【完結】奔波の先に~井上聞多と伊藤俊輔~幕末から維新の物語

瑞野明青

文字の大きさ
45 / 136
幕末動乱篇9 薩長同盟

薩長同盟(5)

しおりを挟む
 山口の政庁に向かい山田や広沢と会った聞多は、基本方針を確認していた。なるべく速やかに木戸の京への派遣を決定したいということだ。

 まずは殿にお目通りを願った。
「この度お目通りをお願いしたのは、木戸様の薩摩との関係を作る為上京をする件についてでございます」
「木戸や広沢からも話は聞いておる」
「藩要路の方々は、薩摩との連携につき皆進めることで一致しております。しかし、先だっての京での戦になった件での、薩摩の動きに憤りのあるものが、特に奇兵隊や諸隊には多くございます。木戸様の上京は薩摩の要路、筆頭家老の小松様のお申し入れでもあり、ぜひともお受けしたいことなのです。殿におきましてもこれらのことご理解いただきたく、奏上いたします」
「聞多の申す事、考えておく」
「ありがたき幸せにございます」
 殿には皆で話をしていき、切実なことと思っていただくしかないのだろう。

 今度はもっと重大でやっかいな相手だ。理解を示してくれない諸隊に、話し合いをする為、向かうことにした。その中でも一番強硬だと言われているのが御楯隊の御堀耕助なので、聞多は二人きりでの対面を願った。

「忙しい所申し訳ない。何しろ時間もないのじゃ」
 聞多が切り出した。
「薩摩との連携のことですか。木戸さんを京に送るという話」
「そうじゃ。武器の購入で骨を折ってもらって、その先に進みたいというのが木戸さんを始めとする藩要路の考えじゃ。もちろんわしもそう思うちょる」
「我らは薩摩に痛い思いをさせらてます。痛い思いじゃ軽いですな。恨んでいるものが多いのですよ」
「朝敵とされたあの京での事件は、薩摩だけが悪いわけでもなかろう。実際高杉などが反対していたしの」
「それは井上さんが、あの戦の当事者としての意識がないからじゃ」
「久坂だって同志じゃ、ましてや来島様は遠縁なお人じゃ、かかわった人が身内におらんなんて、そうはないはずじゃ」
「なればこそ、悔しゅうないんですか。薩摩があのような態度をとらんかったら、あのような最期には」
「そりゃ悔しいが、そこでこだわっておっても前には進めんだろ」
「いや我らには亡くなった人たちが、薩摩との話を喜ぶとは思えんのです」
「そうは言っても、そもそも死者に和解はできまい。死者が和解をできなければ、生きとる我らも、和解できないというのは納得できんの。そんなこと言うとったら、生きとるもんはなにもできんじゃないか」
「我らの意見は変わりません。薩摩と手を組むのは時期尚早です」
「そうか。それは残念なことじゃ」

 聞多は引き下がるしかなかった。しかし、御堀のこのような意見が通じるのも、どうかしているとしか思えない。進歩を拒んでどうする。新しい世を作らねば、死んでいった者たちに顔向けができない。
 これでは表向きと実が伴わないままだ。事を成すなど無理ではないか、とあきらめが出てくる。そもそも割拠など無理だし、富国ですらならないのではと考えてしまう。

 それにしても、黒田に木戸さんが同行できそうもないことを、どう説明したらええんじゃろ。

 木戸の説得の状況も確認したいが、こちらも進んでいないのでは合わせる顔がないなとひたすら落ち込んでいた。そんな時政庁に集まり皆で至急対策を立てるように要請が来た。
 聞多はあきらめた状態で向かった。
「聞多、君の状況はどうなのか」
 木戸がまず聞多を指名した。
「殿への奏上は行いました。ただし、一番問題の御楯隊の協力は得ることができませんでした」
「私のほうも前原一誠の説得に失敗した。これでは薩摩との提携はかなわぬことになろう」
 木戸はひどく気落ちしているようだった。

 聞多は広沢のほうに向きなおって言った。
「広沢さん、殿から木戸さんへの上京の命を出してもらうわけにはいかんのでしょうか」
「それは考えてみる。世子様にもご協力いただこう」
「私はこの件うまくいかなければ、お役目をはたすことできない身を恥じて出仕を控えようと思う」
「木戸さんそのようなこと言ってはダメじゃ。束ねとして仕切って欲しいんじゃ」
 聞多がいつものように言った。
「ここまで来ても、突破口が見つからないのは、やはり無理ということではないのか」
 木戸はほとんどあきらめていた。
「安請け合いはできないけれど、とにかく君側の動きで変えられることはやっていきたい」
 広沢が深刻な雰囲気で言うので、木戸も聞多も任せるしかないと思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...