【完結】奔波の先に~井上聞多と伊藤俊輔~幕末から維新の物語

瑞野明青

文字の大きさ
92 / 136
明治維新編7 秩禄処分のゆくえ

秩禄処分のゆくえ(6)

しおりを挟む
 昨年発生した台湾に漂着した琉球民の台湾人による殺害事件は、台湾征伐の意見が強くなっていた。黒田や西郷を中心とする薩摩派が台湾への出兵を建議するなどしていた。出兵に対して反対の馨には、頭の痛い状態が続いていた。
「まずは、琉球について清への貢献を改めさせ、我が国の支配域であることを確認し、藩もしくは県として編入せしめるべきだ」
 といういわゆる琉球について日本の領土とし県を置くといった処分の建議を行っていた。

 しかし左院からは大蔵省の管轄とせず、外務省が様子を見ることになった。馨はこの後外務卿自ら清に行くことに関しても、大蔵省の陸奥宗光を送り込むほうが良いとまで言い張った。そして、木戸にはこの事件の平和的解決のため帰国を願う文を送った。

 会議は代理の渋沢に任せたが、自分でも、三条太政大臣に対して言いたいことがあったようだった。
「台湾への出兵は侵略に当たること。出兵には費用がかさみ会計が耐えられないこと。そして得失を考えると失うほうが多い。第一、約定書の協議の必要な事案であること。未だ兵制が整わないことから兵力に問題がある」
 などを建議を行っていた。

 何が何でもここは、台湾の影にいる清への刺激も含めて、穏便にことを進めるようにせねばならなかった。
「何よりも国内の整備が整っていない内に、国外のことまで手を出すのは問題だ。まず国内を富ませて後に軍備であるべきだ」と会議の席上、馨は言った。
 そして派兵をとりあえず断念させることに成功していた。

 しかし、木戸の帰国は叶わなかった。

 それどころか、秩禄処分について大蔵省案は過酷にすぎるので疑問があるという文が送られててきた。木戸の案を現実的に変更したつもりだった馨には、すぐには飲み込めなかった。

 省庁の人事も変更があった。馨の推挙した江藤新平が司法卿になったのだ。

 ある日馨は見慣れない青年の訪問を受けていた。
「先日、岡田平蔵さんにご紹介頂き、知己をえさせていただきました。益田孝です」
「よう参ったの。まぁ、座れ。長うなるかもしれんからの」

 いたずらっぽく馨は笑っていた。益田はその目を見て少し驚いていた。いかにも面白いというふうに眼からして笑っていた。これは心から歓迎されているということなのだろうか。大蔵大輔という今や我が国の一番の省庁を束ねる人ということで身構えていたが、切れ者な感じと鷹揚さとあいまっているように見えた。

「はい、それでは失礼します」
「横浜でもイギリス商館で仕事をしていたこともあるとか。英語は達者だと聞いたが」
「はい、仕事においても日常業務なれば支障はございません」
「それはええ。どうじゃ。大蔵の仕事に少しは興味を持ったかの」
「少しは。しかし行っている業務が多岐にわたっており、どの仕事がというのがよくわかりませぬ」
 馨の発する質問に、率直に回答する益田に好感を抱くようになっていた。
「そうじゃな。おぬし大阪の造幣寮に金銀を分析、卸す仕事をしていたようだが」
「実は、造幣寮に卸す金銀を入手することが困難になっておりまして、横浜の商館にまたお世話になろうと考えておりました」
「そうか。大蔵省は、税を集め、各省庁に定額を定めさせ、その金を配分しこの国を運営していくのじゃ。そのためには、通貨の流通から物の流通まで目を向けて「国を富ます」ことを考えておる。どうじゃ、夢があるだろう」

 益田は話を聞いていて、こういう人だから「新政府」を作ろうとしているのだと思った。この人の語る「先」を見てみたいと思っている自分がいた。しかし、自分を安く売るつもりもなかった。

「ですが、私は元幕臣です。新政府は幕臣を好まないとお聞きしております」
「そげなことは気にする必要はありゃせん。実際わしの周りには元幕臣が結構おるぞ。駿府で慶喜公のもとに居った渋沢栄一は中枢で頑張っとる。幕臣かは問題ではないんじゃ、新しい世を作ることができるかどうかじゃ。わしが必要としておるのもそういう人物じゃ」

 野心を語る割には今まであった人物とは違うもの、パワーを感じていた。この人のもとで動いたら面白そうだと思っていた。

「まぁええ。やりたいと思うたらまた来ればええ」
「いえ、お世話になります。よろしくお願いします」
 益田は思わず叫んでいた。
「それでは大阪の造幣寮に行ってもらいたい。造幣頭でどうじゃ」
「わかりました」
 これで面倒なキンドルに、指示をできる人材を得られたことに、馨は少し満足していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...