染みのお里に相手をしてもらい、身も心も弛緩した聞多は翌朝まで寝ていた。
一方それぞれの場所で焼ける公使館眺めるなりしていた面々は、夜明けを待つことなく藩邸に戻ってきていた。俊輔も早々と戻り有備館に入ってくる顔に聞多を探していた。山尾や品川を見つけホッとしていたが、肝心の聞多が帰ってきていなかった。最後に入ってきた高杉を見て、俊輔は駆け寄った。
「聞多さんが帰ってきていないそうです。ここにはいません。長嶺さんや大和さんも見ていないと言ってます」
「もしや取締方となにかあったのでは」
不安そうに俊輔といっしょにいた山尾も言った。
「聞多に限ってそれはないだろう。わかった。心当たりを探してくる。この事騒ぎにするなよ」
俊輔と山尾にそう言うと高杉は、解散の号令をかけた。
「皆の無事なにより。しばらくおとなしく過ごすと良い」
皆が出ていく様子を眺めながら、高杉はとりあえずどこから行こうかと考えた。こういうときは最初に戻るものだと土蔵相模に向かった。
「あいつは来てるか」
と馴染みの店の者に声をかけると「おいでになってますよ」という話だった。
そして聞多の居る部屋に通してもらった。部屋には布団にくるまり一人でタバコを吹かしている聞多がいた。ふすまの開いた音に振り返ったところで目があった。
「こんな夜でも女をだけるとは」
高杉が声をかけた。
「よくここがわかったものじゃの。おなごはええぞ。死んだところから生きてるのがわかってのう。しかもよく寝られた」
「笑っている場合でも無かろう。下手人探しでも始まると厄介だ。さっさと帰ろう」
「ああわかった」
聞多は答えると、急遽洗濯されて届けられた着物に袖を通して、身なりを整えると店を後にした。
藩邸への道すがら、空堀に落ちて泥まみれになりどうにか店にたどり着いたことを話した。高杉は俊輔の心配ぶりを説明して、聞多にきちんと話をしておけと言った。一人で有備館に入ると俊輔が膝を抱えて座っていた。
「待たせたのう」
聞多が俊輔の顔に近づけながらいった。
「よかった。心配したんですよ」
「高杉にも呆れられた。まぁやらかしてないとは言えんからの」
笑いながら言うと、昨夜のことを説明した。
「笑い事じゃないですよ。本当」
するといくつかの足音がして止まった。
「ああ良かった。ここにいた」
長嶺が聞多に声をかけた。続けて大和が言った。
「周布さんじゃなかった。麻田さんが聞多を連れてこいって言ってる。一緒に行こう」
「ああわかった。俊輔すまん」
聞多は長嶺と大和に連れられて、去っていった。ずっと待っていたのは僕なのに。俊輔は、思わず独り言を呟いた。
「僕も一緒のはずじゃ。なのにの。僕は置いていかれる。ずっと待たされるだけかの」
俊輔は一人立ち上がり部屋を後にした。
麻田に集められた者たちは、取締方から目を盗むように、数名づつ江戸から立ち去り、京へ向かうように指示された。聞多は大和や長嶺と2日後江戸を発つことにした。
久坂と山縣半蔵は水戸に行きその後信濃に周り松代で佐久間象山に会い、我が藩に勧誘するという。その話を聞いた聞多は、京でぜひその話を聞きたいから、着いたら必ず声をかけてほしいと二人に言った。
それぞれが江戸を立ち去っても、高杉は動こうとしなかった。
「ここでなんとかなるじゃろうか」
聞多が福原に声をかけた。
「ようし、ここに火をつけよう」
福原が焼玉を取り出すと、聞多と堀も続いた。
カンナ屑など燃えやすそうなものを集めて、その上に焼玉を置き、板などを重ねて火をつけた。この時、聞多は一つ手元に残していた。もう逃げようと福原が声をかけたので、立ち去ろうとした。
火の行方を気にしながら聞多は何度も振り返った。思ったよりも火が強くないことに、聞多は不安になった。一人立ち戻り建築資材や紙を見つけて、火が点いているところに載せた。もう一山作り残していた焼玉に火をつけた。
今度は二箇所から火が勢いよく出たので、慌てて外に出た聞多は入り口を見失った。
声をかけようにも二人はすでに立ち去っていて見当たらない。
落ち着けと自分に言い聞かせながら周りを見渡した。低い塀がずっと並んでいて、暗い中ではどこから来たのかわからなかった。仕方がない。ここならと適当なところから柵を飛び越えたところ、空堀に落ちてしまった。
「うわぁ、痛いのう」
あぁやらかしたなぁと何故か冷静に星空を見ていた。このままでは捕まるとかは、なぜか思わなかった。ただ己の小ささを感じていた。しかしこのままでいるわけにもいかず、泥まみれになりながら、道にどうにかあがった。泥を叩こうとしたが、全身の泥の様子を見て諦めた。
このざまではそうそう立ち歩けないと思い、とりあえず一番近そうな高輪の手引茶屋に入った。
「ちょっとすまん」
聞多が店に入りながら声をかけた。
「あら、旦那様大変なお姿で」
店のものが声をかけてきた。
「先程品川の方を歩いていたら、なんかすごい騒ぎがあって、空堀に落ちてしまった。今日は馴染みと、しかと約束しておったので、行かぬ訳にはならぬのだ」
愚痴を言うように説明をした。こういう店は余計な詮索もしないので、気が楽だった。
「わかりました。お召し替えのご用意もいたしましょう。座敷の方へお上がりください」
「うむ、たのむ」
声をかけた。そして通された座敷に入った。
汚れた羽織と袴を脱ぎ、羽織につけてあった木綿布を剥ぎ取り、着替えが来るのを待った。やっと生きた心地に包まれて、我に返るとこんなものかという、気概のかけらしか残っていなかった。膳には手を付けず、畳に大の字に横たわりぼうっと天井を眺めていた。
「お召し替えをお持ちしました」という声がしたので、起き上がった。女中から着物を受け取ると、すぐに着替えた。そして着ていたものを女中に渡した。
「洗濯しまして、お店の方へお持ちします」
「よろしく頼む」
そう言うと先程までいた土蔵相模に送りつけてもらった。
「お里は空いておるか」
「大丈夫でございます」
座敷に通されると、お里がやってきた。聞多の顔を見ると、一瞬ホッとしたようだった。何も言わずに抱きついてきて、聞多はその胸元に顔を埋めた。
「生きておるということじゃな」
「そのとおりでございます」
お里を布団に横たえ、組み敷くと帯を解いた。
馴染みのお里に相手をしてもらい、身も心も弛緩した聞多は翌朝まで寝ていた。
一方それぞれの場所で焼ける公使館眺めるなりしていた面々は、夜明けを待つことなく藩邸に戻ってきていた。俊輔も早々と戻り有備館に入ってくる顔に聞多を探していた。山尾や品川を見つけホッとしていたが、肝心の聞多が帰ってきていなかった。最後に入ってきた高杉を見て、俊輔は駆け寄った。
「聞多さんが帰ってきていないそうです。ここにはいません。長嶺さんや大和さんも見ていないと言ってます」
「もしや取締方となにかあったのでは」
不安そうに俊輔といっしょにいた山尾も言った。
「聞多に限ってそれはないだろう。わかった。心当たりを探してくる。この事騒ぎにするなよ」
俊輔と山尾にそう言うと高杉は、解散の号令をかけた。
「皆の無事なにより。しばらくおとなしく過ごすと良い」
皆が出ていく様子を眺めながら、高杉はとりあえずどこから行こうかと考えた。こういうときは最初に戻るものだと土蔵相模に向かった。
「あいつは来てるか」
と馴染みの店の者に声をかけると「おいでになってますよ」という話だった。
そして聞多の居る部屋に通してもらった。部屋には布団にくるまり一人でタバコを吹かしている聞多がいた。ふすまの開いた音に振り返ったところで目があった。
「こんな夜でも女をだけるとは」
高杉が声をかけた。
「よくここがわかったものじゃの。おなごはええぞ。死んだところから生きてるのがわかってのう。しかもよく寝られた」
「笑っている場合でも無かろう。下手人探しでも始まると厄介だ。さっさと帰ろう」
「ああわかった」
聞多は答えると、急遽洗濯されて届けられた着物に袖を通して、身なりを整えると店を後にした。
藩邸への道すがら、空堀に落ちて泥まみれになりどうにか店にたどり着いたことを話した。高杉は俊輔の心配ぶりを説明して、聞多にきちんと話をしておけと言った。一人で有備館に入ると俊輔が膝を抱えて座っていた。
「待たせたのう」
聞多が俊輔の顔に近づけながらいった。
「よかった。心配したんですよ」
「高杉にも呆れられた。まぁやらかしてないとは言えんからの」
笑いながら言うと、昨夜のことを説明した。
「笑い事じゃないですよ。本当」
するといくつかの足音がして止まった。
「ああ良かった。ここにいた」
長嶺が聞多に声をかけた。続けて大和が言った。
「周布さんじゃなかった。麻田さんが聞多を連れてこいって言ってる。一緒に行こう」
「ああわかった。俊輔すまん」
聞多は長嶺と大和に連れられて、去っていった。ずっと待っていたのは僕なのに。俊輔は、思わず独り言を呟いた。
「僕も一緒のはずじゃ。なのにの。僕は置いていかれる。ずっと待たされるだけかの」
俊輔は一人立ち上がり部屋を後にした。
麻田に集められた者たちは、取締方から目を盗むように、数名づつ江戸から立ち去り、京へ向かうように指示された。聞多は大和や長嶺と2日後江戸を発つことにした。
久坂と山縣半蔵は水戸に行きその後信濃に周り松代で佐久間象山に会い、我が藩に勧誘するという。その話を聞いた聞多は、京でぜひその話を聞きたいから、着いたら必ず声をかけてほしいと二人に言った。
それぞれが江戸を立ち去っても、高杉は動こうとしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる